12 配信

 レーナ姉ちゃんがアルバイト募集プログラムを構築して、テストとかバグ修正とかアレコレコミコミの数日間で動かせるようになった。


 僕もアレコレコミコミの1部分として、赤ちゃんモンスターの写真を厳選したりしてたよ。

 ダンジョン動物園のホームページに載せるんだー。


 冒険者ギルドからも地下室が使用可能になったって連絡があったので、プログラムをギルドに持って行くときに一緒に付いて行って、ダンジョンへの出入り口を設置したんだ。


 結局セキュリティの問題で、ダンジョン動物園のHPは冒険者ギルドのサーバーを使うことになったそうだよ。


 そして告知してたお知らせ配信の日が今日。


「配信準備オーケー?」


「う、うん」


「そんなに緊張しなくていい」


 そんなこと言ったって緊張はするよ。

 動画は投稿してるけど、配信は生だからさ……。

 1回大失敗したし……。


 だけど今日はバイト募集再開のお知らせ。

 レーナ姉ちゃんの、というかダンジョン庁の思惑付き。

 なので説明と質問なんかにも答えるために、配信することにしたんだ。


 告知しておいた時間まであと少し。

 まずは挨拶からだよね。

 チョット練習。


「こんにちは。柄山からやま太一です……え、と、今日はアルバイト再開について、お知らせしようかと思ってー……って、あとなんだっけ? レーナ姉ちゃん」


「うん。それでいい。そしてもう配信されているわ。こんにちは、皆さん。ダンジョン庁職員のレーナ姉ちゃんです」


:は?

:は?

:は?

:いきなりお姉ちゃんがいるだと!?

:太一くんはみんなの弟ってルールどこいった!

:バイト再開で、さすがダンジョン庁って思ってたのにキサマッ


 やばい、レーナ姉ちゃんにヘイトが……。


「ご、ごめん」


「問題ない。これは様式美のようなもの。みんな悪ノリしているだけ」


「怒ってない?」


「大丈夫」


:何を見せられてるんだ俺たちは

:混ざりたいです先生!

:ごめん、太一くん。ただの嫉妬だよw

:仲良し姉弟に混ざりたかっただけです

:すかさず慰めに来るチーちゃんもさすがである


 コメントの流れが速すぎて、ちゃんと読めないな。

 配信は僕に合わないかもー?

 あたふたしている間に姉ちゃんから説明がされてた。


 改めて抑止力としてもBランク以上を継続することを発表。募集時にはギルド証の登録番号で、ランクを判定するようになってるよ。だから申し訳ないんだけど、カードリーダーは自分で用意して欲しいのです。


 でもレーナ姉ちゃんは、元部下が弾けるって悪い顔で笑ってる。


 油断すると混ざろうとしてくるんだって。

 交代で任務になると嫌なんだって。

 エリートのはずなのに……。


「レーナ姉ちゃん、それはズルじゃん?」


「私は全力で欲望を叶えるよ?」


:ww

:レーナ姉ちゃんズル過ぎで草w

:いさぎよしw

:w

:お若いのに権力を持っているレーナ姉ちゃん


「条件はまだある。むしろこれからの条件が本命よ」


 そう言って伝え始めたのが、日本人限定ということ。日本で生まれて日本の国籍しか持っていない人。それから海外企業と契約していない人。

 海外在住の人も弾くんだって。


 これはダンジョンマスターの特殊性を考慮しての条件だった。

 緩和はあり得ないと、レーナ姉ちゃんは断言する。


「ダンジョンマスターは特殊すぎる。なのでその辺りを判断するのに、冒険者証を使うのが最適と判断しました」


 ダンジョン内での仕事という面もあるから、マイナンバーカードは使わないそうだよ。

 戦闘力も必要なんだって。


「当然柄山ダンジョン内で知った、太一くんの情報は拡散しないように。太一くんも、ついうっかり口走らないようにする」


 情報が漏れているのが、全部僕の動画かららしい……。


「わ、分かったっ」


:一応考えられてるのか

:ズルいだけじゃなかった

:モンスターのお世話にもタフさは必要ってことか?

