冒険101.EITO秘密基地

 ===== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は巡査。

 愛宕[白藤]みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。

 橘なぎさ一佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

 金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・・伝子の替え玉もつとめる。空自からのEITO出向。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者の1人。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。

 早乙女愛・・・元白バイ隊隊長。EITO参加後も、普段は白バイに乗っている。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。

 物部[逢坂]栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。蘇我と学生結婚したが、蘇我は、がんで他界。最近、物部と再婚した。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。宅配便ドライバー。

 小田慶子・・・依田の婚約者。やすらぎほのかホテル社長秘書。企画室長。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。

 南原[大田原]文子・・・学習塾を経営。南原の妻。

 南原蘭・・・南原の妹。美容院に勤務。山城の婚約者。

 山城順・・・伝子の中学の書道部後輩。愛宕と同窓生。海自の非常勤一般事務官になった。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。

 福本[鈴木]祥子・・・福本と同じ劇団員だった。福本の妻。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 服部[麻宮]コウ・・・服部の、押しかけ女房。

 江南(えなみ)美由紀警部補・・・警察犬チーム班長

 久保田誠警部補・・・警視庁捜査一課刑事。EITOの協力者。あつこの夫。久保田管理官の甥。

 久保田管理官・・・EITO前司令官。立てこもり犯の交渉人。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。

 藤井康子・・・元伝子のマンションの区切り隣の住人。モールで料理教室を開いている。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。警視庁からの出向。

 村越警視正・・・副総監付きの警察官幹部。あつこがEITOに移ってから、副総監の秘書役を行っている。

 大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITO資材管理部部長。

 枝山浩一事務官・・・EITOのプロファイリング担当。

 一ノ瀬孝・・・海自一佐。橘なぎさ一佐の婚約者。海自からEITO出向。

 夏目房之助・・・市場リサーチの会社を経営。実は警視庁からの出向の警視正。

 藤村警部補・・・高速エリア署刑事。

 花菱巡査長・・・大阪から高速エリア署に転勤してきた刑事。

 蒲田巡査部長・・・山形県警の刑事。

 橋爪警部補・・・島之内署の刑事。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 EITO秘密基地。広大な敷地内の地下に広がっているのは、正に秘密基地と言うに相応しい景色だった。オスプレイは3機、駐留している。

 宿舎は5棟ある。その隣にあるのが情報室。EITOベースゼロとの通信が出来る。

 その隣にあるのが、予備室。昨日、引っ越しの前準備の為に、伝子の叔父の荷物は一時安置していた。その隣には、食堂と会議室がある。

 高遠達は、昨日荷物を運んでいた作業員に予備室に案内された。

 作業員がいなくなると、物部はいきなり依田をグーパンチした。一ノ瀬や久保田警部補や愛宕がいたら止められていたかも知れないが、彼らはオスプレイの方に走って行った。中津も夏目もだ。ここは純粋にDDメンバーだけだった。

 物部は無言だった。依田は、自身のお祝いの会に有頂天になっていたのだ。敵の攻撃は予想以上に早く始まった。高遠の素性が依田によってばらされたことで、即攻撃に入った。高遠や伝子の判断が早く無ければ、全員家ごと吹き飛ばされていたのだ。

 同じ頃。伝子達が乗ったオスプレイは、急襲した賊の自動車を追跡していた。

 あつこと伝子は、片手片脚をロープに絡ませた格好でオスプレイから降りて来た。慎重に狙いを定めて、シューターをタイヤ目がけて投げた。1発。2発。3発・・・5発目であつこが投げたシューターがタイヤに当たり、バースト。高速道路に入ってすぐ、壁にぶち当たってスライドして、止まった。なぎさが、パラシュートを操作して、側に降り立った。火薬の匂いを感じたなぎさは、すぐに、高速道路の壁から飛び降り、予備のパラシュートで下の一般道路に降りた。

