248.『重油の堀』(前編)

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 ジョーンズ・・・オスプレイのパイロット。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 橋爪警部補・・・愛宕の相棒。普段は、丸髷署に勤務。

 斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。喫茶店アテロゴのマスター。

 物部[逢坂]栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部と再婚した。童話作家だったが、今は書いていない。

 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴのウエイター。

 一色泰子(たいこ)・・・辰巳の婚約者。喫茶店アテロゴのウエイトレス。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。今は建築デザイン事務所社員。社会人演劇を主宰。

 福本[鈴木]祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。宅配便ドライバーをしていたが、やすらぎほのかホテル東京の支配人になった。

 依田[小田]慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の妻。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。今は海自臨時職員。

 山城[南原]蘭・・・南原の妹。美容師。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。元高校の国語教師。今は妻の文子と学習塾を経営している。

 南原[大田原]文子・・・南原の妻。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。妻のコウと音楽教室を経営している。

 服部[麻宮]コウ・・・服部の妻。

 本庄尚子・・・本庄院長の姪。弁護士。

 藤井康子・・・伝子のマンションの区切り隣の住人。モールで料理教室を開いている。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 森淳子・・・依田が済んでいたアパートの大家さん。

 西園寺公子・・・中津興信所中津健二の妻で、所員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。


 =================================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 ==EITOボーイズとは、エマージェンシーガールズの後方支援部隊である==


 午前10時。EITO本部。会議室。

 マルチディスプレイに久保田管理官が映った。

「先ず、発煙筒男だが、行方は分からない。彼が雇った『葉っぱ』達は、ナイフしか持っていなかったし、闇バイトで応募したバイトだった。彼らが会ったアパートは他人名義で、不法侵入して取引していたようだ。指示されていたのは、ナイフで脅して、発煙筒を炊いたことを忘れろ、というものだった。逮捕されていなかったら、消されていたぞ、と言ったらビビっていたよ。次に、コンティニューが言っていた美容師は、どうやら南原蘭さんではなく、カリスマ美容師の高山茂(こうやましげる)のことらしい。搬送された、被害者の中に高山を見かけた者がいた、と中津興信所の聞き込みで分かった。南原蘭さんの勤め先である美容室店長の森山氏によると、『ゴッドハンド』と呼ばれる程の技術のカリスマ美容師らしい。詰まり、発煙筒男は、騒ぎを起こしてどさくさに高山を誘拐しようとしたのだろう。誘拐以降の目標や手順は分からないがね。」

「良かったな、大文字。物部が心配していた。大文字に関わる人間は不幸な目に遭うと思いがちだ、と。」筒井は言った。

「この件は、愛宕警部から伝えるように言ってある。さて、放火犯の消防士徳間だが、案外すらすらとしゃべったよ。ダークレインボーと関わりがあるようなら、罪は重くなるぞ、と言ったらね。それで、門前商会にガサ入れして、同じように脅したら、こちらも素直に吐いた。衆議院第二議員会館で拾った、と言うのが本当のことかも知れない。どこに売りつけようとしたかはまだ分からないが、落した人物は責任重大だ。そのマイクロSDにコピーした段階で犯罪だ。ここからは、東京地検特捜部の仕事だ。」

「管理官。悪い偶然が重なったということですか。」伝子の問いに、「そうなるね。今のところ。徳間は、相手の男のことをなかなか吐かないようだがね。」と、久保田管理官は応えた。

 その時、河野事務官の緊張した声が響いた。

「コンティニューのBase bookの投稿がありました。画面に出します。」

 アタイの無実も晴れた頃だろうから、先輩達に見習って、なぞなぞ出すよ。日時は明日午後1時ね。

 いい?キーワードは・・・画面の文字を見て。

 》

 埋め込んだリール動画は、ループ再生を始めた。そして、画面にあるメッセージをよく読むと、『夜泣き 咳く ぼん』と書いてあった。

「夜泣き せく ぼん・・・ウチの子みたい。」と、あつこは言った。

「アナグラムだな。『募金 なくせよ』と読めるが、違っているか?学。」と画面の端で待機している、いや、伝子のマンションで待機している高遠が応えた。

「多分、合ってると思う。」「簡単過ぎないか?」「レッドサマーは3つもアナグラムを出した。それは高齢者だから、というより資質の問題だ。お義母さん流に言うと、センスの問題だな。まあ、コンティニューとの闘いはこれからだから、案外試しているのかも知れない。『せっかち』という情報も、穿った考え方をすればガセかも知れない。」

