冒険313.弱き者汝の名は女なり(前編)

 ===== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。降格中だったが、再び副隊長になった。現在、産休中。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。『片づけ隊』班長をしている。


 斉藤長一朗理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 村越警視正・・・警視庁テロ対策室室長。

 久保田嘉三・・・警視庁管理官。前EITO司令官。交渉人を柴田管理官と勤めているが、テロ対策として、EITOとの橋渡し役割を担っている。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁テロ対策室からのEITO出向。EITOガーディアンズ。


 原田正三警部・・・元新宿風俗担当の刑事。警視庁からのEITO出向。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 本郷隼人二尉・・・海自からのEITO出向だったが、EITOに就職。システム課長をしている。

 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向事務官。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 高坂[飯星]満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。


 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 藤井康子・・・伝子の区切り隣マンション住人。モールで料理教室を開いている。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店アテロゴを経営している。

 橋爪警部補・・・本来は丸髷署生活安全課勤務。愛宕と共に、。『片づけ隊』に参加している。

 西部警部補・・・本来は高速エリア署生活安全課勤務。愛宕と共に、。『片づけ隊』に参加している。早乙女藍と再婚した。

 中山ひかる・・・以前、愛宕のお隣さんだった。アナグラムが得意。伝子達の卒業した大学に入学、後輩になった。

 青木新一・・・Linen等のSNSに詳しい大学生。ひかる同様、時々伝子やEITOに協力している。


 =================================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 = EITOガーディアンズとは、エマージェンシーガールズの後方支援部隊である==


 午後1時。EITO東京本部。司令室。

 手紙の2枚目には、こう書いてあった。マルチディスプレイに、その文言が映っている。

[芝居 寅 七]

「一味に女がいるのは、警視の見込みだから確かだろうが、誘拐のタイムリミットは、知っての通り、48時間だ。手荒な真似はしない、と言ってるが、誘拐しているからなあ。」と、理事官は腕を組んで考え込んだ。

「明日、って言ってるから、何か準備に時間がかかるんじゃないでしょうか?例えば、兵隊がまだ揃っていない、とか。大文字君。確かオクトパスの話では、商品を注文するように、那珂国に兵隊を調達するんだよね。今朝のニュースだが、那珂国の高速道路で崩落事故があったらしい。例によって、手抜き工事が原因らしいが。」と、夏目警視正は言った。

「そう言えば、以前、特急列車が脱線して、隠すのに躍起になった事がありますね。高速道路の事故で兵隊到着が遅延か。少ない人数でEITOに勝つなんて出来ない事くらいの認識はあるんだな。」と、筒井が言った。

「アナグラムは今、学が必死に解いてるよ。普通の文章だと、『芝居』や『七』が入っていれば、『八百屋お七』っていう歌舞伎の演目ということになるが、アナグラムなんでね。最初から無理しないで、ひかる君や青木君の知恵も借りるように言っておきましたが・・・。」

 と言って、伝子は大きな胸の下で腕を組んだ。原田は、また『濡れ衣』を着せられないように、映像分析室に籠もっている。

 午後3時。食堂。

 伝子は、なぎさとあつこと一緒に、おやつの煎餅を食べていた。隊員達は、ピースクラッカーが『明日』という言葉を使っていたので、自宅待機させている。

 管内放送で、河野事務官の声が流れた。

「アンバサダー、一佐、警視。司令室にお戻り下さい。『エーアイ』から通信です。」

 3人が、司令室に戻ると、疲れた顔の高遠がマルチディスプレイに映っている。

 スケッチブックを持って、高遠は文字を見せた。

[薔薇 ナイト しな]と書いてある。

「最初、私は、こう解いたんです。そして、バラ園のイベントをしている所で、夜闘おう、って考えたんです。でも、2人はこう言うんです。『高遠さん、かなり疲れている』って。」

「それには異存ない。大文字君も君も連続登板で、かなり疲れている。だろう?一ノ瀬一佐、渡辺警視。」

 理事官の言葉に、2人はコクリと頷いた。

「で、2人が一致した考えを出し、私は合点が行きました。」

 高遠は、スケッチブックをめくった。

 すると、こう書いてあった。

[薔薇 都内 無し]

「東京の、薔薇で有名な所が3カ所あります。1つ目は、文京区の鳩山会館、2つ目は新宿御苑、そして、3つ目が調布市の神代植物公園。」

「調布って言えば、2人が消えた場所じゃないか。そうか。高遠君。神代植物公園だよ。日にちは明日と言っていたが、後は時間だな。」と、理事官は興奮して言った。

「神代植物公園の閉園時間は18時ですが、入園可能時間は17時半です。私はこの時間だと思います。何故なら、人質を運ばなければいけないからです。そして、17時半に出なかった利用客は、人質になります。」