 自動車は炎上した。黒煙が立ちこめた。みちるの連絡を受けた消防と白バイが駆けつけた。

 午後6時。暗くなった空間に赤い炎はなかなか消えなかった。

 午後7時。EITOベースゼロ。

 伝子達は帰還した。秘密基地には当面戻れない。大文字邸から少し離れていても、どこで敵が見ているか分からない。EITOが密かに防犯カメラを増やした後で無いと戻れない、と理事官に言われた。

 午後7時半。EITO秘密基地。

 食堂で食事を終え、待機していた高遠達は、予備室に呼ばれた。通信用ディスプレイに理事官が映っている。

「まずは、全員無事で良かった。24時間は、そこから動けない。24時間以内に防犯カメラを増設して、安全が確認出来たら、帰宅して貰う。各自、報せておくべき人に、今の内に報せて欲しい。大文字君達はベースゼロの待機室で泊まって貰う。犯人はタイヤがバーストしたらすぐに自爆をした。手掛かりが、どの程度残っているかは分からない。大文字邸は半焼だが、無残な姿だ。MAITOが消火弾を落としてくれたからまだしも、という感じだね。」

 ディスプレイには、表からの大文字邸が映されている。再び理事官の顔が映し出されると、理事官はこう言った。

「不幸中の幸い、と言うべきか、遅れてきた筒井が、野次馬の中から不審な人物を写した。それがこれだ。」

 今度は、写真が映った。「サッカーのユニフォームだわ。先日の国際試合で日本選手が着ていたのと同じ。」と、蘭が言った。

「ユニフォームからは特定は出来ないだろうが、細かく調べる予定だ。皆、そこの基地の宿舎で泊まってくれ。寝心地は依田君に聞いてくれ。」

 画面から理事官が消えた。皆、無言だった。連絡タイムが終ると。作業員に案内されて、高遠達は自室に引き上げた。

 宿舎A。各部屋は4人部屋である。物部が嫌がったので、高遠は福本、依田、服部と相部屋になった。

「副部長。かなり怒ってたなあ。」と福本が言った。

「俺が『おっちょこちょい』だから・・・。」と依田は泣き出した。

「もう、いいよ。ヨーダが反省していることは皆分かっている。副部長も素直になれないだけさ。」と高遠は言った。

「犬小屋まであるから、びっくりしましたよ、高遠さん。」と、服部が言った。

「うん。今日の事態はシミュレーション済みらしい。マンションでも赤いボタン付けられたけど、こんな大がかりなシステムとはねえ。」と高遠が言うと、「そう言えば高遠。大文字邸、警察や消防、不思議な造りの家に気づかない?」と、福本は言った。

「思わないさ。警察の『お仲間』なんだから。ただ、マスコミに気づかれないように工作はするだろうな。全焼だったら、かえって分からないかもだが。そのためのMAITOの消火弾だと思うし。」

「あ。今度は高遠さんが『死ぬ』ことになるの?」「うーん。旅行中だったとか。生前葬、こりごりだよ。もう寝よう。」

 翌日。午前9時。EITO秘密基地食堂。

 朝食を採りに皆が集まった。昨日案内してくれた隊員が来た。

「申し遅れました。EITO資材管理部の大蔵太蔵と申します。大袈裟な名前ですが、本名です。昨日24時間待機と申しましたが、お昼くらいには新防犯カメラの設置が終りそうです。陸自の応援が来ましたので。」

 大蔵の説明に、「お昼には帰宅出来るということでしょうか?」と栞が代表して大蔵に尋ねた。「はい。確認のチェックが終わり次第、お伝えしますので、大文字邸の、『いつもの』隠し玄関からお帰り下さい。」

「大文字邸はどうなるんですか?」と、福本が尋ねた。

「修復します。ご主人様次第ですが。予定されていた、大文字さんの引っ越しは明日になりますが、構いませんか?高遠さん。」「ええ。でも、何故大文字邸、いや、大門学の家を修復して残すんですか?」「秘密基地のカモフラージュの為です。世間には、1軒の家が火事にあった、ということになっていますから。」「成程。」

