第2話 メガシティ・ネオトウキョウ


「ようやくメガシティ・ネオトウキョウが見えてきたな」


 アステリオスがまた缶ビールを飲みながら、遠くに見える巨大な壁に覆われた超巨大都市を見て喋る。


【Dランクエクスプローラーチーム、ルイ、アステリオス、リコリスのIDを確認。洗浄ルームゲート開放します】


 ルイ達を乗せたバギーが砂漠と都市の境界線を分ける壁に近づくと、壁から赤外線が照査されて電子音声が聞こえてくる。


 ルイ達のID確認が終了すると壁の一部がゲートのように開き、バギーがゲートの中に入っていき、ある程度の位置まで移動すると砂漠側のゲートが閉じる。


【これよりダンジョン汚染の洗浄を行います。搭乗者の方は指定のシャワールームへ移動してください】


 ルイ達一同の視界にARO強化マトリクスの矢印が表示されてシャワールームへと案内される。


「チッ、メタヒューマンをみちまったぜ、ついてねぇ」

「おい、メタヒューマン差別はよくないぞ」

「へっ、どうせならそのままダンジョン汚染が全身に広がってモンスターにでもなればよかったのにな! そしたら撃ち殺せたのによ」

「いい加減にしろっ!」


 ルイ達が案内に従ってシャワールームへ向かう途中、汚染洗浄エリアを巡回する武装した企業警備員とすれ違う。

 警備員の一人がアステリオスやリコリスを見て、まるで汚物でもみたような不快な表情を浮かべて呟くと、唾を吐き捨てる。


 別の警備員が口頭で注意するが、悪態をついた警備員はアステリオスとリコリスの背中に向けて中指を立てて悪態を続ける。


事故アクシデント

「グワッ!?」

「だからやめろと俺は言ったんだんだよ」


 ルイが銀の十字架を握りながらぼそりと呟くと、アステリオスとザイオンに差別的な罵声を浴びせていた警備員が自動ドアの誤作動に巻き込まれてドアに挟まれて悲鳴を上げ、何とか自動ドアから抜け出したかとおもうと、老朽化でもしてたのか頭上の通気孔パネルが外れて頭に落ちてくる。


 注意をしていた警備員はそうなるのを予測していたのか呆れた顔で頭を押さえていたがる警備員をみていた。


「悪いな」

「なんのことだ?」

「へへ、独り言だよ」


 酷い目にあってる警備員を横目で見ながらアステリオスはにやけた顔でルイに礼を言う。


【洗浄を行いますので衣類はこちらに】


 ARO強化マトリクスの案内に従ってルイ達はそれぞれの個室に別れて入り、衣類を全て脱ぐとシャワーを浴びる。

 シャワーが終われば自動的に乾燥モードに入り、その間に脱いだ衣類もクリーニングが終わる。


「ふいー、さっぱりしたぜ!」


 洗浄と着替えを終えてゲートを抜ければ、そこは先程までの砂漠ではなく、無数に乱立する天まで届きそうな複合巨大ビル郡に覆われた近未来都市の中だった。


「さっさとエクスプローラーギルドに向かうぞ」


 洗浄を終えたバギーに乗り込み、ルイ達は舗装整備された道路を走っていく。


 都市のあちらこちらにはARO強化マトリクスでCMが流れていたり、空を飛ぶドローンが何処かの大企業メガコーポのCMソングをリピートしながら飛んでいく。


「毎度のことながら、この消毒液の匂いはなれねぇなあ」


 スンスンと車内の匂いを嗅いでしかめ面になるアステリオス。


「仕方ないよー、都市の外ウェストランドは無数のダンジョンとモンスター、ダンジョンから漏れだすダンジョン汚染で満たされてるからねー」


 また助手席から顔を覗かせるリコリスがケラケラ笑いながら話に混じる。


「メガシティから一歩も外に出たことのない市民シティズンに汚染が広がらないように防疫も兼ねてるからな」


 ルイは煙草を咥えると、指先に炎を灯して煙草に火をつける。


「とはいえ、メガシティを維持するにはダンジョンからしか手に入らない魔石やダンジョンコアが必要だ。俺達みたいなエクスプローラーが外に出て取りに行かないとあっという間にインフラが止まって大変なことになる」


