第6話 面倒を見る

「やめてください! 京子に酷いことしないでっ! マッピングデータなら譲りますから、お願いします!!」

「そいつも頂くけど、俺たちはお前達の体も目的なんだよ!」


 後ろから羽交い締めされながら叫ぶ真里花と呼ばれる眼鏡の少女の髪の匂いを嗅ぎながら下品な笑い声をあげる男達。


「くそっ! はなせっ! この変た───いやっ、いやだああああ!!」

「おい、服を破いたらギルドにばれるだろがっ!」

「おわっちまえば殺せばいいだろ。モンスターが食って証拠も残らねえさ」


 京子と呼ばれた少女は最初は暴れて抵抗していたが、男達に力負けして地面に組伏せられ、服を破かれ悲鳴をあげる。


「どうして………どうしてこんな酷いことするんですかっ! 私達が何をしたって言うんですか!!」

「助けて………誰か………神様っ!!」

「ギャハハハっ! こんな世界に神様なんているわけねーだろ」


 真里花と京子は男達に群がられ泣き叫び悲鳴をあげる。

 男達は下品な笑い声をあげてズボンを脱ぎ捨てようとするが、そこに割ってはいるように一発の銃声が響く。


「神の僕ならここにいるぞ」


 煙草を咥えながら空に向かって威嚇射撃をするルイ。


「なんだてめえ? 使わせてほしいならおれたちのあとだぞ、これは俺達が最初に目を付けた獲物………なんです」


 リーダー格と思われる男がルイの姿を見て、最初は正義の味方気取りの神父かと思い脅そうとするが、遅れてやって来たミノタウロスのアステリオスを見て語尾がか細く丁重語になる。