 同じ頃。高速エリア署。

 自動車の爆発事件ということで、捜査本部が設けられていた。

 本部長として高速エリア署署長が中央に座っている。隣には、警視庁代表として、村越警視正。隣にEITO代表として、エマージェンシーガールズ姿のなぎさが座っている。

「EITOが高速道路で自動車を襲うって言うのは、前代未聞じゃないですかね。」と発言する者がいた。「つまみ出せ、どこの記者だ?今は捜査会議だ。記者会見じゃない。」

「いえ。逮捕して下さい。」となぎさが発言した。「よかろう。逮捕だ。」と村越が言うと、警察官が男を連行して退出させた。

「行き過ぎとチャイますのん。本部長。」と手を挙げながら発言した署員がいた。

「花菱刑事。手を挙げるのはいいが、君にまだ発言権は与えていない。転勤してきて張り切るのはいいが、ルールをわきまえて。」と署長が窘めると、村越が割って入った。

「まあまあ。EITOの副隊長には考えがあるはず。それを聞きましょう。」

「那珂国のスパイには特徴があります。出過ぎることです。確かに我々はシューターを放ちました。分かりやすく説明すると、うろこ形の手裏剣です。飽くまでもクルマを止める為です。警視庁を通じて爆破予告があり、駆けつけると民家が燃えていました。

 我々は、民家から逃走するクルマを追跡し、止めたのです。クルマのタイヤがバーストしたので、ドライバーを救出しようとしたところ、燃えたのです。シューターを撃ったから炎上したのではありません。」

 村越が言った。「既に鑑識により、クルマの中に火薬がばら撒かれていたことが分かっています。それと、シートベルト以外にドライバーにロープが巻かれていたことが判明しています。」

「追い詰められて自爆・・・と違いますのんか。」と言う花菱に、「違います。追い詰められてはいたけれど、自殺させられた・・・いや、他殺です。既にご存じのように、我々は『死の商人』と名乗るテロ組織と闘って来ました。」と、なぎさが応えた。

「ほな、残党でっか?『死の商人』の。」「まだ、分かりません。ただ、言えるのは、事故ではなく、事件です。ガソリンに引火したのでなく、火薬に引火したのです。直ちにテロとは決めつけられませんが、犯人がいるのです。今の記者は、探りをいれに来たスパイです。」

 捜査会議は、亡くなったドライバー今中信吉の交友関係と、スパイと思しき記者の捜査に絞られた。

 午後3時。EITOベースゼロ。会議室。

 村越警視正が招かれている。

「どうなんだ?夏目。反社や半グレの動きは?」と村越は夏目に尋ねた。

「特に目立った動きはない。死の商人と関係があるか、無関係かはこれから次第だな。今分かっているのは、大文字夫妻がマークされていることだけだ。」

「DDメンバーは帰宅させたよ。ただ、集合は避けて欲しい、と念を押しておいた。」と、理事官は言った。

「済みません。」と伝子は理事官に頭を下げた。「大文字君が頭を下げる理由はないよ。悪いのは、マフィアだ。」

「警視庁から入電。高速2号線でタイヤのバースト事故。クルマは炎上していますが、煙が異常だそうです。高速エリア署からも連絡。この事故は、昨日のものと関連があるのでは?と言って来ています。」と、河野事務官は報告した。

