冒険239.月に吠える女(後編)
====== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
橋爪警部補・・・愛宕の相棒。普段は、丸髷署に勤務。
斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
日向(ひなた)さやか一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。高木と結婚することになった。
飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。
江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。
伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。入院中。
高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
青山たかし・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。
財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。
渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
中津敬一警部・・・元警視庁捜査一課刑事。今は副総監直轄のテロ対策室勤務。
中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。
七尾伶子巡査部長・・・元警視庁ソタイ課。EITO出向。
大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。
藤井泰子・・・伝子の区切り隣の住人。モールで料理教室を経営している。
大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。
須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。
高坂一郎看護官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。
前田清輝・・・参議院議員。前田前進党党首。
千田直樹・・・小説家。日本に平和を党党首。
東郷平太・・・前田前進党の発起人の1人。
=================================================
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
翌日。午前11時。秋葉原。
高遠の安心は『ぬか喜び』になった。以前、大泉元総理が襲われた場所に街宣カーが現れたからである。
『日本に平和を党』の方は、党首以下、家に引きこもって仕事をしていたが、『前田前進党』は約束を破った形になった。
しかし、党首の前田は現れず、応援演説に現れた3人の国会議員達だけが、車の上から演説を始めた。
結城、あかり、小坂を連れて来た、あつこは愛宕と手分けして不審人物がないか探していた。中津興信所と警備会社にも応援を求めた。
演説は、都庁の許可が要る。しかし、順延ならともかく、「前倒し」は前例がない。今朝になって、伝子はEITOを通さず、直接指示を出した。その上で本部に詰めている。
理事官は、伝子の『勘』を信じた。街宣カーから音声が流れた。『応援演説』の予定だった国会議員の演説だった。
『日本に平和を党』に演説は明日、『前田前進党』の演説は、明後日の筈だった。
午前11時半。EITO本部。司令室。
前田家に事情を聞きに行った、柴田管理官から連絡が入った。マルチディスプレイには柴田が映っていた。
「大文字君が言っていた『絡めて』が判明しました。前田家の家政婦が誘拐され、身代金500万円と家政婦を交換するから、前田議員自身が持って来い、と連絡があったそうです。秋葉原の演説も、犯人の指示によるものです。議員は、仲間の、今回党に参加予定の銀杏議員に演説を依頼、氏は演説が始まる直前に家を出ました。今、家人から事情を聞き終えたところです。」
「了解した。車は、前田氏の車かね?」「そうです。」「では、追跡しよう。後ほど合流してくれ。」
理事官は、柴田との会話を打ち切り、渡に確認をした。「渡。今、どこを移動中だ。」
「埼玉県に向かっているようです。一ノ瀬一佐のチームが向かいました。千田氏の車は、移動していません。どちらの党代表の車にも追跡用ガラケーは仕込んでありますが、氏は家を出ていないようです。作家ですから、文字通り『缶詰』ですかね。New tubeのライブ配信も常日頃、自宅からリモートでやってる人ですから。尤も、前田氏のように身内が誘拐されたら、動かざるを得ないかも知れませんが。」
正午。秋葉原。
