第21話 合縁奇縁


「あ、話し合い終わった?」

「ルイさん、お話は終わりましたか?」

「神父さん、お話聞かせて!!」


 真里花の両親との話し合いを終えて客間を出ると、リビングでは真里花と京子、そして勇樹がまっていた。


「二人はエクスプローラーとして訓練を受けてもらう。メニューはこれから考えるが学業と両立してもらうぞ」

「休学しなくて良いんですか?」

「学校やめないといけないかと思ってた」

「学業も大切だからな」

「お姉ちゃん達もエクスプローラーになるんだ、いーなー………ねえ神父さん、僕もエクスプローラーになりたい!!」


 両親からエクスプローラーになる許可が出たことを伝えると良かったとてを取り合う真里花と京子。


 二人を見て羨ましそうにしていた勇樹がルイの手を握ってねだってくる。


「せめて高校を卒業してからです」

「すぐそうやって年齢を出す! 大人ってズルい!!」


 ルイがやんわりと断ると勇樹はほほを膨らましてすねる。


「拗ねないで、約束通りエクスプローラーの話をしましょう」

「本当!」


 ルイがエクスプローラーの話を切り出すと、勇樹は機嫌を直す。


 その日遅くまでルイはエクスプローラーの話をして真里花一家を楽しませた。


「ん? 山本から電話?」


 ルイは煙草を吸いながらバギーで帰宅途中、ルイの情報端末に着信があった。

 誰からの電話かとルイが視線を向けると山本とARO強化マトリクスに表示される。


「仕事か?」

「そんなところです。今から会って話できませんか?」


 通話状態にするとホログラムのウィンドウが表示されて山本の顔が映る。


「メンバー連れて行くよ。どこに向かえば?」

「以前私の救出依頼を受けたバーで」

「わかった。仲間を拾ったらすぐに向かう」

「お待ちしております」


 山本との通話を終えたルイはアステリオスとアーニャに連絡を取って合流するとセクター8/8にあるバーに向かう。


「やあ皆さん先に始めさせてもらってますよ」


 バーの個室ルームにルイ達が到着すると、以前依頼で助けた山本が飲んでいた。


「仕事の内容は?」

「皆さんはタニガワ電子と言う大企業メガコーポに所属していない独立中小企業を知っていますか?」

「っ!?」


 山本から仕事の話を聞いて、ルイは思わず反応してしまう。


【ルイー、知ってるのー?】

【知り合いでもいるのか?】


 ルイの反応を見てアステリオスとアーニャがARO強化マトリクスのグループメッセージにコメントを書き込む。


【真里花と京子の父親が勤めてる会社だ。社長が亡くなってトラブっている】

「話を続けても?」

「ああ、続けてください」


 ルイがグループメッセージで真里花達の父親との話し合いを伝えていると、山本はルイの様子を伺うように話しかけてくる。


「そこの社長がギャングの抗争に運悪く巻き込まれて死亡、独立系中小企業によくある行動力と運のあったワンマン社長だったせいで、跡継ぎが育っていない」


 山本はそう言ってタニガワ電子の調査報告書をルイ達のARO強化マトリクスに送信する。


「その上社長は猜疑心が強く、社員達を信用していなかったのか不定期にセキュリティを変更していました。運悪く社長死亡後に自動設定されていた変更が実行されてしまい、社員達は会社から追い出され、入れなくなった」


 添付されたデータにはタニガワ電子の業務内容や業績、社長死亡後のセキュリティ変更によって追い出された社員が警備会社と揉めてる写真や動画があった。


「このままでは会社は遠からず倒産、会社の遺産は債権者達に食い荒らされるはずでした」

「はずでした?」


 アーニャが小首を傾げて聞き返す。


「偶然手に入れた情報ですが、タニガワ電子と契約してる警備会社との契約がもうすぐ完了します。跡継ぎもおらず、社員は会社に入れない。こんな状況では契約更新なんてできないでしょう」