「やれやれ。まずは現場に行って来ます。」と、村越は言い、伝子、なぎさ、あつこ、みちるが一緒に出動した。

 第2高速。結城、早乙女と藤村警部補が炎上中のクルマを消火している消防車から少し離れた所にいた。

「偶然ではないですよね。」と藤村が言うのに、「偶然の筈がない。昨日、我々がバーストさせるのをどこからか見ていた。だから、真似たんだ、わざと。」と伝子が言った。

「何の為にです?行動隊長さん。あ。申し遅れました、高速エリア署の藤村です。」「どうも・・・どうも解せない。何故真似る必要が・・・挑戦か?挑発か?」

「テロリスト集団のマフィアの仕業ですか?」「かも知れませんね。」

「警部補。捜査本部へ行きましょう。」と、結城が提案し、皆は移動した。

 午後4時。捜査本部。

 署長が苦虫を潰した顔をしている。

「恐らく、連続事件ですね。」と村越は言った。

「今までに加えて、二人のドライバーの交友関係や共通点を探し出さないといかんな。」

 捜査会議が終ると、あつこは村越に言った。「警視正。我々は一旦、EITOベースに帰ります。」「うむ。ご苦労様。大文字君、明日は引っ越しだが、どちらにも帰れないな。」

「分かっています。私は3件目があると思います。」

 翌日。同じくらいの時間帯。即ち午後3時頃。今度は高速3号線で起きた。目撃したカップルが110番し、警察と消防が駆けつけたが、妙な煙が黒煙と混じっていて、薄気味悪かった、とカップルは証言した。

 EITOベースゼロ。

 報せを受けて飛び出そうとした伝子達を呼び止めたのは、草薙だった。「河野事務官。ドライバーの名前は寺門真吉、でしたね。」「ええ。今入電した所によると、運転免許証から名前が判明しました。」

「枝山事務官、アンバサダー。一昨日のドライバーは今中信吉、昨日のドライバーは谷中伸吉です。『シンキチ』以外の共通点は今まで見つからなかったんです。年齢、出身地、学歴、職歴、職業、収入、趣味、借金。どこにも共通点は無かったんです、前の二人に。」

「偶然と普通は片付けるだろうが、私には、そうは思えないな。」伝子の言葉に理事官は反応した。

「何故?」「性格ですよ、奴の。学が電話を受け取った時、自信満々の確認だったと言っています。」「つまり、自己顕示欲ですか?」枝山事務官が尋ねた。

「そう。表札は『大門学』になっている。奴は大文字学か?大文字伝子の夫か?と尋ねている。予め私の名前を知っていて、何らかの手段で戸籍の情報を手に入れている。」

 枝山事務官と伝子の会話を聞いていた夏目は、「いい線かも知れませんね、理事官。」と理事官に確認をした。

「うむ。村越警視正に連絡しておこう。エマージェンシーガールズは今回いかなくていい。警察に任せておこう。それと、大文字君。帰りたまえ。と言っても、引っ越しが済んでいないから、まずは秘密基地だ。」

 午後4時。EITO秘密基地。

 大蔵は、裏山のオスプレイ発着地から帰った伝子に言った。「後2時間もすれば、荷物の搬入は終わります。細かい作業は明日改めて行います。手荷物の準備を願います。」

「なんだ、ここではセックス出来ないのか?」「伝子さん。大蔵さんを困らせちゃダメでしょ。お義母さんの悪い癖が移ったのかな?」

「ははは。流石アンバサダーは貫禄ですね。迎えは橘一佐がジープで来てくれるそうですよ。」「今乗ってきたオスプレイは?」「これから整備です。新しいセキュリティーシステムで厳重にチェックずみですが、緊急発射口からジープは侵入します。ですから、お二人は世間の目に触れません。」

 午後5時。緊急発射口。

 発射口は秘密基地の端の方にあった。大蔵がドアを開けると、スロープをジープが降りて来た。

「お待たせ。おねえさま。おにいさま。」なぎさは陸自の格好をしていた。「万一、市民に見られたら、陸自のジープが動いたことにするわ。」

 伝子達が乗り込むと、ジープは猛烈なスピードで走り出した。300メートルほど緩いスロープをジープは駆け上がった。ジープは変電所の裏に出た。変電所はイミテーションである。

