第11話 ハンティング
「今回の仕事は|モンスター狩りだ」
運転しているのはカソックコート姿の青年。ミスティックと呼ばれる魔法やスキル能力を持つルイ。
無意識に煙草を咥えようとして、はっと気づいたのか元に戻す。
別にルイが禁煙しているのではなく、仕事前は煙草など匂いがつくものを可能な限り控えているだけだ。
「ターゲットはなんだい?」
クーラーボックスから冷えた缶ビールを出して飲むのは、たった一人で後部座席を占拠する巨人のような体格に水牛の角が生えた大男。
サイボーグサムライのアステリオス。
肉体のほとんどを戦闘用サイバーパーツに変換した戦士で、その力は計り知れない。
「うんとねー、ダンジョンの外で野生化したシーカーっていうモンスターだって」
助手席に座っていたピンク髪に褐色肌の幼い外見のエルフ少女のリコリスは
「あん? ダンジョンの外だって? 何処かのダンジョンでスタンピードでも起きたのか?」
「ああ、どこぞの企業様が個人管理していたダンジョンをスタンピードさせたとさ」
アステリオスが怪訝な表情で聞き返すと、ルイが答える。アステリオスがチラリとバックミラーを見れば、ルイが呆れたような顔をしていた。
ダンジョンスタンピードとは、長期間ダンジョンを放棄した際に発生する現象の一つで、ダンジョンからモンスターが這い出てきて暴れまわる。
百年前、このダンジョンスタンピードが世界各地で同時期に大量発生し、世界は文明を維持できなくなったと言われている。
「しかもねー、さっさとエクスプローラーギルドにさっさと報告すれば良いのに、内々で問題解決しようと隠蔽工作したんだけどこれが大失敗!」
リコリスはWebニュースを
記事にはリコリスが言っていたように企業がダンジョンスタンピードを隠蔽を図ろうとして失敗して、事態を悪化させたことが赤裸々に書かれていた。
「こいつら………シーカーどもがコロニーを形成させるほど状況悪化させてからギルドに泣きつきやがったのか! これだから企業は………」
アステリオスはWebニュースの一面を見て憤慨するようにブツブツと文句を言う。
「そしてその企業のケツ拭きに俺達がいくのさ」
「けっ! ビールが不味くなる!」
嘲笑するような笑みを浮かべるルイ。
やけ酒するかの如く一気飲みして缶を握り潰して投げ捨てるアステリオス。
「シーカー達は役割ごとに外見が違うから、画像情報確認してよねー」
リコリスはエクスプローラーギルドにあるモンスターデータを
「まず優先して始末しないといけないのがこのラッパーシーカーだよー。戦闘力は皆無だけど、目が良くて音に敏感で臆病」
「戦闘力皆無で臆病なら放置してもよさそうに思えるが?」
リコリスがシーカーの説明を始めると、アステリオスが口を挟む。
「んもー、ちゃんと資料読んでよねアステリオスー! ラッパーは異変や命の危険を感じると大音量で鳴き声上げて仲間を呼び寄せるんだよー」
「下手すりゃシーカーだけじゃなくて、周辺のモンスターもその鳴き声に呼び寄せてられてモンスターハウスの出来上がりだ。それで壊滅寸前まで追い詰められたチームもいる」
「うへぇ………そりゃ勘弁だわ」
リコリスとルイからラッパーシーカーの特色を聞いたアステリオスが次々とモンスターを呼び寄せるのを想像して苦笑する。
「次にハンターシーカー。虎サイズのアタッカー役で爪と牙が鋭くて、生半可なアーマーなら切り裂けちゃうからね」
リコリスが次に表示したのは虎サイズのシーカー。爪や牙が異常に発達して鋭くなった外見だった。
「んで、こっちがシールダーシーカー。一般的な9mハンドガンの弾じゃ弾き返しちゃう皮膚の固さ。巣にいるクイーンを守ってるよ」
次に表示されたのは中型犬サイズのシーカー。その皮膚は硬質化しており、付属の動画ではシールダーの皮をハンドガンで射つ映像が再生され、弾丸が弾き返されて地面に跳弾しているのが流れていた。
「巣の維持やクイーンや子供を世話するワーカー、弱いけど数が多い。それからこっちがクイーンね」
