第13話 急ぎの仕事

「今回はかなり儲かったな」

「弾代や燃料費など経費引いて一人五千ネオエンだもんな!」

「新しいドローンでも買おうかなぁ?」


 シーカー退治の清算を終えたルイ達はホクホク顔でエクスプローラーギルドから出てくる。


「あの死体も仲間の所に戻れてよかったな」

「大半はモンスターの胃袋か、ダンジョンの染みになるかだもんな」

「ちゃんと中身のある棺桶でお葬式出せるのってなかなか出来ないもんねー」


 ルイは煙草を咥えて火をつけると、深く吸い込んで紫煙を吐く。

 バードマンに殺されたシャオと言うエクスプローラーには所属チームから捜索依頼が出ており謝礼金も出ていた。


 ルイ達三人が言うように、エクスプローラーと言う仕事は死を伴う過酷な仕事だ。

 壁に囲まれて安全なネオトウキョウを出て、魔力汚染に曝されながらダンジョンから魔石など資源を回収する。


 その過程でモンスターに殺されたり、ダンジョン内に仕掛けられた致死率の高い罠や環境に散っていくこともある。


「さーて、金も入ったし、スピットファイアで飲み明かそうぜ!」

「さんせー!」

「アステリオス、本当に酒が好きだな………ん? ちょっと待ってくれ、電話だ」


 アステリオスが酒を飲むジェスチャーをしながらルイとアーニャを飲みに誘うと、アーニャはノリ良く両手を上げて飲みに同意する。

 ルイは煙草の灰を携帯灰皿に落としながら呆れていたが、ARO強化マトリクスに電話が着たらしく、ルイは通話状態にする。


 ルイのARO強化マトリクスには顔半分に赤いネオンの光を放つファイヤーパターンのサイバータトゥーをしたスキンヘッドの中年黒人男性の顔が表示される。


「よお、友達チューマー、お前向けの急ぎの仕事があるんだが受けないか?」

「トニー竹山か、俺向けの仕事? 内容は?」


 スキンヘッドの黒人の名前はトニー竹山。

 日本とアメリカのハーフと本人は自称している。

 トニー竹山はフィクサーと呼ばれる何でも屋で、仕事の仲介や装備の売買、金さえ積めば何でも用意してくれる。


「俺のクライアントが運営してる店で客のサラリーマンが誘拐されたらしい。そいつの捜索と奪還。なるはやで」

「ちょっと待て、チームメンバーが近くにいるから聞いてみる」


 ルイはそう言うと通話を保留にしてアステリオス達の方を見る。


「誘拐されたと思われるサラリーマンさんの捜索と奪還と言う急ぎの仕事の話が来たがどうする?」

「たまには天然物かワンランク高い酒が飲みたかったし、俺はいいぜ」

「ドローン代金は多い方がいいから僕も参加希望ー!」

「OK、車回してくる」


 アステリオスとアーニャが仕事に参加する意思を確認すると、ルイはトニー竹山に仕事を受ける旨を伝え、バギーを取りに行く。


「流石に一桁エリアは綺麗だな」

「警察企業の装備やドローンも凄いよ」


 今回の依頼人がいると言うセクター8/8にある会員制のバーに向かう。


 セクター8/8はエクスプローラーギルドがあるセクターよりも洗練されており、道にはゴミ一つも落ちていない。


 道行くサラリーマン達もオーダーメイドのスーツ姿が目立ち、アーニャが言うように巡回している警官達も最新の装備で身を包み仕事意識も高く見える。


「依頼人がいるバーはここだな」

「わーお、この店警察企業と警備契約してるのかよ、かなり儲けてるな」


 目的地のバーにたどり着くと、店の入り口には警察企業の警官が警備員としてたっており、かなりセキュリティレベルの高い店であることがわかる。


「貴方達は会員ではありませんね」


 バギーを停めてバーに向かうと、警備をしていた警官に入り口前で止められる。


「トニー竹山からの紹介だ。ここで人と会う約束をしている」

「確認を取る………ルイ様ですか?」


 ルイが今回の仕事を紹介した人物の名前を出すと、警官はARO強化マトリクスで通信のやり取りをして、ルイの姿を確認しながら名前を聞いてくる。


「俺がルイだ」

「確認が取れました。銃器の類いはこちらで預かります」

「大事に扱ってくれよ」


 アステリオスはベビーピストルと呼ばれる大型拳銃が収納されたホルスターを見せて、警官に回収させる。


 更に警官は検査機を取り出し、盗聴機や隠蔽した武器などの有無を確認する。


「待ち合わせのお客様はD16のルームにいます。店に不利益や迷惑行為、許可されたルーム以外への侵入、無許可の撮影が発覚した場合、我々は企業法に基づき、警告なしの発砲も当方は許可されております」


