第5話 ミヤコオチ


「おいルイ、見てみろよ。ミヤコオチがいるぞ」

「おいおい、趣味悪いぞ。アステリオス」


 エクスプローラーギルドにやってきたルイ達。

 アステリオスはエクスプローラーギルド内にたむろするエクスプローラー達を見て、ルイの肩を叩いて、顎であそこを見ろとジェスチャーをする。

 ルイはあきれ顔しながらも、アステリオスか指す方向に視線を向け、みるんじゃなかったと後悔する。


 そこには十五歳残後の企業傘下学校指定制服を着た二人組の少女がいた。


 一人は黒髪ロングに眼鏡の図書室に籠っていそうな大人しい雰囲気の女性。

 もう一人は黒髪のショートカットに日焼けした肌、何か運動か格闘をやってそうな軸をルイは感じた。


 ちなみにアステリオスが言うミヤコオチとは、上級市民セレブが何らかの理由で落ちぶれて、スラムやストリートにやってきた侮蔑のスラングである。


「やっぱり考え直さない? これは私の家族の問題で、京子ちゃんは付き合う必要はないと思うのよ」

「水くさいな、真里花や真里花のご両親は私が困ってる時手を差し伸べてくれた。今度は私の番だ。それにチューターソフトで空手を学んだからモンスターだって倒せるさ!」


 二人の会話が聞こえてきて思わずルイはうわぁと呟いて盛大にため息をつく。


「すげえ自信だな。それによく見たらあいつら、防具も武器も持ってねえぞ」

「そうだねー、パネマジありありの化粧臭い自称二十歳のおねーさんですら滅多に利用できない男達のねちっこい獣の視線にも気づかないぐらいだもんねー」

「………エクスプローラーは自己防衛、自己責任だ」


 アステリオスとアーニャはニヤニヤしながらルイに聞こえるように話をして、ルイは二人を無視するように仕事を受けに受付へと向かう。


「彼女達と同じ仕事を受けたみたいだな」

「たまたまだ。運転中は集中したいから話しかけるな」

「えーっと、マトリクス検索ワード【ツンデレ】っと」


 ルイ達が今回受けたのは複数のエクスプローラーが参加する新しく見つかったEランクのフィールドタイプダンジョンのクリアリング。


 アステリオスは缶ビールを飲みながら有象無象と少女達を載せた輸送トラックを見てルイに話しかける。

 ルイはアステリオスとアーニャを無視するようにバギーを運転していた。


 件のダンジョンはニュートウキョウから約六十キロ離れた場所にある。

 ダンジョンゲートの入り口でエクスプローラー達が降ろされ点呼を受ける。


「全体的に石ころ野郎がおおいな」


 アステリオスは輸送トラックの荷台から降りてきたエクスプローラー達の装備をみて呟く。

 大抵のエクスプローラーがノンサイバーで、安物の銃器や防弾プレートが入っているのか不安になる薄い防弾チョッキなどみずぼらしい格好だった。

 それでも件の少女二人と比べるとまだましな武装だ。


「大半はFランクだねー。Dランクは私達だけみたーい」


 アーニャはARO強化現実を使ってエクスプローラー免許のチップを読んだようだ。

 エクスプローラーのルールとして現在のランクの一つ上か下ランクの仕事を受けられる。


「おー、気分悪そうにしてるな。そりゃそうだろうな、風呂もろくに入れねー酒臭い男の大群の中に押し込められて悪路をすすんできたからなあ」 


 アステリオスは件の学生服二人組を見つけたようだ。

 髪の長い眼鏡をかけた方は青い顔で泣きそうになっており、ショートカットの方は眼鏡の少女を庇いながらトラックを運転していたギルドスタッフに何かを訴えてる。


「あーあ、トラックの中で痴漢されたらしいな。都市内部ならまだしも、法の外であるウェストランドエリアで訴えてもなあ」


 アステリオスはサイバーイヤーの集音機能を起動してショートカットの少女の訴えに耳を傾ける。

 ショートカットの少女は自分や友人が触られたと訴えるがギルドスタッフは「登録時の自己責任自己防衛の項目を読んでないのか?」と言って聞く耳を持たない。


「温室育ちだな。都市に戻ったら警察企業に訴えてやるなんて言ってるぜ」

「五体満足で無事に帰れるって信じてるんだろうねー」

「サボってないでさっさと準備しろ」


 ルイは少女達の方を見ないようにしてダンジョンアタックの準備をする。


「お前らの仕事はマッピングだ! 詳細なデータであるほど報酬額は増える。勿論ダンジョン内でのピッカー行為も許されているが、主目的はマッピングだ!」


 トラックを運転していたギルドスタッフがエクスプローラー達に注意事項を促す。

 ピッカーとはエクスプローラー用語でモンスター退治やダンジョンクリアよりも、ダンジョン内で採取できる資源や宝箱の回収をメインにした活動の名称だ。


「虚偽のデータには罰金もあり得るからな! ここ最近ワタリの観測報告もある、気を付けろよ」


 ギルドスタッフは怒鳴って何度も繰り返し注意するが、大半のエクスプローラーはダンジョン内のお宝で皮算用しているのか右から左で、中にはさっさとアタックさせろとヤジを飛ばすエクスプローラーもいた。


