冒険246.予期された犯罪、予期されなかった犯罪。

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 ジョーンズ・・・オスプレイのパイロット。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 橋爪警部補・・・愛宕の相棒。普段は、丸髷署に勤務。

 斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。喫茶店アテロゴのマスター。

 物部[逢坂]栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。

 物部満百合・・・物部と栞の子供。

 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴのウエイター。

 一色泰子(たいこ)・・・辰巳の婚約者。喫茶店アテロゴのウエイトレス。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。今は建築デザイン事務所社員。社会人演劇を主宰。

 福本[鈴木]祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。

 福本めぐみ・・・福本と祥子の子供。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。宅配便ドライバーをしていたが、やすらぎほのかホテル東京の支配人になった。

 依田[小田]慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の妻。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。今は海自臨時職員。

 山城[南原]蘭・・・南原の妹。美容師。

 利根川道明・・・TV欲目の社員コメンテーター。後にフリーのMCになる。EITO協力者。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。元高校の国語教師。今は妻の文子と学習塾を経営している。

 南原[大田原]文子・・・南原の妻。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。妻のコウと音楽教室を経営している。

 服部[麻宮]コウ・・・服部の妻。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 コンティニュー初戦が終った翌々日。今日は、『クリスマスイブ』の日。

 よく勘違いされるが、クリスマスイブのイブは「夕方以降の夜」。クリスマスの前日ではない。従って、「イブのイブだから、イブイブ」という若者言葉が一時流行ったが、とんちんかんな和製英語だ。

 さて、そういう屁理屈が嫌いな高遠は落ち込んでいた。

 午前10時。喫茶店アテロゴ。

 アテロゴという名前は、高遠が命名したが、ブラジル語学科の友人の受け売り。意味は、『またね』という軽い別れの挨拶。再利用客が多くなれ、という意味が込められている。

「そう落ち込むなって、高遠。誰だってナア、勘違い、思い違い、もの忘れはある。」と物部は高遠に言った。

 高遠は、コンティニューの謎かけの『さかさま』を、倒立状態のもの又は人だと思っていたのだ。実は、坂と言う名字の人が狙われていた。尤も、結果は結果だ。

「高遠君は、賢すぎるのよ・・・て、慰めはいや?」と、Linenのテレビ電話の中の栞が言った。「それに、疲れていたのよ、伝子も、隊員達も。何か減給とかの処分あるの?伝子に。高遠君に。」

「いえ、そんな話は聞いてません。」「じゃ、いいじゃない。結局、大臣もアイドルも無傷で、敵の集団も倒したんでしょ?」「そう聞いてます。」

「そうだ。福本の家に一緒に行くか。うちの娘と福本の子供のご対面に行く積もり・・・あ、お前とこ・・・ゴメンな。おれも、おっちょこちょいだ。依田のこと笑えないな。」

「行きましょう。護衛付きで。」

 午前11時過ぎ。福本邸。表。

 物部と、娘を抱いた栞、それと高遠と、護衛係の金森が車から降りると、犬のサチコとジュンコが尻尾を振って吠えた。

「サチコ、ジュンコ。覚えてくれてたか?」2匹とも高遠にじゃれた。

 2匹とも、元警察犬である。

 サチコは福本の叔父日出夫が引退したサチコを番犬として新築祝いに連れてきた。

 ジュンコは、大文字邸がかつてあった頃、EITOを通じて連れて来た、元警察犬だ。

 大文字邸が全焼したとき、福本がジュンコを引き取った。

 午前11時半。福本家2階。

「めぐみちゃん、こんにちは。こちらは、満百合よ。将来は同級生ね。」

 栞が、ベビーベッドのめぐみを覗き込んで言った。

「まだ、分かんないだろう。」と物部が言うと、「いや、副部長。じっと見てますよ。めぐみちゃん。観察眼が鋭いのかも。福本、女優より演出家向きだな。」と、高遠が言うと、「適当なこと言うなよ、高遠。」と福本はニヤニヤした。

