第10話・それとこれとは別
「メリル、どうしたの? 怖い顔をしているね」
のほほんと声をかけてきたギルに、キッと振り返る。
「ギル! あなた、闇の魔力なら感知できるわよね!」
「もちろん。なぁに? 魔物の気配を辿って王都の警備隊に協力してこいって話?」
「ううん、あなたにしてほしいことは元を断つことよ。理由もなく魔物がいきなり現れるなんてことはないわ、必ずそこには悪魔がいるはず――」
ギルは「悪魔」と呟いて口元に手をやる。
本来魔物はこの世にはあらざるもの、魔物が現れたのならば、そこには悪魔の影響があるということになる。
魔道博士であるギルはすぐに理屈を承知したようで、真顔で頷いた。
「……なるほど、確かに、それはそうだ。つまり、悪魔の魔力を感知して居場所を特定しろ、と」
「うん、それがいいと思うの」
「わかった、魔物がいるなんて危ないものね」
ギルはあまり緊迫感のない様子で話す。実際、あまり脅威とは感じていないのかもしれない。ギルはあまりにも強いから。
(できれば、私が言う前に自分から『みんなが危ない、助けないと』と動いてほしかったけど……)
一応、私に言われたら『そうだよね、危ないよね』と思ってくれるだけの感性があって、ホッとする。
ケロッと「俺とメリルが無事ならそれでいいんだけど」とか言いそうだと、実はちょっと思ってしまっていた。
「じゃあ、行ってくるよ。悪魔を退治するか、封印し直せばいいんだね」
「ま、まって。位置を特定できたら、警備隊に話して万全の支度を整えてから……」
「俺一人で十分だと思うよ。悪魔退治は闇魔術の領域だ」
それはそう、なんだけど。そして、ギルは強いんだけど。
「悪魔は人を誘惑するというでしょ? 一人で会いに行ったらダメよ」
「ああ、そうとも言われているね。大丈夫、悪魔の話なんか聞かないよ」
「あっさり言うけれどね……なにをしてくるか、なにを話してくるか、わからないじゃない」
私がこんなにギルを心配するのは、ギルが――ゲームだと、悪魔と契約してしまっているからだ。
杞憂だとは思う。だけど、悪魔は人間よりも圧倒的に強い力と知恵を持った脅威的な存在だ。いくらギルがラスボスキャラでチートな力を持っていたとはいえ、実際ゲームでは悪魔に魅入られてしまっていた。
今のギルに闇堕ち要素はないと――思う、が、何が起こるかはわからない。警戒すべきだ。
「そうだ、いますぐ行くのなら私も一緒に……」
「それこそダメだよ、危ない」
珍しく険しい表情を作って、ギルは私を制止する。
「まさか、俺が悪魔に惑わされるかと心配しているの?」
「……うん」
「きみがいるのに、悪魔なんかに誘惑されないよ」
ギルはニコリと笑って言い切る。
「ねえ、メリル。俺がカッコいいところ見せたら、きみって俺のこと好きになるかな」
「なに言ってるの」
「すぐに戻ってくるよ」
そう言ってギルは引き留めようとする私を置いて研究所を出ていき、私が「どうしよう」と呆然としているそのうちに帰ってきた。
「え」
「悪魔いたよ、倒しておいた。ほら、コレ、悪魔の
穏やかに笑いながらギルは手のひらの上の紫色の丸い球を見せてくれた。
悪魔はこの核を壊さないかぎり、半永久的に復活してしまう。ビクンビクンと心臓が鼓動するように、浮き出た血管が動いているのが見えた。
「大丈夫、復活しかけたらすぐつぶすから」
「う、うん」
「一応悪魔がいた証明としてまだとっておいているんだ。国に報告が済んだらすぐに破壊する。これで悪魔と魔物問題は解決だね」
「……そう、ね」
あまりのあっけなさに、放心する。
ゲームだと、あんなにたくさん人が死んでたのに。主人公たちだって苦労と困難だらけだったのに。
こうもあっさりと、悪魔を瞬殺して解決してしまうなんて。
(……やっぱり、あのゲームの難易度を上げていたのは悪魔じゃなくて、この
真剣に心配していた私って、なに? とつい肩の力がガクッと抜けてしまう。
(でも、これでゲーム本編であった王都崩壊の危機も回避……と)
ギルが闇堕ちしていないだけで――こんなにもあっさり事が済むとは。そして、このギルフォードという男はどれだけの力を有しているというのか。
つくづく、末恐ろしいラスボス男である。
「メリル。俺、活躍したよ、きみのために頑張ったし、人の助けになることをしたよ」
そんな恐ろしさなどみじんもなさそうな無邪気な笑顔でギルは私に微笑んでくる。
「すごいと思うわ。でもそれで好きになるかは別の話よ」
「なかなか難しい子だね、きみは」
ギルはやれやれと肩をすくめる。
「俺はきみのためならなんだってするよ、だからしてほしいことがあるならなんでも言って。なんでも叶えてみせる」
ギルが言うと、洒落にならないんだよなあと苦笑いしか出てこなかった。
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