冒険232.サンドシンドロームの亡霊(前編)

 ===== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 日向(ひなた)さやか一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。高木と結婚することになった。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

 江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 青山たかし・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

 井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。

 久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

 久保田誠警部補・・・愛宕の先輩刑事だった。あつこの夫。久保田管理官の甥。

 藤井康子・・・伝子マンションの区切り隣の住人。EITO準隊員待遇。

 中津警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。

 中津健二・・・中津警部の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。

 西園寺公子・・・中津健二の恋人。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

 南部寅次郎・・・南部興信所所長。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。今は、非常勤の海自事務官。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。

 依田[小田]慶子・・・依田の妻。やすらぎほのかホテル東京副支配人。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。今は建築設計事務所に非常勤で勤務。

 橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

 松下宗一郎・・・福本の元劇団仲間。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 田尾美緒子・・・白バイ隊隊長。巡査部長。

 本郷隼人二尉・・・海自からEITO出向。

 大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITOシステム管理部長。

 大文字綾子・・・伝子の母。

 青木新一・・・Linenが得意で、複数のLinenグループの友達を通じてEITOに協力をしている。

 中山ひかる・・・アナグラムが得意な大学生。伝子達が卒業した大学に入り、伝子達の後輩になった。EITOにたびたび協力している。

 中山千春・・・ひかるの母。宝石商を営んでいる。

 池上葉子・・・池上病院院長。

 福本日出夫・・・福本の叔父。タクシードライバー。元警視庁刑事。

 松下[東山]紀子・・・松下の妻。松下が勤めていた酒屋の娘。

 芦屋三美・・・EITOの大株主でもある、芦屋グループ総帥。

 天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。EITO顧問。

 和歌山奈知・・・偽和知の仲間?


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前9時。EITO本部。会議室。

「これが、下條を襲ったナイフ。こっちがサイン会の暴漢が使ったナイフだ。下條の方は、三島商会の扱っていたナイフだ。老婆に化けた女は三島の内縁の妻だった。サイン会の方は、市販のナイフ。ホームセンターで売っているナイフだ。どちらも、大阪で見つかった死体に刺さっているものとは違う。ダークレインボーとも他の組織も直接関係ないということだ。だが、油断はならない。本郷君。」

 理事官に代わって、本郷隼人が、3種類目のナイフと銃のようなものを取り出した。

「仮に、ナイフガンと呼びます。ナイフガンは、このナイフとこの銃と一体ワンセットです。今の所は、ナイフは量産されていないのかも知れないし、まだ事件が発覚していないだけかも知れない。そして、この銃。3Dプリンターでレプリカらしきものを作りましたが、案外細工が難しい。モデルガンの部品では流用出来ない。作るのが難しいということは、作られたら、非常に危険だということだ。」と、大蔵が説明した。

「対抗手段はないんですか?」と伝子が尋ねると、大蔵は、「何もないよりはマシかな、と想って作ってみた。」と、丸い亀の甲羅状のものを取り出した。

「シールドだ。エマージェンシーガールズのユニフォームに仕込んであるミニシールドの補助にしかならんと思うが。」

「今回、下條隊員が命拾いしたのは、インカムで滑って、ナイフが肩の方にずれたって聞きましたが。」と青山が発言した。

「万一格闘の際、同じ体勢になった時は思い出して欲しい。で、このシールドだが・・・小坂、身に着けてみろ。」と、伝子が言うと、「やだあ。カッパみたい。」と小坂は文句を言った。

 金森は、黙って身に着けてみた。「あ。案外軽い。見た目は・・・色ですか?」

「流石、金森さんだ。今言ったように、試作品で一個しかない。当面は、ホバーバイクに搭載することでどうでしょうか?」と、本郷は言った。

「そうしよう。高木。管理を頼む。」「了解しました。」

 高木は理事官の指示に気軽に応じた。

 午前10時。トレーニング場。

 金森が試作品のシールドを身に着け、走っていた。

 それを見つめる、小坂。天童が小坂の肩に手を置いた。

「私・・・。」「何も言わなくていい。新町隊員が待っている。下條隊員のお見舞いに行ってあげなさい。」小坂は黙って頷いた。

 午前11時。池上病院。下條の病室。

 あかりと小坂が入室すると、須藤医官、高坂看護官、飯星が来ていた。

「聞いていると思うけど、エマージェンシーガールズのユニフォームが特殊なお陰で急所を外れたわ。新町さんの投げた手裏剣・・・何て言うんだっけ?」と、池上院長が飯星に尋ねた。「シュータです。」と飯星が簡単に答えた。