群衆を押しのける形でトラック数台が現れ、街宣カーがパンクして、車上の人達は放り出された。そして、トラックから降りた男達に取り囲まれた。男達は銃や機関銃を持っている。
あつこは、駆けつけた、エマージェンシーガールズ姿の増田や大町、みちるチームに集団を任せて、結城、あかり、小坂と共に群衆の避難誘導に当たった。
パトカーが何台も到着した。そして、警察のワゴン車も。
久保田警部補に導かれて、あつこ達は、エマージェンシーガールズ姿に着替えた。
正午。ガラケーの追跡信号に導かれ、オスプレイは埼玉県に入った。
午後1時。千田家。
固定電話が鳴った。千田は無視して、電話の受話器に繋がっているモジュラーコードを外した。相手は「犯人」ではなく、マスコミだと見当がついたからだ。
知人・友人はスマホに電話してくることも判断材料だった。
午後1時。秋葉原。
MAITOが登場した。MAITOとは、空自のオスプレイチームで、本来は災害救助用だが、ダークレインボーが出現して以来、大がかりな消火活動も担っている。
MAITOのオスプレイは、武装集団の真ん中に消火弾を落した。
消火弾とは、巨大な水風船の様なもので、落ちると水滴が拡散して、一気に水浸しにする、特異な武器である。
エマージェンシーガールズは、水浸しを確認すると、一気に攻勢に出た。
午後1時半。埼玉県越谷市。レイクタウン湖畔の森公園
舗装された遊歩道がある、湖畔の公園である。その外側に、別荘があった。
前田は自家用車を止め、その別荘を見た。中から黒覆面の男達が出てきた。どうやら、女も混じっているようだ。
前田は車からジュラルミンケースを取り出し、言った。
「家政婦の仲間塔子さんを開放してくれ。」
「やだね。」「はあ?金ならここに。」と、前田はケースを開け、中身を見せた。金はちゃんと入っていた。
「欲しいのは、金でも、この女の命でもない。お前の命だ。」「私が政党を作ると邪魔な政治家が差し向けたのか?」
「違うな。お前は生け贄だ。レッドサマーさまの。」
リーダーらしき男の横にいた女が黒覆面を取って、言った。
「どういうことだ。2ヶ月真面目に働いていてくれたのに。」前田が困惑して叫んだ。
「仲間塔子、通称ケイ・トンソク。あんたの家政婦とすり替わった女だ。派遣会社が派遣した女のDNAと、その女のDNAは違った。その女はレッドサマーの『枝』だ。手下の方がいいかな?」
男達が声のする方に目を向けると、エマージェンシーガールズ姿のなぎさが屋根の上に立っていた。
「こっちにもいるぞ!」男達が、その方向に目を向けると、エマージェンシーガールズ姿の日向がいた。男達が襲いかかってきたので、日向は、公園の方に逃げた。
エマージェンシーガールズ達は男達を公園におびき出したが、その前に立ち塞がったのは、那珂国マフィアらしき一団で、追手の男達がナイフなのに対して、一団は拳銃や機関銃を持っている。そして、その向こうには檻があった。中には人が入っている。前田の新党発起人の1人、東郷平太だった。
「形勢逆転だな、エマージェンシーガールズ。どういう手段かは分からないが、必ずアジトを突き止めると思っていたよ。」と塔子は言った。
そこへ、マセラティが走って来た。マセラティは、縦横無尽に一団の中に入って混乱させた。
そして、何かが檻に向かって走って来た。
走って来た物体はストレッチャーだ。オスプレイに収納してある、救急道具だ。
オスプレイが大型だからこそ収納出来ている。ストレッチャーは、東郷が捕らわれている檻に突っ込んだ。ストレッチャーが檻にぶつかった瞬間、駆け上がって、檻に飛び乗った者がいた。
マウスカバーマスクを着けた、ワンダーウーマン姿の伝子だった。
伝子は、バトルスティックを延ばして、施錠している錠前を壊した。
すぐに、檻の番をしていた男達が伝子を襲ったが、腰のロープを鞭にし、男達をけん制しながら、バトルスティックで闘い始めた。
ホバーバイクに乗った、EITOボーイズ姿の高木が現れ、檻の中から東郷を引っ張り出して、言った。「東郷さん、後ろに乗って!!」
ホバーバイクとは、民間開発の『宙に浮くバイク』でEITOが採用、改造して運搬や戦闘に使っている。
東郷は訳が分からないまま、ホバーバイクの後ろに乗った。ホバーバイクは、あっと言う間にオスプレイの着陸地点まで飛んだ。そこには、先にEITOボーイズ姿の馬場に救い出された前田がいた。
「じゃ、井関さん、預かっといて下さい。」と馬場は言い、高木と共に公園の『現場』に戻った。
そこには、マセラティと共に敵を混乱させている、ホバーバイクに乗った、EITOボーイズ姿の青山がいた。
青山は、ウッドフルーレを巧みに操った。
高木は、ホバーバイク用水流ガンで機関銃等に放水した。放水された水はグミ状になり、機関銃を使用困難にした。
マセラティは、少し離れた場所に移動した。
後部座席から外に出た田坂と安藤が、ガルウイングのドアを盾にして、一団に向かって矢を放った。
七尾は、運転席から後部座席に移り、助手席の矢を田坂と安藤に手渡しした。
