09 病院仲間
「は!? なに言ってんの!」
「ン? だからお風呂。仕事したので汚れているし、汗もかいてるわ」
「いや、だから、なんで一緒に入る感じになってるの!」
「太一くん。スキルを得た日に気絶したことを忘れているの?」
危ないからダメーって感じでグイグイ引っ張られてしまう。
母さん、なんとか言って! って思ったのにアラアラまあまあ! みたいな感じでコッチ見てるよ!
身体は子供でも16歳だよ?
レーナ姉ちゃんは21歳だよ?
どう考えてもマズイでしょ!
本当の姉弟なら、ギリ、まだ分からなくもないかもしれない?
でも僕らは魔力過多症仲間。
病院での幼馴染だし。
今は感情が少なかったあの頃とは違うよ。
レーナ姉ちゃんは美人だしヤバァイ。
僕は男ですから! 男ですからっ!
「太一くんのお世話、初めてじゃない。大丈夫よ?」
「そ、そういうことじゃなくてっ」
「上京前の頃だから久しぶりではある」
僕の記憶にないってことは僕の意識がなかったときだ。
レーナ姉ちゃんの症状が治って、励ましてくれてた頃。
でもそういうことじゃないんだってば。
なんとか誤魔化して逃げないと。
「そういえばあの頃からアグレッシブになってたね、レーナ姉ちゃんは」
「太一くんも変わったでしょ。スキルが使えるようになったら」
そうだね。確かに僕らみたいな魔力過多症の人は、世界が変わるって言っても言い過ぎじゃないからなあ。
レーナ姉ちゃんは確か味覚異常起こしてたはずだから、かなりツラかっただろうしね。
姉ちゃんは爽やかにニコッと笑ってこう言った。
「ダンジョン食材にも期待」
欲望に正直になったみたいだ。
まあそれは僕もかな。
「誤魔化しても無駄。お風呂場はこっち」
「うわぁぁぁ」
レーナ姉ちゃんのスキル、魔筋っていう身体強化系だから僕じゃどうやっても抵抗できなかった。
悲しいことに。
「太一くん、ダンジョンの明かりを変更できない?」
「え? どうだろ。たぶんできるんじゃないかな。あるよね? フィールドタイプっていうか、そういうフロア」
「うん。太一くんは、もう少し日光浴をしたほうがいい」
それもそうかなあ。今は冒険者ギルドにポーション売りに行くときくらいだ。ほとんどはダンジョンの中だしさ。
ポイント消費は分かんないから、すぐじゃないかもだけど変えてみよう。
「あ」
「だ、だってレーナ姉ちゃんのが…………あ、当たってるから!」
「成長のあかあか……証。問題ない。太一くんも男の子」
別のこと考える作戦は失敗した。
僕の僕が僕ッッしたのを見られてしまった……
でも鏡に映るレーナ姉ちゃんも顔が赤いんだけど!?
「た、太一くんのを見たら急に男子を感じてしまって……私も恥ずかしくなった」
「ぼ、僕も子供ではアリマセンシッ」
「う、うん。でも嫌じゃないから」
レーナ姉ちゃんは、これからもお世話すると言い放った。気絶して逃げ出したいって思ったのは初めて。でもチーちゃんが頭にジャストフィットしてるので、ヤラシイ気分をどうにかしなければいけない時間は続いたよ……。
「じ、自分でっ」
「だ、大丈夫。私に任せるべきッ」
ダ、ダメだってば!
色々マズイんだってばレーナ姉ちゃんっ!
「アッ」「あっ」
「あぅぅあぅ」
後ろからホールドされて、太ももを洗われてるとき。
チョ、チョットだけ。
レーナ姉ちゃんの手がチョコッとだけ当たったときにっ!
だって色々柔らかいんだもんっ!
あ、当たってんだもんっ!
「うぅ……こ、これは恥ずかしすぎるよ、レーナ姉ちゃん…………」
「だ、だ、男子の当たり前が出ただけ。ちゃんと成長してる証。あ、赤ちゃんの素だもの」
「はぅぅぅ」
僕はえっちなお姉さんに弱いのかもしれない。
「大丈夫。私が守るわ!」
「え?」
「えっちなお姉さんからも、私が守る。私は……えっちではないと思うし。今、凄く恥ずかしいので」
余計なことを口走ったらしい。
「くぅぅ……っ」
「太一くん、私は先に出てる。その、た、足りなかったら、ひ、1人でして、出てきて、ね? じゃっ!」
「レ、レーナ姉ちゃんっ!?」
そんなことを言われたって、はいそうですかにはならないよっ。
なんとか僕の僕が僕ッッてる僕の暴動を、治めてお風呂から出ることにした。
そしたらさ……。
「──くんの────して──申し訳ございません、お婆様」
お風呂場でのことを報告してたっぽい。
「ちょ、レーナ姉ちゃん!?」
「太一、もう大人になったのだから多くは言いません」
「う、うん」
婆ちゃんからは、節度あるお付き合いをしなさいって注意された。
静かーに。
でも、迫力があったよ……静かーな迫力、こわぁ。
「わ、分かってるよ。お、思いやりが裏目に出ただけだもんね? レーナ姉ちゃん」
「う、うん。確かに、そう、かも」
「太一、レーナさんに恥をかかせては駄目ですよ?」
「お母さん的には行っちゃえ! よ?」
「レーナさんが太一のお嫁さんですか? ……それは素敵なことですね」
とか言ってニッコリしてる2人。
「レ、レーナ姉ちゃんは……そのっ、す、好きだし、憧れの人だから……僕と、その、そんなことになったら嬉しいけどさっ」
いきなり話が飛び過ぎだよ。
「そ、そんなのレーナ姉ちゃんに悪いじゃん!」
首を横に振る真紅の置物にクラスチェンジしたレーナ姉ちゃん。
「え? わ、悪くない……の?」
首を縦に振る真紅の置物にクラスチェンジしたレーナ姉ちゃん。
「あらあら、太一~?」
「まあまあまあレーナさんったら」
僕とレーナ姉ちゃんは、真紅の置物にクラスチェンジした。
ちなみに頭上のチーちゃんがいい仕事してるので、今回も気絶で逃げることはできなかったよ。
「若さとはいいものですね」
「ねー、お義母さん」
「ですが改めて言いますよ? 節度あるお付き合いをしなさい」
「そうね。お母さんも、まずはピュアな恋人からがいいと思うの」
首を縦に振る真紅の──はもういいとして……そもそもさ、レーナ姉ちゃん。
お風呂場でのこと、言わなくったってよかったんじゃない!?
僕のちんちんが暴発したら彼女ができた件って、凄い下衆なお話じゃんっ!!
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