冒険233.サンドシンドロームの亡霊(後編)
===== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
日向(ひなた)さやか一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。高木と結婚することになった。
飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。
江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。
伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。
高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
青山たかし・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。
財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。
渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。
久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。
久保田誠警部補・・・愛宕の先輩刑事だった。あつこの夫。久保田管理官の甥。
藤井康子・・・伝子マンションのお隣さん。EITO準隊員待遇。
中津警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津健二・・・中津警部の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。
西園寺公子・・・中津健二の恋人。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。
南部寅次郎・・・南部興信所所長。
山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。今は、非常勤の海自事務官。
物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。
依田[小田]慶子・・・依田の妻。やすらぎほのかホテル東京副支配人。
福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。今は建築設計事務所に非常勤で勤務。
橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。
松下宗一郎・・・福本の元劇団仲間。
服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。
田尾美緒子・・・白バイ隊隊長。巡査部長。
本郷隼人二尉・・・海自からEITO出向。
大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITOシステム管理部長。
大文字綾子・・・伝子の母。
青木新一・・・Linenが得意で、複数のLinenグループの友達を通じてEITOに協力をしている。
中山ひかる・・・アナグラムが得意な大学生。伝子達が卒業した大学に入り、伝子達の後輩になった。EITOにたびたび協力している。
中山千春・・・ひかるの母。宝石商を営んでいる。
池上葉子・・・池上病院院長。
福本日出夫・・・福本の叔父。タクシードライバー。元警視庁刑事。
松下[東山]紀子・・・松下の妻。松下が勤めていた酒屋の娘。
芦屋三美・・・EITOの大株主でもある、芦屋グループ総帥。
天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。EITO顧問。
和歌山奈知・・・偽和知の仲間?
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午後4時。EITO本部。会議室。
「寺は攻撃対象から外して考えていいんじゃないだろうか?大文字君。」と、理事官は言った。
「そうですね。もっと絞り込めればなあ。」「旅行会社で出しているランキングというより選出されているのは11選あるんですが、その内、お寺を除くと、千代田区の日枝神社、渋谷区の明治神宮、中央区の水天宮、千代田区の神田明神、杉並区の井草八幡宮、港区の乃木神社、大田区の多摩川浅間神社、この7つが大きな所ですね。」
「じゃ、なぎさ。班分けしてくれ。藤井さんの班は別にな。」と伝子が言うと、「おねえさま。七五三って、子供に貸衣装したり、髪結ったりしませんか?」とみちるが言い出した。
「髪を結うのは、流行っているらしい。蘭の店も今日の夕方ピークを迎えるから営業時間を延ばすと言っていた。そこまではフォローできないな。ただ、貸衣装の方は、お前の手下から情報を集めてくれ。理事官。また、中津興信所に協力して貰っていいですか?」