「高遠さん、先輩は?」と祥子が尋ねた。

「そろそろ、反省会が終ったかな?」と高遠は応えた。

 午前11時。EITO本部。会議室。

「久保田管理官によると、磯部真紀子は全て自供したようだ。とにかく、時限爆弾をセットしたばかりの時に渡辺警視が取り押さえたからな。言い逃れは出来ない。亡くなった記者は、やはり磯部が殺害していた。証拠不充分だったが、アリバイも崩れたし、ヤサから凶器も出てきた。雲隠れすれば良かったものを、相棒の『枝』の江木すぐるの手伝いに行ったのが、運の尽き。中津興信所の高崎の尾行も気づいていなかったらしい。」と、夏目警視正は言った。

「後から分かったんですが、あの楽屋からステージは遠くないんです。もし、爆発していたら、ステージで闘っていた江木達も巻き添えを食ったかも知れません。ああ、そうだ。今回はDDバッジに助けられました。」と、あつこは渡に敬礼をした。

「いや、僕は単なるオペレータですよ。利根川さんにもDDバッジを渡しておいて良かったですね。ああ。DDバッジと言えば、アテロゴの辰巳君の婚約者も大文字コネクションだから、渡して欲しいと高遠さんに言われていたそうで、筒井さんが届けに行きました。」

「いつですか?渡さん。」と伝子が尋ねると、渡は「15分位前かな?」と、応えた。

「入れ違いになったかな?物部と学は福本の所に行ったんだが。金森を護衛につけて。」と、伝子は呟いたが、少し不安になった。

 正午。喫茶店アテロゴ。

 入って来たカップルの男の方が、「オムライス出来る?タマゴサンドでもいいが。」と辰巳に尋ねた。

「すいません。お客さん。今日はマスターもマダムもいないので。コーヒーか紅茶くらいしか出来ないんです。泰子、貼り紙出した?」「出したわよ。さっき。」

 2人の会話を聞いた男は、「それを聞いて安心したよ。」」と言った。

 手には大きなナイフを持っていた。カップルの女の方が、窓のブラインドを下ろした。

 そして、入り口の札を素早く『準備中』に変えた。

 さらに、振り向きざまに銃を構えた。辰巳は、女が後ろを向いている間に、カウンター内の『緊急警報装置』のスイッチを押し、DDバッジを押した。

 辰巳と泰子は両手を挙げた。「あのー、喫茶店ジャックですかあ。」と辰巳は尋ねた。

「面白いこと言う奴だな、普通は『立てこもり』だろ?」と、男は笑った。

 この店の『緊急警報装置』は、警察に直通になっている。銀行等で使っているのと同じだ。ただ、この店の場合、このスイッチを押すと、自動的に『電光表示』が現れる。

[強盗です。誰か警察に通報してください。]

