第31話 ブラックマーケット
「うぇ~、本当にここから入るの~?」
「俺が教えて貰ったルートはここだけだからなぁ」
セクター5のお金持ちな老婆からの依頼で贋作師を探す依頼を受けたルイ達。
贋作ディーラのオカザキの行方を探し、彼が利用するブラックマーケットの開催場所の情報を掴んだ。
そのブラックマーケットの開催場所に繋がるルートの入り口まで来たが、そこはセクター20にある放棄された下水道だった。
マンホールオープナーで蓋を開けるとむわっとした不快感をもたらす湿度と腐敗臭が吹き出し、リコリスが入るのを嫌がる。
アステリオスもあまり利用された形跡がない下水道の入口に頭をかいて苦笑する。
「さすがにこのまま入るのはパスしたいな、汚れていい服と通販で防水のズボンと靴を買っておくか」
ルイは
しばらくその場で待機していると、カーゴドローンが飛んできて、ルイ達の近くに段ボールコンテナを投下して去っていく。
「ねー、アステリオス~、これ絶対騙されてるって」
「とはいえ、他に手がかりがねえからなあ」
通販で購入した服装には着替えたルイ達は下水道の中を通っていく。
リコリスはドローンを使って下水道が年単位で使われてないことを調べるとアステリオスに心配そうな声をかける。
アステリオスは窮屈そうに前屈みになり、角が引っ掛からないように気を付けながら歩いながらリコリスと話す。
「気をつけて、モンスター反応!」
「はぁ? ここは都市内部だぞ!?」
「ダンジョンラットだ、設備メンテけちったな、これは」
ドローンから警告を受けたリコリスが仲間達に注意を促す。
アステリオスはあり得ないと言いたげな顔でリコリスに振り返り、ルイは水面から赤子の頭サイズの大きなどぶねずみがこちらに向かって泳いできてるのを発見する。
ダンジョンラット、それはダンジョン汚染に全身を侵食されてモンスター化したどぶねずみ。
本来なら浄化装置でダンジョン汚染を中和してモンスター化を防ぐが、ルイが指摘したように治安の悪いエリアでは企業がメンテナンスをサボったりして問題になっている。
「だー、弾勿体ねー!」
アステリオスはそう言ってベビーピストルを抜くと射つ。
「なら素手で殴り飛ばすか?」
「勘弁してくれ、病気になっちまう」
「ダンジョンラットは魔石もってないから赤字だよ~」
襲いかかってくるダンジョンラットを撃退しながら愚痴を言い合うルイ達。
「おいおいおい、B級映画じゃねぇんだぞ!」
ダンジョンラットと戦っていると、ダンジョンラットの群れの奥からアルビノのワニが現れて、ダンジョンラットを食い荒らす。
「多分ダンジョンラットの死骸が流れて、ここが餌場だと思ったか?」
「あ、あれは下水道のメンテナンススタッフを沢山殺してるキルダイル! 都市行政から千ネオエンの賞金首!」
ダンジョンラットの群れを食い荒らすアルビノのワニを見てリコリスが叫び、ルイ達の
「よっしゃ! 臨時収入!!」
アステリオスはここぞとばかりに張り切ってキルダイルに向かってベビさーピストルで射つ。
キルダイルは銃撃を受けても怯むことはなく、逆に食事を邪魔されたと思ったのか、アステリオスを睨み、襲いかかってくる。
「あいつもダンジョン汚染でモンスター化しているようだな。
ルイが十字架を握って魔法を唱えると、キルダイルの周囲が円形状に凍っていく。
キルダイルは寒さに弱いのか動きが鈍っていき、最後は下水の水ごと氷付けになる。
「だーっ! つめてぇ!!」
「ルイ~、この魔法は僕達が遠くにいる時に使って~」
「………すまん」
同じく下水に足を突っ込んでいたアステリオスとリコリスもルイの魔法の影響を受けて震えてる。
「しかし、こいつどうするよ?」
「んー、取りあえず討伐映像は撮ってるから、余裕があったら回収、なかったら報告して行政に買い取って貰おうよ」
アステリオスが爪先で氷付けになったキルダイルを蹴り、リコリスがドローンを指差して撮影していたと伝える。
「リコリス、PINをさして所有権を主張していてくれ。取りあえず先に進むぞ」
「御意~!」
ルイ達は一旦キルダイルの死体を放置して先に進む。
「お、道は間違ってなかったみたいだな」
しばらく進むと下水道に不似合いな矢印のネオンサインと後から取って付けたような鉄の扉があり、アステリオスは道が間違ってなかったとホッとする。
「ここは………放棄された地下鉄の駅か?」
扉を開けて中にはいると、そこは地下鉄の駅だった。
「お兄さん達、また珍しいとこから来たね。放棄されたルートなんて誰に教えられたんだい?」
ルイ達が地下鉄の駅に足を踏み入れると、花魁のような格好をした女性が煙管を咥えておかしそうに上から見下ろしていた。
「取りあえずそれを使って臭い落としたらこっちに来な。放棄されたとは言えルールに沿った道を歩いてきたならうちの客だよ」
花魁はルイ達に向かって何かを投げる。
それは消臭剤で、ルイ達は苦笑しながらお互いに吹き掛けて下水の臭いを消していく。
「ようこそ、わっちのブラックマーケットに。わっちはここの管理を任されてる上巻と呼んでくれりゃ」