 ルイはバギーを運転しながら紫煙を吐き出す。


「たく、差別して文句言うなら自分で取りに行けよな」

「まあまあ、大企業私設軍隊メガコーポ・アーミーが真面目に働いたら私達の仕事なくなっちゃうよー」


 一同はそんな話をしながら一つの多重構造ビルに入っていく。


【エクスプローラーギルドにようこそ。ここからは企業が制定した企業法が優先されます】


 バギーをビル内の駐車場に停めると、一同の視界にARO強化マトリクスで注意書が表示される。


「言われなくてもわかってるちゅーの! 何回来てると思ってるんだ」


 アステリオスは目の前に表示されたARO強化マトリクスの警告文字を払い除けるように手で払う。


「世の中には何度説明してもわからない馬鹿がいるんだよねー」

「おかげでこっちまで迷惑だ」


 ルイとリコリスはダンジョンから得た戦利品を持ってエクスプローラーギルドのホールに向かう。


 エクスプローラーギルドのホールには沢山の人でごった返している。


 軍用のアサルトライフルやボディアーマーで身を包んだ人もいれば、まるで中世ヨーロッパからタイムスリップしてきたように金属鎧に剣と盾を持った集団。


 ビジネススーツに身を包んだ俸給奴隷サラリーマンに手足をクロームに変えたサイボーグ。


 アステリオスやリコリスのようなメタヒューマンと呼ばれる様々な人種、同じ人間でも肌の色や国籍などが違う人種の坩堝とも言える場所だった。


【エクスプローラーギルドへようこそ。本日のご用件は?】


 ルイ達が受付の一つに近づくと、ARO強化マトリクスで表示されるバーチャルAIの受付嬢が笑顔を浮かべて用件を聞いてくる。


「クエスト完了報告だ」

【市民ID確認………報告書を確認………ダンジョンクローズ映像を確認】


 ルイはバーチャル受付嬢に用件を述べて受付にあるセンサーに手を置く。

 センサーから指紋や掌紋をスキャニングする光が放たれ、後ろにいたリコリスが情報端末を弄ってダンジョンデータを飛ばしたのか次々と処理されていく。


【戦利品を納品してください。申告漏れが発覚した場合、企業法による罰金とペナルティーが発生します】

「へいへい」


 アステリオスが回収した魔石やダンジョンコアを受付のシューターにいれていく。


【本日の報酬は六千ネオエンになります。ギルドが定めた防疫法により、皆様は本日より二日間、ウェストランドへの遠征が禁じられます】

「一人二千か………」

「二日間も外に出れないとなるとちと暇だな………副業でもするか?」

「じゃあ、スピットファイヤでアルバイトでも探す?」


 この世界の通貨は電子通貨がデフォルトとなっており、ルイ達に支払われる報酬も電子通貨であるネオエンで支払われる。


 口座に報酬が振り込まれたのを確認すると、三人はエクスプローラーギルドに併設されている酒場【スピットファイア】へと向かう。


「たまには天然物のビールが飲みたいな」

「アステリオス、天然物とか贅沢すぎるよー」


 クエストの報告を終えたルイ達はスピットファイアという酒場で仕事の打ち上げを行う。


 アステリオスが合成酒を飲みながら愚痴ると、リコリスが呆れたように呟く。


「大企業の重役メガコーポ・エグゼクとかなら天然物の酒に混じり物なしのオーガニックマグロスシとか毎日好きなだけ食えるんだろうなぁ」

「流石に毎日はないだろ?」


 アステリオスの妄想にルイは苦笑しながら突っ込む。


「それよりもアルバイトだよ、今日更新されたばかりの一夜限りの仕事ワンナイトビスが幾つかあるよー」


 リコリスはテーブルに置かれてるオーダー用のタブレットを操作する。

 すると、料理や酒のメニュー画面が別の画面に切り替わる。


「相変わらずここの店は無駄なことに拘ってるなあ」

「クラシック・ムービーで見たシチュエーションに憧れてこんな店作ったぐらいだって話だからな」


 スピットファイアという酒場ではエクスプローラー向けの合法非合法問わない副業仲介業務をやっている。

 タブレットのメニュー画面には今から受けられる一夜限りの仕事ワンナイトビスと呼ばれる超短期の様々な仕事の一覧が表示されていた。


「取りあえずウエストランドには出れねぇから、外に出る仕事は除外だな」

「うわー、ネオトウキョウ内ですませられるのほとんど無いよ」

「大抵の仕事はウエストランドを徘徊するモンスター討伐や捕獲だからな」


 リコリスが検索条件を打ち込んで仕事を探す。


「あ、今入ってきたやつだけど、これなんかどう? ネオトウキョウ都市内で指定された場所まで荷物運び、車持ちなら報酬上乗せだって」


 リコリスはそう言って、タブレットをルイ達に回し読みさせる。


「お、ここ俺が武器買うのに利用してる寺じゃねーか」

「お寺で?」

「宗教法人を隠れ蓑に武器の密売やってる。購入履歴残したくなかったり、公的な店では販売されてない品とか取り扱ってるぜ」


 回し読みしたタブレットを見てアステリオスが利用している店だと言うと、リコリスが驚いた顔で聞き返す。


「荷物は三つ、指定された場所までか………取りあえず荷物のサイズ聞けるか?」

「えっとねー………だいたい成人男性サイズと重さの肉袋三つだった、鮮度を保ちたいからなる早でお願いって返事来たよー」

「それでその報酬か、なら受けるか」

「御意ー! 今から寺まで来てほしいだってさー」

「なら行くか」


 ルイ達は支払いを済ませると依頼人がいるお寺へと向かった。

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