ワーカーと呼ばれる猫サイズのシーカーと、画像越しでもため息が出そうなほど美しい毛並みの山猫サイズのシーカーの画像が表示される。
「芸術とかわからねえ俺でも、クイーンは綺麗だとおもっちまうぜ」
「実際クイーンからマテリアルドロップする毛皮はかなり高額で買取りされている。件の企業も大方クイーンをペットか毛皮のために養殖しようと試みたんじゃないか?」
アステリオスがクイーンの画像を見て感想をのべると、ルイはやらかした企業の目的を推測する。
「リコリス、シーカーの攻撃方法や特殊能力はなんだ?」
「んー、エクスプローラーギルドにあるデータによると、爪と牙による近接攻撃だけだよ~」
アステリオスがアーニャに攻撃方法を聞くと、リコリスはエクスプローラーギルドのデータバンクにアクセスして検索結果を教える。
「シーカーは売れるのか?」
「魔石はハンターが五百ネオエン、ラッパーが八十ネオエン、ワーカーが五ネオエン、クイーンが八百ネオエン。マテリアルドロップはハンターの牙と爪、クイーンの毛皮も売れるよー」
「今回は狩猟依頼だから一匹駆除ごとに別途十ネオエン貰える」
アステリオスがシーカーの値段を聞いて、リコリスとルイから話を聞くとヒューと上機嫌に口笛を吹く。
「そろそろコロニーがあるエリアだ。ここからは徒歩で行くぞ」
「御意ー!」
「へへっ、腕かなるぜ」
ルイは廃墟の日陰にバギーを停める。
リコリスはいつものようにパトローラーとドーベルマンのドローンを起動させ、アステリオスは荷台からレバーアクション式のハンティングライフルを持ち出す。
「偵察ドローンからの映像
リコリスが操作するパトローラー達が上空へと旅立ち、空撮した地形映像をルイとアステリオスの視界にリンクさせる。
「おっ、あの建物狙撃に良さそうだな」
シーカーを探して歩いていると、アステリオスが比較的損傷の少ない高い建物を指差す。
「
「問題なさそうだよー」
「それならちょっと上ってみようぜ」
ルイが魔法で建物内に生物がいないか調べ、続いてリコリスがパトローラーを飛ばして建物内を確認していく。
元は雑居ビルだったのか、文字のかすれたスナックの看板などが目にはいる。
「ダンジョンと違って、こういう野外だと高所取れるのがいいよな! 獲物を見つけやすいし、相手が遠距離攻撃でも持ってない限り反撃されない」
アステリオスは一歩一歩地面を確認しながらビルを上っていく。
長い年月による風化で所々床や天井に穴が空いているが狙撃に適した隠れる場所もあり、アステリオスは膝立ちでレバーアクションライフルを構えながら、サイバーアイのズーム機能でシーカーを探す。
「見つけた! 二時の方角、距離は………三百メートル。リコリス、スポッターサポートしてくれ」
「御意!」
アステリオスはシーカーの巣を見つけたのか、方角と距離を伝える。
リコリスはドローンを使って風向きや速度を測量して、その情報をアステリオスのサイバーアイにリンクさせる。
「俺は見張りに回るよ」
「頼む」
「よろー!」
ルイは狙撃に関しては素人なので、リコリスの邪魔にならないように少し離れて周囲を警戒する。
「数は十匹、ハンターが五匹の、ラッパーが二匹………シールダーが二匹のクイーンが一匹っと」
アステリオスの目の部分からはウィーンとカメラのズームオンが聞こえてくる。
シーカー達はアステリオスの存在には気づいておらず、ハンターやシールダー達はお互い舐めあったりじゃれたりと普通の動物のような仕草をし、ラッパーが神経質に耳を傾けたり、ギョロギョロと目玉を動かして周囲を警戒していた。
「まずはラッパーから潰す」
アステリオスはすぐに装填できるように床に44口径弾を並べ、息を止めて引き金を引くと、銃声と共にラッパーシーカーが破裂したのを確認した。
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