:バイト再開しても条件は変わらないんだ

:グローバルな時代に他国との契約がデメリットになるとは

:太一くんはダンジョンマスターだから仕方ないっちゃ仕方ない


「じゃあえっと、なにか質問ありますか?」


 って聞いてみたら、コメントがまたバァーって流れて読めなくなった。レーナ姉ちゃんが答えてるね。

 ていうか、読めるんだ。すごぉ。


 Q:募集時期は?

 A:まだ未定。ダンジョン次第。HPで告知する。


 Q:Bランク以上の条件緩和は?

 A:なし。ダンジョンに関連するものだから安全を確保できる力量は求める。


 などなど。


 Q:2人の関係は?

 でもこの質問には答えず、僕のほうを見る姉ちゃん。


「僕は知られても気にしないよ」


「私も気にしないので答える。私たちは病院での幼馴染」


 レーナ姉ちゃんは、2人とも魔力過多症だったことを伝える。


「太一くんの過多症が完治しなかったから、私が力になろうと思った」


「あ、そうだったの? でも治んなかったからさ──」


 モンスター呼ぶことにしたんだよ。テイマーさんみたいに魔力を吸ってもらえると思って。そしたら可愛い赤ちゃんモンスターがいっぱい出てきて、今の状況になったんだよね。


「運命の出会いじゃない?」


「そうね。私が太一くんのお姉ちゃんなのも、小雪ちゃんやサンちゃん、入鹿いるかさんのママなのも運命」


「あっ、そうなんだよ。レーナ姉ちゃんってば内緒でお名前募集に参加してて、しかも採用されてるんだよね」


 凄いよねっていうと、コメントがまたバァーって流れてく。


:レーナ姉ちゃん色々ズルイ

:おまえかw

:レーナ姉ちゃんセコイ

:小雪ちゃんだとッ!?

:レーナ姉ちゃん自由過ぎw

:こいつかwお名前採用されて足の小指折ってたのはwww

:机は買ったのかよレーナ姉ちゃんw


 レーナ姉ちゃん……なんかわざとセコイとかズルイ人になろうとしてる?

 流れが早くて読めないけど、コメントの反応を見て楽しそうにしてるね。


「今日言うべきことは伝えた。太一くん、配信終わらせて赤ちゃんモンスターと遊ぼう」


「うん。そうだね。みなさん、ありがとうございましたー……あ?」


:おつ

:バイト募集再開楽しみにしてる

:乙

:どした?

:なにか忘れてたの?


 あれ?

 ふと思ったんだけど──


「赤ちゃんモンスター貸し出したら、魔力過多症の治療に役立たない?」


 コメントが爆速で流れる。

 えっと、これは賛成してくれてるのかな?


「太一くん。いい案だけどモンスターの数が全然足りないわ」


「あー……それもそうかあ。すぐには何万も用意できないよねえ」


 それは不公平過ぎるかあ。

 コメントでもそういう指摘あるってレーナ姉ちゃんが教えてくれた。


「でもその考えは素敵よ」


「目指してもいいよね。僕がオジサンになる頃かもだけど」


:実現できると良いね!

:太一くんはオジサンにならない!

:永遠に男の娘であれ!

:おじさんやめてw


 コメントがまた爆速で流れる。

 そういえばレーナ姉ちゃんが言ってたっけ。

 冒険者なんてお調子者だって。


「私も太一くんのオジサン化は想像できない」


「僕だって成長するし?」


「しない」


:しない

:しない

:レーナ姉ちゃんご乱心w

:しない

:しないマ?w

:しません

:しない


「そんなに言うなら大人ポーション作っちゃうもんね!」


:大人ポーションw

:ワロタ

:無茶が過ぎますぞ太一くん殿ww

:太一くんまでご乱心


「そんなことできるの?」


「さあ?」


:やってみる精神大事

:作れないに100ペリソ

:大人があるなら子供薬もあるのか

:【作ってはいけない】¥10,000

 作ってはいけないので赤スパ

:大人にはゆっくりなってくださいww

:作っちゃダメ ¥500

 ダメ


 スパチャがどんどん投下されていく。


「ちょ!? そんなことにお金使っちゃダメじゃん!」


「太一くんが動けば儲かるシステムが完成した」


 レーナ姉ちゃん、それはとてもヒドイシステムだよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る