第15話 急ぎの仕事3
アステリオスは自分の脊髄に連結された強化反射神経装置を起動して、ドアが開くのを待つ。
ルイの合図と共にドアが開くと、アステリオスは真っ暗な部屋に飛び込む。
(
サイバーアイに搭載された
部屋の中には人の形をした熱源が四つ、そのうちの一つがアステリオスの突入に反応したようにこちらに銃を向けようとしている。
「………っ!?」
引き金を先に引いたのはアステリオスの方だった。
銃弾は撃たれた誘拐犯側のサイバーサムライの胴体に命中し、弾頭に仕込まれた装置から電流が流れたのか、誘拐犯側のサイバーサムライは陸に上がった魚のように跳ねて悲鳴をあげようとするが、ルイの魔法で音が消されているので何も聞こえてこない。
誘拐犯側のサイバーサムライも、アステリオスが放った一撃では気絶するほど弱くはなく、反撃するようにアステリオスに向けて銃口を向けると引き金を引く。
(効かねぇよ)
アステリオスは反撃を受けるも、皮膚下に移植したチタン装甲が銃弾を受け止めて、負傷にすら至らない。
(さっさと寝てろ)
誘拐犯側のサイバーサムライは、自分の攻撃が効かなかったことに驚愕する。
その間にアステリオスはトドメとばかりにもう一発誘拐犯側のサイバーサムライにスタンショック弾を撃ち込む。
それがトドメとなって誘拐犯側のサイバーサムライは気絶する。
アステリオスはサイバーサムライを無力化すると、未だに何が起きたのかわからず反応しきれてない残りの誘拐犯達に銃弾を撃ちこみ、気絶させていく。
「状況終了!」
アステリオスが突入してから三秒も経たない間に起きた出来事だった。
「貴方が山本さんですね?」
「はっ、はい………貴方達は会社の救出チームですか?」
誘拐犯を無力化し、手足を拘束して視界を防いだ後、ルイは誘拐された山本を解放して声をかける。
「いえ、貴方が利用していた店側に雇われたものです」
「そうなんですか………とにかく助かりました」
山本は縛られていた手首を揉みほぐしながらホッとしたように息を吐く。
「おい、お前ら
「あん?
「あー………なるほど、そう言うことか。何処から仕事を受けたか知らんが、俺達はその山本が勤める会社から誘拐の依頼を受けたんだよ」
「はあ? 嘘つくならもう少しましな噓つけよ、なあルイ」
誘拐犯のBが何かに気づいたのか一人納得したようにうんうんと頷き、自分達の目的を伝える。
アステリオスは訳がわからない感じでルイを見る。
「噓じゃねーって! そっちにもハッカーがいるんだろ? 俺の情報端末調べてみろよ、企業とのやり取りした記録がある」
『彼が言ってるの本当だよー、今回の誘拐は企業が不定期に行う忠誠心テストの一環で、今回の対象が山本だったみたいー』
誘拐犯Bが叫ぶと同時にハギーで待機していたアーニャの通信が入り、彼らの通話記録が
企業からの依頼で山本を誘拐して会社の内情を聞いたり脅したりして架空のスカウトを持ちかけろと言う指示を受けた内容が表示されていた。
「それだけならあんな目立つ痕跡残さなくても」
「セキュリティの救出部隊の錬度も試す予定だったんだよ。ある程度誘拐したと言う痕跡を残せとか無茶振りだったぜ」
ルイは誘拐現場での血糊や魔方陣について指摘すると誘拐犯Cがため息つきながら種明かしする。
「つまり、今回は本来なら山本の企業に通報しないといけないのに、失態になると焦った田中が隠蔽しようと先走ったせいで、俺達は
「そうなるな、御愁傷様」
ルイが状況を口にすると、誘拐犯Cがザマァ見ろと笑うように言う。
「おいルイ、どうするよ」
「ちょっと時間をくれ、考える」
『あ、セキュリティチームが近くまで来てるよ』
種明かしを聞いたアステリオスが焦ったようにルイに話しかけ、ルイは煙草に火をつけて考え込むが、時間がないことをアーニャが知らせてくる。
「あ、あのー………今後私の仕事を手伝ってくれるなら口裏合わせに協力しますよ」
「ん? どう言うことだ?」
誘拐された山本が手をあげて発言する。
「実は私が考えてる今後のビジネスプランにエクスプローラーチームが必要なんですが………中々信頼できるチームがいなくて……」
「俺達に手伝えと?」
「はい、ちゃんと報酬もお支払しますし、無茶な要求なら断っても構いません。悪い話じゃないと思いますが、いかがでしょう?」
山本は営業スマイルでルイに提案する。
「はぁ………引き受けるよ」
ルイは深く煙草の煙を吸い込むと、ため息と共に吐き出し、他に企業と喧嘩しない方法が思い付かず、渋々山本の提案に了承する。
山本の提案を引き受けて数分後、簡易宿泊所には山本が勤務する
「済まないか、もう一度確認させてくれ。我々は会社から君が誘拐されたと聞いて急いできたのだが?」
セキュリティチームの隊長が山本に事情聴取を行う。
「確かに誘拐されましたが、自前で揃えていたエクスプローラー達に助けてもらいました。会社の業務とは知らず、他社からの攻撃だと思って………ハハハ」
山本はあっけらかんとした顔でセキュリティチームの隊長に平然と嘘をつく。
今回の事は会社の忠誠心テストだと知らなかった山本は隙をついて個人的に伝手があったエクスプローラーチームのルイに助けを求め、助けてもらったと言うストーリーで口裏を合わせると言うものだった。
「ちょっと待て、上に指示を仰ぐから」
セキュリティチームの隊長からすれば突入したら事件はとっくの昔に解決しており、救出対象が自力で脱出していたことに困惑する。
「業務は終了、送迎の車がくるから待機してくれ。エクスプローラーチームも生きてるなら解散していいそうだ」
「わかりました」
「所で何で自前の戦力を持ってた? 我々セキュリティが信用できないのか?」
会社からの指示を受け取った隊長は待機を命じるが、何か思い出したように山本を呼び止めて質問する。
「ハハハ、ちょっとした保険ですよ。わが社の力は疑っていませんが、ちょっとしたことでも大げさに騒いで足を引っ張ろうとする同僚はいますからね。会社に頼らず自己努力で問題解決すれば叩かれないでしょ?」
「なるほどな、そうしてくれたら我々も出動せずに給料だけもらえるしな」
山本と隊長はそんな話をしていた中、ルイ達は誘拐犯側のエクスプローラーと話し合っていた。
「今回はお互い不幸な事故が重なったってことでいいか?」
「ああ、こっちは依頼完遂扱いになったし、誰も殺されなかったからな」
「エクスプローラー界隈の暗黙ルールで仕事の恨みはその仕事の間に解決、引き摺らないってのがあるからな」
「誰一人殺されず制圧されて、仕事も成功扱いなのに騒いだら恥知らずどころじゃねーよ」
誘拐犯側もルイ達による襲撃と言うアクシデントはあったが、山本からの口添えもあって依頼成功となってお互い遺恨なしで話がつく。
「それじゃ話はついたと言うことで」
「ああ、今度は負けないぜ」
そう言ってお互い別れていく。
「やれやれ、何とか軟着陸したな」
話を終えたルイは新しい煙草に火をつけてその場に座り込む。
「よしっ! 憂さ晴らしに飲みに行こうぜ!」
「今日はとことん飲んで忘れたいよ」
「それじゃスピットファイアでいいよねー?」
アステリオスの提案に乗るようにルイ達はスピットファイアへと向かった。
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