第30話 フェイク


「やあ、皆さん簡単なお仕事があるのですが、いかがですか?」


 真里花と京子を連れてブラックドックハンティングを終えた翌日、リコリスと繋がりのあるフィクサーの九時五時から仕事の話がルイ達に来る。


「内容次第だな」

「仕事内容は人探し、詳しい内容は依頼人から直接聞いてください。あ、依頼人がいるのはセクター5なので服装には気を配ってください」


 ARO強化マトリクスに表示される七三分けの黒髪、黒縁眼鏡、糸目の日本人サラリーマン姿の九時五時はそう言うと依頼人の住所を伝える。


「おいおい、セクター5と言えばセレブエリアじゃねーか!」

「うわー、よそ行きの服引っ張り出さないと」


 依頼人の住所を聞いたアステリオスとリコリスがうんざりした顔で騒ぐ。


 セクター5からは本当のお金持ちが住まう別世界エリアで、TPOにあった服装していないだけで警備や警察が飛んでくるそんなエリアだ。


「よくそんなとこの住人から仕事貰えたな」

「まあ、この業界長いと知り合いも増えますから」


 ルイが感心したように言うと、九時五時は大したことがないように答える。


ん「受けるよ、何時までに行けばいい?」

「クライアントは十四時を希望している」

「わかった、すぐにでる」


 ルイ達は九時五時の仕事を受けると、すぐによそ行き用の服に着替えてタクシーでセクター5へと向かう。


「ルイ、何で今回はタクシーにしたんだ?」

「セクター5にバギーやバスコンで行ったら下手したら今日中にたどり着けないだろ」


 タクシーの中でアステリオスがルイに自分の車で行かないことを聞くと、ルイは煙草に火をつけて答える。


「おー、リムジンエアーとか初めて見たよ~!」


 セクター5の風景をタクシーの窓から覗いていたリコリスがはしゃぐ。

 窓の外では独特のフォルムをしたリムジンカーが空を飛んでタクシーを追い越していく。


「リムジンエアーか、次の新車はあれにしないか、ルイ?」

「高いし、維持費だけで破産するぞ」


 タクシーに持ち込んだ缶ビールを飲んでるアステリオスが冗談半分に言うと、ルイはARO強化マトリクス越しにリムジンエアーの経費を表示させる。


「一台百万ネオエンっ!? 高いとは思っていたがここまでとはなあ」

「維持費も月で一万ネオエンって………」


 アステリオスはリムジンエアーの本体価格を見てむせそうになり、リコリスは維持費の金額を見てドン引きしている。


 そんな話をしている間にルイ達は依頼人との待ち合わせをしている場所にたどり着く。


 そこはマリーナと呼ばれる港エリアで、大小様々なヨットが停泊している。

 マリーナに併設している倉庫街の一角が待ち合わせ場所だった。


「警備ドローンやベーな、リーサルエネミーが搭載されているぞ」


 アステリオスが言うように倉庫街を巡回する飛行型ドローンには集中電磁波を照射して対象を破裂させる兵器が搭載されていた。


「あの人が依頼人参加な~?」


 指定されていた倉庫近くまで行くと、リムジンエアーが着陸して停車しており、最新型の介護車椅子に乗った老婦人と執事服の中年、そして周囲を警戒しているボディーガード達がいた。