「つまり、契約が切れた頃を見計らって侵入してお宝を頂こうって魂胆か?」


 アステリオスはちゃっかり注文した酒を飲みながら山本の話に口を挟む。


「ええ、警備会社とやりあうのは労力に見合わいませんが、警備がいないなら別。警備ドローンもおらず、警報装置が鳴っても何処の警備会社も警察企業にも届かない。チャンスとしか言いようがないでしょう? 報酬は前金で二万ネオエン、成功報酬として五万ネオエンです」

「ヒュー、太っ腹!」

「うわー、そんなにあったら新型の情報端末が買える!」


 報酬額を聞いてアステリオスとアーニャがはしゃぐ。


「おや、報酬額に不服ですか?」

「いや、そうじゃない。山本さん、貴方は人事権を持ってますか?」


 山本は報酬額を聞いても反応しないルイを見て不思議そうに聞き返す。

 ルイはしばらく悩んだ後、山本に人事権について質問をした。


「さすがに本社の社長にしろと言うのは無理ですがね。お話を伺っても?」

「タニガワ電子のチーフエンジニアと知り合いだ。そいつらがいた方がデータを手に入れた後も仕事がやりやすいと思わないか?」


 ルイは真里花の父親のことを山本に伝える。

 山本はしばし考え、酒を口にして喉を潤す。


「悪くはないですが、彼らが協力してくれるのですか」

「他のスタッフは知らないが、チーフエンジニアは息子が魔力病を患っている。あんたの会社の提携病院に息子を入院させれば立派な首輪になると思うが?」


 ルイがチーフエンジニアの家族構成を伝えると山本は口元を隠して考え込む。


 喉仏が動いていることからARO強化マトリクスで自分の会社に相談しているとこかとルイは予測をたてる。


「前向きに検討しましょう。そちらが仕事を成功させたら、検討から先に進むと思いますよ」

「それならこちらも迅速に対応するさ」


 交渉が成立したようにルイと山本はお互いのグラスに酒を注いで乾杯する。


「しかし、世間ってのは狭いな。面倒見ることになったあの二人の親が今回の依頼の関係者とかよ」


 帰路の車の中でアステリオスがそんなことを言う。


「取りあえずアステリオスとアーニャはコネを使って他にタニガワ電子を狙っているやつがいないか調べてくれ」

「御意ー!」

「あん? いいけど、何でだ?」


 ルイは煙草を吸いながら二人に指示を出すと、アステリオスは怪訝な表情で聞き返す。


「タニガワ電子の件はマトリクスで調べればすぐにわかるほど情報が流れている。山本と同じことを考えてる何処か別企業の田中さんが依頼を出してる可能性が高い。じゃなきゃ七万なんで報酬出さない」

「お宝求めてバトル・ロワイアルってか?」


 アステリオスはルイの話を聞いて獰猛な肉食獣を連想するような笑みを浮かべる。


「そこまで不特定多数がくるとは思わない。多くて三チーム前後と予想してる」

「んー、それはタニガワ電子の遺産が独特だからー?」

「あん? そりゃどういう意味だ、アーニャ?」


 ルイとアーニャの話を聞いて一人置いてきぼりにされてる気分のアステリオスは運転席と助手席の間に顔を挟んで二人に話しかける。


「うんとねー、タニガワ電子の遺産技術にはわかりやすい特徴があってね、下手に盗んで自社商品ですと言ってもわかる人にはわかるのー」

「つまり、タニガワ電子の技術を使っておきながら、それでもこれはわが社オリジナルですと言い張れるだけの力がある大企業メガコーポでもなければ、手に入れても宝の持ち腐れなのさ」

「あー、こないだニュースになってた販売中止のサイバーパーツみたいにか?」


 ルイとアーニャの話を聞いてアステリオスはニュースにもなったサイバーパーツの販売中止と回収騒動を思い出す。


 とある企業が発表した自社作品のサイバーパーツが別会社から盗まれたデータを使っており、裁判や裏工作、火消しに失敗して多大な賠償金と商品の販売中止と回収騒動、そこから別の企業に吸収合併となった騒動がネオトウキョウのお茶の間を騒がした。


「そうやって世間を黙らせるだけの資本力とイメージをもつ大企業メガコーポは少ないから、やってくる同業も少ないと」

「そんなところだ」


 ルイはアステリオスとそんな話をしながら真里花の父親に連絡を取った。

 

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