冒険208.『毒』付きノート(後編)

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 日向(ひなた)さやか一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。

 江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

 橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

 久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

 中津健二・・・中津興信所所長。

 中津(西園寺)公子・・・中津興信所所員の1人だが、中津健二と結婚している。

 中津敬一警部・・・中津健二の兄。捜査一課、捜査二課、公安課、EITOとの協同捜査等を経て、副総監付きの特命刑事となる。警視庁テロ対策室所属。村越警視正の部下。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

 蛭田玲於奈医師・・・池上病院の泌尿器科医師。実は毒の研究家。

 須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。

 藤井泰子・・・伝子のマンションの区切り隣の住人。モールで料理教室をしている。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。高遠を婿殿と呼ぶ。伝子に「クソババア」と呼ばれることがある。

 池上葉子・・・池上病院院長。高遠の中学卓球部後輩彰の母。彰は故人。

 真中瞳看護師長・・・池上病院看護師長。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進むが、今は。演劇を休んで、建築事務所に非常勤勤務。

 福本日出夫・・・タクシードライバー。元警視庁刑事。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。

 守谷哲夫・・・SAT隊長。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午後9時。池上病院。伝子の病室。

「入っていい?愛し合ってる最中なら遠慮するわよ。」池上院長は、悪戯っぽく言った。

「先生まで、悪い冗談、止めて下さいよ。」と高遠は言うと、池上院長は舌を出した。

「婿いびり、されてるんだっけ、高遠君。」

「先生。須藤先生は蛭田先生とは、お知り合いなんですか?」「さっき、確認した。前に高遠君に言ったかも知れないけど、蛭田先生は『毒物研究』に関する論文で、大学を追われたの。今の『学問会議』でタブーになった、軍事研究に繋がるからって。まあ、嵌められたのね。私は、卒業して、この病院を継いだ時、母の了解を得て、この病院に就職して貰ったの。一時、所謂定年でお辞めになったけど、復職して頂いたの。須藤先生はね、他の大学の助手、今の『助教』の時に聴講に来られていたらしいの。須藤先生も、蛭田先生の知識経験を埋もれさせるのは勿体ないと思っていたそうよ。」

「じゃあ、いいチームですね。きっと、中和剤、出来ますよ。」

 高遠が言うと、「私もそう思うよ。」と言いながら、理事官が入って来た。

「夜分、済まない。実は、本格的に挑戦状が来た、EITOに。先日、新しいオーナーが社名変更したAtwitter、今のZedで投稿された。サンドシンドロームは、後48時間だと言って来た。その毒薬で亡くなる期限なのか、何か侵攻、攻撃してくるのかは分からない。毒薬の方は、2人の先生に任せよう。購入されたノートが何枚かは、分からない。高遠君。4枚のノートから分かった事は?」

 高遠は、床頭台(しょうとうだい)からPCを引き出して、起動した。

「ノートと言うより、もうメッセージカードですね。松子さんのノートにあったのは『HAN』、映子さんのノートにあったのは、『KA』、足立区の生徒のノートにあったのは、『TAI』、板橋区の生徒のノートにあったのは、『CHI』。」

「すると、やはりアナグラムなのかね。」そうなりますね。先入観を捨てて、並べ替えると、こうなります。」

 画面には、HITACHINKAと映っている。

「HITACHINKA・・・ひたちなか、かね。ひょっとしたら、ひたちなか市か。ひたちなか市の、どこかへ、来い、ということか。48時間以内に。待てよ、単にエマージェンシーガールズをおびき出したのか?」「恐らく、毒の中和剤あるいは解毒剤を持っているのでしょう。ひたちなか市の、どこなのか、はこれから考えます。」

「うむ。よくやってくれた。明日、会議して、ピンポイントの場所を検討しよう。あ。5枚目以降は?」「5枚目は『SHI』だったら都合がいいですが、そうでない場合もあります。あるいは5枚目以降に詳しい場所が隠されているかも知れません。」

「分かった。もう就寝時間だね、大文字君、悪かったね。じゃ、お休み。」

 理事官が出て行くと、綾子が代わりに入って来た。「婿殿。ごめんなさい。すっかり遅くなったわ。交代するわ。」

「お願いします。」

 高遠が病院を出ると、福本の叔父日出夫が運転するタクシーが待っていた。

 後部座席には、福本が待っていた。タクシーが出発すると、高遠は、反芻の意味を込めて福本に経緯を説明した。

「ひたちなか市ねえ。確か合併して出来たまちだよね、高遠。」「何か思い当たることがあったら、連絡してくれ。土産物でも名所でもいい。」「分かった。」

「高遠君。ロックロックフェスって知っているかね?」と、運転しながら日出夫が言った。

「え?」「ひたちなかの海浜公園で行っていたんだが、コロニーで自粛していたんだが、実行委員会が出来て、議会に掛け合って、結局今年開催されることになった、って朝刊に載っていたよ。ネットは見る暇ないが、新聞は見る暇はあるんだ。」

