第22話 下準備
「ルイさん、どうかしましたか?」
ルイが真里花の父親に連絡をすると、父親はすぐに電話に出てくれた。
「あんたはエクスプローラーの副業について知ってるか?」
「え? ………ええ、噂は聞いております」
ルイが一言発すると、真里花の父親は最初はなんのことかと戸惑うが、察したのか緊張した様子で答える。
「あんたの会社に関する仕事が出回り始めてる。俺達も仕事を受けた」
「警備会社や警察会社に通報………しても無駄でしたね………ハハハ」
真里花の父親は諦めたように乾いた笑いを漏らした。
警備会社は契約期間しか守ってくれないし、警察会社に通報すれば情報元を調べられ、ルイ達に迷惑がかかってしまうと思いとどまる。
「こっちのクライアントは今転職者を求めている。企業と提携する病院も持っている」
「っ!! ………わ、わかりました。タニガワ電子について私がわかっていることは、全てお話しします。息子のためなら私は悪魔に魂だって売り渡します」
ルイがそう伝えると、真里花の父親はしばし無言だったが、腹を決めたのか協力すると答えてくれる。
「協力感謝します。最善を尽くすことを約束します」
「宜しくお願いします」
ルイは真里花の父親との通話を終えるとナビを起動してタニガワ電子本社へと下見に向かう。
「悪くない場所だな」
タニガワ電子はセクター10/10の中小企業がごった返すビジネス街にある。
タニガワ電子本社は、町工場を増改築した平屋建てで、まだ契約が有効な警備会社が守っており、武装した警備員や重火器を搭載したドローンがデイルシステムズの敷地を巡回している為、今の段階で潜入するのは無理だとルイは判断する。
「侵入経路は正面と裏口の二つか?」
「地下下水道は?」
「んー、ここら辺は小型ドローンで整備してるから侵入は無理かもー」
デイルシステムズ本社周辺をぐるりと車で回って侵入経路を探す。
ルイは正面と裏口の二ヶ所から忍び込む場所を見つけ、アステリオスは地下下水道からの侵入を提案するが、リコリスがマトリクスで下水状況を調べて侵入不可能と伝える。
「ルイ、なにか作戦はあるか?」
「真里花の父親から貰える情報の精度と競合相手によるな、とにかく今は情報が無さすぎる。決行日までまだ猶予はある、果報は寝て待てだ」
デイルシステムズの下見を終えて数時間後、真里花の父親からタニガワ電子の見取り図や監視カメラなどのセキュリティ状況、そして遺産データがある場所の情報が送られてくる。
「これはかなりアドバンテージになるな」
「競合側が誰なのか、同じ情報を得ていないかだな、その前に打てる手をうつか」
真里花の父親からタニガワ電子の情報を貰ったルイはクライアントである山本に連絡を取る。
「なにか進展でもありましたか?」
「言っていたタニガワ電子の協力者から有益な情報を貰った」
「それは良かった。あとはルイさん達の活躍次第でその協力者さんの転職が成功するかどうかですね。それだけですか?」
「いや、そっちからタニガワ電子の警備に問い合わせしてほしい」
「なるほど、契約解除後に何者かが侵入の意思ありと暗に伝えるのですね。向こうも契約後に警備機器の無用な消耗を避けて早めにドローンの命令を停止してくれるかもしれませんしね」
「可能ならで良いんだがもう一つ用意していてほしいものがある」
「ふむ………良いでしょう。当日準備しておきます」
ルイは山本にいくつかの下準備を頼むと溜まり場であるスピットファイアに向かう。
「競合相手もわかったよー、この人達が最近タニガワ電子について嗅ぎ回ってるよー」
スピットファイアに到着すると、リコリスは伝手から連絡があったのか、競合相手チームの情報を
