第14話 急ぎの仕事2
「こんな大自然がネオトウキョウの都市の中にあるとはおったまげたぜ」
誘拐された山本の行方を探す依頼を引き受けたルイ達は誘拐現場に向かった。
アステリオスが言うようにそこはコンクリートジャングルの都会とは思えないほどの自然豊かな緑が見渡すほど広がっている。
「正確にはダンジョンコアを利用した疑似環境ダンジョン空間だがな」
「ダンジョンの維持費とか凄くて、疑似環境ダンジョン作れるのって
ルイが言うように、この自然はダンジョンコアを利用して生成された擬似的な環境で、有識者の間ではこれを本物と認めるか認めないかで争っている。
また企業はダンジョンコアを使って別次元に空間を作り、壁に囲まれた都市の狭いエリアや、モンスターやダンジョンが闊歩する荒野の危険な場所など土地問題を無視してビルや施設を建てたりしている。
「こいつはただの誘拐ではないな」
「被害者死んでね?」
改めて山本が宿泊していたコテージは辺り一面血だらけで、画像でみたように壁には魔方陣があった。
「んー、これ分析したけど血じゃないよ。ドラマとかで使う本物に近いブラッドインクだよ」
アーニャは血痕の一部を採取してドローンに搭載された分析機で成分を分析する。
「確かに人間一人分にして血の量が多いと思った。それにこの魔方陣も出鱈目だ」
「あん? どう言うことだ?」
アーニャから分析結果を聞きながらルイは魔方陣を見つめて呟く。
アステリオスは怪訝な表情を浮かべて、ルイと魔方陣を交互にみる。
「一見すると
「何がだ?」
ルイは煙草に火をつけながらコテージの室内を見回す。
アステリオスもつられて見て回るが、ルイが何を見ておかしいと感じたのかわからなかった。
「現場がチグハグすぎる。血糊で汚れているが、強引に押し入ったり、被害者と争った形跡がない。ある程度誘拐に関するノウハウをもつプロの犯行だ」
「ドアは電子ロックだけど、ハッキングして開けて、もう一度閉め直して痕跡を誤魔化してるよー。私よりは腕は落ちるけどハッカーがいたみたいー」
ルイは煙草を吸いながらアステリオスに自分の推理を話し始める。
血糊の分析を終えたアーニャは入り口の電子ロックを調べて外部からハッキングによる不法なアクセスがあったことを知らせる。
「で、何が腑に落ちないんだ? 俺にもわかるように教えてくれよ」
アステリオスはこの手の調査が苦手なのか、ガシガシと頭を掻きながら、ルイに結論を催促する。
「俺なら山本が失踪したように偽装して逃走の時間を稼ぐ。なのに犯人は警察に通報してほしいのか、目立つような痕跡を残している」
「あー? 確かにこの血だらけの部屋見たら客に何かあったと思うわな」
ルイの推測を聞いたアステリオスは改めて部屋を見回して納得する。
「で、これからどうするんだ?」
「アーニャはマトリクスから誘拐犯の痕跡を探ってくれ。それで辿れないなら俺の魔法の出番だ」
「御意ー」
アーニャは首の付け根にあるコードを伸ばしてコテージにあるモジュラーに接続するとマトリクスに潜り始める。
「………酒飲んじゃダメだよな?」
「駄目に決まってるだろ、アル中」
アーニャから報告が来るまで手持ち無沙汰になったアステリオスはコテージにある冷蔵庫の酒を見て、ゴクリと唾を飲み込む。
ルイは呆れた顔をしながら、冷蔵庫とアステリオスの間に入って視線を塞いだ。
「ん、行方わかったよー」
「早いな」
「頑張って痕跡を隠していたけど、私ほどの腕前じゃなかったー」
アーニャがマトリクスから戻ると、ルイとアステリオスの
「やっぱり同業者による誘拐か」
映像にはコテージで寛ぐ山本の姿が映っており、三人組のエクスプローラーが押し入って山本を気絶させて大型のトランクに詰め込む。
三人組は山本をトランクに詰め込んだあと、塗料を使ってコテージを血塗れにして魔方陣まで書き込むと出ていく。
