冒険100.燃える大文字邸

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。蘇我と結婚した逢坂栞も翻訳部同学年だった。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 南原蘭・・・南原の妹。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 愛宕[白藤]みちる・・・愛宕の妻。結婚後退職していたが、現役復帰して旧姓の白藤を名乗っている。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

 福本[鈴木]祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。後に福本と結婚する。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。警部から警視に昇格。久保田刑事(久保田警部補)と結婚。

 橘なぎさ一佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

 斉藤長一朗理事官・・・EITOをまとめる指揮官。

 藤井康子・・・伝子のマンションの区切り隣の住人。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・・伝子の替え玉もつとめる。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。

 中津健二・・・中津警部補(中津刑事)の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。

 夏目房之助・・・市場リサーチの会社を経営。実は?警視正。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


『死の商人』のラスボスが登場してから3日後。

 午前9時。伝子のマンション。

『シネコンって言うと、総入れ替え制?』

 依田達が、そんなことを言っていたのを伝子は思い出していた。まさか、ウーマン銭湯のオーナー杉本幸子がラスボスだったなんて。通称リン・磯子は杉本幸子と名乗り、初めは前オーナー夫婦の経営する銭湯の従業員として就職した。

 ある日、杉本はオーナー夫婦を毒殺し、あろうことか銭湯の窯で死体を焼いた。

 暫くして、杉本は、丸髷署生活安全課に相談に行った。そこで対応したのが、みちると愛宕の夫婦だった。そして、みちるのアイディアで男湯を廃してシネコン式のモダンな『女性専用』の銭湯が誕生した。大改造の結果、繁盛する銭湯はインターネットを通じて有名になった。

 高遠は、以前から違和感を持っていたそうだ。繁盛しているのだが、伝子達を贔屓にする理由が、みちるがアイディアを出したというだけでは弱い気がしていた。

 そして、あの日。『入れ替え』まで待てばいいのに、貸し切りはけしからんと因縁つけた女性客。何故、わざわざ怪しい奴だと警視庁にメールで映像を送ってきたのか?時限装置といい、アリバイ作りだったのでは?と疑った。

 決め手は、ウーマン銭湯に行った人数から、ひかるを引いた人数が、犯人が指摘したエマージェンシーガールズの人数だったことだった。

 高遠は、伝子達を一気に殲滅するに違いない、と進言した。その上で『替え玉』が用意された。エマージェンシーガールズに『扮する』のは、EITOの女性事務局員と女性警察官と陸自の女性自衛官と、体格が伝子に似た、日向の混成だ。鍵をかける振りをして、日向は鍵をかけなかった。

 久保田管理官は、窪内組長達に声をかけ、杉本が集合をかけた者達の一部をヤクザ組員とすり替えた。杉本の配下の集合場所が銭湯近くの公園で、彼らはお互いの顔を知らない者ばかりだった。逮捕した配下の代わりにヤクザ達は紛れ込んだ。

 テレビ中継する積もりなら、TV局をジャックするだけでなく、実況ブースを使うだろうと利根川の考えを受けて、実況ブースは天童達に、TVジャックの方は副島と筒井に任せることにした。

 応援に駆けつけた総子とみちるは、密かに『ベンチ』で待機していた。こうして、ラスボスの計画より上回った高遠の推理とEITOの対応力が勝利に導いた。みちるの渾身のキックは会心の一撃だった。

 ぼんやりと考え事をしていた伝子の肩を叩いたのは、依田だった。

「ヨーダ。どうしてここが?」「高遠に聞いたよ。『探さないで』って書いて家出したら、ここに来るしか無いから迎えに行って、って言ったんだ。大した奴だ。かなり成長したよ、高遠は。ここに俺が運び込んだ時はピイピイ泣いてたくせに。」「ピイピイ?雀か?」