「そのシュータを、すかさず投げて、犯人の手を麻痺させたから、頸動脈を切らなかった。もっとも、素人ならピンポイントは難しいわね。」と、池上院長が言うと、飯星が「あの女は半グレの社長の妻で、慣れてなかったんでしょうね。普通のナイフでも結果は同じだったでしょうが。」と説明した。

「理事官にも言っておいた。当面は休め。私も見せて貰ったが、最低2ヶ月は戦線から離脱が必要だ。」と、須藤は言った。

「私が無用心に近づいたから・・・申し分けありません。」と、下條は頭を無理に動かし誤ろうとした。

「私に謝ってどうする。退院してから隊長に、理事官に謝れ。いつも辛く当たって済まなかった。これは誤っておくわ。」「先輩、そんな積もりで・・・。」

「先輩。先輩の愛情は、私も下條も分かっています。いつもコンビを組ませて貰ったのも、早く環境に慣れさせる為ですよね。」

 小坂の言葉に、「ちゃんと分かりあっているじゃないか。ここでも『姉妹ごっこ』見せられるとは思わなかったがな。」と須藤は言い、「高坂と飯星も、いい加減『恋人ごっこ』を卒業しろよ。」と、言い捨てて、去って行った。

「さ。これから検査よ。貴方たちも帰りなさい。」と看護師達が入って来るのを見て、池上院長は言った。

 正午。伝子のマンション。

 高遠がスマホで池上院長と話していた。「そうですか。ありがとうございます。あかりちゃん小坂隊員も、少しは肩の荷が下りたでしょう。守ってやれなかったみたいに思ってたらしいですから。天童さんが言ってました。」

 綾子がやって来た。「たこ焼き買ってきたけど、もうお昼の用意しちゃった?」

「いえ、これからでしたから。」「伝子は?」「まだ眠ってます。昨夜は徹夜でしたから。」

 あくびをしながら、伝子は起きて来た。「なんだ、来てたのか、クソババア。」

「そうよ、あんたの婿と不倫の最中よ。」と言いながら、綾子はたこ焼きを頬張った。

 高遠は知らん顔をした。もう慣れっこで、漫才かコントと思うことにした、藤井を見習って。

 着替えて、たこ焼きを頬張っていた伝子のスマホに電話がかかって来た。

「ああ、編集長。午前中に送りましたよ。」「あら、そうだった?今ね。蘭ちゃんの美容室、もとい、蘭ちゃんが勤めている美容室にいるの。偶然、稲森さんと遭ったんだけど、後で寄っていい?送ってくれるって」言うから。稲森さんが。」

「いいですよ。稲森も美容室行ったんだ。知らなかった。」

 電話を切ると、伝子は高遠に、「聞いた通りだ。美容室行きたいって言うから、蘭の店紹介したんだよ。私と同じ長さにカットするって言うし。」と言った。

「伝子も長いけど、稲森さんってもっと長いの?」「海自からの出向組。自衛官は、基本的には短髪だ。部署にもよるが。洗髪する余裕ないからな。EITOに来てから伸びたのさ。」

「ふうん。警察官はどうなの?」「束ねてたらオッケー。」

 高遠が割って入って、「そう言えば、金森さんは最初見た時から短髪だったなあ。早乙女さんは束ねてた。」と言った。

 午後2時。

 綾子が帰った後、編集長と稲森がやって来た。「稲森。尾行されなかったか?」「いいえ。蘭ちゃんの話だと、水曜日に来る場合が多いらしいです。」

「やだあ。仕事だったの?言ってくれれば我が儘言わなかったのに。」

「いいですよ、編集長。髪切るのはついでだったから。タレコミの確認に行かせたのは事実だけど。」

「変なタレコミ?」「サンドシンドロームを名乗っている人物が、蘭の勤める美容室に行ってる、って。」

「ちょっと、大文字くぅん。サンドシンドロームって前の『幹』じゃ無かった?捕まったんじゃ無かった?」

「それで、気になってね。レッドサマーも聞きつけてるかもなあ。でも、確かに、サンドシンドロームは爆発した。私たちの眼の前でな。背中にダイナマイトを仕込んだのは、私達が怪我はしても死なないことを願ってのことだった筈だ。そして、私は最後を看取った。生きてれば、幽霊だな。」

