冒険247.消えた死体

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 ジョーンズ・・・オスプレイのパイロット。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 橋爪警部補・・・愛宕の相棒。普段は、丸髷署に勤務。

 斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。喫茶店アテロゴのマスター。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。今は海自臨時職員。

 山城[南原]蘭・・・南原の妹。美容師。

 利根川道明・・・TV欲目の社員コメンテーター。後にフリーのMCになる。EITO協力者。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。元高校の国語教師。今は妻の文子と学習塾を経営している。

 南原[大田原]文子・・・南原の妻。

 本庄虎之助・・・本庄病院院長。

 本庄時雄・・・本庄病院副院長。

 本庄まなみ・・・本庄病院医師。院長の娘。

 本庄尚子・・・本庄院長の姪。弁護士。

 森山貞次・・・蘭が務める美容室の新店長。

 南原京子・・・南原の母。

 栗原みずえ海将・・・新・海将。

 仁礼海自幕僚長・・・元・海将。仁礼らいむは大姪。


 =================================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午後3時。本庄病院。手術室前。

 救急車で蘭が運ばれて来た。1時間前。ニューモールの百円均一の店で火災が発生、蘭は逃げ遅れた1人だった。店を出た客が警察と消防に通報した。

 意識を失う直前、蘭はDDバッジを押した。それで、EITOの方も異変に気づいた。

 DDバッジとは、本来は、陸自バッジと呼ばれていた、遭難救助時に『二次遭難』を防ぐ為や災害時に使用する為のモノだった。

 それをEITOが改良し、DD関係者が危険にあった場合や、作戦の最中の連絡用に開発されたもので、物部の命名である。DDとは「大文字伝子コネクション」という意味で高遠が名付けた名前だった。

 報せを聞いた南原、文子、蘭が務める美容室の新店長の森山が駆けつけた。

 愛宕もやって来ていた。

 午後4時半。

 手術室が開放された。院長が3人の医師を代表して言った。

「骨折が3カ所。しかし、命に別状はない。衣類に大量の血が付いていたが、骨折の箇所の血ではなかった。」

「やはり、譫言で言っていた、『私の下敷きになった人』というのは存在したと言うことですね。」と、愛宕が確認すると、「連れ去られた、いや、持ち出された人は大量の血を流していた。あるいは、もう命がないかも知れない。」と副院長が言った。

「ここからは、警察の仕事ね。血の付いた衣類は警察に提出したわ。」と、本庄まなみ医師が言うと、やって来た久保田管理官が、「いや、EITOの案件かも知れない。詳細が判明してからのことだが。」と言った。

「愛宕君。蘭君が倒れていた場所はEITOのDDバッジで判明している。その場所に血痕もあった。誰かが連れ去った、あるいは持ち去ったに違いない。何故かは、調べて行かないと分からないがね。とにかく、DDバッジでまた命拾いしたのかも知れないな。物部君の店の立てこもりと関係があるかないかも、調べて行かないとな。ああ。火種が発見された場所とは別に、発煙筒の後があったようだ。早く発見させる為というよりは、皆がパニックになって、出入り口に殺到する事を予定していたのだろう」。

「犯人にとって、発見されるとまずい人物だった、という事は確かですね。」と、愛宕が感心すると、「ボヤで済んだ訳じゃない、半焼だからな。消防はカンカンだよ。普段から階段をバックヤード代わりに使っていたらしい。前日に監査に回ったばかりだったそうだ。どういう情報網があるのか知らんが、事前に分かっていたから一時的に荷物を撤去していたんだ。今まで消防法を破ったスーパーや雑居ビルの店が大きな火事を起こしている事案が多いのに、『反面教師』にしていないからね。行政処分になるだろう。本庄病院にはいなかったが、他の搬送先病院で死人が出ている。勿論、将棋倒しが原因だ。」

「持病があると、災害時や事故の1番の犠牲者になりやすい。管理官、警察の記者会見でも言って下さい。商売より『避難経路』を確保しろ、と。」

 院長の言葉に、久保田管理官は深く頷いた。「了解しました。」

 久保田管理官と愛宕は帰って行った。

 南原達は、ロビーに移動すると、山城が到着した。

 山城順は、今は南原蘭の夫だ。海自の臨時事務員をしている。

 店長の森山は、、「店のことは心配しないで下さい、とお兄さんにも説明しておきました。お大事に。見舞い出来るようになったら、連絡して下さい。」と山城に名刺を渡して去って行った。

