第87話 文化祭前日—下
午前の準備が終わり、昼休憩の時間も過ぎた今の時刻は午後2時だ。そんな今、俺たちメイドとボーイ組は衣装に着替えてクラスメイトにお披露目する準備をしている。俺たち以外のクラスメイトは暗幕の外のカフェエリアで待機していて、一方俺たちは暗幕内で絶賛着替え中だ。
だけど、まだ俺の出番じゃない。最初はメイドたちがお披露目するのだ。だから俺らボーイ組はメイド達が着替えているのを壁に寄りかかりながらニコニコ眺めている。
「アリス、やっぱスタイルいいよね」
「本当ですか?ありがとうございます」
俺の隣のポムが、近くで着替えていたアリスに声をかけた。
服を脱いで下着姿になっていたアリスは顔だけこっちに向けて微笑む。
流石外国の血とでも言うべきか、アリスの体つきはだいぶ完成されていると思う。
結構大きい胸。程よく太く、そして引き締まっている太もも。パンツが少し食い込んだプリっとしたお尻。緩くウェーブのかかったブロンドの髪。
「えっちだな」と思うよりも先に「綺麗だな」という感想が出てくるようなアリスがメイド服を着ようものなら——
「「おー!!」」
「ふふ、似合ってますか?」
「「めちゃくちゃ似合ってる!」」
「それはよかった。ありがとうございます」
メイド服に着替えたアリスを一目見て、俺とポムはピッタリ合わせて歓声を上げた。
メイド服は丈の長い黒ワンピースに白エプロンを重ねたオーソードックスな可愛いやつなのだが、アリスが着るとめちゃくちゃ様になっている。本物のメイドみたいだ。
「え、ホントに似合ってるよアリス。ちょっとクルクル〜ってやってみてよ」
「こうですか?」
ポムの言う通りに、アリスはスカートの裾をつまみながらその場でクルンと一回転してみせた。
スカートがフワリと膨らみ白ニーソを履いた脚がチラリと見える。髪はヒラヒラと揺れ、極め付けに、回転し終えたアリスはスカートの裾を持ち上げながら片足を引いて軽くお辞儀をした。西洋ドラマとかで見る、品のある女性がする挨拶のアレだ。
「「可愛い〜〜!」」
「ありがとうございますー」
そんなアリスの姿に俺たちはまたも歓声を上げる。それに笑顔で答えたアリスは、他のメイド仲間の方に向かってしまった。
そうしてアリスが俺たちの所から離れてしまった頃、ふと隣を見るとポムがニヤニヤしていることに気づいた。
「ん、どしたのポム?」
「いやー、みんな可愛いなって思ってさ」
もちろんアリス以外にもメイド服に着替えている人は複数人いる。確かにみんな可愛い。だけどポムの言葉には何か違和感を感じた。
「確かにね。けど、それだけじゃないでしょ。何か別のこと考えてる顔だね」
「あ、分かっちゃう?」
「分かっちゃう」
「くぅー、流石だねシュン」
ポムはそう唸りながら俺の方に体を向けた。
「いやさ、メイド服のクラスメイト見るだけでみんな『可愛いー!』って言い合ってるわけじゃん?じゃあアタシの男装見たらみんなもっと盛り上がってくれるんじゃないかなって思ってね」
「なーるほーどねー」
それならピンとくる。ポムはいつにも増して男装をみんなに見せることにやる気を見せているし、みんなの反応を想像して楽しくなっていたのだろう。暗幕の中だけでもメイドコスプレにみんな盛り上がっている。この後外の人たちに見せたら更に盛り上がるだろう。
そして、ポムの想像では自分の男装はそれ以上の盛り上がりを見せているようだ。それだけの自信があるのだろう。
負けるつもりはないが、俺もポムに負けないように頑張らないとだな。
「ま、男装のレベルなら私だって負けてないからね」
「違うんだなー。アタシはそこで勝負してるんじゃないんだよなー」
「ほほう、楽しみにしようじゃないか」
「ふふふ、そうしてくれ」