伝子が確認すると、「貰っていいですかあ?貰います、の間違いだろう。何か考えがあるんだな?いいだろう。」と理事官は即答した。
「手下?」「手下?」と、仁礼と財前は顔を見合わせた。
「もう、すっかり『手下』ね。コスプレ衣装店の店長がね。みちるにぞっこんでね。夜中でも尻尾振ってやってくる。」と、あつこが注釈を加えた。
「手下、って言うより、奴隷かな?」と結城が揶揄った。仁礼と財前はまた顔を見合わせた。
2人が気付くと、伝子、あつこ、みちるは何処かへ電話している。
みちるは言った。「理事官。明日の七五三は、午前中に行くことが多いそうで、普段は扱っていないそうなんですが、拡大解釈で七五三の衣装を借りることが多いようです。それで、蘭ちゃんの店同様、今日の営業時間は延長、更に明日の本番は早朝に『着付け』に来るそうです、車で。」と、みちるが報告すると、「時代だな。わしらの頃には考えられなかった。」と理事官は応えた。
「理事官。中津興信所は、喜んで協力するそうです。配置を決めてくれたら、各神社の警備や避難誘導も構わない、と。それより、理事官。中津さんは『誘拐』が考えられるとしたら、総理の孫ではないか?と。市橋むつみです。5町8村の事件の時、幼稚園児でしたが、7歳の誕生日を過ぎています。」と、あつこは報告した。
今度は、伝子が発言した。「今、渡さんに確認して貰いましたが、藤井さんの現在位置は日枝神社の近くだそうです。迎撃候補地の一つの近くですね。あつこ、ありがとう。総理に連絡しますが、お孫さんの警護と替え玉作戦が必要です。」
「隊長。理事官。私にやらせてください。」と小坂が進言した。
「・・・みちる。手下に小坂の衣装を用意させて。」そう言い捨てると、伝子は少し離れた所で総理に電話をかけた。
「班分け、難しそうね。理事官。時間、どうしましょう?」と、なぎさは理事官に尋ねた。
「藤井さんの誘拐犯から、明日午前10時と指定があったから、その時間に合せるか。もし、レッドサマーから指定があれば別行動だ。総理の孫の方は、もっと早い時間だな。ああ、それと小坂の着替えも必要だから、白藤は段取りを『手下』にさせろ。」
「理事官。総理は喜んで、おっしゃってくれました。むつみちゃんの七五三は、事件が片付いてからで、いいと。」と、伝子は言った。
「問題は現地で、かちあうかどうかだな。」と、筒井は言った。
「サンドシンドロームとレッドサマーですか。」と、青山は言った。
筒井は黙って、頷いた。
「あのー、隊長。藤井さんの身代金は?」と、高木が言った。
「呼んだ?」と言って、芦屋三美が入って来た。
ジュラルミンケースを持ってきて、テーブルにドカンと置き、開けた。
お札がぎっしり入っている。
「支店長が『ビビる』から、金蹴りしたら、素直になったわ。」
仁礼と財前は、目を白黒している。
「仁礼。財前。EITOの大株主の芦屋三美総帥だ。以前は、EITO大阪支部のオーナーだったが、OB会のクラファンも芳しくなくてね。実質的に、EITOは芦屋グループの子会社だ。総帥。新人の財前と仁礼だ。財前は『怪人二十面相』の姪、仁礼は、仁礼海将の大姪だ。」
「じゃ、びっくりついでにあんたらが保管運搬ね。」三美の言葉に、「『もし奪われたら・・・。」といいかけた財前に「もしって言った?伝子さんが負ける訳ないじゃない。奪われる筈がないじゃない。部下としての覚悟が足りないわね。大阪支部で、そんなこと言う子は1人もいないわよ。」と三美はさらりと言った。
静音が、クスクスと笑っている。
河野事務官が言った。「理事官。久保田管理官から入電です。」「繋いでくれ。」
「大文字君の勘が当たりましたね。エジプト大使館を辞めた、和歌山奈知という名の女子大生が『目黒区図書館システム』を利用していました。彼女は大学でエジプト語を専攻していて、それでサンドシンドロームこと偽の和知と親しくなったのでしょう。それで、感化された。サンドシンドロームは和歌山を利用した。エジプト大使館で通訳をしていたんです。詰まり、『大文字綾子誘拐事件』に関与していた、サンドシンドロームの『枝』ということになる。」
「闘いの前に明らかになるとは、珍しいことですね。」
マルチディスプレイの端に映っていた高遠が、久保田管理官と入れ替わった。
「明日、どのタイミングか分からないが、ダミーのパルスオキシメータを通信機と思い込んでいるから、藤井さんと分けてどこかへ運ぶ筈です。一佐。2番目のDDバッジのいる場所だから、そっちを追ってください。」
「分かったわ、おにいさま。総理のお孫さんは、おねえさまに任せます。」
「それと、また、山下にも会って来たが、こんな衝突ケースは珍しい、と言っていた。恐らく、神社も陽動だろう、と。前回の事があるから、再会=ビリという可能性はトラップだろう、と。じゃ、明日の警官隊の配備をする。よろしく、諸君。芦屋総帥。わざわざありがとうございます。」
久保田管理官は画面から消え、高遠も消えた。
午後5時。伝子のマンション。
