第4話・ラスボス、末恐ろしや

 今の私、メリル・フォートサイトは十六歳の乙女である。……育ての親といえど、血のつながらない父親に、こんなふうに抱きしめられているのはよろしくない。


 というわけで、ギルフォードにはちょっと離れてもらって、仕切り直して、ギルフォードに事の経緯を説明してもらうことにした。


「そんなに説明することもないんだけどね。かつて義姉だったきみの死を惜しんだ俺が、もう一度きみに会いたくて、転生させて、今ってだけで」

「い、いやいやいやいや……」


 だけじゃないだろう、だけ、じゃ。


 ギルフォードとしては以上の説明で『終わり』のつもりだったらしいが、私は「いやもっとあるでしょう経緯とか方法とかなんか」と追い縋って、なんとか説明を続けてもらう。


「転生ってそんなあっさりできることじゃないでしょう? どうやって? 私、あの時、死んだわよね?」

「うん、メリルはあの時……間違いなく死んだよ、悲しかった」

「……ごめんなさい、思い出させて」


 思った以上にしょんぼりとするギルフォードに罪悪感を覚えて謝る。


「闇の魔術を使うと人の魂に触れることができるだろう? だから、俺はあの時……きみが死んでしまったと気づいたその瞬間、きみの魂を捕らえて、たまたまその時にもっていたおやつの金平糖のガラス瓶に入れて封印を施した」

「……そのときあなた、いくつだったっけ」

「五歳だね」

「どんな天才よ」


 そういえば、ゲームのメリルは義弟ギルフォードの天才ぶりに嫉妬してたんだっけ。嫉妬してもどうしようもないくらいの天才を超えた何かだと思うけど。


 ちなみに私は! 優秀なギルフォードのことは! ずうっとひたすら賞賛しきっていましたが!


 闇の魔力を持って生まれる人間は少ない。


 だからこそ、闇の魔力の一族であるフォートサイト家の人間は一族存続のために遠い親戚筋からギルフォードを探し出し、後継者となるべく引き取った。


 長女である私が率先してギルフォードを称えるので、我が家は両親も、使用人たちもみんなそれに倣ってギルフォードをちやほやとしていて、まさに円満一家であった。

 おそらくそれは、私が前世死んだあとも……変わらなかっただろう。現にギルフォードはこうしてすくすく元気に成長し、なんだか私を転生させるくらいのびのびと育ったようだから。


「それから、ずうっと魂を転生させる方法を調べて……この大陸の中心に、聖嶺山と呼ばれる山があるだろう? あそこの奥地に潜って」


(ゲームだと隠しダンジョンのアレね。……隠しダンジョン?)


 ゲームクリア後のデータでコンティニューすると入れるようになる隠しダンジョン。ワンフロア―ごとにボスが設定されていて、全てのボスを倒して最深部に行くと戦える『神の使い手』を名乗るヴァルキュリアを倒すと、願い事を一つ叶えてくれるのだ。


 ゲームだと「最強武器が欲しい」とか「レベルアップの上限を上げてほしい」とか「ボツBGMが聞きたい」とかそういうお願い事ができたんだけど……。


(……まあ、ゲームじゃないからね……)


 ゲームだと、選択肢にないお願い事はできないんだけど、ここは現実世界である。自由に願い事ができる、というわけだ。


「きみの魂を転生させてほしいと願ったんだけど、それはできないって言われたから、代わりに人の魂の転生方法だけ聞いて、あとは自力で転生させて」

「う、うん」


 一体どんな苦労と困難が、と息を呑む。


「そして今だよ」


 ――もっと詳細の情報がくるかと思いきや、ギルフォードの話はこれで終わってしまった。


「聞くとあっさりだけどとんでもないことしてるわよね?」

「そんなことはないよ。きみにもう一度会うためと思えば、なんの苦労もなかったよ」

「……そ、そう……」


 ニコニコとギルフォードは、大人になったのに、子どもみたいな無邪気な顔で笑う。

 頭の中で五歳のときのギルフォードとイメージが被る。


「……ねえ、それって、あなたが何歳の時に達成したの?」

「俺が十三歳のときかな。本当はもっと早く、きみをどうにかしたかったんだけど」

「そこはかとなく不穏な言い方ね」


 なるほど、私を転生させる術を得るために……ギルフォード、あなたは……。


(推奨レベル200以上、最強武器を限界までエンチャント済み、回復アイテムカンスト持ち、運ゲーリセット前提クソ仕様難易度隠しダンジョンを単身でクリアして、魂の転生方法を理解して、一人で自力で転生実行したのね……)


 ……そんなことできる? 普通。


 転生ものって大体、神様の不思議な力で、とかじゃない?

 人力で? 十三歳の少年が? 転生術を習得???


 いや、普通にヴァルキュリアがお願い事聞いてくれて神様パワーで転生させてくれたとかのほうがよっぽど納得できるんだけど?

 十三歳の少年が単独でやることか? それは。


 いろんな意味でゾッとする。


 ……世界を滅ぼせる力を持った人間が別のことにやる気を出すと、人を意のままに転生できるようになるらしい。

 世界滅ぼす方がシンプルで簡単な気さえしてくる。


(突き詰めて考えていくと、そもそも前々世の私はどうしてゲーム世界に転生しちゃったのよ、っていう問題にもぶちあたっちゃうわけだけど……さすがにこれはギルフォードは干渉してない……わ……よね……?)


 なんだか不安になってくる。いや、確かに、記憶はないけど、前世の私にはちゃんと自我はあった。ギルフォードもまさか私が転生者なんて目では見ていなかったと思う。それはさすがに関係ない、きっと神様のいたずらだったはず。


 ……だよね……?


 怖くなって、私は少し話題を変えることにした。



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