 午後6時。伝子のマンション。

 入って来た二人は驚いた。想像通り、つまり、引っ越す前とほぼ変わりが無い。変わったのは、外壁だけだ。

 チャイムが鳴った。藤井だった。何か盆に乗せて持って来たようだ。「お帰り、二人とも。チャーハンだけど、いい?お腹減ったでしょ。」「いくら?」「2億に負けとくわ。」

 伝子の冗談に藤井も冗談で返した。二人は今までの経緯を話した。

「2件目以降の爆発事件は何故?大文字さん達が追ってた訳じゃないんでしょ。バーストしなかったんでしょ?」と藤井は言った。

「マスコミには発表していないけれど、シートベルト以外にも体にロープが巻き付いていた。火薬が床に蒔かれていて、発火物はライター。遺書はなし。スマホその他の通信手段なし。詰まり、外部からの指示とは断定出来ない。」「時計は?同じくらいの時間帯って言ったわよね。自爆だとして、同じ時間帯を思いつく?ああ。もう3時か。おやつの代わりに自爆してみるか、って。」

 藤井の思いつきに、高遠は拍手喝采した。「凄い。藤井さん、やるじゃない。名探偵だよ。」

 伝子は村越警視正に連絡した。スピーカーをオンにした。

「所持品の中に時計はある。君が指定した通り、自分の時計を見た可能性はあるね。誤差はあるが、同じくらいの時間帯だ。時限装置はなかったし・・・そうか。クルマに乗る前に何者かに指示されていた。すると、1番目の爆発事件は、その何者かが大文字邸爆破とセットにしただけで、君たちが追っていたから起こった訳じゃ無かった。つまり、タイヤをパンクさせなくても、『予定通り』起こったんだ。今、捜査本部では、高速に乗った走行距離が同じじゃないことが、話題に上がった所だ。これで、大文字邸爆破に言及しなくて済む。早速、『何者かの時間設定された強要自爆』を進言してみよう。今日は、ゆっくり休んでくれ。明日、4件目が発生すれば、もっとはっきりするだろう。」

 電話は切れた。

 伝子はすぐ、EITO用のPCで理事官を呼び出して、今の推理を話した。

「なるほど。少し開けたな。草薙から報告がある。」そう言って、草薙と交替した。

「アンバサダー。名前の共通点『シンキチ』ですが、運転免許所持者で『シンキチ』は全国で2000人いました。東京都に絞っても50人。4番目のターゲットが誰なのか、材料が足りません。」

「預貯金の出し入れとか、ネットの出没とかを組み合わせられるかしら?」「やってみます。」

 映像は消えた。

「さあ。お暇しましょうかね、『子作り』の邪魔をしちゃいけないから。あ。そうだ。自治会には、ボヤを出しただけだったけど、『生前葬』をしたって言っておくわ。それで、犬はどうするの?ジュンコちゃん。」

 藤井の問いに、「福本が引き受けてくれました。福本のお母さんも、1頭散歩させるのも2頭散歩させるのも同じだから、って。番犬2頭もいれば心強いって、言って。」と高遠は応えた。

「そうなの。良かった。あれ以来五月蠅い人がいつまでも言うからね。」

 藤井は帰って行った。

 高遠はテレビをつけてみた。副総監と総理の記者会見が行われていた。未然に防げないのか?という詰問に困っていた。

「無理って言うしかないな。今のところ。」と伝子はため息をつき、高遠は風呂の準備にかかった。

 高遠が風呂の準備を済ませて戻ってくると、全裸の伝子がいた。「まだ、沸いてないよ。」「沸かせてやるよ、来い!」と、伝子は強引に高遠を寝室に連れて行った。

 翌日。午前9時。

 なぎさが迎えに来た。

「おねえさま。よく寝た?」「よく寝た。8ラウンドしたからな。」

「ふふふ。久しぶりに『仲良く』したのね、おねえさま。おにいさま。」と、なぎさは含み笑いをした。すっかり。女っぽくなった、なぎさに伝子達は圧倒された。

 二人が出掛けると、EITOのPCが起動した。草薙だった。

「高遠さん。最近『実入りがよくなったシンキチ』が5人いました。その内3人があの3人です。EITOの会議にも、捜査本部にも提言します。残りの2人を保護しないといけませんね。」