「それですよ、おじさん!!」福本と高遠は同時に叫んだ。

 午後10時。伝子のマンション。

 帰宅後、玄関のドアを閉めるのももどかしく、高遠は、自分のPCを起動させ、10分で確認すると、EITOのPCを起動した。

 カップラーメンを食べている、草薙が画面に出た。高遠は、ひたちなか海浜公園のロックロックフェスの話をした。

「至急、開催日時を調べます。」「ラーメン食べてからね。結果は明日でいいです。」

 EITOのPCをシャットダウンすると、高遠の鼻面をいい匂いが漂って来た。

 台所に藤井がいる。

「おにぎりとラーメン。夜食って言うより、遅い夕食ね。お帰りなさい、エーアイさん。頭脳労働しすぎね。後でビタミン剤飲んだ方がいいわよ。今夜のメニューは、奥様の注文よ。」

 そう言って、藤井は救急箱からビタミン剤を出して、玄関のドアを閉め、施錠をして出て行った。

「まるで、家政婦さん、だな。」高遠は、笑いながら泣いた。

 翌日。午前9時。EITO会議室。

「明日の午後3時。場所はひたちなか市海浜公園。ロックロックフェス会場、ですか。避難活動は?」

「南部所長の知り合いに東栄社長がいることを覚えているかね?一佐。いや、隊長代理。」と、理事官は言った。

「はい。第二ステージを突貫工事で造ってくれるそうだ。ただ、電源工事が必要だ。芦屋財閥と、陸自の設営部隊も入る。ロックロックフェスの主催は瀬名政則さんだ。MCは利根川氏だ。喜んで協力してくれるそうだ。」

 なぎさは全てを理解した。伝子と高遠が建てた段取りを。自分達のなすべきことを。

 なぎさは、あつこと目が合った。あつこは涙ぐんでいた。みちるを見た。やはり、みちるも涙ぐんでいた。

 3人は自然に近寄り、手を重ねた。

 エマージェンシーガールズ達は、微笑みながら見ていた。

 EITOボーイズも同じだった。

 マルチディスプレイに夏目が映った。

「毒の種類が分かったそうだ。解毒剤または中和剤を精製するのに時間はかかるが、最後まで諦めない、と池上院長は言っていた。」

 翌日。午後3時。ひたちなか市海浜公園。ロックロックフェス会場。

 凡そ500人の覆面集団が武器を持って現れた。誰もいない。

「何をキョロキョロしている。ロックロックフェスは中止させたよ。」と、スピーカーから声が流れた。

「散開しろ!」そう言ったリーダーに矢が飛んできた。

 リーダーは、その場に倒れた。

 馬に乗った、稲森が投げ縄でリーダーの足にロープをかけ、会場端に引きずって行った。

 リーダーは、仁礼と財前に、透明のケースに入れられた。仁礼が長波ホイッスルを吹いたら、オスプレイがロープを降ろして来た。財前が、そのロープのフックを透明ケースのロープにかけ、長波ホイッスルを吹いた。オスプレイは、透明のケースを釣り上げ、どこかへ去った。

