第23話 作戦決行日


「交通事故だと?」


 タニガワ電子の警備が撤収するのを確認していたルイ達の対抗チーム、オークと呼ばれるデミヒューマンの四月一日は目の前で起きた交通事故を見て、待機していたワゴン車の中で舌打ちする。


 依頼を受けてこれから施設に潜入しようと思っていた矢先、目の前で車同士の衝突事故が起こった。


 幸い怪我人は出ていないようだが、双方の運転手が言い争ったり、警察か保険に電話したりして騒いでいる。


「対抗チームの妨害か?」


 スキンヘッドの全身タトゥー男こと、ゲイリーがミラーシェイドサングラスをずらして、サイバーアイで事故現場を見つめる。


「どうなんですかねー? 人目を避けたいのは向こうも同じはずですしー」


 ゴシックロリータファッションにハロウィンホラーメイクの女性ことブラッディマリーがメイクの崩れがないかコンパクトの鏡で確認しながら呟く。

 

「ルートはもう一つある。そちらからいけばいいだろう」


 男装している格闘系ミスティックの女性、本部が指貫グローブをはめ直して、手首の間接を和らげるようにストレッチしながら呟く。


「対抗チームの妨害の可能性はあり得ます。ただ、今から調べるには少し時間がないかと………やれと言うなら雇われている以上やりますけど、時間貰いますよ?」


 糸目の神経質そうな女性の鳴無が爪を噛みながらチームリーダである四月一日に聞いてくる。


「時間が足りない、鳴無君は施設の掌握を頼む。しかしこの事故は偶然、妨害どちらとも取れる。問題は妨害ならこの交通事故が何のために起こされたかだ」


 鳴無の提案を聞いた四月一日は調べるのを断ると、ハンドルに顎をのせて考え込む。


「ちっ、警察企業が来やがったな。これじゃ向こうもやりにくいだろ?」


 サイレンを鳴らしてやってきた警察企業を見て舌打ちするゲイリー。


「警察企業を使って牽制のつもりか? だが企業敷地内で何が起きようと企業法で警察企業は他社へは踏み込めないぞ?」


 本部は事故を起こして警察企業を呼び寄せてこちらへの妨害を予測するが今一意図を掴み損ねている


「車動かしません? このままだと目撃証言求められそうだし」


 メイクのノリに満足したのかコンパクトを閉じるブラッディマリーが移動を促す。


「そうだな、下手に声かけられると面倒だ」

「ま、こっちは最初からドンパチするつもりで準備してきてる。相手が小細工しようとあれでで粉砕してやるよ」


 四月一日がワゴン車を移動させ、ゲイリーが後部の荷台に隠してある重火器に視線を向ける。


「そうだな………鳴無君、侵入の手はずはどうなっている? なにか妨害を受けたか?」

「再度精査したけど制御可能なセキュリティは全てこちらが制圧済みです。扉の開閉から監視カメラのチェック全て私のARO強化マトリクスで操作可能です」


 ワゴン車を警察企業から見えない位置まで移動させると、四月一日は鳴無にハッキングに問題ないか確認を取る。

 鳴無はARO強化マトリクスを使って対抗チームのハッキングなどの痕跡がないか確認すると、掌握している監視カメラの画像などチェックして問題ないと答える。


「それは頼もしいな。よし、侵入するぞ」


 四月一日達は警備が撤収したデイルシステムズに侵入を試みる。



 一方その頃。


「相手チームは遠回りルートの方から侵入したようだよー」

「よし、もう脱いでもいいだろう」


 交通事故現場で警察企業の制服を着て変装していたルイ達。

 長距離カメラを搭載した飛行ドローンで四月一日達を監視していたリコリスから連絡が入るとルイ達は警察企業の制服を脱ぐ。


「ふう、やっと出られる」


 警察企業の車両からアステリオスが出てきて大きく伸びをする。

 アステリオスに似合う制服のサイズがなく、ミノタウロスの特徴である角が目立つので車両の中で待機していたが、用意された車が狭かったのか、解放感に満ちた顔だった。


「リコリス、タニガワ電子のセキュリティは?」

「んふふ~、相手の改竄済みのパスコードに便乗してゲット済みだよ。向こうのハッキングは大したことないねー。タイミングに合わせて僕のコードに上書きするよーん」