 午前11時。高速エリア署。

 EITOの会議を簡単に済ませ、伝子達は捜査本部に来ていた。

 村越警視正が、『シンキチ』情報を発表した。「ここ3ヶ月以内に、どこからか5人には入金がありました。100万円です。」

「100万円で自爆ですか?借金ですか?」と花菱巡査長が発言した。

「それが、その情報がないのです。花菱刑事の疑問はもっともなことです。それと、公安にもマークされていませんでした。」と言う村越警視正に、エマージェンシーガール姿の伝子が言った。

「思想が根底にあると、借金は関係なくなると思います。『イスラム国と名乗るテロ組織』のことは覚えておられると思いますが、直属でないのに、インターネットで感化された若者達もいました。」

「つまり、100万円は『自爆という仕事』の前払い給料ですか?いや、謝礼かな?」と藤村警部補は発言した。

 署長は言った。「同じ時間帯に自爆するのなら、まだ時間はある。7つの高速の内の一つは工事中だ、3つの現場を除いた3つの高速を一時閉鎖しよう。あと、その残った二人の『シンキチ』の行方は?」

「家族に確認を取りました。2人の内、加藤晋吉は造園業を営んでいて、今日はお得意さん回りの予定だそうですが、1件目が終ったらすぐに高速を使わず帰宅するように家族に連絡をさせました。もう1人の武藤進吉は所謂フリーターで一人住まいのようでして、連絡がつきません。」

 その時、爆発事件の知らせが捜査本部に入った。現場は高速道路上では無かった。

 伝子達が行くと、やはり妙な黒煙が立ち上り、現場は騒然となり、警察官が交通整理に躍起になっていた。

 事件の法則が崩れた。伝子はそう実感した。白バイ隊と共に交通整理をしていた早乙女がやって来た。早乙女はEITOに出向はしているが、普段は白バイ隊として働いている。

 早乙女は、エマージェンシーガール姿の伝子に耳打ちした。「アンバサダー。高速は偶然だったようですね。消火活動は1時間もあれば済むと、消防は言っています。」「何故、そんな短時間に?」「実は、消防車は緊急自動車として通報現場に向かう途中でした。目の前で爆発したので、通報現場は他の消防車に代替出動させた、とのことです。被害者・・・というべきか、ドライバーは死亡しましたが、灰にはなっていません。」

「早乙女さん。腕時計の時間を調べてくれ。」「了解しました。」

 早乙女は、警察無線で死体の張り番をしている警察官に連絡を取った。

「15時3分だそうです。ドライバーは加藤晋吉です。間に合いませんでしたね。」と早乙女は言った。「事故の前に壊れていた、か。」と伝子は呟いた。

 午後1時。高速エリア署。署長が苦虫を潰した顔をしている。笑顔が似合わない顔だ。

「今回の現場は、高速では無かった。連続の事件には違いないが。島之内署との合同捜査本部になる。橋爪警部補が駆けつけてくれた。」

 署長の紹介で、橋爪警部補が挨拶をした。「島之内署の橋爪です。えー。前の3件と同様、床に蒔かれた火薬にライターの火が点いた為に、爆発。ドライバーは腕時計をしていましたが、時間は15時3分。事件の際に止まったとして、時計は壊れていた、あるいは電池切れだったと見てよさそうです。犯人の教唆または勧めで自爆したとEITOの見解だそうで、それには異論がないのですが、犯人はどうやってターゲットのドライバーを選んだのでしょうか?『シンキチ』という共通点はあるものの、そのデータは?」