エマージェンシーガールズは、それらの間隙を縫って、ブーメランやシュータを放った。シュータとは、うろこ形の手裏剣である。先端にしびれ薬が塗ってある。シュータは浜田が先頭になって投げ続けた。
先ほど別荘から出てきた男達は『多勢に無勢』と考えて、別荘の裏から逃げようとしていた。
稲森、飯星、伊地知、越後はブーメランでけん制、投げ技も駆使して倒した。
オスプレイの着陸地点に、もう一機オスプレイが着地し、中から続々とエマージェンシーガールズが飛び出して来た。背中にバトルロッド、手にはバトルスティックを持っている。
実は、エマージェンシーガールズ用の水流ガンとペッパーガンはメンテ中であり、一部のエマージェンシーガールしか使えない。ペッパーガンとは、胡椒等の調味料を原料にした丸薬を撃ち出す銃で、敵の鼻孔に取り憑くと、戦闘能力を落すことが出来る。
インカムを通して、みちるが言った。「遅れたわ、ごめん、なぎさっち。他の発起人は全員無事よ。後は警察に任せて来たわ。」「了解。」
駆けつけた、あつこ、みちる、江南、財前、仁礼、大町、金森、増田、あかり、小坂、日向、静音は、工藤、馬越、大空、なぎさに加わった。
公園に来た那珂国マフィアは、晩秋の空と公園の槻木を見上げることになった。
伝子は、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、犬笛のような笛で、。簡単な合図を送る通信機だ。伝子達は警察ではない。従って、倒した相手を確保しても、『私人逮捕』になるため、逮捕連行を警察にして貰い、引き上げる。その後、EITO職員(実は陸自隊員)が後始末をする。
筒井のホバーバイクが戻って来た。
「どうだった?」と筒井に伝子が尋ねると、「異常なし。」という答が返ってきた。
実は、エマージェンシーガールズの戦闘を撮影されて厄介なことになったので、闘いの前後に音声または映像の通信装置が働いていなかったかどうかを筒井は確認している。
愛宕と橋爪警部補が警官隊を率いて、逮捕連行しに来た。
「先輩。久しぶりのワンダーウーマン、素敵です。」愛宕の言葉に、伝子はワンダーウーマン姿のまま、愛宕にヘッドロックをかけた。
午後3時。EITO本部。司令室。
「前田氏も東郷氏も保護しました。他の発起人も千田氏も千田氏の発起人も無事です。」と、河野事務官が理事官に報告した。
「いつも、こんな感じですか?」と大空は理事官に尋ねた。
「概ねな。警察との連携は勿論、自衛隊との連携をしている。EITO大阪支部との情報共有は勿論、中津興信所、南部興信所、大文字君の私的グループとの連携、SAT、国賓館SP隊とも連携している。ところで、大空。お前は『本物』だろうな?」
大空は数秒考えて、その場で衣類を全部脱いだ。
入って来た須藤医官が気絶した。
午後5時半。伝子のマンション。
EITO用のPCの電源をシャットダウンした、
夕食の支度をしている、伝子と綾子と藤井に高遠は報告した。
「あの須藤先生が卒倒するとはな。度胸が据わっているな。初出勤だから、置いて行くつもりが、七尾だけついて来た。大空は、引っ込み思案タイプかと思ったが・・・。」
「参謀タイプだね、伝子。理事官と河野さんと渡さんと草薙さんは、言葉を失ったようだよ。飯星さんと高坂さんが、いいタイミングで帰ってきて良かった。」と、高遠は笑った。
「そう言えば、飯星さんと高坂さんってカップルも結婚するんだって?伝子。」
「来年。年明けにな。」「また、中山さんの出番ね。」と、綾子は納得した。
「多分な。あ、学。アナグラム自信無いって言ってたが。ひかる君もか?」
尋ねた伝子に、「後で分かったよ。『ほっきにんおえるな』の『おえる』は、僕は簡単に『終らせるな』と解釈したが、『追うことが出来るな』の意味だった。まあ、微妙な違いだけど、代表だけでなく、発起人も誘拐するぞ、って意味だった。」と、応えた。
「ちょっと、待って、婿殿。前田さんの所は、家政婦が誘拐されたのよね、結局偽物だったって話だけど。千田さんところは?」と綾子が尋ねた。
「チャイム鳴らしたんだけど・・・。」と、言いながら、中津兄弟が入って来た。
「すいません、気がつかなくて。」と高遠が応対した。
「今の話ですけどね、千田さんの所は家政婦さんいないんです。で、奥さんと娘さんは、海外旅行に行って留守でした。連中は家族も誘拐しようとしたが、その情報が無かったから、未遂に終ったらしい。家政婦の誘拐は、『ヒント』には無かったけど、後で段取りとして追加したんでしょう。結局、千田氏側は誰も誘拐されなかった。」
「奥さんは政治家嫌いだそうです。それで、当てつけですね。」
中津兄弟の報告が終ったところで、藤井が、「中津さん達も食べていかれたら?」と声をかけた。
テーブルには、おはぎが沢山、並んでいた。
中津兄弟は、黙って頷いた。そして、誰かのお腹がぐううーーー、と鳴った。
―完―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます