第4話 ルイの休日
【おはようございますルイ様、起床時間です。本日の天気は晴れ、普通ごみの収集日です。回収時間まであと二時間です】
「ふあ………もう朝か………」
【本日の朝食は何にいたしましょう】
「何と言ってもなあ、どうせ大豆かオキアミの合成食品だし………和食で頼む」
ベッドから起き上がり、顔を洗って歯を磨きながら
洗面台の鏡には自分の姿と健康状態を表す数値が表示されており、若干の睡眠不足を訴えてくる。
【かしこまりました。ソイフードカードリッジの在庫が残り僅かです、注文しますか? ソイフードカードリッジメーカーより新商品のお知らせがあります】
「いつものソイフードカードリッジで頼む」
台所に設置されたフードメーカーからカードリッジの在庫数が少なくなっていることと、新商品のお知らせを伝えてくる。
「テレビをつけてくれ」
【かしこまりました】
『昨夜未明、フチハマ重工が所有する工場にて爆発事故がありました。フチハマ重工広報からは今回の爆発はコーポテロリストによる破壊活動であると発表されており、工場があったエリアの治安を請け負う警察企業に対さして速やかな犯人の逮捕と再発防止を求めるコメントをしております』
ルイがそういうと、部屋にあったテレビが自動で起動し、ニュースが流れる。
「やれやれ、物騒だね」
【お食事が出来ました】
テレビを見ているとドローンが朝食を配膳してくる。
ご飯に味噌汁に焼き魚、ほうれん草のおひたしに切り干し大根の和食メニューだ。
【お味はいかがですか?】
「魚はもう少し塩を効かせてほしいな」
【フィードバックします】
ルイが食事を終えると
「今日は教会で講師をやってくるから戸締まりをよろしく。連絡があればスマホに回してくれ」
【お気をつけていってらっしゃいませ】
いつものカソックコート姿に着替えてルイは部屋を出ると、通路の先を見てうんざりする。
共用部の通路が廃材やゴミの壁で塞がれており、壁の前にはいかにもギャングですと主張している服装の男達がたむろしていた。
「やれやれ、懲りないな………」
ルイが住んでいるのはあまり治安のよろしくないセクターにある低所得者向けの大型アパートで、この地域を縄張りにしているギャングの下っ端が小銭稼ぎに道を塞いで通行料をせしめていた。
ルイも何度か通行料を求められたが、これまで支払うことなく通っている。
「今日こそこれまでの分もあわせて払って貰うぜ!」
ギャング達がルイの姿を確認すると、ここであったが百年目と言いたげに金属バットやバール片手にわらわらと集まってくる。
「お前ら、薬で学習能力が無くなったのか?」
「っ!?」
ルイは煙草を咥えると指先に炎を宿し、煙草に火をつける。
ギャング達はルイの指先に火が灯ったのを見て一瞬戸惑うが、下品な笑みを浮かべる。
「へっ! お前のオカルトも今日までだ! こっちはなあ! 大金払って
ギャング達はそう言うと、懐からアンティークな数珠やお札を取り出しルイに向ける。
「………」
「へっ、ビビって声もでねぇようだな! これまで散々嘗めた真似してくれた分返してやるぜ」
ギャング達のオカルトグッズをみてルイはあきれて言葉もでないと言う顔を見せる。
ギャング達はそれをビビっていると思って近づいてくる。
「あー………お前ら詐欺られてるぞ。それっぽく見せた偽物でなんの効果もないぞ。
「は? うあっち!?」
ルイが十字架を握って呪文を唱えると、ギャング達が持っていたオカルトグッズが発火して炭に変わっていく。
「今日は用事があるから相手してる暇無いんだ、そこのガラクタ片付けてからさっさと出ていけ。燃やされたくないだろ?」
「しっ、失礼しましたーっ!!」
ルイが煙草の煙を吐きながら笑みを浮かべると、ギャング達は通路を封鎖していた瓦礫を撤去して一目散に逃げていく。
「変なところで時間食ったな、さっさと行かないと」
ルイは
ルイがやってきたのはセクター15にある教会だった。
「ルイさん、お待ちしていました」
「ルイさん、今日もよろしくお願いします」
「あー、ルイ先生だー!!」
教会の近くにバキーを停めると、出迎えるように教会から金髪の白人女性のシスターと穏和な笑みを浮かべる老神父、そしてさまざまな人種の子供達が教会から飛び出して出迎えてくれる。
「やあ皆、元気にしていたか?」
「うん!」
「元気だよー!」
「お菓子ちょうだい!」
「エクスプローラーの話聞かせてよ」
