冒険209.コスプレイヤー失踪事件

 ======= この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 日向(ひなた)さやか一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。

 江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

 橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

 久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

 中津健二・・・中津興信所所長。

 中津[西園寺]公子・・・中津興信所所員の1人だが、中津健二と結婚している。

 中津敬一警部・・・中津健二の兄。捜査一課、捜査二課、公安課、EITOとの協同捜査等を経て、副総監付きの特命刑事となる。警視庁テロ対策室所属。村越警視正の部下。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

 蛭田玲於奈医師・・・池上病院の泌尿器科医師。実は毒の研究家。

 須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。

 藤井泰子・・・伝子のお隣さん。モールで料理教室をしている。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。高遠を婿殿と呼ぶ。伝子に「クソババア」と呼ばれることがある。

 池上葉子・・・池上病院院長。高遠の中学卓球部後輩彰の母。彰は故人。

 真中瞳看護師長・・・池上病院看護師長。

 玉井静雄・・・コスプレ衣装店ヒロインズ店長。

 奥村節子・・・行方不明のコスプレイヤー。

 武田八重子・・・節子の友人。

 江藤警部補・・・橋爪警部補の後輩。高速エリア署の生活安全課勤務。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 枝山浩一事務官・・・EITOのプロファイリング担当。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 =================================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前9時。中津興信所。

 愛宕と橋爪警部補が訪ねてきた。

「コスプレイヤー?」中津健二の大きな声に驚いて、出掛けようとしていた所員達は一瞬振り向いた。

「高速エリア署の生活安全課に、私の後輩がいるんですが、失踪して半年になる。何とか探して欲しい、と毎日親が押しかけて来るんです。それで、愛宕警部に相談したら、ここに依頼しようか?ということになったんです。」と橋爪警部補が言った。

「実は、大文字先輩に相談したら、中津さんに助けを求めよ、と。費用は先輩が出すから、と。」愛宕が言った。

「費用は後で精算時に相談しましょう。愛宕さん、その女性の資料は?」と中津健二が言うと、愛宕は書類の入ったケースを渡した。

「半年ですから、生きていることが前提です。歯科医院にはかかったことがないそうです。死体で見つかった場合は手掛かりになるんですが。」

「取り敢えず、交友関係からですね。学校関係だけでなく、コスプレの店やコスプレ関係のSNSに投稿があるかも知れない。」

「ダーリン。潜入捜査なら、出来るわよ。」と、事務服を着た地味な女性が愛宕達にお茶を出しながら言った。

「ダーリン?」「所員で妻の公子です。大学にもまだ籍があります。」

 愛宕と橋爪は、顔を見合わせた。

 午前11時。池上病院。伝子の病室。

「先輩。ホントにいいんですか?費用。」愛宕が言うと、「いいわよ。もし、EITOの案件になりそうなら、EITOに払って貰う。」と、伝子は平然と言った。

「半年なら、ダークレインボーとは関係ないかも知れませんね。」と、高遠は言った。

「コスプレなら、みちるの手下の出番ね。」「手下?ああ。あのコスプレ店の店長ですか。」「理事官は『白藤の手下』って呼んでるの。」

「手下か。面白いわね。大文字さん、リハビリの時間よ。」と、池上院長が入って来て言った。

 午後1時15分。コスプレ衣装店「ヒロインズ」。

 愛宕が、ドアを開けると、がんじがらめに括られた、みちると店長と「男性」店員2人がいた。皆猿ぐつわをしている。愛宕と皆で手分けして、彼らを開放した。

 みちるは、皆の見ている前にも拘わらず、愛宕に抱きついた。

「DDバッジ、どうした?」「バッグの中。」公子が、みちるのバッグを愛宕に渡した。

 愛宕は、みちるに事情を聞き、伝子にスマホで電話をした。

 伝子はこう言った。「みちるがコスプレイヤーの話をした途端に、その女2人が拳銃で脅して、奥の部屋に幽閉したんだな。裏がありそうだ。理事官に申請して、EITOの案件にして貰う。タダの行方不明事件じゃない。以降は、なぎさの指示に従え。」

 愛宕は、橋爪警部補に待機するように頼んだ。「了解しました、警部。」

 すぐに、折り返し、なぎさから愛宕に電話があった。

「愛宕警部。あつこに向かわせたわ。その奥の部屋を借りて、尋問に使わせて貰って下さい。それと、店は閉めて。」

「了解しました。」

 午後1時半。

 あつこがバイクで、いや白バイに乗せて貰ってやって来た。

「愛宕君。尋問は任せて。みちる、手伝って。玉井店長、2階奥の部屋、お借りします。」愛宕は、2人の手錠を外した。愛宕は店長の名前を初めて知った。

 あつことみちるは、女店員に化けていた、女強盗を連れて2階に上がった。

 悲鳴が聞こえた。「止めて、止めてよー。」

 悲鳴は10分後、止んだ。階段を降りながら、あつこはなぎさに連絡をした。

 そして、愛宕にこう言った。「取引があるそうよ。替え玉が要る・・・。」

 あつこが言い終わる前に、手を挙げたのは、中津興信所所員だった。

「はーい、替え玉要員でーす。」と公子は言った。

 愛宕はあつこ、みちる、そして、中津興信所の2人と打ち合わせをした後、被疑者2人を連れて丸髷署に向かった。中津興信所の2人には、一旦興信所に帰らせた。

 午後2時半。中津興信所。

「ピンポイントで位置が分かるようになった?」「そうです。愛宕警部の話によると、誘拐された時、エリアしか分からない旧型のものでは、捜索に困難になるということで、DDバッジが新しくなったそうです。で、白藤警部補は、新しいバッジを所持されていたそうですが、店長を人質に取られ、バッグを取り上げられて、仕方無く捕まったそうです。DDバッジって、何ですか?」と、泊が中津に尋ねた。

「俺が兄貴から聞いた話だと、元々陸自バッジという物があって、災害救助の時に使っていたらしい。ま、その発展形だな。DDというのは。大文字伝子さんの学生時代の先輩後輩グループで、探偵ごっこをしていたらしい。その大文字伝子探偵倶楽部のメンバーは、危険な目に遭うことが多い。特に大文字伝子がEITOのリーダーになってから。そこで生み出されたのが、通称DDバッジだ。DDバッジは実は、EITOのエマージェンシーガールズも持っている。持っているだけで、どの辺のエリアかはEITOで確認出来るらしいが、ピンポイントの位置はDDバッジを押さないと分からなかったらしい。今度の改良版は、持っているだけでピンポイントの位置が分かる。実は、エマージェンシーガールズは逮捕権がない。実際は警察からも出向しているが、メンバーの正体はトップシークレットだ。連携している警察に連絡する時にも、DDバッジを押すこともあるし、上空で待機しているオスプレイに『作戦終了』とか、『この位置に急行せよ』という合図にも使うらしい。」

「あのー。ボス。」「なんだ、根津。」「どうして、私たちに詳しく教えてくれるんですかあ?」

「EITOの正式な下請け機関として認められたから。部外秘は部外秘だ。この店舗付き住宅、何で貸してくれたと思う?空き家じゃ勿体ないって理由だけじゃないんだ。」

「責任重大ね、健二・・・所長。」と、公子が言った。

 それまで黙っていた、高崎が言った。「心意気や心づもりは理解出来ました。それで、何で愛宕警部は、旧式のDDバッジで、その奥の部屋、分かったんですか?まだ新式のDDバッジは携帯していなかったんですよね、白藤警部補は。」

