第8話 グレーターガーゴイル
「これ疲れるからあんまりやりたくないけど仕方ないか。
ルイは何時ものように十字架を握り呪文を唱える。
するとルイの四肢の筋肉が膨張し、袖が破れたりボタンが飛ぶ。
身体強化魔法によって一時的にサイバーサムライのような身体能力を得たルイは塔の外にでる。
「でかいな」
塔から出たルイが空を見上げると、グレーターガーゴイルが塔の回りを旋回している。
グレーターガーゴイルは特撮巨大ヒーローに出てくる怪獣を連想する。
「まずは塔から離すか」
ルイは護身用の拳銃を抜くと、グレーターガーゴイルに向かって射つ。
「お、当たった」
気を引くつもりで適当に射ったら偶然にもグレーターガーゴイルに命中する。
だが黒曜石のような鉱石の肌には傷一つつけられなかったが、ヘイトをルイに向けるのには役立った。
「こっちだ」
グレーターガーゴイルの意識が自分に向いたのを確認したルイは、威嚇射撃をして先程の攻撃は自分がやったと知らせると、背中を向けて走り出す。
「ガアアアアアッ!!」
「うおっ!?」
グレーターガーゴイルはルイを空を飛んで追いかけながら、鳴き声と共に衝撃波を放つ。
ルイは右に飛んで衝撃波を避けるが、地面が抉られてる姿をみて息を飲む。
「ガアアアアアッ!!」
「魔法かよっ! 多彩だな!!」
グレーターガーゴイルがまた雄叫びをあげる。
ルイはまた衝撃波が飛んでくるかと思い、グレーターガーゴイルに視線を向けると、グレーターガーゴイルの回りに無数の炎の玉が浮かび上がり、バルカン砲のように間髪いれず撃ち込んでいく。
「くっ!?」
炎の玉が着弾すると爆発を起こし、爆風と粉塵に視界を塞がれるルイ。
二発目、三発目を避けていくが、息を付く暇もない連続攻撃に追い詰められそうになる。
「あ、やっべ!
遂に追い詰められたルイはグレーターガーゴイルが放った炎の玉を回避しきれず、直撃を受ける瞬間に魔法の盾を展開するが、炎の玉が着弾すると爆発し、巻き込まれる。
グレーターガーゴイルは勝利を確信したように羽ばたきながらゆっくりと地上に降下していく。
自分の魔法によって憐れな獲物の無惨な姿を一目みようと、地上に降り立つと腕を組んで粉塵が収まるのを待つ。
「よお、どこ見てんだ?
「っ!?」
所々火傷を負ったルイだが、爆発によって起きた粉塵に紛れて地上に降りたグレーターガーゴイルの背後に回り込むと、十字架を右手で握りながら、左手から魔法の衝撃波を放ち、グレーターガーゴイルにぶち当てて吹き飛ばす。
グレーターガーゴイルは数メートルほど地面を抉りながら吹き飛び、土石に紛れながら起き上がると、怒り心頭といった感じでルイを睨む。
「クワアアァァアーッ!!」
「スキルか?」
グレーターガーゴイルは雄叫びを上げて腕を振るうと、五つ爪の形をした衝撃波が地面を抉りながらルイに向かっていく。
「スキルに魔法を使うとなると、モンスターのランクはC前後ってところか?
五つ爪の衝撃波を横に飛んで回避したルイはお返しとばかりにまた十字架を握って魔法の衝撃波を打ち出す。
だが、グレーターガーゴイルは翼を広げて上空へと逃げる。
「そっちは囮だ、
ルイはそれを予測していたのか、十字架を握りしめたまま即座に別の魔法を唱える。
グレーターガーゴイルの頭上に雷雲が発生したかと思うと、轟音と共に雷がグレーターガーゴイルに直撃するように落ち、その黒曜石のような体が粉砕される。
「ぐっ………連続で使いすぎたか」
ルイは魔法の酷使による反動がきたのか目眩を起こし膝を付く。
鼻の奥から生暖かい物を感じたかと思うと、鼻血が流れだし、喉奥から嘔吐感を覚えて口を開くと赤黒い血を吐く。
顔も青白く、第三者が目撃すれば救急車を呼びそうな顔色だ。
ミスティックの魔法は威力は絶大だが、RPGのMPのような限界値が存在しており、酷使すれば目眩や吐き気、倦怠感など精神的な物から、限界を超えて魔法を使えば体を傷つけ最悪死に至る。
「ゲームみたいに数値が表記されれば楽なのにな………」
ルイはポケットから吸入器を取り出すと、ガスを吸いながらゆっくり深呼吸する。
暫くすると目眩や頭痛も収まり、倦怠感も薄れていく。流れ続けた鼻血も止まり動けるようになる。
「流石に残骸全部は持ち帰れないな」
破壊したグレーターガーゴイルの残骸を見て、討伐証明になりそうな顔の部分と魔石を拾うと、チームの元に戻る。
「ルイさん!」
「よかった、無事だったんだ………」
「おっと」
塔に戻ると、入り口前にいた真里花と京子が飛び付いてくる。
「グレーターガーゴイルは?」
「この通り倒したよ」
