冒険238.月に吠える女(前編)

 ===== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 橋爪警部補・・・愛宕の相棒。普段は、丸髷署に勤務。

 斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 日向(ひなた)さやか一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。高木と結婚することになった。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

 江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。入院中。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 青山たかし・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

 井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 中津敬一警部・・・元警視庁捜査一課刑事。今は副総監直轄のテロ対策室勤務。

 中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。

 七尾伶子巡査部長・・・元警視庁ソタイ課。EITO出向。

 大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。

 藤井泰子・・・伝子の区切り隣の住人。モールで料理教室を経営している。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

 高坂一郎看護官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

 前田清輝・・・参議院議員。前田前進党党首。

 千田直樹・・・小説家。日本に平和を党党首。

 東郷平太・・・前田前進党の発起人の1人。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午後6時。

 Redにレッドサマーのメッセージがアップロードされた。

《いやー、待たせちゃったね。》


 翌日。午前9時。EITO東京本部。会議室。

「え?これだけ??と思ったよ、最初。」と、理事官は笑った。

「これが全文だ。草薙君。出して。」と、夏目はマイクに向かって言った。

 マルチディスプレイには、Redのメッセージが映された。


 いやー、待たせちゃったね。何で、ノーヒントに近いのに、分かったのかなあ。俺って意外と文学青年だったんだよね。『智恵子抄』は何度も読んだ。だから、東京のイメージカラーがグレーだって知って、真っ先に思いついたんだよね。まさか、まさかだったなあ。今度は、青森にもEITOの支部作る?完敗に完敗!ペナルティとして、次のヒントはプレート撒くのは止めて、ストレートに言うよ。『月に吠える女』だ。これからは、もっと楽しもうぜ。どうせゲームなんだから。そうだなあ。3日以内に、どこかで何かが起こるかも知れないな。楽しみだね、エーアイ君。EITOの諸君。

 》


「舐めやがって!」と言ったのは、見知らぬ女性だった。

「紹介しよう。元ソタイ四課、詰まり、捜査四課の捜査員だった、七尾伶子巡査部長だ。今日から、EITOに出向だ。知っての通り、「暴力団対策課」という名前に変更になり、警視庁では、組織編成も変化した。」

「どうせ、ソタイじゃ無くなるなら、って『捨て鉢』でEITOを志願したのよね、怜子。」

「姉貴。『捨て鉢』は止めてよ。」と、七尾は吐き捨てるように言った。

「今、『姉貴』って言った?」と、こっそりと、あかりは小坂に尋ねた。小坂は無言で頷いた。

「おい、そこ!文句あるのか?新町あかり巡査。巡査!」と、七尾は、あかりを指さし、言った。

 あつこは、無言で七尾の頬を2回ぶった。

 3回目を打つ前に、伝子は「もういい!あつこ。止めろ!!」と言った。

 皆が目を白黒していると、拍手をしながら、一尉になったばかりの金森が、1人の女性を連れて来た。

「みんな。今日から皆の仲間になった、大空真由美二等空尉よ。私と同期なの。理事官、隊長。遅くなりました。空自での引き継ぎで時間を食ってしまいました。」と、金森は理事官に言い、大空は理事官と皆に挨拶をした。

「理事官、皆様。空自からの出向で、大空です。よろしくお願いします。」

 河野事務官の声が、スピーカーから流れた。

「理事官。高遠さんから入電です。」

「繋いでくれ。」理事官がマイクに向かって言うと、マルチディスプレイに、高遠が現れた。

「解けたかね、高遠君。」「はい、ちょっと自信が無かったので、ひかる君にも確認しましたが、同じ意見でした。アナグラムの答は『ほつきにんおえるな』、詰まり、『発起人、終えるな』です。」と、高遠は理事官に応えた。

「発起人。普通は会社設立メンバーに使うが、今は政治家が政党を立ち上げる時にも使われている。今、政党の申請をしている、政治団体は2つ。『日本に平和を党』と、『前田前進党』だ。条件を満たせば、政党の活動開始が1月1日だから、来月早々、政党が正式に立ち上がる。」と、夏目警視正が言った。

「詰まり、政党の発起人が狙われる、ということですか。」と、伝子は言い、すぐに夏目警視正が「河野君。警視庁を通じて2つの党のスケジュールを確認してくれ。」と言った。