「EITOの草薙さんの話だと、偶然スイッチが入ったんだろうと。白藤警部補は、幽閉されている時に、自分のバッグを蹴ったそうだ。」

 中津の話に、泊は声を上げた。「偶然ですか?」

「だな。」と、中津は、ニッと笑った。「じゃ、公子と根津は、店に戻れ。EITOからの要請で、『闘い』の撮影をしてくれ。スマホより、こっちだな。」

 中津は、ロッカーからデジカメを出して、公子と根津に渡した。

 午後5時。ヒロインズの店の前。方角の加減で、辺りは少し暗かった。

 そして、店のガラス戸にはブラインドが降りていた。

 マイクロバスが停まった。中から、男が出てきて言った。

「女達は?」

「6人です。」と、公子は言った。

「よし、店締めて、お前らも乗れ。」

 出てきた男達は、両手を後ろ手に縛られ、猿ぐつわをされた女性6人を、素早くマイクロバスに連れ込んだ。女性6人は、仁礼、財前、小坂、下條、葉月、越後だった。

 店仕舞いをしてきた2人の店員も、マイクロバスに乗り込んだ。店員は公子と根津だった。

 一同が去った後、店長の玉井は、店員に『本当の店仕舞い』をさせ、愛宕から教えられた番号のスマホに電話をした。

 話し込んでいた相手は、こう言った。「今の話、私から久保田管理官に連絡します。新しいDDバッジ、身に着けて下さいね。」「了解しました、大文字さん。」

 午後6時。品川区。東京総合車両センター。

 大勢の男達が、整備用の車両の前にいた。

「連れて来たか?」「ここに。」

「どこだ?いないぞ。」「ここだよ、おバカさん。見たところ、半グレか。反社の連中より間抜け面だな。」と、なぎさは言った。

 半グレの社長らしき男は、言った。「おいおいおい。誰がエマージェンシーガールズを連れて来いって言ったんだよ、アホが。」

「アホはお前らも同じだろ?向こうにいる連中は、お前らの取引相手の那珂国人か。何か那珂国語で怒っているぞ。」

 反対側の車両の陰から、那珂国人の集団が出てきた。

「やっちまえ!」と、社長は叫び、那珂国人のリーダーも何か叫んだ。3機のオスプレイが飛来し、3台のホバーバイクが降りて来た。

 ホバーバイクとは、民間開発の「宙に浮くバイク」でEITOが採用、改造した乗り物で、運搬や迎撃に利用される。

 すぐに、オスプレイから、エマージェンシーガールズがスパイダーシュートを伝って降りて来た。スパイダーシュートとはEITOが開発した、蜘蛛が蜘蛛の巣を伝って降りるような、オスプレイから迅速に地上に降りる為の装備である。

 エマージェンシーガールズは、ペッパーガン、冷凍ガン、こしょう弾を使って、半グレや那珂国集団の銃や機関銃を封じた。

 その後、すぐにシュータやブーメランで敵を攪乱した。シュータとは、うろこ形の手裏剣で、先端に痺れ薬が塗ってある。

 仕上げはバトルスティックで半グレも那珂国集団も粉砕した。

 午後7時半。池上病院。

「おねえさま。おにいさま。今回も後方支援ありがとうございます。」

 なぎさは、土下座をした。入って来た綾子は言った。

「あら、一佐。おいた、したの?ここ、病院だから、『お仕置き部屋』ないのよね。」

 後から入って来た池上院長は、「高遠君、お芝居のお稽古?お邪魔だったかしら?」と言った。

 高遠と伝子は爆笑した。

 午後9時。伝子のマンション。

 高遠が帰宅すると、何故か、藤井が用意してくれた夜食に手をつけずに、高遠は自分のPCを起動させた。

 アプリのZedを起動させると、サンドシンドロームの動画が映った。

 アバターの人物は、こう言った。

 よくも、私の妹分を泣かせたな。作戦を前倒して実行してやるよ。今までの幹とは違う難問の宿題を解いてみろ、大文字伝子、大文字学。

 》


 高遠はすぐに、EITO用のPCを起動させた。なぎさは、今夜は一ノ瀬家に帰宅した筈だ。渡が出た。

「DDバッジの件ですか?」「Zedを見て!」

 渡が調べていると、夏目警視正が画面の向こうに出た。

「明日、会議しよう。事件が終ったと思ったら、これか。『妹分』?大文字君みたいに『義理の姉妹』がいるのか。厄介だな。とにかく、病院でもいいから、高遠君も会議に出てくれ。大文字君は出るなと言っても出るだろうが。」

「了解です。」

 両方の電源を切ると、目の前に藤井がいた。「今、暖め直しているから。」

「ありがとうございます。」高遠は、しばし言葉を失った。

 翌日。午前8時。EITO会議室。

 マルチディスプレイには、色んな人物が映っていた。

 斉藤理事官は、「まずは、事件のおさらい、だ。愛宕君。」

「はい。コスプレイヤー失踪について、橋爪警部補の後輩、高速エリア署の江藤警部補から橋爪警部補に相談がありました。そこで、私の愚妻が贔屓しているコスプレ衣装店の玉井店長にコスプレイヤーについて情報がないか、と尋ねに行くことになりました。」

「ぐ・・・愚妻、って・・・。」あつこは、「謙遜よ。大人しくして、みちる。」とみちるを窘めた。

「みちると店で落ち合う約束で、先に行かせたのですが、私達が到着すると、玉井店長はおらず、例の2人がいました。2人の名は奥村節子、武田八重子。取り調べで判明しましたが、奥村節子こそが、『消えたコスプレイヤー』でした。太っていたんです、捜索願いの写真は。目の前の我々も気づきませんでした。そして、不審に思った私がEITOに確認すると、奥の部屋にいるのではないか、と応援を呼び、電気ドリルやバーナーで解錠しました。新しいDDバッジにスイッチが入ったのは『不幸中の幸い』でした。あつこ警視の臨時の『尋問』で、何故彼女達が店員の振りをしたかが分かりました。何と節子と八重子は、人身売買組織に店のお客を渡す下請けをしていました。」