映像が切り替わると、三人組がトランクに荷台に押し込んで車で立ち去るのを監視カメラが捉えており、治安の悪いセクターにある安宿で止まった。
「今誘拐犯はこの宿にいるのか。部屋は?」
「わかんなーい!」
「なんでだよっ! 宿泊記録とかあるだろ!」
ルイが誘拐犯がいる部屋番号を聞くとアーニャはあっけらかんとした声でわからないと答えて、アステリオスがずっこけそうになる。
「脅したか交渉したか、記録に残らないように入ったみたいだし、宿の中にはカメラが無いんだもーん」
「あー、犯罪者向けの宿か………踏み込むか。アステリオス、取りあえず同業者っぽいし殺しはなしだ」
「ヘイヘイ、ならショック弾を使わせてもらうよ」
ルイが誘拐犯のいる宿に踏み込むと決めると、アステリオスは獰猛な笑みを浮かべてヘビーピストルを取り出すが、ルイに注意されてマガジンを非殺傷用の弾丸と入れ換える。
スタンショックとは非殺傷弾薬で、弾頭がゲルを特殊な薬液で固めた物で、ゲルの中にスタンガンのような電流が発生する装置が組み込まれている。
「相手側は動きがないねー?」
誘拐犯がいる安宿に向かう途中、アーニャは誘拐犯の動きを見張っていたが、誘拐した山本を誰かに引き渡すわけでもなく、ずっと部屋に閉じ籠っていると伝えてくる。
「田中さんに確認したけど、未だに身代金とかの連絡も来てないそうだ」
「誘拐してなにがしたいんだ、あいつら?」
ルイは依頼人である田中に確認を取れば犯人側からのアクションはないと言われ、それを聞いたアステリオスが訳がわからないと角を触りながら愚痴る。
「あの宿か………」
誘拐犯達がいると思われる安宿はどや街の簡易宿泊所のような建物だった。
「セキュリティは?」
「最低限だねー、こっちがマスターアカウント押さえたから好きに出きるよー」
「あとは居場所か………ちょうどいいな」
ルイはバギーから降りると、ゴミを漁っていた猫を捕まえて、猫の額に十字架を押し付けて解放する。
「何したんだ?」
「ちょっと猫の意識を支配して偵察に行ってもらうだけさ」
バギーに戻ってきたルイにアステリオスが問いかけると、ルイはそう言って運転席で目を閉じる。
ルイに意識を支配された猫は簡易宿泊所に向かっていき、するすると壁を登ると一部屋一部屋窓から確認していく。
「見つけた」
非常階段に近い部屋を覗き込むと、誘拐された山本が手足を拘束されて椅子に座らされ、誘拐犯と思われる三人組が山本に何か話しかけて、山本が首を横に振ってるのが見えた。
「こいつもらうぞ」
「あ、それ俺のツマミ………」
ルイはアステリオスのポケットにあった酒のツマミを抜き取り、車に戻ってきた猫に与えて魔法から解放する。
「俺とアステリオスで仕掛ける、アーニャは合図と共に部屋の電気を消してくれ」
「やっと俺の出番か」
「御意ー!」
ルイはアステリオスとアーニャに作戦を伝えると姿が見えなくなる魔法をかけてから簡易宿泊所に向かい、堂々と正面玄関から入っていく。
「いらっしゃっせー………あれ? 誤作動かな?」
受付フロントにいたスタッフはテレビを見ていたが、自動ドアが作動したのに反応して声をかけ、誰もいないことに首を傾げるとまたテレビを見始める。
フロントを通り抜けたルイとアステリオスはまっすぐ誘拐犯が潜伏する部屋の前まで問題なく移動する。
『音が聞こえなくなる魔法をかける。アーニャは今から十秒後に部屋の電気を消してドアを開けろ。アステリオスは扉が開いたら誘拐犯を無力化してくれ』
『御意ー!』
『任せろ』
ルイは
「
ルイが呪文を唱えて音を消すと、それを合図にアーニャが誘拐犯のいる部屋の電気を消してドアを開ける。
同時にアステリオスがヘビーピストルを構えて部屋に突入した。
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