 2人の会話を聞いた理事官は、「よし、募金団体だ。草薙、調べてみろ。」

「了解しました。」

 草薙の返事の後、入って来た枝山事務官が、「私はアンバサダーのセンスを信じていますよ。」と言い、伝子は「ありがとうございます。」と応えた。

 草薙がリストアップした募金団体は5つあった、日本ニコル協会、フリーレンス、語り部、心のおむすび会、そして、日本益十字だ。

 伝子は、なぎさに命じて5班に分けるよう言った。

 しかし、高遠が待ったをかけた。

「お義母さん、今の、言ってみて。」と高遠は綾子を画面に出した。

「あのね。確かに歳末だから、募金団体さんは、お金募るけど、毎年夏にやってたテレビのチャリティー番組でも募金やってたとように思うんだけど・・・。」

「理事官。法人は、陽動、または我々の勘違いです。電波オークションの前、本日テレビが毎年チャリティー番組をしていました。1年に1度。24時間生放送で。目的は寄付です。電波オークションの前に、不正が発覚しています。電波オークションの理由の一つになっています。」

「詰まり、狙われている本命は本日テレビ、いや、元本日テレビの関係者か、金か。あるいは両方か。草薙。本日テレビは電波オークションの後、どうなった?」

「解体後、資産の半分は本日新聞に、半分は本日不動産に移ったようです。」と、草薙は答えた。

「母さんの子供で良かったよ。なぎさ。編成を変える。みちる。手下に連絡だ。」

 伝子の言葉に、みちるは思わず「がってんだ!」と叫んだ。

 翌日。午後1時。港区高輪。日本ニコル協会。

 エマージェンシーガールズ姿の女性が2人、現れた。

 門には「年末年始の休業」の貼り紙があった。それを見て、首を傾げている。

 それを、見張っている人間がいないか、依田がチェックしている。

 同じ頃。墨田区両国。NPO法人フリーレンス。

 エマージェンシーガールズ姿の女性が2人、現れた。

 門には「年末年始の休業」の貼り紙があった。それを見て、首を傾げている。

 それを、見張っている人間がいないか、南原がチェックしている。

 同じ頃。杉並区高円寺。NPO法人語り部。

 エマージェンシーガールズ姿の女性が2人、現れた。

 門には「年末年始の休業」の貼り紙があった。それを見て、首を傾げている。

 それを、見張っている人間がいないか、福本がチェックしている。

 同じ頃。江東区東陽町。心のおむすび会。

 エマージェンシーガールズ姿の女性が2人、現れた。

 門には「年末年始の休業」の貼り紙があった。それを見て、首を傾げている。

 それを、見張っている人間がいないか、服部がチェックしている。

 同じ頃。渋谷。日本益十字社。

 エマージェンシーガールズ姿の女性が2人、現れた。

 門には「年末年始の休業」の貼り紙があった。それを見て、首を傾げている。

 それを、見張っている人間がいないか、山城がチェックしている。

 午後1時15分。喫茶店アテロゴ。

 客の応対を辰巳と泰子に任せて、物部は、各「使者」からの連絡をPCに繋いでいるイヤホンで受けた。

「こちら依田。逢坂先輩と伝子先輩のお母さんが予定通りの行動をし、今引き上げるところです。」

「こちら南原。中津公子さんと根津さんが予定通りの行動をし、今引き上げるところです。」

「こちら福本。祥子とおふくろが予定通りの行動をし、今引き上げるところです。」

「こちら服部。コウと慶子さんが予定通りの行動をし、今引き上げるところです。」

「こちら山城。本庄弁護士と藤井さんが予定通りの行動をし、今引き上げるところです。」

「了解。予定通り、各員引き上げてくれ。現れないところを見ると、どこかにカメラがあるのかも知れない。以上だ、大文字。」

「ありがとう、物部。みんな。感謝している。」と、EITO本部にいる伝子は応えた。

 ―完―


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