「分かった。ただ、明日、僕は仕事で行けないから松下に行かせる。松下の奥さんも行って貰おう。2人で総理の娘夫婦の替え玉だ。EITOから、護衛がつくんだろう?」
「ああ。隊員も護衛に付くが、ワンダーウーマンも行く。」「じゃ、安心だ。」
「ヨーダは行けないが、慶子ちゃんと蘭ちゃんと祥子ちゃんがいれば、素早く着替えられるさ。」と、高遠が言うと、服部さんと山城さんと南原さんは?」と福本が尋ねた。
「南原さんは塾、服部さんも今日開塾した。山城さんは、水天宮の避難誘導の手伝い、副部長は明治神宮、編集長は神田明神に応援に行く。青木君は八幡宮、僕は乃木神社だ。ひかる君は京都に帰っちゃったから、なし。残りの神社は中津興信所のメンバーが行ってくれることになっている。これは僕の勘だけどね、福本。日枝神社以外は来ないと思う。レッドサマーは、七五三のことは言っても、神社のことは言ってないからね。」
「陽動か。本命は総理のお孫さんと、サンドシンドロームの亡霊、か。」
「じゃ、明日早いからよろしく頼むよ。」
「よろしく頼むよ。」と、後ろから声がした。
「お義母さん、脅かさないでくださいよ。いつから?」「いつから?ワンダーウーマンの話から。鍵貰ってたから、玄関開けて入って来たの、チャイム鳴らさないで。それより、メール読んだけど、藤井さんが誘拐されたって?」
「どうも、蘭ちゃんの店の近くにいたようですね、敵は。編集長と稲森さんが、蘭ちゃんの店の近くから乗ったタクシーは盗難車だった。福本の叔父さんの話によると、2種免許持ってる者が盗んでドライバーに化けたようですね。」
「2種免許って、タクシードライバーの免許ってこと?」「そうです。で、この近くで降ろして、様子を伺っていたら、藤井さんに出くわした。藤井さんは、ああいう人だから、客待ちでないのなら、乗せてって言ったんでしょ。」
「で、これ幸い。伝子の関係者って気づいて誘拐、か。婿殿。今日は2人きり、ね。」
「もう。やめてください。止めないなら塩巻きますよ、緊急事態なのに。」
「ごめんなさい。夕飯、何にする?」とケロッとした顔で綾子は話題を変えた。
午前8時半。
迎えに来た江南の車で綾子は勤務先で降ろして貰い、高遠は乃木神社に向かった。
午前8時半。市橋総理の娘の家。
伝子、慶子、小坂、慶子、祥子、蘭が到着し、松下と紀子夫妻の車も到着した。
皆は、急いで支度をした。
午前9時。
市橋総理の娘の家の車は出発した。
車は高速に乗った。やはり、追尾する車があった。
追尾してきた車は、いきなり機関銃で撃って来た。
一応、防弾ガラスでは、あるが、松下と紀子はビビった。右端に座っていた小坂は、わざと手を振り、アカンベエをした。
追尾してきて、機関銃を向けていた男は、あっと驚き、追い越し車線を猛スピードで走り去ろうとした。進行方向から逆走して来た車があった。
芦屋三美が運転する、ランボルギーニだった。
総理の家の車を運転してきた、福本日出夫は、急ブレーキを踏み、防音壁に寄せて止まった。
追尾車は、前方から迫るランボルギーニを避ける為、急ハンドルをし、急ブレーキをかけて止まった。
ランボルギーニから降りた、エマージェンシーガールズ姿の伝子は「甘くみたな。枝じゃ無く葉っぱか。」と言った。そして、長波ホイッスルを吹いた。
長波ホイッスルとは、犬笛のような通信機で、簡易な合図を送ることが出来る。
松下も紀子も、福本日出夫も小坂も車を降りた。
追尾車の中の人間は。機関銃を持っているにも関わらず、車内で震えていた。
やがて、オスプレイが上空にやって来て、縄梯子がおり、伝子と小坂がそれを持つと、縄梯子は上に収納しながら去って行った。
「警察に引き渡したら、どこに行く?」と日出夫は松下に尋ねた。
午前9時。渋谷区の明治神宮。
物部とエマージェンシーガールズ姿の増田、葉月は境内を見回っていた。
「異常なし、ですかね。あ。千歳飴。」と葉月が言ったので、「お前、幾つだ?それに勤務中。」
「ははは。若いな。折角だから、お参りして行きますか?増田さん。」物部の言葉に「そうですね、30分以内に異変が無かったら・・・ありましたね。」と、言って増田は迅速に動いた。
賽銭箱に油をかけようとする若者がいたのだ。増田は一本背負いをかけ、葉月は長波ホイッスルを吹いた。そして、本部に連絡をした。「レッドサマーではなく、油小僧でした。あ、賽銭箱に油をかけようとした犯人を抑えました。」
午前9時。中央区の水天宮。
山城は、1人境内を歩いていた。少し後を馬越と越後が歩いている。
「ここは異常なしだろうなあ。お参りしていくかなあ。」と山城が呟くと、変なカッパの像に出逢った。
「それはね、九千坊河童(くせんぼうかっぱ)と言うのですよ。」と言いながら、山城に日本刀で斬りかかった高齢者がいた。
その男の手首に、馬越と越後がシュータを投げた。シュータとはうろこ形の手裏剣で、先に痺れ薬が塗ってある。シュータは原則として、手首または足首に投げることになっている。軽傷で済ませ、敵の動きを封じる為である。
馬越は、長波ホイッスルを吹いた。
午前9時。千代田区の神田明神。