アステリオスがグレーターガーゴイルをどうしたか聞いてくるので、ルイは魔石と残骸を見せる。
「ルイー、そろそろ撤収時間だよー」
「これで切り上げるか。アステリオス、悪いが輸送トラックに乗ってくれ」
「あん? 何でだ?」
ルイを出迎えたアーニャが腕時計を指差すジェスチャーでタイムリミットを知らせると、ルイはアステリオスに指示を出す。
「この二人を乗せるからだ。お前一人で後部座席埋まるんだよ。それにこの状態の二人乗せられるわけないだろ」
「あー………たしかにな」
アステリオスは真里花と京子の顔色を見て納得する。
行きのトラックで痴漢にあい、探索中に他のエクスプローラーやモンスターの襲撃とあれこれあって精神的に限界のように見える。
「OK、トラックに乗るよ」
「ありがとうございます」
「ごめんなさい」
「いいってことよ」
アステリオスが代わりに輸送トラックに乗ることを了承すると、真里花と京子は心底ほっとした顔でお礼を言ってくる。
「なんだったらクーラーボックスのビール飲んでもいいぞ」
「こら、未成年に酒を勧めるな」
アステリオスはニカッと笑ってビールを勧めるが、ルイがジト目で注意する。
「んだよ、俺はこいつらの歳には飲んでたぞ」
「それでもだ」
そんな話をしながら集合場所に戻ると、集合時間を忘れてお宝を漁っているのか、ワタリであるグレーターガーゴイルに殺されたのか不明だが、集まったエクスプローラーの数は出発時と比べると半数以下だった。
アステリオスが輸送トラックに、真里花と京子がルイのバギーに搭乗すると一部のエクスプローラーが不満を口にするが、アステリオスが指の関節を鳴らしながら話を聞こうとすると不満は聞こえなくなった。
「今回はイレギュラー要素があったが、FやEランクのエクスプローラーというのは大半があんな感じだ。続けるか?」
バギーを自動運転モードにしながら、ルイは後部座席にいる真里花と京子に話しかける。
「正直言えば怖いです。私のせいで京子も危険な目にあいましたし」
「あれは真里花のせいじゃないよ!」
真里花は疲れきった顔でうつむき、ボソボソとか細い声で話す。
隣の座席に座っていた京子はフォローに入ろうとするが、その手は震えていた。
「それでも………それでも私には大金が必要なんです! エクスプローラーじゃないと駄目なんです!!」
真里花は青い顔しながらも強い意思のこもった瞳でバックミラー越しにルイを見つめる。
「弟さんの魔力病を治したいんだよねー」
「おい、アーニャ、おま───」
「あ、私が伝えたんです!」
そこまで真里花が大金を求める理由が気になるルイ。
理由を聞こうと思う前にアーニャが真里花の目的を暴露し、また覗き癖で勝手にプライバシーを覗いたのかと注意しようとすると、慌てて真里花がフォローに入る。
「あの………ルイさんがモンスターと戦ってる時、不安を紛らわすために」
「なるほどな………しかし、魔力病か………確かに金がかかるな」
魔力病とは現在世界各地で発症してるダンジョンの魔力が原因の病気で、肉体の限界量を越えた魔力が発症者の体内で生成され風船が膨らむように体内に蓄積し、肉体に悪影響を及ぼし、最後は魔力が破裂して死に至らしめる。
治療薬はあるが、稀少で市場に滅多に出回らず、仮に出回っても数十万単位でオークションが始まるほどの価値があるし、症状を抑える治療だけでもかなりの医療費が必要だ。
「ついこないだまでは医療費はなんとかなったんですが………お父さんの勤めてる会社がトラブルになって働けなくなって」
「私、中学の時にギャングの抗争に両親が巻き込まれて殺されて孤児になりかけた時に、真里花の両親に助けられたの。だから今度は私が助ける番だって………」
「とはいえ、何も準備なしは無謀すぎるぞ。俺達が偶然通らなければどうなっていたか」
「偶然ねえ~」
ぽつりぽつりと真里花と京子は家庭事情を話す。
そんな中、助手席に座るアーニャはニヤニヤしながらルイを見つめる。
「………今日帰ったら親に報告しろ。一日考えてもエクスプローラーを続ける気があるなら俺のアドレスに連絡しろ。ただし、両親を説得して保護者の同意書も持ってこい」
ルイはアーニャを無視しながら胸の十字架を弄りながらそんなことを言う。
「えっと………それって………」
「Dランクエクスプローラーの俺で良ければある程度面倒見てやる。その代わり厳しいぞ」
「はい! よろしくお願いします!!」
「ありがとう! ルイさん!!」
そんな話をしながらルイ達はネオトウキョウへと戻っていった。
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