 モールの映画館からの帰りの通行人がスマホで警察に通報した。

 何故、2段階にしているかと言えば、『こちらのペース』で進行させる為である。

 午後12時10分。EITO本部。司令室。

 隊員に解散を命じてお昼休みにしたばかりだった。

「アンバサダー。アテロゴの辰巳君からSOS信号です。」と、渡が言い、「警察にも警報が届いたようです。」と、河野事務官が言った。

「渡さん。アテロゴに一番近い位置の隊員は?」「筒井さんです。」

 伝子はスマホで筒井に連絡した。エマージェンシーガールズだったら、イヤリングに向けて通信出来るが、筒井には出来ない。

「筒井。アテロゴで事件だ。」と、伝子が短く言うと、「了解した。」と短い返事が返ってきた。

 午後12時20分。オスプレイで通信を聞いた、あつこは、ジョーンズに言って、モールに向かわせた。

 午後12時20分。モール。喫茶店アテロゴ。

 丁度、アテロゴに向かっていた筒井は、すぐにモールに到着した。

 店の前に多くのモール利用者がいた。

 筒井は警察手帳を出して、叫んだ。「警察です。通して下さい。」

 窓から中は伺え無かった。ブラインドが下りているからだ。

「皆さんは、下がっていて下さい。」そう言うと、筒井は中に入った。

 いきなり女に銃を突きつけられたが、筒井は両手をあげて入って行った。

「要求は何だ?俺から伝えてやるよ。」「本当か?じゃあ、車を用意させろ。」

 辰巳と泰子は、奥のテーブルに縛られている。

「店員さん。電話借りるよ。」筒井は、電話をした。

「立てこもり犯ですが、逃走用の車を要求しています。」

 2分ほどやりとりして、筒井は電話を切り、言った。

「1時間、猶予をくれと言っていた。」

「よし、お前もそこに行け。」と辰巳はテーブルに向かわされた。

 その時、トイレのドアが開き、中からブーメランが飛んできた。

 筒井は咄嗟にしゃがんで交わした。

 ブーメランは、入り口近くにいた女の眉間に直撃した。筒井は、辰巳達にナイフを突きつけている男のナイフを蹴り上げた。

 辰巳は、縛られたまま男に突進した。

 ドアから出て、戻ってきたブーメランを、あつこは女の手首に投げた。

 女が、落とした銃を取ろうと前のめりになったところを、あつこはニーキックで仕留めた。ブーメランは壁に突き刺さった。

「よく間に合ったな、渡辺警部。」「お手柄ね、筒井警部。」

 そこへ、警官隊が突入してきた。「終わったわよ、愛宕警部。」と、あつこは言った。

 午後12時40分。

 カップルの強盗は、逮捕連行された。

 ロープを解かれた辰巳に筒井は言った。「トリガー引かないと、弾は飛ばないんだよねー。」

 午後2時半。伝子のマンション。

「偶然、喫茶店強盗ですか?」

 Linenのテレビ電話で高遠は話していたが、山城が突然言った。

「違うな、山城。調査されたんだよ。」伝子の声に「調査?」と山城が驚いて言った。

「あの店がEITOの拠点かどうか、をだ。恐らくは、あのカップルはChot GPTの指示で動いた。その指示は、コンティニューが出した。Chot GPTは、闇サイトが提供しているが、色んな悪党が利用するようになったシステムだ。せっかちが講じて失敗したから、じっくり構える方向に切り替えたのかも知れない。物部の店はEITOのセキュリティーシステムが組み込まれたが、『秘密の出入り口』も、今回のような場合に備えて準備してあった。屋上の駐車場から、直接あのトイレに出られるんだ。SFみたいだろ?」

 その説明に合点のいった南原が「それで、あつこ警視はエマージェンシーガールズ姿でなく、女性警察官の姿で行ったんですね。あれ?筒井さんは渡辺基部、って・・・もしかしたら、わざと?」と尋ねると、「そう、その通りだ。『壁に耳あり』だ。間違った情報で混乱させることも大事だ。」と、伝子はこともなげに応えた。

「学。物部の子供、福本の子供、可愛かったか?」「うん。」「じゃ、今夜は15回戦だ。覚悟しておけ。」

 Linenから伝子が消えた。

「覚悟しておけ、って、あ。高遠さん、黙って行ったんですか?」と服部が高遠に尋ねた。

「実はね。副部長は、『俺が誘ったって言っておけ』って言ってくれたけど・・・。」高遠は、言葉をなくした。

「高遠の場合は、『お仕置き部屋』でなく、『子作り部屋』なんだ。あ、寝室のことだけど。」依田の後ろから、「仕事さぼって、何面白い話してんの?うちは5ラウンドでいいわよ。覚悟しなさいね。」と慶子が言った。

「ウチのかみさん、先輩の影響受けすぎだよ。」依田が情けない声で言うので、「じゃ、ウチも『お仕置き』考えなくちゃ。コウさん、いい先輩達ばかりね。」と文子が言った。

「しかるべく。」と、コウは法律用語みたいに同意した。

 一同は、蘭が参加していないことに気づいていなかった。

 午後3時。本庄病院。

 救急車で蘭が運ばれて来た。1時間前。ニューモールで火災が発生、蘭は逃げ遅れた1人だった。意識を失う直前、蘭はDDバッジを押した。

 ―完―


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