07 護衛

「推参」


「え? レーナ姉ちゃん……なにその荷物」


 すっごい量の荷物を掲げてやって来た。


「護衛のために引っ越してきた」


「ええ?」


「ええ? じゃない。ダメでしょ、太一くん」


「う、うん。ダンジョンマスターのことだよね」


 言うつもりは、なかったんだよ?

 なかったんだけどさあ……ついうっかりのせいで、ニュースになっちゃったんだよね。取り戻せない大失敗というヤツっ。


 不幸中の幸いではあるんだけど、僕んちがバレてるわけじゃないから、誰かに突撃されてるってことはないよ。

 これはバイトに来てくれた冒険者さんから、内緒が漏れてないってこと。


「3人ともいい人ってことだね!」


「それだけでは済まされないわ」


 これからも"そう"だとは限らない。

 だから"これからは"レーナ姉ちゃんが、護衛に付くって力説された。


「レーナ姉ちゃんエリートなのに……ごめんね?」


 大げさだと思ってたから護衛は断ったんだよね。でも全然大げさではなかったらしくて、レーナ姉ちゃんが居候することになったみたい。


 母さんと婆ちゃんには、もうとっくに話が通っているって。

 父さんは今コロンビアにいるからメールで伝えて許可を得たって。

 僕だけ知らなかったんですけど?


「驚かせたかったので内緒にしてもらった」


 急に子供みたいなことを言うなあ。


「この任務はご褒美。それに平職員になってきたので問題ない」


 赤ちゃんモンスターと遊べるし、このダンジョンは可愛いでいっぱいだってレーナ姉ちゃんは喜んでるけど。

 いいのかな?


 ダンジョンの脅威度を測る部署の室長だったはず。

 だったのに……。


「平職員って」


「脅威度判定安全管理課第3室長、舞茸まいたけ・レーナ・あや改め、備品整理課のボッチ平職員」


「ボ、ボッチ」


 私は自由! じゃないんだってば……。

 降格して左遷させるように、レーナ姉ちゃんは自分で上司を説得してからここに来たんだって。


「ぇえ……?」


「ダンジョン庁の思惑もある」


「そうなんだ?」


「いずれは太一くんに、協力要請を出したいと思ってるはず」


「ダンジョンマスターとしてってことかあ」


「そう」


 だから一般的な個人所有のダンジョンとは違って、条件を緩和するそうだよ。ダンジョンを育てて欲しいらしくて、階層の条件がなしになったんだって。

 4層以降も増やしていいんだ?


「資源が取れるようになる」


「おぉー!」


「でも50層くらいは最低でも必要」


「ぉぉ……」


 だからダンジョン庁だって、すぐに欲しいっていうことじゃないって言われた。

 僕が40代50代になる頃に協力するくらいでいいみたい。

 つまり……僕がオジサンになるくらい、時間が掛かるそうです。


「太一くんのダンジョンはLV3。まだまだ赤ちゃん」


「へえ? 20層くらいになれば大人モンスターが出るのかな」


「それは分からないわ。赤ちゃんモンスターなんて今まで見たことないもの」


「僕んちだけの特権じゃんっ」


「だからご褒美」


 僕はのんびり、好きにダンジョンを育成していいって。


「ただしアルバイト募集は継続すること」


 メンドクサクなっちゃったで止めるのは、絶対ダメだって力説された。


「でもさあ、1人でいいのに万単位で応募されるんだもん。たぶん条件満たしてない人も応募してたよ?」


 そのせいで冒険者ギルドにも迷惑かけちゃったよね。


「私もハズレた。あのシステムは不出来よ?」


「ホント、なにやってんの……」


 応募してたらしい。


「とにかく不出来なのでバージョンアップして再募集するべき」


 そんなに人はいらないと思うんだけどなあ。

 そう伝えると、Bランク冒険者がいるってだけで、安全性が高まると力説された。


 それに阿鼻叫喚だったって言われた。

 どこでの話かは教えてくれなかったけど、少なくとも200人は阿鼻叫喚だったって真顔で言われた。


「でも僕の安全性、とかいう理由で来てもらうのもなあ。あくどい気が……するじゃん?」


 常駐するわけでもないし、ただの抑止力だから気にするランカーはいないだろうって。そんなことよりも、ここに来て赤ちゃんモンスターのお世話がしたいという気持ちのほうが大きいって熱弁された。


「明日にはバイト募集システムを構築する。これは心の友たちに誓った私の絶対」


 冒険者ギルド経由だとまた迷惑が掛かるから、自前で用意しなくてはいけないって言いつつ、テキパキ引っ越し作業を始めたレーナ姉ちゃん。


 力説するし、熱弁するし、テキパキ動いてるなあ。そんなに赤ちゃんモンスターのお世話したいのかなって思ったけど……したいか。

 僕だってみんなと遊びたいし。


 うーん……でも引っ越しのほうもシステム作るのも手伝えないなあ、僕。


 あ、小物なら孫くんたちが手伝えるかも?

 ベイトリスザルは小っちゃいし赤ちゃんだけど、立派なモンスターだ。

 ナイスアイデアに思えたので、姉ちゃんに聞いてみた。


「お願いする」


「うわぁっ!?」


 ダンジョン探索のエリートの動きを、僕は初めて知った。

 見えなかったので。

 僕の目の前に来るところが。


「急に現れたっ!」


「ゴメン。凄く嬉しかったので本気ムーブ出た」


 戦闘職の本気は凄いんだなあ。

 孫くんたちを呼びたいだけのムーブっぽいのにさ。


「じゃあ呼んでくるから待ってて」


「うん? 当然私も行く。サンちゃんの名付け親である私が迎えに行くのは、当たり前のはず」


「えーっ!?」


 しかも小雪ちゃんと入鹿いるかさんも、レーナ姉ちゃんが名付け親だった……。

 特に小雪ちゃんは「それがあったかあっ!」って悔しくなった名前っ。


「フフン、だから私にはみんなのママになる資格あり。モンスターもダンジョンも赤ちゃん。つまり太一くんも赤ちゃん枠」


「16ですー! 16歳ですぅっー!」


「スキル取り立ての赤ちゃんが吠える」


「くっ」


「フフ、ゆっくり育てていけばいい。私も手伝えることになったから」


 むぅ、それは確かに一理あるけど……なんか悔しいじゃん。

 いや──アレを見せたらレーナ姉ちゃんも僕を見直すんじゃないかな?

 1層はチョット改造してあるんだよね。


 バイト募集して来てくれる冒険者さん用に、泊まれる場所を作ったんだ。フロアの拡張をしてさ。それで畑と分けるために、林で区切ったんだよね。

 その中にテンションの上がる家を作ったんだー。


 ファンタジー御用達。

 大樹の家っ!

 しかも泉までセットで付いてるよ!


 すっごい評判よかったよ。僕にも家族にも冒険者さんにもね。


 1層に入って大樹の家を紹介すると、テンションが爆上がりしたレーナ姉ちゃん。

 分かるよー?

 この家、ファンタジーの味が濃いもんね!


 木の中に住処があるなんてご褒美だもん。


「ここで暮らしたい」


「バイト募集するなら空けておかないとダメじゃん」


「こ、こうなったら私が柄山からやまダンジョンに入り浸って、なにもかもお手伝いするわ」


 バイト募集はレーナ姉ちゃんのアイデアだけどね?

 なにもかもやったら冒険者さんはいらないじゃん。

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