編集長山村と副編集長西村は、どきどきしながら、境内を歩いていた。
「お参りして行こうかしら?家康公もお参りしたそうよ。」と山村が言うと、「銭形平次って、この辺でしたっけ?」と西村が調子を合わせて言った。
「お参りでなく、お見舞いならどうだ?」と。拳銃を持った男が現れた。
が、稲森が、少し離れた所から鞭で拳銃を弾き跳ばした。静音が長波ホイッスルを吹いた。
「ナイス、いなも・・・エマージェンシーガールズ。」と、山村は途中で言い直した。
今日の稲森と静音はエマージェンシーガールズ姿だったからだ。
午前9時。杉並区の井草八幡宮。
グルッと回って大灯籠の前で立ち止まっている公子と根津の前に、男が二人現れて襲った。咄嗟に避けた2人。そこへ、「待ちかねたよ、小次郎は。」と言いながら天童が現れて、公子に竹刀を投げた。
あっと言う間に、男二人は天童と公子に倒された。「お見事!西園寺さんは剣道が出来ると伺って、この神社に配備して貰いました。」
天童は、改めて公子と根津に挨拶し、長波ホイッスルを吹いた。
午前9時。港区の乃木神社。
「わあ。凄いところだなあ。乃木大将の神社ということだけしか知らなかったけど。」
「あそこから吊してやろうか?」と背後から忍び寄った、ナイフを持った男。
男が高遠の首にナイフをあてがう前に、筒井が、その男にナイフを突きつけた。
「おまいう。」高遠は長波ホイッスルを吹いた。
午前9時。大田区の多摩川浅間神社。
「多摩川に利根川が行く・・・しゃれにならないな。」「利根川さん。しゃれにならない光景ですよ。」
利根川と一緒にやって来た青木が言った。
「まだお参りしかしていないのに。お守り先に買うべきだったかな?」
拳銃を持った男達が、利根川と青木の前に立ち塞がったのである。
そこに、高木のホバーバイクの後ろに乗った金森が舞い降りてきた。
ホバーバイクとは、民間開発の『宙に浮くバイク』で、EITOが採用、戦闘お呼び運搬に使っている。
金森は、バックシールド(カッパの甲羅)を使いながら、ブーメランを投げ続けた。
馬場は、すぐ利根川と青木を避難誘導した。
午前9時。千代田区の日枝神社。第一駐車場。
サンドシンドローム、レッドサマー、エマージェンシーガールズが3すくみで睨みあっている。
サンドシンドロームの亡霊と名乗った、和歌山奈知が「身代金はどうした?」と言った。
なぎさが、ジュラルミンケースを、3者の中央に置いた。
「それは、俺達が貰う。そもそも、もうお前らの時代は終ったんだ。」とレッドサマーのリーダー(枝)が言った。
「金はやる気はないが、時代が終ったという、その男の言い分は正しい。サンドシンドロームに感化された、和歌山奈知。サンドシンドロームは爆死したんだ。私達の見ている前で。衆議院議員会館の人質は、もうSATの手で開放されている。だから、その金はもう誰にも渡さない。」と、なぎさは言った。
「おい。お前。エマージェンシーガール。俺の話を聞いて無かったのか?その金は、もう俺達のもの同然だ。そんな少ない人数で、しかも、こんな狭い場所でどう闘う積もりだ。」
戦力を削がれたとはいえ、エマージェンシーガールズは、なぎさ、あつこ、みちる、あかり、大町、伊知地、日向、江南、田坂、安藤、飯星、結城、工藤がいた。だが、確かに少ないと言えなくもない。
サンドシンドローム、レッドサマー双方の戦力は合計300人。駐車場にいるのは、その一部だ。
高木が乗った、ホバーバイクが現れ、ジュラルミンケースを釣り上げ、表に去って行った。
乱戦が始まった。銃火器を持っていたにも拘わらず、サンドシンドロームとレッドサマーの那珂国集団は、あっという間に殲滅された。
それは、総計何本あるか分からない木々の陰に、小堺組、遠山組、窪内組の、元反社の連中が密かに待機していたからである。
駆けつけた、伝子が長波ホイッスルを吹いた。
やがて、久保田管理官、久保田警部補、愛宕、橋爪警部補が警官隊を連れてやって来た。
小堺組、遠山組、窪内組の組長が、久保田管理官に挨拶に来た。
「野球大会の打ち合わせに妙な所を選んだな。露店はいいのか?」
「旦那、知ってるくせに。七五三は、あんまり儲からないんですよ。対象年齢の子供がいる家庭以外は関係ないお祭りですから。」と、窪内が言い、「いい運動になりましたよ。皆運動不足なもんでね。」と遠山がいい、「お守りでも買って帰りますよ。」と小堺が言った。
そして、3人とも伝子にウインクして去って行った。「あいつらも、『手下』に入るのかな?」と日向が言い、「シー。」と、あつこが指を手に当てて言った。
午前11時。EITO本部。会議室。
「終ったか。」と、理事官は夏目に言った。「終りました。」と夏目が応えた。
「腹減ったな。今日はカレーが食いたいな。」「了解しました。」と、陸自から来ている、賄い担当の三曹が、にっこり笑った。
午前11時。伝子のマンション。
知らせを受けた綾子は、一人泣いた。そして、言った。「やっぱりカレーよね。」
―完―
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