「『日本に平和を党』は、大阪梅田で街頭演説をする際、予想以上の人が集まり、勘違いした人の通報で何台も消防車が出動した。あの時、どさくさで事件が起こっても不思議じゃなかった、って大前君が言っていた。」

「人混みを利用して、乱入するのかも知れませんね。」と、なぎさは言った。

「3日以内と言っていたが、街頭演説とは限らんな。勿論街頭演説が予定に入っていたら、中止させざるを得ない。」

 正午。丸髷署。署長室。

 署長と、みちるは弁当を広げ、昼食をとっていた。

「気になるのか、その七尾が。みちる君が怒っていたんだな。昔、何かあったのかも知れないな。橋爪警部補に今確認させている。でも、問題ありなら、何でEITOに出向させたんだろう?」

 ノックの音がして、愛宕と橋爪警部補が入って来た。

「旨そうだな。もう昼時だからな。」と愛宕が言うと、「食べたい?夜は私を食べていいわよ。」とみちるが言った。

「きわどい冗談言うなよ。」と愛宕が困った顔をするのを見て、「七尾巡査部長は、昔、副総監が更生させた、元ヤンキー、レディースですね。警察官になってからも粗暴なので、どこの部署でも手を焼いて、ソタイ課に勤務するようになったそうです。警察学校で渡辺警視が講師をして、不採用にするよう進言したそうですが、副総監の一存で仮採用、その後、本採用になったようです。ソタイ課での活躍が実って、巡査部長になったようです。」と、橋爪警部補は簡略に説明し、愛宕に促されて食堂に向かった。

「『捨て鉢』は言い過ぎかも知れんが、確執の原因は分かった。EITOも仮採用でいいじゃないのかな?」「うん。理事官も『仮採用』って言ってたわ。」と、みちるも同意した。

 午後2時。伝子のマンション。

 EITO用のPCが自動的に起動した。このPCは、EITO東京本部司令室と繋がっている。必要に応じて、司令室経由で会議室にも繋がる。勿論、厳重なセキュリティーの下にある。

 伝子と高遠が前に座ると、理事官が言った。

「まず、『日本に平和を党』の方だが、発起人は、梨本香。ジャーナリストで、友人である千田直樹を党首として、飯田ひかりや南野弁護士と組んで、必要な人数を集めて政治団体として、この党を組織した。発起人が危ないと言えば、梨本、飯田、南野だな。」

「理事官。党首も入れた方がいいと思います。寧ろ、1番危ないのが党首です。」

 伝子の言葉に、「了解した。それで、『前田前進党』の方だが、党首は前田清輝、中心になっている発起人が加田新子、東郷平太、和泉貫太郎だ。じゃ、この8人を守るかね?街頭演説の方は、4日後以降に延ばすように両党とも了承している。一佐に割り振りさせるかね?」「どうしようかなあ。」

 伝子が、言った言葉のすぐ後で、理事官の近くのなぎさの声が聞こえた。

「おねえさまの意地悪。聞こえるように言うんだから。ちゃんと割り振りしますよ、いつものように。」

 高遠と、理事官は笑い出した。「仲のいい姉妹ですね、理事官。」と高遠が言うと、「異議無し。」と理事官は同調した。

「そう言えば、自信なさげだったが、高遠君。アナグラムは正解じゃない可能性があるのかね?」

「いえ、『終えるな』って変な言葉だな、と思って。ただ、敵は那珂国マフィアだから、日本語が多少変な使い方でもおかしくはないですし、他の並べ方だと、意味ある文章にはならなかったのも事実です。敵の出方を見ながら訂正していくしかないですね、作戦も。」

「私も、それには賛成だ。あと、大文字君。今日入った新人は、どうするね?」

「天童さんに稽古を付けて貰って、今回の参加は見送りましょう。」

「了解した。」

 EITOのPCはシャットダウンした。

 高遠は、シミュレーションプログラムを使って、いざと言うときの『修正案』を伝子に出した。

 午後3時。

 編集長山村が、ピザを持ってやって来た。後ろに綾子と藤井を引き連れて。

「ふうん。今までは本命っぽい陽動の闘争があって、本命も同時に進行していた感じだったけどねえ。」

 山村の言葉に、「そこですよ、編集長。それぞれ警邏が増強されますけどねえ。まあ、街頭演説無くなって良かった。」

 ―完―

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