08 レーナ・レポート

報告書


20xx年x月x日

 所属:ダンジョン庁 脅威度判定安全管理課

 第3室長 舞茸まいたけ・レーナ・あや


【保護対象】

 柄山からやま

 柄山家所有ダンジョン

 柄山家長男

  柄山太一くん

   スキル:ダンジョンマスター


【確認事項】

・現在までに確認されているダンジョンマスターは28名。

 死亡が確認されているのは15名。

 死因

  寿命9名。

  過去には犯罪組織による殺害や、テロ行為により討伐された者6名が存在する。

 現存しているのは13名。


・ダンジョンマスターは有用ではあるものの、上記から分かるように危険が伴うことが判明している。

 心身の保護は必須であると考えられる。


・ダンジョンマスターが現れたことは本来極秘であるが、それゆえに情報不足。

 太一くんが魔力過多症であったため、個人申請でスキルを得たことが周知される要因となった可能性は高い。

 個人申請であっても、ダンジョン庁および冒険者協同組合によるサポートは、必要と思われる。

 今回の件では、偶然にも私の休暇とタイミングが合ったため、サポートに回ることができた。


 しかしスキルにダンジョンマスターが出現したことで、平静を保てなかった私に、主な原因がある。

 代わりの人員を手配すべきであったと、深く反省している。

 今回の件でのミスは、許されるものではない。


 ゆえに"降格及び左遷は妥当である"と確信を持っている。

 解雇処分でよかったと私自身は思っているが、ダンジョン庁の恩情に感謝の念は絶えない。


・柄山家所有ダンジョンに関してはダンジョン法にのっとり、条件を一部解除。

 ダンジョン庁、冒険者協同組合が太一くんと協力してダンジョンを育成する。


※ あくまでもサポート要員として接することとする。


【訪問日時】

 20xx年x月x日 10:00


【訪問目的】

・安全なダンジョン運営及び、太一くんの精神が健やかに育つための案を探る。

・太一くんの損失は日本においての損失である。

 事ここに至っては全力をもって守るべき存在であると確信している。



 軽いお手伝いをしていたら、スルリと落ちた紙にこんなことが書かれていた。


「な、に? これ……報告書?」


「ン? ああ、そういえば室長辞めてた。今は備品整理課のボッチ平職員で、ダンジョン動物園に出向が決まったんだった」


 ここは楽園!

 じゃあないんだよ……レーナ姉ちゃん。


「そこも意味分かんないけど! そこもだけどさ、その、ダンジョンマスターって……そんなに?」


「太一くんが悪事を働かないのは知ってる。あとはここのみんなを、私が守れば万事解決」


 簡単!

 じゃあないんだってば!


「僕って命狙われるの!?」


「それはあくまで過去の話よ」


 犯罪組織に狙われてたのは、スキルが一般化し始めたくらい昔のことらしい。今は資源欲しさにアッチコッチから勧誘が来るのが問題になってるんだって。

 だから秘密に……。


「資源かあ。資源は大事だもんねえ」


「そもそもダンジョンは移動しない。結局は国レベルの外交問題になるわ」


 それにダンジョンマスターが別のダンジョンに行ったって、そこのダンジョンマスターになるわけじゃないらしいよ。

 奪い合いにはならないシステムでよかった。


 だけどダンジョンマスターと仲良くなれば、可能性は広がるってことかあ。


「ハニートラップは生物の弱点。太一くんも気を付けるべき」


「えー? 僕に? ハニトラあ?」


「えっちなお姉さんに付いてっちゃダメよ?」


「つ、付いてかないしーっ!」


「とはいっても、太一くんなら仕掛けてきたヤツを虜にする可能性も、高いと考えられる」


「赤ちゃんモンスターの可愛さってことかあ」


「それだけじゃない。小学校でモテモテだった頃の太一くんがパワーアップしてる」


 発症して出掛けなくなったせいで色白になってるし、おまけに運動もしてなかったから儚い感じにもなってると言われた。


「パーフェクト男の娘になった」


「くっ」


 SNSで散々言われてるから、僕にも自覚はあるよ……悲しいことに。


「バズった要因の1つ」


「ぐぬぬーっ、それは目をそらしたいヤツっ!」


 だというのに全国のお兄ちゃんお姉ちゃんが、お姉ちゃんになりたがってるんだって。おねショタってのは僕も知ってるけどさあ。

 お兄ちゃんがお姉ちゃんになりたいってなんなのさ……。


「冒険者はある意味、ぶっ飛んでる」


「レーナ姉ちゃんだってわりと……」


「私は正常。そして普通」


 普通の人は自分を左遷させるとかやらないと思うよ?

 実際ウチに来てるってことはさあ、上司を納得させてるってことだろうし……エリート成分の使い方が変なんじゃあないのかなあ?


「終了。太一くん、サンちゃんたち、ありがとう」


「ふふぃ~」


 僕のナイスアイデアだと思ったアイデアで、なんか余計に時間が掛かった気がするっ。孫くんたちのお手伝いを申し出たのは失敗だったよ。チーちゃんも手伝ってるつもりだったのか、頭の上で指示するようにチーチー言ってたし。


「お手伝いできて偉い! ってなる時間が多かったね」


「偉いのだから仕方ない」


「結局邪魔しちゃったよ。ゴメンね、レーナ姉ちゃん」


「一緒になって喜んだのだからいい。太一くんのせいじゃない」


 動画まで撮っちゃったしなあ。

 だってベッドを8人全員で協力して運んでるんだもん。ビックリしちゃったよ。ベッドなんてさ、結構重いものじゃん?


「明日にはダンジョンの脅威度を測らせてもらうけど、今日の作業は終わり」


 ウチのダンジョン、脅威度なんて低いと思うけどね。小っちゃいし。でも僕がダンジョンマスターになってるから、大小の問題じゃなくなってるそうだよ。魔力をため込む性質に変化するんだって。


「でも太一くんが気にすることではない。むしろブロッコリーのほうをちゃんと摂取するべき」


「嫌いなのです……」


「つまり儚くて小さくて、可愛らしい男の娘のままでいるという宣言?」


「お肉でいいじゃん」


 そんな僕の言葉に、レーナ姉ちゃんはニヤリと笑って食事に戻った。


「結局食べないのねえ」


「おば様、私は可愛い太一くんもあり・・だと考える。私も含め全国のお姉ちゃんが喜ぶ」


「まあ……健康面では他のもので取ればいいわよね」


 なんか僕が可愛いままでいるという前提で盛り上がってるよ?

 そんなわけないじゃんね。

 これからの僕はグングン成長するに決まってるさ。


 年下のお姉ちゃんも喜ぶとか言われたって困るのさ。


「お風呂入ろ、太一くん」

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