「みちるちゃんのこと気にしている?犯人にウーマン銭湯開業させたのがみちるちゃんだから、責任を感じていて、あの時も流産したばかりなのに、飛びだした。それが先輩の責任?違うでしょ。先輩の流産のことも高遠から聞いたよ。みちるちゃんを戦線から外そうと躍起になっていたんだよね。俺たちは運命共同体。確かに『次、狙われるのは誰か』ってパニクっちゃったけどさ。」

 その時、伝子のスマホが鳴った。理事官からだ。伝子はスピーカーをオンにした。

「マンションにいるのか。」「理事官。お願いがあります。」「引き受けた。」「まだ何も言ってませんが。」「そのマンションに戻りたい。そういう願いなら、引き受けた。」「ありがとうございます。」「その後、分かったことを取り敢えず連絡する。ウーマン銭湯の本来の持ち主、殺された三枝夫妻の親族が上京して、骨のないまま葬儀を行うそうだ。ウーマン銭湯は閉業。しかし、元従業員の三人が、ある奇特な団体の融資とクラウドファウンディングで、少し離れた場所で『ウーマン銭湯』を開業する。」「奇特な団体ってEITOですか。」「まあな。すぐに収益で取り返すさ。それと、クレームつけた女だが、女子大生のバイトだった。杉本とも死の商人とも関係ない。アリバイ作りに利用されただけだ。」

「理事官、ありがとうございます。」と、依田が割り込んだ。

「その声は依田君か。副支配人、就任おめでとう。宅配便の方は?」「一昨日退職して、歓送会開いて貰いました。」「そうか。明日の祝勝会は楽しみだ。それでは。」

「帰ろう、先輩。高遠が、日本一の婿殿が待っている。」

「そうよ。ああ、私も監視役から解放されるのね。いいバイトだったけど。」と、藤井が入って来て言った。

 午後1時。

 依田と伝子、高遠が昼食を終えると、EITOの職員が、伝子の荷物を箱に詰め、運び出した。急に決まった『引っ越し』の為、取り敢えず、伝子の叔父の遺品であるAV機器やPC等、それと伝子のクローゼットからEITOの予備室に運ぶことにした。

「長いようで、短い期間だったなあ。文字通りショートステイだったね、伝子。」と、コーヒーを入れながら、高遠は言った。

「本当なら、山城の知り合いやヨーダに手伝って貰うところだが、EITOでやるって言ってくれたから、助かるよ。」と伝子が言うと、「心はもう、マンションに行っているって感じだな。」「ああ。結果的にあのマンション自体が叔父の遺産みたいなものだからな。」

「思い出すよ。先輩が俺に『助けてくれ』なんて言うのは初めてだったし。」「ああ。クルマは車検に出したばかりだし、学から『放り出される』って泣いて電話してきたし。頼れるのはヨーダしかいなかったからな。」

「高遠の荷物も極端に少なかったから、宅配便の配達車で間に合ったけどさ。二人の目を見て、『お邪魔虫』だと思って退散して良かった。」

「ヨーダはキューピッドだった。今でも感謝しているよ。」伝子は言った。

 その時、EITOの職員が声をかけた。「あのー。書斎の部屋の荷物も運んでいいですか?」「はい。お願いします。」と高遠が応えた。

「EITO用のPCとかも基地に運ぶらしい。仕事早いね。」と、高遠は感心した。

「で、いつ引っ越すの?」と依田が二人に尋ねると、「祝勝会兼お前の就職祝いの会」が終ってから。」と、伝子が応えた。

 午後3時。

 依田は帰って行った。

 翌日。午後2時。大文字邸。「そうか。ここでの茶話会やミーティングは今日で終わりか。」

 到着するや否や、依田から説明を受けた福本が言った。「ここは、どうなるのかな?」。

「残るよ。当面はEITO基地の人達の宿直室。」と高遠が言うと、「でかい宿直室ねえ。」と祥子が言った。

「取り敢えず、ラスボスまで倒したんだからね、先輩達は。」と南原が言うと、「凄いよね。」と文子が相槌を打った。

「でも、違う幹があるって言われているんでしょう?それは、やっぱり『死の商人』みたいな組織ですかね、先輩。」「分からんな。横の繋がりがないから、杉本も情報を持っていないらしい。ただ、幹同士関わっていなくても、枝と枝が絡むことはあるかも知れない、とは言っていた。」伝子は服部の質問に答えた。