「貴方達が九時五時さんが紹介してくれた人かしら?」

「D級エクスプローラーのルイです。あちらがチームメンバーのアステリオスとリコリスです」


 老婆が話しかけると、ルイは上流階級で使われる挨拶をする。


「あら、エクスプローラーというのは少々粗暴な方と噂されてましたが、誤解だったのかしら?」

「そう言う人達もいます。私は付け焼き刃ですが学びました」


 ルイの挨拶を見て老婆と執事が少し驚いた顔になる。


「依頼は人探しと聞いていましたが?」

「その話をするには私のコレクションを見ていただかないとね」


 ルイが仕事の話を振ると、老婆は執事に目配せをする。

 すると執事は頷き、ポケットからボタンを出して押すと、近くにあった倉庫のシャッターが開いていく。


「どうぞ、中に入って」

「お邪魔します」


 老婆は執事に車椅子を押させて倉庫に入っていき、ルイ達もその後ろをついていく。


「絵がいっぱいだね~」


 倉庫の中には絵画が多数飾られたり保管されており、リコリスが視線をキョロキョロさせる。


「これは………ヴァン・クリーフの作品ですか?」

「まあ、お詳しいのね!」


 ルイが絵画を見て作者を言い当てると、老婆は嬉しそうに手を叩く。


【誰だそれ?】

【百年前のダンジョンが生まれる前の画家さんだ。風景画を得意としていて、まあまあ有名だ】

【ほーん………何がいいのかわかんねぇわ】


 アステリオスはARO強化マトリクスでルイにテキストチャットで画家の名前を聞いてくる。


「うん? これ………贋作じゃ?」

「凄い審美眼の持ち主なのね」


 ルイがヴァン・クリーフの作品を老婆と共に見ていると、一つの絵画で足を止める。

 何度か顔を近づけたり遠ざけたり、見方を変えたりしてたかと思うと、ルイは申し訳なさそうに贋作と指摘する。


 老婆は自分のコレクションを贋作と言われても不快に思わず、逆に拍手をしてルイに対して尊敬の籠った笑みを浮かべる。


「もしかして依頼というのは贋作を売り付けた相手を探すことですか?」

「いいえ、この絵画を描いた作者を探してほしいの。贋作師として埋もらせるには惜しい才能なの」


 ルイが仕事の内容を推測して話すと、老婆は贋作を描いた本人を探してほしいと答える。


「この絵はどうやって手に入れました?」

「どういう経由だったかしら?」

「画廊から紹介された絵画ディーラーからです」

「ああ、そうだったわね」


 ルイが贋作の購入経由を聞くと老婆は執事に話させる。


「ちなみに画廊からある程度情報は聞き出しています。ディーラーの名前はオカザキ、贋作の専門家だそうです」


 執事がそう言うと、ルイ達のARO強化マトリクスにオカザキの簡単なプロフィールと顔写真データが送られてくる。


「ん~? ここまでわかってるなら僕達の仕事いらなくない?」

「いいえ、私達は調べられてもそこから先の接触することは叶わなかったわ。彼がどこで仕事をしているか、今何をしているかまではね」


 リコリスが送付されたオカザキの情報を見て首を傾げると、老婆はリコリスの疑問に答える。


「私が探してるのが向こうにも伝わったのか雲隠れされてね。それに本当に知りたいのは画家の方だから」

「騙されたの悔しくないの~?」

「最初は少々腹も立てましたけど、彼のお掛けで素晴らしい才能を持った人を見つけれましたから、今は紹介料だと思ってますわ」


 老婆はルイ達が見た限りでは贋作を掴まされたことに対して腹を立ててる様子はないように見える。


「知ってて売ってるならこいつはブラックマーケットの住人だろう」

「ブラックマーケットで人探しするには一見さんでは厳しいからなあ」


 ルイやアステリオスが言うように、老婆側もブラックマーケットまでは手が出せなかったのだろう。


 そこでブラックマーケットとも関係があるエクスプローラーに仕事を依頼して自分達にお鉢が回ってきたとルイは考えた。


「期限は?」

「特にないけど早い方が嬉しいわね、私もお婆ちゃんだし、いつまで生きてられるかわからないからね、ホホホ」


 ルイが期限を聞けば老婆特に期限を決めず、ジョークを言う。


「報酬は………いくらぐらいがいいのかしら? なにぶん初めてだから」

「だいたい一人千ネオエンです。前金で一人五百ネオエン払うとよろしいかと」


 老婆が報酬を決めかねていると、執事が耳打ちして相場を伝える。


「あら、そんなにお安くていいのかしら?」

「人探しですからね。危険があれば値段も上がります」

「それじゃあ、万が一ってこともあるから一人二千ネオエン出しましょう。よろしくお願いしますね」


 老婆は相場の倍の報酬を提示してくる。


「可能な限りご期待に添えるように努力します」


 ルイ達は贋作師を探す仕事に取りかかった。





 


 

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