第12話 ハンティング2

「ヒュー、魔石とダンジョン産の金属で作られた対モンスター弾頭はやっぱり威力が凄いな」


 偵察用ドローンのパトローラー経由でシーカー達の巣をモニタリングしていたルイはアステリオスの狙撃で死んだラッパーシーカーを見て口笛を吹く。


「昔は銃ではモンスターを倒せなかったんだよね?」

「ああ、一般的な鉛の弾では傷一つ、なかなかつかなかった。そのせいでかなりの人が死んで、ダンジョンから溢れだしたモンスター達によってこの砂漠のように人類の居住エリアを奪われていった」


 リコリスがルイに問いかけると、ルイは頷きながら歴史の講釈を始める。


「シールダーの動きは悪くないな。ラッパーがやられた瞬間クイーンに密集して自分を壁にしていやがる」

「だが、ハンターやワーカーはダメだな。混乱して巣の周りを徘徊したり、見当違いのところに吠え声をあげてる」


 偵察用ドローンのパトローラーからARO強化マトリクスに送られてくる映像からは混乱したシーカー達の姿が見える。

 アステリオスはそのまま引き金を引き、ハンター達を駆除していく。


「んー………これぐらいなら企業の軍隊でも駆除できそうだよねー? 何で自分達でやらないんだろう?」

「コスト云々か、ダンジョン管理に失敗した部門が切られたかだろうな」

「んー、どゆこと?」


 淡々とシーカーを駆除していくアステリオスの姿を見てリコリスが疑問を口にする。

 見張りをしていたルイがリコリスの疑問に答えると、リコリスは聞き返す。


企業私設軍隊カンパニーアーミーなら弾薬費や怪我人の治療費なども企業が見ないといけない。所がエクスプローラーギルドに弾薬費や治療費も含めて五万で委託できたなら?」

「そりゃ委託するね」


 銃声と薬莢が落ちる音が響く中、ルイが例題を出すとリコリスも納得する。


「切り捨ての方は、今回の工場とかを裏工作で出資していた別会社と言うことにして責任を押し付け無関係を装う。これだと他所の会社の事故だから自分の企業私設軍隊カンパニーアーミーを動かす理由がない」