俺たちがそんな会話をしているうちに全員が着替え終えたメイド組。彼女らはアリスを先頭にして暗幕から出ていき、直後、暗幕の外からは「キャー!!」と尋常じゃなくデカい黄色い歓声が聞こえてきた。
「カワイイー!」とか「すごーい!」とか、みんな語彙力を失っている。
そんな声を暗幕の中で聞きながら、俺たちボーイ組も行動を開始した。
「よし、次は私らの番だね」
「だね」
俺はポムと離れ、自分の荷物を置いていた所に移動して着替え始める。
半袖のワイシャツにネクタイを通し、ズボンを履いてサスペンダーを付ける。サスペンダーは背中でクロスさせて少しカッコいい感じにした。
それが終われば着替えはもう終了だ。非常に簡単。お手軽である。
だけど、そんな男装に俺はちょっとした工夫を加えている。家で胸つぶしのインナーを着てきたのだ。そのせいで少し苦しいが、おかげで胸がぺったんこになり、男装の完成度が増している。更に俺は少し前に髪も切ってきたし、男装レベルじゃ誰にも負けないはずだ。
ふっふっふ。
ガールズの黄色い歓声が楽しみだぜ。
そう自慢げになりながらニヤついていると、同じく男装し終えたまことが俺の所にヒョイと寄ってきた。
「シュンちゃーん、どうかな私?」
「おお!いい!めっちゃいい!」
「ホント!? よかったー!シュンちゃんもめっちゃカッコいいよ!」
「ふふ、知ってる」
まことはいつも髪を結んでいないが、今日はポニーテールにしている。その時点で普段と違う可愛さがあるが、やはり可愛い子が男装しているとギャップが強くて更に良い。
男装という観点からすれば「可愛い」よりも「カッコいい」を目指す方がいいのだろうが、まことは元が可愛いからどう頑張っても可愛くなってしまう。
けど、可愛いは正義だ。つまり問題ない。
よし、今のうちに可愛いを堪能しておこう。
俺は腕を広げてカッコつけてみた。
「おいで、まこと」
「うん!」
するとまことは俺の胸に飛び込んできた。
俺はムギューっとまことの背中を抱きしめ、同時にこっそりまことの匂いを嗅ぐ。
柔軟剤の匂いだろうか、ほんのり甘い。
そして匂いを嗅がれていることに気づいていないまことさんは、俺の胸に顔を埋めながらほっぺをすりすりしてきた。
あれ、なんかいつもより俺に甘えてくるな。
やっぱ男装パワーかな?
「…あれ、シュンちゃん硬いブラジャーつけてる?」
「あ、気づいちゃった?」
流石にほっぺすりすりされてたら気づかれちゃうか。
勘のいいガキは嫌いだよ。
「ほら、実はコレ着てるの」
「へえ!本気なんだね!」
仕方ないので、俺はシャツの胸元のボタンを外して下着を見せた。まことはすぐにそれが何かを理解したらしい。
「私もそーゆーの着てくれば良かったかな…」
「いや、まことは今のままで十分最高だよ」
「じゃあいっか!」
俺と似たサイズの胸をしているまことだ。
サスペンダーを肩に掛けているせいで胸が普段より強調されちゃうし、何もしないでいては流石にその山を隠すことはできない。
けど、そこがいいんだよなぁ。男装しつつも女を隠しきれていない感じがアツいのだから。
…しかし、そもそも女を隠す気がまったくない人間が1人いる。
「はは、なるほどね…」
俺とまことはポムの方に視線を向ける。俺ら以外のボーイ組がポムの近くに集まっていて、ポムはその人達に自分の姿を堂々と見せつけていた。
「…ポムちゃん、色々とすごいね」
「うん、すごい…」
そして、俺とまことはポムを見てから言葉を失ってしまった。
その気配を察知したのか、ポムはいきなりこちらに顔を向け、ズンズン歩いてくる。
「やあやあ一般ボーイたち。どうだいアタシの男装は?」
「…何でダイエットしてたのか分かったよ」
「あ、ポムちゃんこのためにダイエットしてたんだ…!」
「そうだよそうだよ。おかげでコレが強調されるでしょ?」
「「うん」」
ポム、お前スゲェよ。天才だよ。
いや、天災か…?
