《ROUND1‐6》牛丼と天翔道流と奈落道流

 ーーさて、代わって場面は『ヘラクレス』の最深部。言うなれば、舞と龍青が控えてるスタッフ専用部屋である。


 そこに野生児・赤城玲王を引き連れて、マスター・金剛と昼食に洒落込む訳だが……?


「あっちぇ〜!!」

「これこれ、手で食べないで箸を使いなさい」


 腹減りな玲王に対し、マスター・金剛の計らいで牛丼定食をご馳走になっている。しかし熱々の丼に手を突っ込んで火傷するは、犬みたいに掻っ込むはと、マナーのマの字も知らない玲王に呆れる舞と龍青。


「まるで子どもみたい!」

「箸の使い方も分からずに育ったとは。どういう生活をしたらそうなるのだ?」


 等と申しながらも、舞は丸く全体が海苔で覆われた巨体おにぎりを、龍青はあっさりとした塩ベースのシーフードを乗せたラーメンを食している。スパーリング後のエネルギー補給はファイターの必須項目だ。


 玲王の素性を知らない二人に対し、代わって豪樹が説明する。


「さっきマスターと調べて分かったんやが、玲王はワイが行った名もなき島で、ライオンに育てられたんやと」

「それって……の間違いでは?」 

 等と龍青がブラックジョークを飛ばすが、本当にそのつもりなら、玲王が筋骨隆々な身体に育つ事は無いだろう。


「どうやら幼少期の時に不慮の事故か、事件があったらしゅうて。とにかく訳アリでこーなったんやろうな」

「その事故が起きた時ってのは……まだ箸の使い方も知らない時期でしょうね、きっと」

 対して同情な目で、玲王を見つめるのは舞。


 マスター・金剛に箸を使うよう勧めるが、手がチグハグになって思う様に食が進まない玲王。仕方なくマスターはスプーンを渡すと、掻っ込む様に牛丼を口にする。


「うんめェ〜〜〜!!! この肉の飯、すんげぇ美味ぇぞ!!」

「ハハハ、ただの牛丼では無いぞ。黒毛和牛ベースに温玉と味の染みた椎茸も乗せた、すき焼き風牛丼だ!」


 やっとこさ有りつけた飯に、心の芯まで美味しそうに頬張る玲王。野生児だが、食の有難みは骨の髄まで理解している彼に対し、直々に牛丼定食を調理したマスターも嬉しそうだ。


(……! 牛丼を食った玲王の身体が、艶の度合いが増している。やっぱりせやったか……!!)


 と、横目で牛丼を食べ尽くした玲王の、半裸の肉体の変化を察した豪樹。

 本来常人が、栄養摂取して直ぐに肉体の変化が表れることは無いが、玲王の強靭的な肉体の秘密が”食“にあるのかもしれない。


「あ゛ーーーーーっっ、そうだ!!!」

「な、何だ今度は? 忙しないな!」

 突然飛び上がって、大声で叫ぶ玲王に龍青達は困惑するばかり。


「――――“ぱす“!! さっきキングコングのおっちゃんが言ってた、ぱすって何だ? ウマいのか!?」


 どうやら先程、龍青と舞がスパーリングで招来した、獣の波動の事を知りたがっていた玲王。

 ファイターのみならず、ゲームに挑む戦士が”闘志の形“として能力を発揮する異能力【PASパス】、その詳細をやはり豪樹の口から語られる。


「PASっちゅーんは、ワイや龍青達らみたいなファイターの強さの象徴。即ち、【魂の形】を具現化させた力の源なんや」


「たましいのかたち??」

 何のことやらちんぷんかんぷん。ならばまだまだ豪樹の解説をご覧戴こう。


「魂は、人が誰でも持っている“心”や。その心は、個性や性格一つで色んな形を持っとんねん。

 そして人の闘う感情が昂ぶる時、その心に宿った形が具現化されて、素晴らしい能力を発揮されると言われとる。ただしこれはゲームだけで与えられたもの。


 こういった人の個性を魂に表し、その魂を燃やして無限の力に変える能力を『PlayerプレイヤーAbilityアビリティSoulソウル』。通称【PAS】と呼ぶんや」


 PASの形は人それぞれ。【長剣】【盾】を引っ提げて騎士の様に闘う戦士もいれば、四大精霊【サラマンダー】の力を借りて敵を討つガンナーもいる。

 そして豪樹も、【鉄拳アイアンフィスト】というPASを持っている。


 このように幾多のゲームを舞台に、魂を込めて闘うプレイヤーを人は【ゲーム戦士】と呼んでいるのだ。



「ほんで、さっきスパーリングしとった龍青と舞。彼らは拳士の長い歴史を受け継いだ【青龍】や【九尾狐】といった闘う獣のPASを持った【闘獣魂とうじゅうこん】のファイターや」

 豪樹に誇らしげに紹介され、舞も龍青も少し照れるやら、鼻高になるやら。


「……それが、豪樹のおっちゃんがやってた『けんかじょうとう』って”げーむ“で出してた力なのか……?」

「大当たり! 何や、見かけによらず冴えとるやないか!」


 名もなき島にて繰り広げたVR型格闘ゲーム『拳華成闘けんかじょうとう』。あの激闘が少しずつ記憶に蘇りつつ、沸々と闘志が沸いてくる玲王。興味も更に湧き上がる。


「確かにあのげーむやってみてーけど……オイラは誰と闘うんだ? クマか、トラか? カバとか? それとも……キングコングのおっちゃんか〜??」


 玲王は冗談半分にマスター・金剛に戯れようとするが、当のマスターは真剣な眼差し。悪戯心を自然に払い除けて、ファイターとして闘うべき者について諭す。


「――PASを宿りしゲームの闘士。闘う者の運命の中に、相対する二つのがあるのだ。


 一つ、頂点を目指すべく天へ翔ぶ意味を込めて、正々堂々な武術を鍛える善の流派『天翔道てんしょうどう』。

 一つ、勝つためなら手段を選ばぬ、地獄沙汰の外道な戦法を好む悪の流派『奈落道』。


 我らは天翔道流の名に賭けて、奈落道流を討ち滅ぼさんとする者なり!」


 ――マスター・金剛率いる『天翔道流』。そのファイターである龍青、舞。それらを全面サポートする豪樹ら『ヘラクレス』のスタッフ一同。

 彼らが一致団結して、打ち勝つは天翔道流に相対する悪の流派『奈落道流』!


 闘うべき座標を示した師匠を前に、未だに実感が沸かない玲王。……だったが。


「――――!! 嫌なニオイがする〜、オイラの島を滅茶苦茶にしたと同じニオイだ〜!」

 玲王の全身がゾワゾワと、背筋が寒くなるような不穏な匂いを感じ取った玲王。


「御主も感じ取ったのか」

 と、マスター・金剛も同じく不吉な気配を感じ取っていた。


「カマキリって……玲王、カマキリ拳使いのマンテラーや! 奴も奈落道の拳士やがな!!」


 豪樹も実戦経験あり。玲王の育ち故郷である、名もなき島を襲撃したカマキリの拳士・マンテラーと同じ気配を感じた玲王とマスター。しかも場所まで既に把握されていた。



「奈落道の連中が、この東京の何処かで動き出しておる……!!」


 奈落道カマキリ野郎との、リベンジマッチ近し!!



 〚Coming Soon…〛

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