《ROUND1‐5》バナナとスパーリングと二人のファイター
――――日本最大級のスポーツジム『ヘラクレス』。
超次元ゲーム時代において、スポーツの概念は”eスポーツ“にも正式に名が伝わってきたこの時代は、格闘ゲームを生身で体感する程進化していた。
従ってこのジムでも、VRと肉体を駆使した究極の格闘ゲーム『拳華成闘』に特化した格闘場も用意されている。
ガラス張りに、体育館を思わせるクリアーでベージュの床を踏みしめ、アバタープログラムに着飾った衣装と鍛えた身体を武器に拳と拳を混じ合わせる二人の姿。
カンフースタイルの『
青と黄が相対するスパーリングに、ガラス越しで観戦する玲王の心が躍る!
「これ、豪樹のおっちゃんがやってたのとおんなじだ!」
龍青と舞が行っているのは、『拳華成闘』のトレーニングモード。対戦者の条件に合わせた自由な設定を作り、自分自身のコンボ・ハメ技等を練習する為に使われるモードである。
HPゲージ・SPゲージは、対戦者の頭上にVRで表示されるのは変わらず。
特筆すべきは、ゲージの他にダメージのパーセンテージの表示に、『
まさにあの格闘ゲームの練習場を実際に我が身で体験出来るこのモード。コマンドでなく身体でハメ技を覚えれば、直ぐにでもモノに出来るだろう。
そして今、トレーニングに挑んでいる龍青と舞。ファイティングスタイルは違えど、それによって繰り出す技の攻防は、傍観する玲王をも魅了する!
――シュッ、ビシッ、パシュっっ、ヒュッ………パァァァンッッッ!!
まさに拳士達による摩擦係数。飛び散る火花は線香花火か! 躍動する拳と裂脚、交え打っては強烈な打撃音を立てて、ジリジリと相手をダメージする。
龍青のカンフースタイルが、拳の連打戦法に舞を翻弄していくが……
――――ガシッッ
「!?」
「たああああああッッッ!!!!」
さぁ、仕掛けていった舞の投げ技! 龍青の片腕をガッチリ掴んで、テコの原理で相手を投げる一本背負投!!
――シュタッ
あっと!? 本来背負い投げを食らわれれば、背中へ受け身となる筈が、龍青の軽やかさが成せる技か。投げ落とされる瞬間に、足が先に地面を着いてこのまま体勢を立て直した!
これぞ格ゲーで所謂『受け身キャンセル』というものか! それを五体で実現させるとは!!
「おっし〜い! 一本ならずね」
「わたしに一本取りたいのなら、力尽くで捻じ伏せてみる事です」
「そうみたい! それなら……」
っと、ここで? 舞が両手を合掌させての精神統一。そして頭上のSPゲージを消費させると同時に、舞の全身から黄色の波動が発現する!!
「――発動! 天翔道流・
その刹那。波動から更に形を変えて、舞の闘志を象徴する獣に姿を変えた!
「おっ! 黄色いキツネだ!!」
それも唯の狐じゃない、九つに割れた尾を持つ【九尾の狐】という伝説の妖獣だ!!
「ならばわたしも……! 発動、天翔道流・
そして龍青も負けじと波動を発現。太極拳を思わせる派手なポーズを出して、こちらも獣の形に変えていく!
「ぬおおッ、青いドラゴンだ〜!」
長い胴体に鱗を纏い、自由に天翔ける四聖獣の一匹と云われる【青龍】。まさに龍青のアイデンティティに恥じない気高き波動の形であります!
「「はあああああああッッッ!!!」」
両者、追撃反撃と突っ走ると同時に、波動の形である青龍と九尾の狐も主人と同化するかの如く突撃していく!
今まで以上に凄まじい闘いを魅せてくれるだろうと、我々は期待していたその時!
ガシャーーーーン!!
「に゛ァあああああ!!!!」
「えっ?!」
「危ない!!」
興奮しすぎた玲王が外からのガラスをぶち破り、そのままフィールドの地面に叩きつけられた。その位置が不運にも舞と龍青が、ぶつかり合おうとしたど真ん中!
危機を察知した二人は、振りかざす拳を瞬時に止めて、ノビた玲王にぶつからずに済んだ。
当然、練習試合は一時中断。発現した狐と龍の波動は、闘志が無くなると同時に消えていった。
「な、何なの? この人??」
「ターザン? この都会にか??」
不審に思うのも無理はなし。試合中に赤い髪をしたパンツ一丁の男が割り込んできたら、普通ならば通報沙汰だ。と、言ったそばから玲王が直ぐに起き上がってきた。
「……んにゃ? さっきのキツネとドラゴンは?」
「何を言っている。それよりも何だ? わたし達の練習試合を邪魔して、一張羅な格好で――――うぬ?!」
「なぁなぁなぁ!! 今のカッチョイイドラゴンと、モフモフでシッポまみれなキツネは何処いったんだ!?」
「ちょっ、待ってよ! 貴方はいった―――きゃあ!?」
「教えろよぉ!! あれなーんーだーー!!?」
「「えぇぇ〜〜……?」」
余りにも一方的で興味津々に迫力満点な玲王に、舞と龍青は困惑のタジタジ。どーすりゃ良いものかと思っていたその時、三人の陰に気配あり。
「――――それ即ち、ファイターの魂【
筋骨隆々の強固な筋肉を露わにし、短パンと長い白タオルを肩に巻くだけの超軽型スタイル。
そして圧の強い強面に二本角の兜を被ったその姿、まさに『金剛力士』を実現させたような雄々しき拳士。
彼こそ、この『ヘラクレス』を創設し、格ゲー界の頂点に立ったとも言われたファイター達の憧れの的。歳は60だが肉体は衰え知らず! その名は、人読んで……
「「マスター・金剛!!」」
ただし、人によっては例外あり。
「キングコングだ〜!!!」
金剛力士はエンパイアステートビルを登りません。
「ツッコむとこ、そこじゃないだろ」
「ちょっと、失礼よ! 私達のお師匠様に向かって!!」
「なぁなぁ、ドラミングとかしないのか?」
「うむ…………」
なんと怖いもの知らずな男か、赤城玲王。
対してマスター・金剛、馴れ馴れしくじゃれてる玲王に対し、何やら想うものがある様子。……って、あら。玲王さん? マスターのズボンから何か取ってますが?
「ポッケからバナナ出てきた。いただきま~す」
「わ゛ーー!! それは我が3時のオヤツに隠してたミンダナオ島産のバナナ!!!」
「ちょっとーーーーー!!!!!」
やっぱりキングコングだったりして。
〚Coming Soon…〛
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