「やだあ、脅かさないでよ。幽霊恐い。」「いや、編集長。世の中で一番恐いのは人間ですよ。」と、高遠は、怖がる編集長に言った。

「偽物ですか。あ。生き残りの『枝』かも。」と、稲森が言った。

「とにかく、レッドサマーが動き出すまで、何とか片づけておきたいな。中津興信所にも調査は依頼しているが。」

 伝子は腕組みをして唸った。

「あ。それじゃ、帰るわ。高遠ちゃん、これ藤井さんに渡しといて。」と、編集長はハンドブックのサンプルを高遠に渡した。

「え?いないですか?」「うん。ここに来る前に寄ったけど。買い物かな?稲森さん、送って。」

 ところが、買い物から帰れない事情があった。

 午後3時。

 ひかるから、高遠のスマホに電話があった。高遠はスピーカーをオンにした。

「大変だ、高遠さん。Red見て。」

 伝子は、自分のPCを起動した。そして、見付けた。

 藤井康子の保護者に告ぐ。返して欲しければ、1000万円、用意しろ。1億なら大変だろうから、まけておいてやる。場所は、明日指定する。時間は明日午前10時だ。銀行から金を運んでおけ。サンドシンドロームの亡霊。

 》

 メッセージではなく、アバターだ。動画だ。声は人口の声だ。

「サンドシンドローム・・・どういうことだ。」

 EITO用のPCが起動した。EITO用のPCはEITO本部からリモートで起動させることが出来る。大抵は緊急連絡だ。

「大文字君。Redを見たかね。」「はい。今、ひかる君から教えられて、サンドシンドロームのメッセージを聞いたところです。」

「サンドシンドローム?彼女は、君たちの前で爆発しただろう?今、草薙が言ったのは、レッドサマーの方だが。」

「え?」

 高遠は、スマホのRedを起動させた。

 すると、このようなメッセージが書かれていた。伝子は声に出して読んだ。

 11月15日は、日本では「七五三」とかいうお祭り、いや、儀式があるそうだな。今、どこで再会するか、検討中だ。楽しみにしておけ。

 》

「ひかる君。サンドシンドロームの方を教えてくれたの?レッドサマーの方?」

「サンドシンドローム。レッドサマーもメッセージ上げたんだね。でも、理事官の言われた通り、大文字さん達の前で爆発したんでしょ?」

「うん。考えられるのは、サンドシンドロームの『枝』が生き残っているか、何者かが名乗っているかだが・・・。レッドサマーも。困ったな。理事官。取りあえず、『七五三』のイベント、草薙さんに調べて貰ってください。」

「了解した。今、一佐が迎えに出た。」

 午後4時。EITO本部。会議室。

「出る時、学に確認したら、藤井さんにダミーのパルスオキシメータを渡してあるそうです。それで、都知事を通じてエジプト大使館に確認を取ったところ、母が誘拐された事件の後、辞めた女性職員がいたそうです。」

「成程。では、サンドシンドロームの亡霊というのは、サンドシンドロームの枝だった女、ですね。シンパなのかも知れない。」と夏目が言うと、「あのー、シンパってなんであすか?」と、小坂が尋ねた。

 みちるはそっと、あかりを見たが、あかりは小坂を睨んではいなかった。

 もうイジメはないな、とみちるは思って、あつこに合図すると、あつこも頷いた。

「平たく言うと、心酔している支持者って意味だ。この場合、忠実な部下だったということだ。小坂。新町を慕っている小坂や下條のようにな。」と夏目が言うと、小坂は顔を赤らめた。「尊敬しているだけです。」と、俯きながら、小坂は言った。

「それで、レッドサマーの方ですが、七五三を祝っている神社仏閣は多いんですが・・・。」と、草薙はぼやいた。

「さいかい、って言ったのは、ランキングがビリってことですかね?」と馬越が言うと、「何のランキング?お参りして祝って貰う家庭の数?」と増田が尋ねた。

「七五三は徳川綱吉の時代に始まり、『帯解き』という儀式が変化したものらしい。北海道のように1ヶ月前の10月15日に行われる地方もあるが、やはり東京が発祥地だね。徳川綱吉だから。成長を祝う行事で、神社の習慣だったから、お祝いをしている寺もあるだろうが、寺は攻撃対象から外して考えていいんじゃないだろうか?大文字君。」と、理事官は言った。

 ―完―


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