「撤収時間までには帰ってくるようにな。我々は時間になれば仲間が揃ってなくても我々は一切考慮せず出発する」


 ギルドスタッフはヤジを飛ばすエクスプローラーを睨みながら最後に集合時間の話をすると輸送トラックに戻る。


「ワタリか………めんどくさいことにならなければいいな」

「ワタリって別のダンジョンからスタンピードなどであぶれたモンスターが別のダンジョンに住み着くやつだっけー?」

「運が悪けりゃFランクのダンジョンにAランクのモンスターが渡って住み着いたりするらしいな」 


 ルイ達はギルドスタッフからの注意事項を聞いて気を引き締めてダンジョンに突入する。


「クリアリングの依頼がくるぐらいだから広いと思っていたが、こりゃ予想以上だな」


 ダンジョンに突入して広がる世界にエクスプローラー達が目を白黒させる。


 瓦礫の廃墟と砂漠の荒野から、地平線の彼方まで広がる緑豊かな大草原が広がっていれば。


「土の状態も悪くないな。ダンジョンコアを見つけてコントロール下にすれば農場として企業にいい値段で売れそうだな」


 ルイは軽く地面の土を触って状態を確認する。

 このダンジョンの何処かに水源があるのか、それとも雨が降るのか、土はほんのりと湿っている。


 ルイが土を調べている間に、他のエクスプローラー達はバラけるように走り出す。

 その大半はクリアリングもへったくれもなく、他のエクスプローラーよりも先にお宝を見つけようとギラついた欲望の目をしていた。


「私達も頑張ろうね!」

「モンスターが出たら私の踵落としてやっつけてやるから!」


 件の少女達も手持ちの情報端末のカメラモードでクリアリングを始める。

 その少女達を遠くからストーキングするように複数のエクスプローラー達がついていく。


「ルーイー、私達はどっちに向かうの~? アッチー?」

「そうだな、そっちにするか。ドローンでの偵察頼むぞ」


 アーニャは少女達が去っていった方向を指差すと、ルイはアーニャが提案したからと言う部分を強調する。


「御意ー! ルイのツンデレー」

「ぶほっ!」

「さっさと出発するぞ」


 アーニャはニヤニヤしながら手を上げて返事して茶々を入れる。

 アーニャの茶々がアステリオスのツボに入ったのか、飲みかけのビールを吹きそうになる。

 ルイは弄られたくないのか、なにも言わず先に進もうとする。


「取りあえず草原が続くねー」

「フィールドタイプのダンジョンは無駄に広いからな」

「そういや、海があるフィールドダンジョンを買い取った企業がマリンスポーツをメインにしたリゾート地を作ったなんて話があったな」


 クリアリングを開始して約一時間、風景は代わり映えせず、モンスターの姿もない。

 ドローンで撮影するだけでマッピングデータが収集出来るので、ルイ達は手持ち無沙汰になり雑談を始める。



「キャー!!!」

「くそっ! 真里花を離せっ! この痴漢野郎!!」

「へへへ、どんなに騒いだって助けはこねーよ!」


 クリアリングを進めていると、遠くから女性の悲鳴と怒鳴り声、男達の下品な笑い声が聞こえてくる。


「ルーイー、薄い本みたいな展開が始まってるよー」

「はぁ………もっと真面目に仕事しろよな」

「で、どうする?」



 上空で偵察をしているドローンが少女達に襲いかかっているエクスプローラーの男どもの姿を捉えている。

 その映像を見てルイは盛大にため息を吐き、アステリオスは缶ビールを握り潰して投げ捨て、ホルスターから銃を抜く。

 アーニャも仕掛ける準備を終えているのか、展開しているドローンに搭載されている武器を展開する。


「助けには行かない………が、俺はあんな不真面目なエクスプローラーがムカつくからお灸を据える」

「ツンデレだな」

「ツンデレだねー」

「やかましいっ!!」


 ルイ達はそんな話をしながら少女達の元に走り出した。

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