 ARO強化マトリクス経由でリコリスに確認を取るルイ。

 リコリスは上機嫌でチームメンバーにパスコードを配布していく。


「リコリスさん、監視カメラは?」

「ふふーん、そっちもこっちで任意の偽造映像と差し替え可能! 向こうがカメラ確認しても僕達が侵入したことを認識できないよ」


 ドラゴンが質問すると、リコリスはピースサインしながら答える。


「リコリス、相手の武装は?」

「ライトマシンガンにアサルトライフル………戦争でもするのかな?」


 アステリオスがリコリスに四月一日達の武装を聞くと相手の武装を確認したリコリスが引き気味に答える。


「あいつら依頼間違えてね? 大型モンスターでも討伐する気か? どうする、ルイ?」

「そこは小細工で補うよ」


 リコリスから相手の武装を聞いたアステリオスが苦笑しながらルイにどうするか聞くと、ルイは煙草を吸いながら小細工をすると答える。


「ルイの小細工か………敵とはいえ少し同情するよ、私は」


 小細工と言う発言を聞いたドラゴンがピクッと反応する。


 かつてルイと敵として仕事でぶつかった時にルイが言う小細工で酷い目に合い、翻弄されたことがあったドラゴンはその時の事を思い出して遠い目をした。


「しかし、警察企業の制服と車両とかよく準備できたね」

「制服と車両は今回の依頼人の系列会社から借りた。この後クリーニングしてキズ一つ、つけずに返さないといけないがな」


 制服を脱いだトリガーが制服と警察車両を見て感心したように述べる。


「この事故を起こした車は?」

「故買屋から安値で手に入れた最低限動くだけの中古車。向こうも在庫処分できて嬉しかったのか割り引いてくれたよ。運転手もこっちで雇ったエキストラ」


 ドラゴンが事故を起こした車を叩きながら聞いてくるとルイは種明かしをする。


「交通事故を起こして警察に偽装した俺達が現場に来ることで、相手チームに遠回りのルートを選ばせたと」

「そして私たちは鉢合わせすることなく最短ルートで遺産のある部屋で待ち構えられると」


 アステリオスとトリガーが警察車両の荷台から武器を取り出しながらそんなことを話し合い、準備を始める。


「相手チームが施設に侵入したよー。取りあえず第三チームの乱入は今のところないみたーい」


 通信でリコリスが四月一日達の行動を報告してくれる。


「よし、こっちも動くぞ」

「了解」

「第三チームがいない上に相手チームの動きがわかっていると楽でいいな」

「ルイの協力者のお陰で遺産が何処にあるのかわかっているのもアドバンテージだ。待ち構えられる」

「僕はマトリクスからサポートするよー」


 ルイ達も戦闘準備を終えるとデイルシステムズに侵入する。

 最短ルートを選んだルイ達は遺産が保管されている部屋に四月一日達よりも早く辿り着く。


「リコリス、開けてくれ」

「御意~!」


 遺産が保管されている部屋はサーバールームになっており、ルイ達は遺産のデータを記録媒体にインストールしていく。


「読み込み時間から逆算すると、やはり戦闘は避けられないな」


 遺産はかなりのデータ量なのかインストールに時間がかかる。

 ルイとしては遭遇する前に遺産データを奪取して撤収したかったようだ。


「そのための我々だろ。報酬分は働かせてくれよ」

「そうだぜ、折角あいつになまりだまプレゼントできる機会なんだからよ」


ルイの呟きが聞こえたドラゴンとトリガーがそんなことを言い、ルイの肩を叩く。


「取りあえず少しでもこちらの安全率をあげるために小細工を仕掛けておくよ」


 ルイはそう言うとポケットからインク瓶を取り出して指に付着させて、床に文字を書いていく。


「何やってるんだ?」

魔法文字グリフを書いてる。殺傷力はない魔法のブービートラップみたいなものだと思ってくれ」


 アステリオスがルイが書き込む文字をみて声をかける。

 ルイは振り替えることなく、数ヵ所に魔法文字グリフを書きながら何をしているか答えた。

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