《ROUND1‐7》梅干しと奇襲と武遊出陣

 ――玲王とマスター・金剛が感じ取った不吉な気配は、直ぐに『ヘラクレス』本部の周囲にも伝わった。


 彼等と対立する悪の流派『奈落道流』の拳士が、東京・渋谷にて接近したとのアナウンスが掛かると同時に、待機していた龍青と舞も、その深刻さをようやく悟った。


「……遂に、わたしの技を奈落道にぶつける時が来たのか」

「その割には拳が震えてるじゃない。怖いの?」

「怖いものか! これは武者震いというものだ!」


「「マスター、私たちに出陣させてください!!」」


 二人の中で、強がりながらも張り巡らせる焦燥や不安。それを抑え込んで、手元の腕輪『拳華印輪けんかいんりん』を装着してマスター・金剛に出陣を志願する。


「うむ、主らなら心配無かろう。それと……どうだ小僧。御主も龍青と舞と一緒に、『拳華成闘』に挑んでみるか?」


 マスター・金剛からの突然のスカウト。それに驚愕する二人を他所に、マスターはアタッシュケースから万能携帯端末『プレイギア』と、拳華印輪を取り出す。それを前者はケースと一緒に腰に、腕輪を玲王の両腕に装着させた。


「お〜! おっちゃんが着けてた腕輪だ!」

 気になっていたゲームの参加を得て、張り切る玲王。しかしそれに対していきなりの事もあってか、猛抗議する舞と龍青。


「ま、待ってください! この子は格闘ゲームのカの字も知らないド素人ですよ!?」

「しかも素性も知らない、武術も知らないで……拳華成闘に挑むなんて、死にに行くような―――」


 そんな彼らを遮り、マスターは尚も玲王に諭していく。


「拳士としての第一歩。それ即ち、【心の強さ】なり! その心無くして、強さも正義も語れぬ。……御主なら、分かってくれるかな?」


「…………こころのつよさ? 良く分かんねぇよ〜。でも、戦って欲しいんなら、オイラやってやる! 見てろよ、ならくどーなんざコテンパンに――――」


 ――――ドカッッ


「でゅッッッ!!?」


 あら〜?! 玲王は飛び出した拍子に余所見したせいで、自動ドアの壁を!!


「ちょ?!! あなた大丈夫!?」

「自動車みたいな奴だ、鋼鉄のドアを突進でぶち破るとは!!」


 しかもこんな大惨事なのに、玲王の身体に傷一つ付いていない奇跡。鋼鉄かダイヤモンドか、驚異のボディに舞と龍青も啞然。あららら、マスター・金剛もこれには御冠に……


「裸で都会に行くわけにはいかん。取り敢えず服を着てから向かうのだ」


「いや、他に言う事ありますよね!!!?」


 豪樹さんのツッコミが飛び交う中、マスターから渡された拳華成闘用の赤いインナースーツを手に、玲王は無我夢中で貫通したドアを突き抜けていく。


「よっしゃ~!!」


「もうっ、待ちなさーい!!」

「先が思いやられる……」


 猪突猛進な玲王が心配でならないと、舞と龍青も彼の後を追う。


「やれやれ。こうパワーが有り余ってちゃ、奈落道にシバかれる心配は無さそうやけど。どないしょか、自動ドアの修理費……」

 玲王の馬鹿力を目の前にしては、身の危険を案ずる気も失せるのか。ドアの事に気に掛ける豪樹。対するマスターは、


「ふふふ、早速あのの効力が出とる。吸収力も半端ではないな、あの野生児!」

「な、何を言うてはるんすか。マスター?」


闘獣魂ビーストハーツのゲーム闘士の初陣だ。――――ここは一つド派手にいかんとな!!」


 〚SETTING...〛


 ――さて、舞台は外へと移ります。場所は東京都新宿区歌舞伎町。

 夜になれば綺羅びやかなネオンと共に、数々の飲食店やら居酒屋やらが人々を誘う娯楽と誘惑との隣り合わせ。光と闇の間にある魅惑の街。スリリングに人を引き寄せるのは夜間の筈なのに、


「「「きゃああああああああ!!!」」」


 奈落道の連中が襲ってきたものだから、昼間の方が滅茶苦茶危険な状態だ!