表示された情報は五人の顔写真で、一枚は赤褐色の猪の牙が生えた豚鼻のオークと呼ばれるメタヒューマンの大男。続いて二人目が見た目からサイバーパーツをかなりの量インストールしているスキンヘッドの全身タトゥー男、三枚目は男装の麗人といった服装の女性、四枚目はゴシックロリータファッションのハロウィンホラーメイクの少女、最後に糸目の神経質な印象がある女性の五人組だった。
「うげっ、こいつらかよ」
「知り合いか?」
相手チームの情報をみたアステリオスがうんざりした顔になり、ルイが問いかける。
「顔見知り程度だな。こいつらは大型モンスターハントをメインにしている武闘派エクスプローラーチームだ。だか、こいつはみたことないな? 今回のために雇ったか?」
相手チームは五人だが、アステリオスが言うには糸目の女性はみたことがないと伝える。
「強さはわかるか?」
「この四人は全員Cランクでこの三人は重たい武器を駆使する。この男装してるやつはミスティックの格闘家だ」
「今回の仕事には不似合いなチームだねー?」
ルイが強さを聞けば、アステリオスが競合チームの構成を伝え、リコリスがチーム編成と今回の依頼とのミスマッチさを口にする。
アステリオスが言う重たい武器とは軍用重火器などエクスプローラーですら本来は所持が出来ない非合法武器を使う意味合いを含む。
「こいつらのクライアントはデイルシステムズに忍び込むより、俺達から奪うか、手に入れた遺産を奪われないように戦闘力を重視したのかもな」
「こっちは三人、リコリスはマトリクス担当して貰うとしたら実質二人だぜ?」
ルイが相手側の意図を予測すると、アステリオスが人数差をどうするか聞いてくる。
「貰った前金で応援を呼ぶか」
「だな」
「たねー!」
ルイはそう言うと情報端末を手に伝手に電話をする。
「よお、ルイ。美味しい仕事の話だって?」
「はぁい、ドンパチアリだって?」
ルイが伝手に応援を頼んで数時間後、一組の男女がやってくる。
男の方はカンフー胴着をきた長髪の中華系。
女性の方は全身サイバーパーツを埋め込み、クロームメッキ外装、髪の毛もサイバーウィッグを装着しており、鮮やかな七色に輝く。
「わざわざすまないな、ドラゴンにトリガー」
「強敵と戦えて金が入るなら文句はない」
「あたしも新作の銃をばらまけるなら文句ないね」
中華系の男性がドラゴン、ミスティック能力者で格闘技を得意とし、強敵との戦いに喜びを見いだしている。
クロームメッキ外装の女性がトリガー、その名前の通りトリガーハッピーで銃弾をばらまくのが大好きな女性だ。
「今回俺達が受けた仕事でドンパチが予測されるから戦闘のサポートをしてほしい。相手はこいつらだ。報酬は一人五千ネオエン用意している」
「ほう、相手にとって不足なし」
「あっ! こいつ!!」
「ん? トリガーの知り合いか?」
ルイが仕事内容を改めて伝えて、相手チームの画像を見せると、トリガーがゴシックロリータファッションの女性の画像に反応する。
「名前はしらねぇけど、この間あたしが狙ってた銃をこいつが競り落としやがったんだ!」
トリガーはアンティーク銃のコレクターでもあり、どうやら相手チームも似た趣味の持ち主がいたらしく、オークションで時折ぶつかっていたとかなり私怨を交えて教えてくれる。
「いつか鉛玉ぶちこんでやろうと思ってたんだ! あたしは引き受けるよ」
「どいつとやるかはわからないが、どいつもこいつもとてもうまそうだ。やらして貰う」
トリガーは因縁に決着つけれると喜び、ドラゴンも己の武を試せると獰猛な笑みを浮かべる。
「現段階の作戦はこうだ」
ルイはチームメンバーだけに見えるように設定した
「決行日までは鋭気を養ってくれ」
「なら今から鋭気を養うためにのもうぜ!」
作戦会議を終えればアステリオスが音頭をとり、宴会が始まった。
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