「橋爪さん、鋭いな。ワシもずっと気になってましてん。警察の個人情報漏洩ですかね?すると警察内に手引きしたもんがおることになるが・・・。」

 これには、村越警視正が応えた。「近年、サイバーアタックが増えていることは確かです。実は、あまり公にはしたくないのですが、アメリカに習って、ホワイトハッカー班が日夜対処しています。コロニー終了以降、警視庁のデータベースから情報が漏れた事はありません。勿論、過去に政務官が漏らしたことはありますが、今回のようなデータは含まれていません。」

「詰まり、ハッキングではない、という事は分かっているが、『手引き』はあり得ると言うことでっか?裏切り者の。」と花菱は食い下がった。伝子は、この時の花菱巡査長の目を忘れなかった。

「取り敢えず、5人目のシンキチを早く探しだそう。」と、署長は言い、閉会した。

 午後3時。伝子のマンション。

 帰宅した伝子は、方々に電話をかけまくっていた。

 高遠がレモンティーを出した。「喉カラカラだよ。生姜入れといたから。」

「いい婿だな。」「今時分気が付いたの?」と、高遠は笑った。「改造、全部終ったってさ。電話のホットラインまでついちゃった。」「それって、盗聴器か?」

「かもね。藤井さんに伝子の喘ぎ声筒抜けだね。」「いくーとか、死ぬーとか。お前も母さんも影響受けすぎだよ。」

 それから3時間、伝子は翻訳の作業をして上機嫌だった。

 EITOのPCが起動した。理事官が映っている。

「大文字君。朗報だ。武藤進吉を保護した。パチンコ屋で発見された。文句を言ったが、警視庁内に保護した。これで、明日の爆発事件は起こらない。」「そう願いたいですね。私は、犯人の狙いがよく分からない。」「うむ。まあ、様子を見よう。明日の捜査会議は午前10時だそうだが、君はEITOに来てくれればいい。ゆっくり出来たかね?」「はい。久しぶりに『本職』の仕事をしました。」「そうか。では、明日。」

 二人の会話を聞いていた高遠は、「5人目の犠牲者が出なかったのは、良かったじゃない。」と言ったが、「問題は犯人がどう出るか、だ。」と伝子は腕組みをして考え込んだ。

 翌日。午前10時。EITOベースゼロ。会議室。

 中津健二と夏目警視正が来ていた。

「花菱刑事が、高速エリア署の同僚から『最近変だ』という藤村警部補の謎が分かりましたよ。花菱刑事を連れて、結城警部が藤村警部補の郷里の山形を訪ねたら、両親が行方不明でした。どこにもいるんですね、粘り強い古参の刑事が。蒲田巡査部長という人が、藤村警部補の両親を監禁場所から救い出し、犯人を逮捕していました。村越警視正に連絡したところ、黒幕がいるかも知れないし、藤村警部補には連絡せず、両親にも事件が解決するまで連絡をとらないで欲しい、とお願いしたそうです。」

 夏目警視正の報告に、「やはりそうでしたか。私も、以前藤村警部補に会った時と何か違う感じがしていましたが、黒幕に両親を人質に取られていましたか。黒幕以外に藤村警部補の協力者がいそうですね。事件の時にアリバイがある訳ですから。」と伝子が応えた。

「ええ。藤村警部補には情報屋がいます。常田俊蔵という高齢者ですが、なかなかのくせ者ですよ。案外彼が主犯かも知れない。」

 河野事務官が、飛び込んできた。「大変です。5件目の事件です。」

 斉藤理事官は「変だな。武藤進吉は保護した筈だが。」と首を捻った。

「場所は横横劇場駐車場。クルマの中に火薬の痕跡。劇場の消火器で間に合わないので、消防車を呼び、消火中です。」河野事務の言葉に、すぐに伝子は反応した。

「行こう、なぎさ。胸騒ぎがする。理事官。増田達にも連絡願います。」「了解した。」と、理事官は短く応えた。

 午前11時半。横横劇場駐車場。

 劇場支配人が、久保田警部補に応対していた。

「ああ、エマージェンシーガールズ。今、消火出来ました。まだプスプス燻っていますが。ガイシャは運転免許証を持っていませんでしたが、服装から、ここの大道具さんらしいことが分かりました。どうぞ。」