 警官は最後に警告した後、店のドアを開ける。


 この店は他の客と顔を会わせずに個室で酒を楽しむ作りになっているのか、店内は薄暗く細長い通路の両サイドに扉が続く。


「流石一桁エリアの店だな、魔法対策もしている」

「マトリクスも制限されてて内外から盗聴されない作りになってるよー」


 ルイとアーニャは通路や天井を見て、セキュリティレベルの高さに感心しながら依頼人が待つ部屋に向かう。


「初めまして、私は………この業界の慣例に従って田中と名乗らせてもらいます」


 今回の依頼人が待つ部屋に入ると、中にはいかにもビジネスマンと言ったスーツ姿の男性がいた。


 田中と言う名前はあまり表沙汰にしたくない仕事を頼む時の依頼人の偽名であり、万が一エクスプローラーが仕事に失敗しても依頼人にたどり着けないようにする対策も兼ねた慣例だ。


「トニー竹山から紹介されたルイだ。こっちが荒事担当のアステリオス、情報調査担当のアーニャだ」


(平静を装っているが、かなり焦りが見えるな。切羽詰まる方の急ぎか)


 ルイは軽い自己紹介しながら田中と名乗った人物を観察する。

 依頼人の表情は冷静のように見えるが、小刻みに貧乏ゆすりしたり、不安を隠すように手を何度も組み換えたり、水を飲む回数も多い。


「誘拐された客の捜索と奪還と聞いたが、詳細を聞かせてもらえるか?」

「はい、当会社は契約した大企業管理職向けのリラクゼーションサービスを提供しています。実はサービス中に顧客が誘拐されました」

「サービス中に? おいおいスタッフやセキュリティは何してたんだ?」


 依頼内容を聞いたアステリオスが口を挟む。


「当方が提供するサービスのは自然豊かなエリアでのバケーションです。都会の喧騒から離れて仕事を忘れてのんびりできるようにしています」

「俺には理解できないな………」


 性的なサービスだと思い込んでいたアステリオスは、田中の企業が行うサービス内容を聞いて怪訝な表情を浮かべる。


「………可能な限り人と会わないようにして一人で過ごしてリラックスできるように心がけていたのですが、今回はそれが原因で………」

「誘拐だと思ったのは? 客が逃げたとかは?」

「誘拐されたお客様は一週間の滞在で、一定時間ごとにシステムが在住を確認するのですが、無人時間が長かったためにスタッフが様子を伺うために部屋を確認すると、このような状況でして」


 田中はそう言って、ルイ達のARO強化マトリクスに一枚の写真画像を送信する。


「うひゃあ!」

「こりゃ酷いスプラッタムービーだな」

「トニー竹山が俺の知識がいると言ってた理由がこれか」


 田中から送られてきた画像には部屋一面血だらけで、壁には血で書かれた魔方陣が刻まれていた。

 その魔方陣を見て、ルイは今回の仕事をもってきたフィクサーのトニー竹山が言ってた意味を理解する。


「………田中さん、拐われた客の情報もらえるか?」

「社外秘です」


 ルイが誘拐された客の情報を求めると、田中は口では社外秘で言えないと言いつつ、顧客情報のデータを送信する。


「うわぁ………こりゃ急ぎだわ」

「ネオトウキョウの企業議会に名前がある企業の社員さんかぁ………」


 誘拐されたのは上から数えた方が早い資本力を持つ大企業メガコーポの課長である山本武と言う中年男性。


 アステリオスとアーニャが言うように、山本が勤める大企業メガコーポネオトウキョウの裏の支配者とも言われる上位企業が所属している大企業メガコーポの一社だ。


「我々としては今回の件が表沙汰になる前に内々で解決したいと思っています。それこそです」


 田中は最大限の努力と言う言葉を強く言う。

 今回の顧客である大企業メガコーポにバレずに速やかに生きて客を取り戻せと言う意味合いが含まれる。


「期限は?」

「明日の朝八時にクライアント側の企業からお客様の所在確認をする定時確認作業がありますのでそれまでに」

「報酬は?」

「全体で三千ネオエン、前金は千ネオエンでいかがでしょう?」


 報酬額を聞いたルイはアステリオスとアーニャに視線を向ける。

 アステリオスとアーニャの二人は仕事を受けることを知らせるように頷く。


「出来れば今すぐ誘拐現場に入りたい。それが叶うなら引き受ける」

「作業員IDを用意します。現場スタッフにも通達しておきます」


 ルイが依頼を引き受ける条件を提示すると、田中はそれなりに権限のあるポジションなのか、すぐにIDを用意してくれた。

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