「じゃ、いつ事件が起こるか、分からないのね。」と、コウが眉間に皺を寄せた。

「今日は、山城さんは来ないの?」と福本が蘭に尋ねると、「はい。もう海自の研修期間に入ったので。事務官も隊員みたいな研修があるんですって。訓練じゃないけど。」と、蘭は応えた。

 そこへ、物部夫妻となぎさ夫妻、あつこ夫妻、みちる夫妻、そして、慶子がやって来た。

「依田君。就職おめでとう。」と開口一番あつこが言うと、「まだ早いよ。『乾杯』の後で言うもんだよ。」と久保田警部補が言った。

「そうなの?」と首を捻るあつこに「そういうものよ、ねえ、あなた。」と、みちるは愛宕にしな垂れかかって言った。「う、うん。」と愛宕は困った。

「慶子。いきなり副支配人で大丈夫なのか?」「大丈夫。副支配人候補だから。」

「え?違うのか?」「違います。おっちょこちょいだから。」

 皆は爆笑した。

「じゃあ、そろそろ副部長に、乾杯の音頭を取って頂いて・・・。」と高遠が言いかけると、「ちょっと待ったあ。」と、声をかけて入って来た男達がいた。

 中津健二と夏目警視正だ。「高遠さん。俺たちはワインがいいな。ある?」

「はいはい。」中津の突然の要求だったが、高遠は二人分の食事とワインを用意した。

「では、僭越ながら、私が。EITOの皆さんの活躍で、敵を『幹の根元』まで追い詰め、逮捕されました。感謝の極みです。また、今回我らの依田君が再就職し、副支配人・・・候補になりました。祝勝会と就職祝いの会の始まり始まり・・・乾杯!!」

 宴が1時間続いた頃、家の電話がかかってきた。

 高遠が電話に出た。

「大門さんですか?大文字さんじゃないんですか?」高遠は不審に思って、「どちら様ですか?」と尋ねると、「大文字さんじゃないんですか?」と更に相手は尋ねてきた。

 高遠は、「何番におかけですか?」と尋ねたが、遠くから依田が「おーい、高遠。セールスなら早い内に切った方が得策だぞう。」と声をかけた。

 電話の相手は笑い、「やはりそうですか。大文字学さん、実は高遠学さん。大文字伝子さんの夫ですよね。」

 高遠はスピーカーをオンにした。

「じゃあ、始めようかな?」と言って電話を切った。

 受話器を戻しながら、高遠は言った。「ばれた。ヨーダの一言で。」

 物部が察して、依田に「馬鹿野郎!アルコールも飲んでいないのに、酔ったのか!!」と怒鳴った。

 伝子は、すぐに台所に走り、赤いスイッチを押した。

 コンピュータ音声が流れ出した。「緊急、緊急。緊急システムが作動しました。緊急でない場合は直ちに止めて下さい。緊急の場合は、速やかに避難して下さい。」

「学。皆とジュンコを連れて秘密基地に逃げろ。なぎさ、あつこ、みちる。行くぞ!エマージェンシーシスターズ、出動!!」「了解!!」3人は元気よく応えた。

 伝子達は、通路を走った。隔壁が上がり、そこを抜けると、階段だった。犬小屋の側のチェーンの繋がった棒が下がり、解放された、犬のジュンコが高遠について走った。

 伝子達に続いて、高遠達も階段を駆け下りた。全員が階段を降りると、隔壁が下がった。隔壁の手前側は『1階分』下がった。階段部屋が下がると、表の、カムフラージュしたガレージは『地面』になった。『どんでん返し』のあった部屋は内側のシャッターが降りた。大文字邸内部の照明が消え、電源がオフになった時、外で爆発音がして、大文字邸は燃えだした。

 ―完―


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