 人の道を外れたならず者、浮浪者が街並みに群がり、人々を殴る蹴るの大暴行。更には飲食店を乱入しては、無銭飲食と貪り食うさもしい奴ら。


 更に特筆すべきは、奈落道の連中全員の腕に『拳華印輪』が着いている事。

 これにより一般人は奴らに手は出せない上、通常よりも戦闘力も上がって凶暴さは絶大。更に故意に人々を傷付けては嘲笑う。下衆の極みとは奴らのことか!


 そして奴らを牛耳る親玉も、人々の悲鳴を糧にするかの如く、恍惚に浸っていた!!


「キヒャヒャヒャ……! 苦しめぇ、もっともがき苦しめぇぇ!! お前等下等生物の悲鳴が、我ら奈落道の力の源、飯よりも美味なエキスになるのだ!!」


 出て参りました、残虐非道反吐出る外道!

 カマキリのような鎌の手を駆使し、螳螂拳とうろうけんを駆使する奈落道ファイター・カマキリ拳使いのマンテラー!!


 歌舞伎町に響き渡る悲鳴と断末魔が、マンテラーの耳から心臓へと伝わり、ドーピングにも似た活性化現象を起こして心拍数の増加、パンプアップへと繋がっていきます。


 このような不協和音から伝わる敵の強化が、この悲劇を更に戦慄へと誘っていく。


「カマキリ拳・斬斬舞きりきりまい!!」


 あーっと!? いきなりマンテラーが腕を振り回したかと思えば、脚のバネを使って身体を錐揉み状態にし、林ビルへと突っ込んで縦真一文字に切断した!

『I LOVE歌舞伎町』の看板諸共真っ二つだ!!


 っと、ここでようやく舞・龍青、遅れてインナースーツを着る途中の玲王が現場に着いた!


「酷い! なんて事を……」

「お前脚速えーなー! チーターみたいだ」

「舞、野生児に追いつく奴があるか!」


 馳せ参じた赤・黄・青のパーソナルカラーで着飾ったゲーム拳士。当然奈落道の拳士全員の矛先、標的に向けられた!


「おのれぇ……飲食店を潰すに飽き足らず、人々を傷付けるとは!」

「絶対許さない!」

 すると舞は口元から何かを出して、それを奈落道の拳士の額に思い切り投げつけた。

 昼食で食べたおにぎりの具に入っていた、梅干しの種だった。それを額に受けて拳士も怒りに刺激されるが、激怒しているのは舞と龍青の方だ。


 そして、彼女らの腕に身に着けた『拳華印輪』が、黄色・青とそれぞれのカラーに光り出した!!


「「武遊出陣ぶゆうしゅつじん!! けんじょうとうッッ!!!」」


『――――GET READY BURNING BATTLE!!』


 荒れ果てた歌舞伎町の街並みが、拳華印輪のCPUが共鳴してヴァーチャルリアルなフィールドへと変換される!


 VRで形成された空間は昼夜逆転、ネオン輝く繁華街に転換。かつてゲームセンターで繰り広げたストリートファイトが、現実に飛び込んだかのような五感を超越したエクスタシーが弾けてきそうだ!!


 さらに、舞と龍青にはとっておきがあった……!


「な、なんだなんだ? 二人とも姿が……!」


 インナースーツの二人の姿が、凄まじい闘気の波導を纏わせて、各々の個性に合わせたへと姿を変える!


 ――龍青は、中国武術・カンフーよろしくな拳法着。ブルーカラーに背中には青龍の刺繍がコーティングはれている。


 ――舞は、九尾狐のデザインの柔道着。腰には強者の証である黒帯が、イエローカラーの柔道着によってより際立たせる。

 これも拳華成闘の醍醐味。VRによるアバターコスチュームで戦う事が出来るのだ!!


「うぉぉお〜! かっちょえぇ〜!!」


 拳華印輪によって、VRフィールドに入れた玲王は二人の姿に興奮する。対する舞と龍青は、臨戦態勢に入った!


「「――――掛かってこい!!!」」


 ゲーム拳士、いよいよ出陣! 奈落道の暴虐を止められるか!?

 本日の試合はここまで! マッチブレイクッッ!!



 〚Coming Soon…〛

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