「おっ、おかしな真似してみろっ! この女の顔をズタズタにするぞっ!!」

「ひっ!?」


 少女達を押し倒してた男の一人がアステリオスの姿を見て、ナイフを抜いて真里花の顔に近づける。

 顔に近づいてきたナイフを見て真里花は小さく悲鳴を上げて身を硬直させる。


「どうせならもっと気持ちよくしてやろうか? 快楽エクスタシー

「は? 何をい───んほおおぉおおっ!!!」

「うわぁ………おっさんのオホ声アへ顔ダブルピースとか誰得どこ向けだよ………ビールが不味くなったぞ」

「アハハハハッ! ウケルー! お腹痛い!!」


 ルイが十字架を握って唱えた魔法は、強烈な快楽で対象を無力化する物。

 むさい男達が魔法の快楽に悶えて動けなくなる様を見たアステリオスがオエっと吐き気を覚え、飲みかけのビールを投げ捨てる。

 ア逆にーニャは男達の悶える姿がツボに入ったのかお腹を抱えて笑い転げていた。


「さっさと離れるぞ」

「あっ………」


 ルイはカソックコートを脱ぐと服を破られた京子に掛け手招きする。


「ルイ、こいつらはどうするんだ? 殺すか?」

「あっ………あひっ!?」


 アステリオスがホルスターから拳銃を抜いて快楽に悶える男の額に押し付ける。

 男達はまだルイの魔法から逃れられないのか悶えながら間抜けな悲鳴をあげる。


「弾代の無駄だ、行くぞ」

「へいへい、命拾いしたな」

「ばいばーい」


 ルイは少女達を襲った男達に興味がないのか振り替えることなくアステリオスに殺すなと伝える。

 アステリオスは肩をすくめてホルスターに銃を収納すると、リーダー格の男に顔を近づけて睨みを効かせてる。


「ああ、そうだ。復讐したいならいつてもこい。俺はDランクエクスプローラーのルイだ。いつでも相手になってやる」

「とっ………とんでもねぇっ!? みみ……ミスティックになんか喧嘩売るなんて………命がいくつあっても足りねぇ………」


 少女達を連れて立ち去ろうとしていたルイだが、何か思い出したように立ち止まると、煙草を投げ捨てながら男達に向かって名乗りあげる。

 少女達を襲っていた男達は意気消沈しており、快楽の魔法で腰砕けになってるのか起き上がれないまま首を横に振っていた。


「あの………助けていただいてありがとうございます。その───お礼できるのがこれぐらいで」


 真里花と呼ばれる眼鏡の少女がおずおずと自分の情報端末を差し出す。


「いらん、代わりに少し手伝え。お前もな」

「あ………うん」


 ルイは差し出された情報端末を真里花に押し返すと仕事を手伝うように伝え、無言でカソックコートを羽織る京子にも声をかける。


「仕事を手伝ってもらう前に一つ言わせてもらう」

「はい」

「なに?」

「エクスプローラー嘗めるな。死にたいなら他所で死んでくれ。下手にモンスターが人の味覚えると厄介なんだよ」


 二人の少女達を襲っていた男達からある程度離れると、二人に向かって静かに怒る。


「ごめんなさい」

「その為に私空手学んだよ! テレビで紹介されてたエクスプローラーも素手でモンスター倒してたし!」


 真里花は素直に謝るが、京子はそう言って空手の型を取ろうとしてカソックコートが脱げそうになって慌てて羽織りなす。


「………それは格闘系スキルに目覚めたミスティックだから出来た芸当だ。それに男達に捕まってろくに抵抗出来なかっただろ」


 京子の言い訳を聞いてルイは怒鳴りそうになるが、大きく深呼吸して新しい煙草に火をつけて落ち着こうとする。

 アステリオスとアーニャは口を挟む様子はなく、マッピングや周囲警戒を行っていた。


「うぐっ!? あ、あれは………油断して………それに真里花を人質に取られたし」

「お前な、たまたま体目的のスケベ野郎だったからよかったが、あれがモンスターだってらどうするつもりだ? ごめん油断してたって死体に謝るつもりか?」

「あ、あの………それぐらいで………本当は私一人でエクスプローラーになるつもりだったのに、心配で付いてきてくれただけで………」


 ルイの指摘に京子は顔を反らして唇を尖らせて、指同士ツンツンしながら言い訳をする。

 真里花はおどおどしながらもルイの袖を引っ張って京子を庇おうとする。


「君も君だ。どんな事情があるのかは聞かないが………エクスプローラーになるくらいならまだ体を売る方が命の危険は少ないぞ」

「………私は体を売るぐらいなら、この命を賭けてお金を稼ぐ方がマシなんです。それに、初めての相手はちゃんと好きになって捧げたいと思う人がいいですから」


 ルイは年若い女子学生二人がエクスプローラーなんて命がけの仕事をする理由を聞こうとはしない。

 エクスプローラーに過去を聞くのはご法度だし、ミヤコオチと思われる彼女に落ちた理由を聞くなんて悪趣味だとルイは思っている。


「覚悟を決めるのはいいが、準備不足すぎる。俺達がこなけりゃ貞操散らされた上に口封じにモンスターの餌にされていたんだぞ、友達巻き込んでな」

「………ごめんなさい、京子」

「ううん、守るなんて言っておいてなにも出来なかった私の方こそごめんなさい」


 ルイの指摘を聞いて真里花は京子に謝り、京子も真里花に謝る。


「反省したか? ならマッピングの手伝い開始だ」

「はい、よろしくお願いいたします。一生懸命頑張ります」

「あの、その前におにーさん達の名前教えてくれませんか?」


 二人が謝るのを見届けたルイがマッピングを再開しようとすると、京子が名前を聞いてくる。


「そういえば名乗ってなかったな、ルイだ」

「俺はアステリオス、宜しくな」

「アーニャだよ、よろしくね!」


 京子から言われてルイははたと気づいて煙草の灰を落としながら名乗る。

 アステリオスはルイの肩に腕を回して肩組んでニカッと歯を見せて笑う。

 アーニャは両手を上げて元気イッパイに真里花と京子に挨拶にする。


「改めて助けてくれてありがとうございます! 私は尾道真里花と申します」

「私は竜童院京子! よろしくね」


 二人の少女達も改めて挨拶して、ルイ達はチームを組んでフィールドダンジョンのクリアリングを再開した。

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