子供達はルイに群がり、自分の話を聞いてほしそうに手や服をひっぱったり、抱きついてきたりする。
「こら、ルイさんの迷惑でしょ!」
シスターが注意するが子供達は生返事するだけでルイに纏わりつくのを止めない。
「授業を始めますから、みなさんは先に教室に行ってください」
「はーい!」
ルイがそういうと、子供達は元気よく返事をして教会の部屋の一つを改装して作った教室に向かう。
教室へと向かった子供達は様々な理由で親から見捨てられた孤児達で、老神父が一人一人に声をかけて保護して、教会で共に暮らしている。
「いつもすみませんね」
「趣味でやってるだけですから。あ、寄付金送金しますね」
「ありがとうございます。こうやって教会を出たあとも律儀に寄付してくれるのは貴方ぐらいですよ」
ルイはかつてはこの教会で暮らしていた孤児の一人で、仕事を終えるといつも仕事の報酬から寄付金を捻出し、時折時間を見つけては子供達のために教師の真似事をしている。
ちなみに同じ時期に学び育った同期は皆死んだか、ここのことを忘れて過ごしている。
「さて、今日は歴史の勉強をしましょうか。皆さんは今から百年前、この世界にはモンスターもダンジョンもなかったことを知っていますか?」
「えー、嘘だ~」
「せんせー、それって都市伝説だよー」
ルイが昔の話をすると、子供達はあり得ないと騒ぐ。
「みなさんがそう思うのも仕方ありません。ですが、1999年7月、後にダンジョンデイと呼ばれる日まで世界にはダンジョンもモンスターも、魔法や今のような
子供達がある程度落ち着くのを待って、ルイは授業を続ける。
「ダンジョンデイと呼ばれた日、世界各地に一斉にダンジョンが生まれて世界が混乱しました。当時の技術ではダンジョンから溢れるモンスターを倒すことができず、人類は生存圏をどんどん失ってきました」
ルイは
「人類はこのままダンジョンとモンスターに滅ぼされるかに思われましたが、二つの出来事が人類に希望をもたらします。さて、それは何でしょう?」
ルイが問題を出すと、子供達は元気よくはいはい!と叫んで手を上げる。
「君に答えて貰おうか」
「やった! えっと、ミスティックと呼ばれる魔法やスキルに目覚めてモンスターと戦えたからです!」
「正解! 最近はオカルトなんて言われたりしていますが、力に目覚めた人達がモンスターと戦い、ダンジョンを破壊して人類圏を辛うじて護ってきました。正解者にはお菓子を二つ進呈。手を上げた皆にもお菓子を一つあげるよ」
「わーい!」
「やったー!」
ルイは子供達が授業にやる気を出させるように積極的に授業に参加したり、問題に挑戦した子に安価なお菓子を配る。
子供達はお菓子を目当てに勉学を頑張り、今のところうまく行っている。
「それじゃあ、もうひとつの理由を君に答えて貰おうか」
「はーい! えっと外国にある凄い大学の偉い先生がモンスターから武器を作ったから!」
「正解! アメリカ合衆国のアーカム州にあるミスカトニック大学に在籍していたと言われるアーミテイジ・カーター教授がダンジョンから手に入るリソースを利用してミスティックでなくてもモンスターと戦える武器や魔石からエネルギー資源を抽出する技術を確立して今のような世界を作ったと言われています。今ではダンジョン学の父とも言われています」
「へー、そうなんだ」
ルイの授業は終始賑やかに進んでいき、あっという間に終業時間になる。
「さて、本日の授業はここまで。次はいつになるかわからないけど、ちゃんとシスターの言うことを聞くんですよ」
「はーい! 先生ありがとうございました!!」
授業を終えると、子供達は手に入れたお菓子をもって遊びに出かける。
「お疲れ様です」
遠くから授業を見守っていたシスターがドリンクをもってやってくる。
「ありがとうございます。問題はないですか?」
「ええ、この地域を縄張りにしているギャング達はみかじめ料さえ払えば大人しいですし、とてもお人好しで奇特な方が孤児を狙った臓器密売組織を壊滅させましたから安全で安心ですよ」
ドリンクで喉を潤すルイを見るシスターの目には尊敬と感謝の念が籠っている。
「こんな世紀末に珍しい」
「そういうことにしておきます」
そんな世間話をしながらルイは休日を過ごしていく。
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