 久保田警部補が呼ぶと、棟梁の日野哲夫という男が説明した。「どこにタバコ休憩しに行ったかと思えば、こんな所で死んでいるなんて。見せて貰ったライターは奴のです。奴は前田新吉です。」

「運転免許証を所持していなかったのですが、このクルマは彼のじゃないんですか?」「運転免許証?奴は運転免許証を持っていません。運転出来ませんよ。」

「予感は当たったな。」と、伝子は唸った。

 午後1時。高速エリア署。

「今度の現場は渋谷署管内だ。渋谷署とも合同捜査になる。それと、今度のガイシャは『シンキチ』ではあるが、運転免許証がない。困ったことになった。」と署長は言った。

「つまり、犯人または犯人グループは、高速に拘っている訳ではないし、警察のデータからターゲットを選んだ訳ではない。」と村越警視正が言うと、伝子は「警視正。お名前カードではないでしょうか?コロニー以降、臨時給付金を貰いやすくなるということで、徐々に作成した人が増えている、と言われています。今まで完全な身分証明書はパスポートと運転免許証しかありませんでしたが、運転免許がなくても、お名前カードは身分証明書になります。前田新吉は、身分証明するのに不便だから作ったのでしょう。ターゲットの『シンキチ』を選んだのは、お名前カードのデータベースからで、区役所の情報がハッキングされたか何者かに漏洩されたのではないでしょうか?」

 その時、藤村警部補のポケットから、声が聞こえてきた。

「見事な仕事だな、エマージェンシーガールズ。藤村の両親は解放されたようだし、『使い魔』としては、もう用済みだ。式神の常田俊蔵もばれたようだから、始末しておいたよ。ああ。言い忘れた、私は『です・パイロット』。お前達が『幹』と呼んでいる、あるいはラスボスと呼んでいる存在だ。つまり、使い魔の藤村は枝、式神の常田は葉っぱかな。今回は挨拶代わりだ。おめでとう。EITO隊長さん。皆、早く避難しないと巻き添えを食うぞ。」

 村越警視正は、藤村警部補の通信機を取り上げると、繋がっていた線があった。増田がその線をシューターで切った。

 そして、村越は藤村の腹に巻かれたダイナマイトの時限装置を解体し始めた。

 署員達は逃げたが、伝子とあつこと増田は逃げなかった。時限装置は解体され、ダイナマイトも外された。

 午後2時。高速エリア署、取り調べ室。藤村が項垂れている。「人の口に戸は立てられない、とはよく言ったものだ。君はポーカーフェイスの積もりだったかも知れないが、同僚はここ1ヶ月の変化に気づいていた。花菱刑事はしがらみがないから、素直に行動した。両親を助ける為とはいえ、殺人教唆に値する。残念だよ。常田俊蔵は、さっき隅田川に青いサッカーユニフォームで浮かんでいるのが発見された。爆発事件は、どうやって起した?」

「です・パイロットに送られたDVDを彼らに送ったんです。私は見ていないが、催眠術師が催眠術を使ったんです。キーワードを吹き込まれた彼らは、私が指令を受けて送ったキーワードで行動したんです。」「キーワードとは、時間と場所か。ん?じゃあ、火薬や添加物やロープはガイシャ自身が用意したのか?」「いや、それは、常田俊蔵の役目です。5人目で私のアリバイは意味がないものになりました。」

 同席していた伝子とあつこは席を外した。

 午後5時。伝子のマンション。

「後味が思い切り悪いね。花菱さん、定年だって?」「4日後にな。巡査部長に昇格して退官だ。夕食は?」「カツカレー。」「そう来なくちゃ。」伝子はにっこり笑った。

 ―完―

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