「山城さん。今、点滴を受けていますが、会えるタイミングが来たら、一緒に会いに行きましょう。」

 南原がそう言うと、「そのタイミングで私達も行っていいかな?」と、仁礼海将が女性を連れて来て言った。海自の制服だ。

 南原は思い出した。最近、仁礼海将は仁礼幕僚長になったのだ。そして、栗原海将が女性初の海将に就任した。今日は就任式がある、と伝えられていた。

「初めまして、山城君。よろしくね。これからは、私も仲間よ。」

 午後4時。

 看護師がロビーにやって来た。欄が意識を取り戻したようだ。

 山城と南原と愛宕が、まず入った。

「あなた。お兄ちゃん。愛宕さん。ごめんね、心配かけて。」と涙を浮かべて蘭は言った。

「店長さんが、店のことは気にしなくていい、って言ってくれたよ、蘭。」と南原が言い、「僕は休暇を取った。何も心配しなくて、いいよ、蘭。」と山城が言った。

「蘭ちゃん、思い出せる?怪我する前のこと。」と、愛宕が言った。

「火事だー。」って言って走って出入り口から逃げた人がいたの。皆もう、猛ダッシュして。連れを探している内に、私、躓いたの。誰かが先に倒れてたの。すぐ起き上がろうとしたんだけど、後から後から踏まれちゃって。声も出せなかった。必死で腰の近くに着ていたホルダーのDDバッジを押したの。ホルダーはケータイ用だけど、DDバッジも挟んでいたの。今度のDDバッジは、押すだけでいい、って言われてたから。私の下敷きになった人は、ずっと気になって。あの人は?」

 蘭の言葉に、「実は行方不明なんだ。蘭ちゃんが下敷きになった人のことを救急隊員に言ったから、探したけど、焼け残った店内にも、搬送された病院にも見つからなかった。蘭ちゃんのお腹側に血がべっとり付着しているから、大怪我だった筈なんだが。」

 そこへ、院長、副院長、担当医の本庄親子がやって来た。

「愛宕警部。蘭ちゃんのDDバッジとやらに付いていました。」と、副院長の本庄時雄が言った。

 差し出されたのは、ビニール袋に入れられたマイクロSDだった。

「蘭ちゃんが、DDバッジを押した時に、近くにあるのを触ったのかも知れない。すぐ、調べます。」愛宕は皆に挨拶して、辞去した。

「山城さん、奇跡よ。お腹の赤ちゃんは無事よ。」と本庄まなみ医師は言った。

「山城君、2重の意味で良かったな。」と、仁礼海将は言った。

 午後4時半。EITO本部。司令室。

 南原から受けた連絡を高遠が伝えていた。

「そうか。2つの命が助かったんだな。良かった。大文字君は、今増田隊員と病院に向かっている。」と、理事官が言った。

 河野事務官が、報告した。

「理事官。Base bookに、コンティニューがアップロードしました。動画です。」

 冬は、『火の用心』しないとねえ。正直に言うわよ。美容師を誘拐する積もりだったけど、先を越されたわ。詰まり、火事?ボヤ?はアタイは関係ないわよ。まだ、『準備中』だったし。今日のところは、お互い頭を冷やしましょ。

 》

「嘘のような、本当、か。」と、なぎさは言った。

「どういうことだ?」と理事官は、なぎさに尋ねた。

「蘭ちゃんの名前を出さなかった。誘拐する積もりだったなら、名前を出しても出さなくても同じなのに。それに、誘拐しようとした、って言ってる。蘭ちゃん、尾行されていたのかも知れない。」

「発煙筒は、放火と別口か。見つかったマイクロSDが関係しているかも知れないな。」

「警察の連絡を待ちましょう。」と、入って来た枝山事務官が言った。

 午後6時。伝子のマンション。

 高遠は、くるみに電話した。「忙しいところ、ごめんなさい。」「何か、追加注文ですか?高遠さん。」「いや、そうじゃないんだ。ニューモールの火事、知ってます?」

「ええ。消防法、守ってなかったんですってね。店長が怒ってました。同業者じゃないけど、一緒くたに見られて、オタクも階段に商品置いてる?って聞く、お客がいるからって。」「でしょうね。で、そういう場合って、箱から商品単品で出しているものなのかな?火事だから散乱はしていてもおかしくないけど。」「それは無いですよ、高遠さん。『ロット』って言ってね、注文や持ち運ぶ単位があって、業者はそれを守って工場出荷するんです。店内に陳列する状態で運搬されないんです。ウチは階段をバックヤード代わりにしないけど、バックヤード、詰まり一時的な倉庫エリアには、決められた大きさの段ボールに入っているもんなんです。陳列する時、初めて少しずつの量になるんです。」

 スピーカーをオンにしていたので、伝子も一緒に聴いていた。

 そして、今度は愛宕に電話して、要件を伝えた。「商品を開封してバラで持ち運ぶ習慣があったかどうかを確認するんですね。今、橋爪さんが取り調べしているので確認します。」

 10分後。「店長の話では、とんでもない。そんなことしたら在庫管理出来ません。いずれかの単位の大きさの段ボールで運びます、とのことです。いい加減な商品管理で火事を起こしたようなもんだから、嘘はないでしょう。」