「愛宕警部。何故、今まで明るみにならなかったんですか?」と青山が尋ねた。

「今までは、ヒロインズの同業者の店に張り込んで、お客にオタク用語とかで話しかけ、誘拐していたようです。家出娘なら、アシが着きにくい、節子は自身の経験から判別して誘拐、組織に娘達を渡していたようです。ところで・・・。」

「愛宕君。話の腰を折って済まん。実は、大文字君のアドバイスで、江藤警備補に『何故失踪して半年後に』行方不明の捜索を督促しに来たかを探らせた。節子の父が先日死亡したんだが、父節夫の通帳と印鑑が持ち出されていた。そこで親族が慌てだした。当人に尋ねると、半年で使い切ったそうだ。とんでもない娘だ。で、ネットの募集に飛びついた。」

「関西で暗躍したアルフィーズ式ですね。」と、筒井が口を挟んだ。

「その通りだ。愛宕君、話の続きを。」

 久保田管理官に促されて、愛宕は語った。

「ヒロインズは、今や大手のチェーン店です。とは言え、店員は常時3人位ですが。組織に『もっと連れて来い』と指示を受けた節子達は、ヒロインズにやって来た。咄嗟に店員に成り済ましたが、失敗した。中継ぎ業者である在日阿寒国人のリー兄弟がマイクロバスでやって来て、EITO隊員と、替え玉の中津興信所の2人がマイクロバスに乗り込んだ。彼らがマイクロバスに乗り込む時にバレなかったのは、半グレの双葉商会が節子達とLinenで連絡を取っていたからです。兄弟とは面識が無かったんですね。」

「それで、EITOのエマージェンシーガールズが活躍。カッコ良かったわあ。」と公子が言った。

「こらこら。中津興信所の中津健二です。兄貴を通じて、映像を警察に届けましたが、公子達以外に、闘争を撮影する者がいたようです。女です。那珂国の集団のリーダーかも知れません。」

「詰まり、中津所長。今回の、いや、昨夜の挑戦状を送って来た、サンドシンドロームの『妹分』というのは、その女だと言いたいのかね?」と、夏目警視正が言った。

「流石、夏目警視正。私には、どうしても節子や八重子だとは思えないんです。」

「私もそう思います。八重子は、ネット友達だったらしいし、2人とも、こう言ってはなんですが、おねえさまがよく口にされる『枝』にも見えないし。」

「あつこ。拷問したのか?愛宕の話だと、顔にも腕にも傷があったらしいが。」と、伝子は言った。

「はい。おねえさま。言いつけ守らず申し訳ありません。」と、あつこは画面の伝子に土下座した。

「お前も、みちるも、退院したら、お仕置き部屋だな。あ。頼ってばかりの、なぎさもな。」

 なぎさもあつこもみちるも、土下座して「ありがとうございます。」と泣いた。

 馬場は、小声で「何なの?あれ。」と金森に小声で尋ねた。「儀式よ。冗談。隊長は冗談が上手すぎるのよ。みんなを見て。笑ってるでしょ。」と、金森は小声で応えた。

「んんん。大文字君の『義理の姉妹』の結束力は判ったが、ダークレインボーで『義理の姉妹』が出てきたのは初めてだな。」と、理事官が言うと、枝山事務官が「チャンスかも知れませんね。頭に血が上って、サイレントアタックを止めて、サイレンアタックに切り替えたということは。」ということは。」と言った。

「演技、の可能性は?」と結城が言うと、「勿論あり得ます。」と、枝山事務官は平然と言った。

「まだ我々は直接対決していないから、どういう性格か分かりませんね。」と高木が言った。

「とにかく、コスプレイヤーは殺されてはいなかった、訳ですね。」と馬越が言うと、「あ。」と増田が言った。

「節子は、今回大失敗しているけど、前回までの誘拐した子は、那珂国に連れて行かれたのかしら?」

「その辺を含めて、中津警部が、徹夜で半グレを締め上げているよ。」と、久保田管理官は言った。

「方向転換したってことは、またクイズが出るのかしら?私、クイズ苦手だな。」と伊地知が言うと、「クイズが出たら、エーアイの出番ですよね、理事官。」と日向が言った。

「まあ、そうなるかな。」と理事官は平然と言った。

「ああ、一言報告します。コスプレ店ヒロインズの玉井店長に、同業者に『誘拐』に巻き込まれる恐れがあるから、家出娘らしき女の子が来たら、警察に通報するように依頼しておきました。会員名簿も作って管理することも言いましょう、って言ってくれました。ごめんな、みちる。手下への命令権、横取りして。」と、伝子は言った。