「うわー、さすが企業きたなーい!」


 真相はわからないが、ルイは後者だと思い込んでおり、少し私情の籠った見当を述べる。


「一つ目の巣は駆除終えたぞ。リコリス、ドローンで回収してくれ」

「御意ー!」


 ルイとリコリスがそんな話している間に、アステリオスはシーカーの駆除を終えて回収を頼んでくる。

 リコリスはカーゴドローンを操作してドロップしたシーカー達の魔石、ハンターの爪や牙、シールダーとクイーンの毛皮を回収していく。


「次の巣を見つけた。駆除していくぞ」


 リコリスがモンスター素材を回収している間にアステリオスが次の獲物を見つけ、再装填を終えたレバーアクションライフルで駆除していく。


「うわわっ!? ドローンが壊されたっ!?」


 ハンティングを開始して数時間、ルーティンワークのようにアステリオスが駆除して、リコリスのドローンが回収していく最中、回収用のドローンの一体の信号がロストする。


「どうやら、あれが犯人のようだぜ。銃声に引き寄せられたか?」


 リコリスが慌てる中、アステリオスはドローンを破壊した存在を見つけ出して指差す。


「ありゃバードマンじゃねぇか………ん? あいつ何か持ってないか?」


 ルイが襲撃者の姿を確認すると、視界の先にはアステリオスと似た体格のバードマンと呼ばれるモンスターがいた。


 その外見は禿げ鷲の頭と翼、人の胴体を持つモンスター。回収作業中のドローンを噛み砕き、その足にはルイ達からは性別や顔が確認できないが人間を鷲掴みしていた。


「アステリオス、行けるか?」

「へへっ、シーカーじゃあもの足りねぇと思ってた所だ」


 アステリオスはポケットを漁って劣化ウラン弾を取り出し、レバーアクションライフルに装填していく。


「外したらそいつはお前持ちな」

「へっ、アーニャのサポート付きで外す方が難しいぜ」

「アステリオス頑張れー! 僕のドローンの仇取って!」


 アステリオスは寝転がり、レバーアクションライフルを構えて深呼吸を繰り返す。


 アーニャのドローンからの流れてくるバードマンとの距離や風速情報がアステリオスのサイバーアイに搭載された射撃支援機構スマートリンクに送信されて弾道予測をする。


 アステリオスのサイバーアイに矢印が出て銃身の斜角を調整しろと指示をしてくる。

射撃支援機構スマートリンクが示す位置は、バードマンの左胸………つまり心臓部分。

 バードマンはアステリオス達に気づいた様子もなく、シーカーの死骸を見つけて食料が落ちてると幸運を喜んでいるようだった。


「まずは一発目」


 アステリオスが引き金を引くと、劣化ウラン弾はバードマンの左胸を貫通する。

 だがバードマンはまだ絶命しておらず、奇襲を受けて驚いたのか、脚で掴んでいた人間を落とす。


「ガオオオン!!」

「げげっ! 気づかれちゃったよ!!」


 三百メートル近い距離があったと言うのにガバードマンはルイ達がいる雑居ビルに向かって物凄い勢いで飛んでくる。


混乱コンフュージョン

「ガッ!?」


 ルイは十字架を握りながら呪文を唱えると、バードマンはルイ達の存在を見失ったかのようにその場でホバリングを始め、戸惑う。


「サンキュー、ルイ!!」


 アステリオスはルイに礼を述べると引き金を引く。


「状況終了っと!」


 射ち出された劣化ウラン弾は寸分違わず、バードマンの脳天を穿つ。

 それが止めとなったのか、バードマンは地面へと墜落して二度と起き上がることはなかった。


「………同業者か」

「エクスプローラーカードがあるな………Dランクのシャオか。チームに所属していたみたいだ、知らせてやるか」


 バードマンを倒したルイ達は、バードマンが落とした人物を確認する。

 バードマンが掴んでいたのは女性のエクスプローラーで、荷物を漁っていたアステリオスが身分証明でもあるギルドカードを確認する。


「防具の背中部分が爪でズタズタだよー。普通に戦ったらやばかったかもねー」


 アーニャがシャオの死体を確認すると、背中側が鋭い爪で切り刻まれてるのが判明する。


「上空から急降下でやられたか?」


 ルイも傷口を見て、エクスプローラーギルドのモンスターデータにあったバードマンの戦闘方法を思い出す。


 バードマンの戦闘方法は急降下による不意打ち。

 力もかなり強く、軽トラックを持ち上げて上空から落としたと言う記述もあった。


「主よ、どうか憐れな魂に安らぎを」


 ルイは十字を切って鎮魂の祈りを捧げる。


「ところでルイよー、バードマンとこの死体どうするよ。バギーには載せられねーだろ?」

「ビーコンとタグを打ち込んでギルドの回収屋に回収してもらう。この人もこんな砂漠で果てるより仲間がいる都市で眠りたいだろう。アーニャ………って、おいっ!!」

「ほえ?」


 ルイはアーニャにビーコン設定を頼もうとすると、アーニャはシャオの死体から情報機器を漁り、ロックを解除して中のデータを確認しようとしている。


「アーニャ、前も言っただろ。許可なく人様の情報覗くなって………」

「んー、だって何か手がかりとかあるかもしれないじゃーん」

「まーた悪戯したのか、アーニャ」


 ルイは慌てて情報端末を取り上げて、やんわりとアーニャを叱る。

 アーニャにはロックがかかっている電子機器や情報端末を見つけると、衝動的にハッキングをかけて覗き込む悪い癖がある。


「一応プライバシーとかあるんだからな………はぁ」

「はーい、反省してまーす。えへへー、基本的なロックしかなかったから簡単だったー」

「ハッキングの腕はいいからな、こいつ」


 ルイはアーニャが変な操作していないか取り上げたシャオの情報端末を調べると、ロックが解除されて情報にアクセスできるようになってるのを見てため息をつく。


「そういうのは仕事の時だけにしろよ………いつぞやみたいに酷い目に遭うぞ」

「その時はまたルイとアステリオスが僕を助けてくれるよねー?」


 ルイとアステリオスが注意するがアーニャは暖簾に腕押しのようにのらりくらりとかわす。


「あの時は俺もルイもお前の悪戯癖を知らなかったからだよ」

「エヘヘー」


 アーニャは過去にその覗き見癖のせいで、とあるギャングの秘密を覗き見て捕まったことがある。


 たまたま別件でギャングの壊滅依頼を受けたルイとアステリオスがギャングのアジトに殴り込み、アーニャを助けてチームにいれたが………今回のようなトラブルを何度か起こしている。


「アーニャ、さっさとビーコンとタグ設定しろ。通信可能エリアまで戻ったら回収屋を回すから」

「御意ー!」


 ルイ達はバードマンの死体にビーコンを打ち込むとネオトウキョウへと戻った。

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