 続いて、伝子は南原に電話した。

「分かりました。文子に聞きに行かせます。今から『おかゆ』の夕食です。」

 さらに10分後。「思いついて1人でニューモールに行ったんじゃなく、最近親しくなった店のお客に誘われて行ったそうです。名前は富田節子。富む田んぼに節分の子。院長に尋ねたら、この本庄病院に搬送されたそうです。売り場が広いので、別行動で歩いていたら、今回の騒ぎになった、と。」

 高遠は、EITO用のPCを起動した。以心伝心。高遠には、伝子の考えはすぐに分かった。

「なぎさ。本所病院には、誰が行っている。」「増田と馬越です。」「本庄病院に入院している蘭と、富田節子という患者が危ない。襲撃に備えろ。それと、応援だ。」

 久保田管理官直通のPCが起動した。「大文字君。大変だ。マイクロSDのデータは政府要人のデータだ。住所録のようだが。」

 伝子は、自分の推理を話した。「そうか。分かった。遠山か窪内に情報がないか確認してみよう。」

 午後9時。本庄病院。蘭の病室。

 消灯した後、賊が忍び混んだ。どこからか、シュータが飛んで来た。シュータとは、うろこ形の手裏剣で、先端にしびれ薬が塗ってある。

 賊は、腕を押えてしゃがみ込んだ。ベッドから、シーツを払いのけて、病人の蘭が起き上がった。小坂だった。男は悶絶して倒れた。

 小坂は、金蹴りをした。「背負い投げでも習っておけよ。」と、あかりは言い、賊の男に手錠をかけた。

 同じ頃。富田節子の病室。

 消灯した部屋に入った賊は、馬越に一本背負いをかけられ、失神した。

 ベッドから起き上がった増田は、長波ホイッスルを吹いた。

 すぐに、橋爪警部補率いる警官隊が来て、逮捕連行した。

 出て行く時、橋爪は、「増田さん、パジャマ小さいですね。間に合わなかったかな。」と言って出て行った。

 馬越が笑った。「交代すれば良かったね。」増田のブラがパジャマからはみ出ていた。

 午後10時。久保田管理官用のPCが起動した。

「遠山からの情報で、動きが激しい半グレがいた。門前商会だ。ヤクでもチャカでもない、大きな取引がある、という噂がある。ウラではヤミ金をやっている、という噂もな。」と、久保田管理官は言った。

 翌日。午前10時。EITO本部。会議室。

「結論から先に言うと、放火は女性消防士が1枚噛んでいた。放火したのは、女性消防士、徳間映子だ。所謂『マッチポンプ』を地で行った訳だ。

 事件の経緯はこうだ。南原蘭の顧客、富田節子は南原欄を誘って、ニューモールの百均の店に行った。南原蘭と別行動をした節子は、発煙筒を炊いた男を目撃した。男は節子を拉致しようとしたが、別の場所で火の手が上がった。節子は、蘭を探したが見つからない。煙に巻き込まれ失神した。節子は火事で火傷を負った。一方蘭の方は、節子を探したが、逃げる客に足を引っかけられる形になって倒れた。階段の手すりの陰だった。蘭が突き飛ばされた場所には既に死体があった。そこに女性消防士が登場、蘭を少し離れた場所に移動させ、死体を背負って外に出た。」

「女性消防士が人を担いで移動しても、誰も不審に思わない。そういうことですか?」」と、なぎさが尋ねた。

「うむ。供述によると、徳間は、男に入れあげて借金が出来て、半グレの門前商会に言いなりになった。マイクロSDの出所は不明だが、死体の井出夏子と待ち合わせして、門前商会の指示通り、取引先にリレーする為にマイクロSDを持って来た。階段の荷物に隠す為にだ。ところが、井出は裏切りを見せた、奪って逃げようとしたんだ。揉み合う内に、徳間は井出を殺してしまった。徳間は井出が持っていた百均のライターを箱から出して火を点け、現場を去った。火事の通報をした徳間は、『仕事』として戻って来た。それで、南原蘭を放り出して、井出を連れ去った。既に死体の井出を。適当な場所に隠して、後で回収したようだ。徳間の同僚の告発で、徳間を逮捕した。門前商会は、ガサ入れしたよ。物証を前に、『拾った』と、ぬけぬけと言ったよ。」

 夏目警視正は一気にしゃべった。

「詰まり、無くしたマイクロSDは、偶然蘭に渡った訳か。」と伝子が言い、「おねえさま。蘭ちゃんや節子さんを襲った犯人は?発煙筒男の仲間?」と、なぎさが尋ねた。

「コンティニューの手下、『枝』だな、発煙筒男は。冷酷な奴だから、この手下は消される予定だったかも知れない。警邏の警察官が病院近くで不審車両を見付けている。つまり、コンティニューは嘘をついていなかった。」

 正午。

 Base bookのリール動画にコンティニューが現れ、笑った。

 おまたー。って、アタイって下品ねえ。百均の放火、関係ないこと、確認出来た?

 アタイも『先輩達』を見習って、なぞなぞ出そうかな?

 》

 ―完―



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