 エンジン音が聞こえると、マセラティと伝子の改造自動車が突っ込んで来た。

 拳銃や機関銃を撃つ集団は、防弾ガラスの2台の車に酋長放火を浴びせた。

 何人かは、タイヤを狙ったが、何故か当たらなかった。

 午後3時。ひたちなか市市役所。

 庁舎に入ってきた集団は、驚いた。誰もいない。陰から出てきた、SATに簡単に全員逮捕された。

 武装した集団だったが、武器を使う暇は無かった。

 隊長の守谷は、警察無線で久保田管理官に連絡した。「制覇しました。投降させました。」「了解した。撤収してくれ。」

 午後3時。総理官邸。

 密かに侵入した筈の賊は、あっと言う間にSP隊に取り押さえられた。

 SP隊隊長は、麻生島副総裁邸に避難した総理に連絡した。「総理。戻られても大丈夫です。」「ありがとう。ご苦労様。」と言う総理の声が隊長の耳に届いた。

 午後3時半。ひたちなか市海浜公園。

 青山、高木、馬場のホバーバイク隊の冷凍ガンの攻撃と田坂、安藤の弓矢隊による矢の攻撃で、集団の多くは武器を落した。今度は、色んな方向からシュータが跳んできた。

 あかりの指導の下、下條と小坂は縦横無尽に走り回りながらシュータを撃った。

 ホバーバイクとは、民間開発の『宙に浮くバイク』をEITOが改造、戦闘用や運搬用に使用している。シュータとは、うろこ形の手裏剣で、先に痺れ薬が塗ってある。

 電動アシスト自転車に乗った金森、伊地知、葉月が、走りながらブーメランを投げた。

 他の者はバトルスティックで、敵に向かって行った。

 この痺れ薬は、実は池上病院の蛭田医師が開発したものである。

 午後3時半。池上病院。

 松子や映子、他の被害者の腕に、蛭田医師が開発した中和剤が打たれた。

「点滴が終れば、帰れるよ、みんな。よく頑張ったね。」と、蛭田は優しく言った。

 須藤は、EITOの理事官に経過を報告した。

 高遠は、久保田管理官に連絡をした。

 午後4時。ひたちなか市海浜公園。

 集団は、バトルスティックの攻撃とシュータの痺れ薬で体中麻痺して、転がっていた。

 なぎさは、長波ホイッスルを吹いた。

 愛宕や橋爪警部補が、護送車に乗った警官隊と共にやって来た。

 2人は、黙って、なぎさに敬礼し、逮捕連行作業に移った。

 筒井がホバーバイクで見回りから戻ると、500メートル先の『第二会場』から、MCの利根川や瀬名の声が聞こえて来た。

 ライブは『電気系統の故障による時間と会場の変更』により、スタッフ・観客共に第二会場での開催で進行していた。

 会場整理には、物部達DDメンバーと中津興信所のメンバーが当たっていた。万一の時は避難誘導する為である。

「物部さん。連中が全員逮捕連行したそうです。」とインカムで連絡を受けた中津健二が物部に言いに来た。

「折角ですから、観て帰りますか。」「そうですね。しかし、突貫工事とはいえ、よく第二会場を短期間で設営出来ましたね。」

「ええ。大文字のコネでね。大文字は、いざという時は反社や半グレでも動かしますから。ああ、総理官邸も市役所も無事だそうですよ。市役所班の集団は、到着まで苦労したでしょうね。尋常じゃない『交通渋滞』があった筈ですから。」

「流石としか言いようがないですね。じゃあ、楽しんでから帰りますか。」

 午後5時半。池上病院。伝子の病室。

「深夜になるけど、警察が護衛するから、今夜中に5人とも家に帰すわ。」と、池上院長は言った。

「ありがとうございます。『3つの』現地は皆逮捕連行。ライブは盛り上がっているそうです。」

 伝子のスマホが鳴動した。伝子はスピーカーをオンにした。「おねえさま。あの『ボンドカー』、頂戴!」となぎさが甘えた声で言った。

「ダメ。つけあがるんじゃない!・・・よくやったな、なぎさ。休日は乗っていいよ。」

 伝子がスマホを切ると、また鳴動した。伝子はスピーカーをオンにした。「おねえさま。今度、あのマセラティ。貸してよ。」

「500円。」「500円?」「100メートル500円。」「何、それ?払うけど。」

 伝子がスマホを切ると、また鳴動した。今度は中津警部だった。

「大文字さん。路上販売者を、複数の目撃者の証言を元に、確保しました。今のところ、『頼まれた』の1点張りです。どうやら、アルフィーズ系のネット委託犯罪のようです。現場の方も、逮捕連行したそうで、良かったです。こういうと身びいきですが、中津興信所を利用してありがとうございました。」

「それは、理事官と夏目さんの判断ですから。ああ。被害者の5人は快方に向かっています。蛭田先生のおかげですね。報告ありがとうございました。」

 スマホはもう鳴動しなかった。

「副部長達は、ライブを観てから帰るそうだよ、伝子。」

 午後6時。看護師達が夕飯を運んで来た。綾子も入室した。

「じゃ、ごはんにしましょ。」と言って、池上院長は出て行った。

「じゃ、僕も帰ろう。お義母さん。全部解決です。」

 高遠が帰った後、綾子は言った。「ホントにいい婿だわ。たまに抱いてくれるし。」

「気色の悪い冗談止めろよ。学はアタシのもんだからな。」

「はいはい。親子喧嘩はご飯の後にしましょうね。」

 真中瞳看護師長の言葉に、看護師達はクスクスと笑っていた。

 ―完―

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