 みちるは複雑な顔をした。

 あかりは、「命令権があったんですか?先輩。」とみちるに言った。

 みちるは、黙って、あかりの足を踏んだ。

 近くにいた江南、田坂、安藤、浜田が笑いを堪えた。

「じゃ、今朝の会議は、ここまでにしよう。進展があったら、招集する。あ、それから新しいDDバッジを持っていない者は、本郷君に申請してくれ。」

 午後0時半。池上病院。伝子の病室。

 大町が、小坂、下條を伴って来ていた。明後日の退院の手伝いの打ち合わせである。

 電話で済むことだが、小坂、下條が遭いたがった。

「じゃ、よろしく頼むよ。いつもならDDメンバーに頼むんだが、なかなか時間が合わなくてな。大町は残れ。」

 伝子の言葉に、小坂と下條は帰って行った。

「大町。新町あかりは、まだあの2人をしごいているのか?」「はあ。時々結城警部が注意しているようですが、何かというと、睨み付ける癖がなかなか直らないようです。増田も心配しています。」「以前、あつこからも注意したことがあるんだが。今度何かあったら、私から言おう。」

「お願いします。」そこへ、高遠が息せき切って入って来た。

 高遠は、スマホを開けてニュースを2人に見せた。

 ニュースが流れ、違憲異種党、しゃーみん党、虚産党の党首や党代表が誘拐されたと報じていた。

「大町さん、呼び出しがあるだろうけど、急いで本部に帰った方がいい。」

 高遠が言うや否や、大町のスマホが鳴動した。大町は2人に黙礼すると、病室を出て行った。

 今度は、伝子のスマホが鳴動した。「おねえさま。」「皆まで言うな。総理から打診があったのだな。すぐにSP隊とSAT隊と連携を取れ。誘拐時の情報を中津興信所に調べさせろ。」「はい。おねえさま。」

 食事を下げに来た、真中看護師長が言った。「大文字さんに、休みはないのね。」

「ええ、ラスボスですから。」「ラスボス?」「ひかる君と青木君が言ってた。」

「言ってくれるな。女王さまじゃなかったのか?」「僕には女王様ですね。」

 真中看護師長と看護師がゲラゲラ笑った。

 午後2時。総理官邸。

 リモートの記者会見を終えた、市橋総理が、控え室に引き上げてきた。

 なぎさが一礼した。「隊長は明後日、退院です。隊長代理の橘です。お疲れの所、恐縮ですが、経緯をお伺い致します。」

「3人が誘拐されたと目される時間は朝9時頃、いずれも自宅近く。ご存じの通り、今国会は閉会中。のんびりしていたら、油断を突かれた。午前11時頃、警察に連絡があったのは、党内の幹部で話しあってからだった。野口元総理は怒り狂ったそうよ。人命が大事だろう、と。」市橋総理は沈着冷静な総理だが、興奮していた。

「野口さんに頼まれて、一緒に、各党に、警察に届けることを説得したわ。」

「それで、警察に対策本部が置かれ、各党首の私邸に逆探知班を送り警邏やSPを配置した。総理は記者会見をリモートで行い、EITOにも連絡が来た、という流れですね。敢えて公表したのは、誘拐犯人から公表された後では後手に回る、と判断されたのですね。お見事です。」

 なぎさの言葉に、「いえ、よくまとめてくれました。流石に大文字さんの右腕ね。」と総理は言った。

「Zedの他。SNSでの犯人からの挑戦状も監視していますが、各党の政治家達は直接取引をする可能性は?」

「勿論、あるわ。そのことも踏まえて説得したの。今まで、私を含めて移民党の人間も狙われたこと、EITOが解決したことも教えたわ。」

「総理。」とSPがやって来て言った。

 隊長は、スマホを開けた。Zedを起動させ、動画を見せた。

 Zedは本来、Atwitter同様、本来は文字情報のSNSだが、動画も埋め込み出来る。その動画のアバターが言った。「総理。EITO諸君。3党首の命は48時間をリミットとする。」

 ―完―

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