「困ったな。2人の人質だけでも大変なのに・・・。」

「理事官。SATに出動して貰いましょう。避難誘導です。『爆発物の予告があった』と。」と、伝子は言った。

「機動隊にも出動させましょう。それで、ピースクラッカー配下と我々と、『真の人質』だけになる。」と、あつこは言った。

「何かワナを張っている筈だと思うけど、おねえさま、どうします?」と、なぎさは伝子に尋ねた。

「出来るだけ、敵が思いつかない奇策を用意しないとな。理事官。明日の会議で皆と検討しましょう。」

 伝子の言葉に、「うむ。明日の17時半だと仮定すると、時間があるな。渡、皆に連絡しておいてくれ。」と、理事官は元気を取り戻して言った。

 時刻は午後4時半になった。

 24時間後には、出発しなくては、と伝子が思った時、久保田管理官から連絡が入った。

「やってみるもんだね。あつこ君が言った通り、あの商工会議所は閉鎖されているし、管内のカメラが使える訳じゃない。しかし、あの付近の防犯カメラは生きていた。

 商工会議所に出入りする女が数回映っていた。幸いにも、女には前科があった。昔、詐欺で捕まったことがあったんだ。今、送ったから、河野君、画面に出してくれ。今、中津興信所の連中に聞き込みに行って貰っている。村越警視正やEITOには、事後承諾になってしまったが。すぐ近くには、古い商店街がある。利用客のおばちゃんは能弁だから、何か情報が出て来るかも知れん。商店街にも防犯カメラはある。」

 午後6時。伝子のマンション。

 久保田管理官直通のPCが起動した。

 EITO用のPCと、久保田管理官用のPCは、リモートで操作でき、伝子や高遠がプライベートタイムでも、起動する、ホットラインで、それぞれ専用のディスプレイに繋がっていて、ディスプレイは、PCが起動すると、連動して電源が入る。

 最初、伝子は嫌がったが、すっかり皆お馴染みである。皆というのは、DDメンバーや綾子、藤井、山村も入る。DDメンバーとは、最初は伝子の先輩後輩で自然発生したサークルで、『大人になってからの部活』のようなもので、探偵ごっこをしたり、警察の交通安全教室や高齢者特殊詐欺対策教室などをボランティアで手伝っていたりしていた名残で呼んでいるのである。DDとは、実は『大文字伝子』に他ならないのだが、高遠は、勝手に理屈づけしている。

 DDバッジとは、メンバーが、誘拐されることが多いので、陸自で使用されているGPS機能付きバッジを流用、改造して作られたもので、綾子も藤井も持っている。

 しかし、『衣装替え』されて、置いて行かれては、GPSを利用した追跡システムは、稼働しようがない。

 高遠は、眠気と闘いながら、何故簡単に誘拐されたかを考えていたが、不意にPCは起動した。

「高遠君。防犯カメラの映像や写真から、新たな事実が出てきた。マエがあったことは聞いているね。」

「前科?詐欺の前科ですよね。」「うん。防犯カメラに映っていた女は、蔵前めぐみと言って、昔詐欺で捕まった女だが、被害者と示談が成立した。それで、データを元に現住所に向かわせたが、帰宅した様子がない。以前の居住地を調べたら、まだ引き揚げていない。アパートには、ちゃんと家賃が払われている。そこで、中津興信所の連中にそこの近所で聞き込みをして貰った結果、誘拐されたと思われる1時間前に、近所の人が目撃していた。」

「話の腰を折って済みません。久保田管理官。その蔵前ですが、藤井さんの教室に通っていた可能性はありませんかね?」「

「ん?ああ、そうか。詐欺をするくらいだから、大文字君のお母さんや藤井さんをおびき出すのは、簡単かも知れないな。何故、2人を狙ったかは分からないが。」

「衣服を丸ごと交換っていうのは、誘拐した場合に追跡困難になるっていうのは正月の事件で実証済みだと思うんです。コンティニューが集めたデータは、コンティニューが間引いた情報にしてくれたけれど、その『成功体験』は伝わっているかも知れません。SFのように、体にチップでも埋め込まないと、着替えた後では、追跡困難、いや、不可能です。」

「ふむ。では、こうしよう。中津興信所に写真を持って、モールに聞き込みに行って貰おう。あつこ君が『男の畳み方』じゃないって言ったが、衣類の畳み方って違うものなのかね?」「違いますね、確かに。私は違いを知ってからも『男の畳み方』をしていますが。伝子が嫌がったので。」「ふうん。写真や防犯カメラ映像は、EITOにも送ってあるよ。実は、今の件を確認したかったんだ。久保田家では、殆ど執事や家政婦が仕切っているんだが、あつこ君は、こだわりがあるらしいから。女心かね。」

 最後は、笑って、久保田管理官は通信を切った。本当は、なかなか帰れない妻を待つ『主夫』の自分に気遣ってくれたのに違い無い、と、高遠は思ったが、モールの料理教室から、女の情報が出てきたら、足取りの助けになるに違いない、と思った。

 物部に連絡して、女のことを伝えると、物部は「じゃあ、中津興信所に協力するように、前畠さんに伝えておくよ。前畠さんは、藤井さんが料理教室を再開した時からの常連さんらしい。柏餅配るのを積極的に手伝ってくれたんだ。」と言うので、スマホ越しに頭を下げて高遠は「よろしくお願いします。」と言った。

 ―完―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る