臭いを消せば上巻と名乗った花魁が手招きしてブラックマーケットを案内する。
放棄された駅構内では
「さて、お客はんは何をお求めで?」
「贋作ディーラのオカザキを探している。彼のお抱え贋作師に仕事を頼みたい」
上巻はブラックマーケットには不似合いな時代劇に出てきそうな茶屋までルイ達を案内すると、ここに来た目的を問いかける。
ルイはしれっと嘘をついて上巻にここに来た理由を告げた。
「そりゃ運が悪いなぁ………オカザキはん、怒らしてはアカン人怒らせてな、今は雲隠れですわ」
ルイ達の目的を聞いた上巻は煙をプカリと吐き出して、色っぽい仕草でオカザキの行方を伝える。
「仕事場はわからないか?」
「そうでんなぁ………二百で教えましょう。世の中タダはありませんぇ」
ルイがオカザキの仕事場を聞けば上巻は指で輪っかを作って銭マークを見せる。
ルイは煙草を咥えて火をつけると、
「毎度おおきに、オカザキはんの仕事場は駅のここや。早よいかんと怒らせた人の部下さんが荒らすかも知れへんでぇ」
送金を確認した上巻は住所と地図をルイに添付する。
「助かる」
「正面玄関教えたるから今度は玄関口から来てな」
上巻はそう言うと灰皿に煙管を叩いて灰を落として見送る。
ルイ達は上巻から貰った地図を便りにオカザキの仕事場に向かう。
「荒らされてる?」
「いや、これは慌てて荷物を纏めたって感じだな」
オカザキの仕事場は地下鉄の駅員室を改装した部屋だった。
ルイ達が中にはいると、空調はつけっぱなしで、部屋には荷物が散乱している。
リコリスは荒らされたと思ったが、ルイはオカザキが慌てて荷物を纏めて出ていったと予測する。
「よっぽど慌ててたんだな、ノートパソコンが残ってるぞ」
アステリオスはベッドにあったノートパソコンを持ち出しリコリスに渡す。
「ん~、オカザキは最近メーヘレンと名乗る絵師と頻繁にやり取りしてるね」
リコリスはアステリオスから受け取ったノートパソコンに手首にインストールしてるハッキング用のコードソケットを伸ばして繋げ、パソコンのデータをハッキングする。
「ん~、オカザキは資産を現金化して逃がし屋を雇って、今はセーフハウスに潜んでるっぽいね」
「んじゃ、そこに行ってメーヘレンさんとやらの居場所聞き出すか」
「あ、それならもう見つけたよ」
リコリスがオカザキの情報を吸い終えると、アステリオスは指の骨をならしながらオカザキの元へ向かおうとするが、リコリスがメーヘレンの居場所を知ってると言われてずっこけそうになる。
「俺たちの目的はメーヘレンの確保だ。オカザキは無視してもいいだろう。リコリス、住所を教えてくれ」
「御意~!」
ルイ達はメーヘレンのアトリエへと向かう。
「あちゃールイ、先客だ」
メーヘレンのアトリエは同じセクター20にあるガレージ倉庫で、ルイ達がたどり着くとガレージ倉庫前にはまるで入り口を塞ぐように車が止められている。
「俺が交渉するから、リコリスは車で待機、ドローンだけついてきてくれ。アステリオスは俺の後ろを」
「御意~!」
「あいよ」
ルイとアステリオスはバギーから降りてガレージに向かう。
「いっ、今は営業時間外だ………」
ガレージの前で見張りをしていた男がルイ達の前に立ちふさがるが、アステリオスの姿を見て引け腰になっている。
「俺はメーヘレンに用がある。お前らはオカザキに用があるんじゃないのか? オカザキの行方なら知ってるぞ」
「ちょっ、ちょっと待ってろ………」
ルイがそう言うと見張りは
しばらくするとガレージのシャッターがあいて、中から武装したヒスパニック系ギャング達と殴られたひ弱そうな男が出てくる。
「オカザキは何処だ?」
「まずはメーヘレンを解放して貰おうか」
ルイはそう言って煙草を咥えると指先に炎を灯して煙草に火をつける。
「あっ、兄貴………あいつオカルトですぜ」
「ミノタウロスとやりあうのはさすがに分が悪すぎます」
ルイが指先に炎を灯したのを見てギャング達は明らかに動揺し、穏便にすませようとリーダーに耳打ちする。
「いいだろう、おい」
兄貴と呼ばれていたギャングが顎をしゃくるとメーヘレンと思われるひ弱そうな男がルイ達の方に押し出される。
「オカザキはいま送った住所にあるセーフハウスに潜んでる。逃がし屋とコンタクトをとったらしいから急いだ方がいいぞ」
ルイが
「だっ、誰だか知らないけど助かったよ………助けてくれたんだよな?」
メーヘレンはギャング達が立ち去ってホッとするが、ルイ達に面識がなくておどおどしている。
「俺達を雇ったクライアントがあんたを支援したいと言ってる。話だけても聞いてくれないか?」
「は? 仕事の依頼か? 助けて貰ったんだ、なんだって描くよ!」
ルイは依頼完了したとクライアントである老婆に
「話は纏まったわ。こんなに早く見つけてくれるなんてビックリよ」
「たまたま運が良かっただけですよ」
メーヘレンは老婆をパトロンに本格的に絵師として表社会で堂々と活動することになった。
贋作師を探す仕事はこれで完了した。
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