何にせよ、ポムの男装はめちゃくちゃエロかった。
まず、何故かワイシャツがピチピチだ。サイズ間違えてるんじゃないの?と疑いたくなるピチピチ具合だ。だけど、その胸を見ればそれがわざとだとすぐに分かる。
完璧なまでの乳袋。横乳から下乳まで、Hカップの輪郭を完全に浮き彫りにした見事な乳袋である。
そして、一目見ただけでその巨乳具合が分かる素晴らしい乳袋を強調するのが、ポムの細いウエストだ。ここ最近、躍起になってダイエットしていた理由がよく分かる。
お腹が凹んでいればいるほど、胸の凸が際立つのだ。
「そんなジロジロ見ちゃって〜。ほら、おいでよ」
ニヤつきながら腕を広げるポム。
今度は俺が抱きつきに行く側になるとは…。だが、悔しいことに本能には逆らえない。
俺は吸い込まれるようにポムの腕に抱かれにいった。
「おお、おおお…」
「ふっふっふ、最高だろー?」
「最高です」
夏休みにお風呂で胸を突き合わせた時とはまた違う感触だ。
この前は生乳だったが、今はブラジャーを介している。そのせいでポムっぱいは少し固く、同時に、その固さを超えた先にムニュっとした肉の感触を強く感じる。
ちょっとやばいねコレ。
理性が飛びかねないね。
色々危ないので、俺は早々にポムから離れた。するとポムはまことの方に狙いを定めた。
「まことちゃんもどう?」
「じ、じゃあ私も…」
「あー!まことー!」
くそっ!俺のまことがおっぱいの悪魔に取られちまった!
…くっ、やはりおっぱいの魅力には何人たりとも抗えないのか…
「すごいねコレ…。なんか、すごいね…」
「そうでしょそうでしょー」
ポムの野郎、まことの頭を自分のおっぱいに押し込んでやがる。
まことがあっち側に行く前に連れ戻さないとだ。
「はーい、それくらいにしてくださいねー」
俺はまことの肩を掴んでポムから引き剥がした。
対するポムは不機嫌そうな素振りも見せず、むしろドヤ顔で俺の顔を見てきた。
「ふふふ、これがアタシの男装パワーだよ。
確かにシュンもカッコいいけど、アタシの方がえっちだもんねー」
「それは認めざるを得ないな…。けど、まだ私には切り札があるんだから」
「へー?ま、アタシには勝てないよ」
「それは明日になってからじゃないと分からないさ」
「随分強気じゃん」
「まあね」
そう、こちらにはまだ化粧という武器が残っているのだ。ポムの武器が胸である以上、ポムはこれ以上どうしようもない。だけど俺はビジュ勝負だ。化粧で更に進化できる。
今日は朝に時間がなくて化粧はして来なかったけど、明日は早起きしてやってくる予定だ。文化祭のために練習もしたし、きっと完全体の俺ならポムに負けることはないだろう。
…そもそもポムと競っていたつもりもないが、いざ激エロポムを目の前にすると何故か競争心が湧いてくる。
だが、今はまだその時じゃない。本番は明日だ。明日勝てばいい。
だから今日は大人しく負けを認め、しかし堂々とみんなの前に俺の姿を見せつけるとしよう。
見れば、俺とポムが言い争ってるうちにボーイメンバーは近くに全員集まっていた。
俺は彼女達に合図して、ポムとは笑顔で睨み合いながら、胸を張って暗幕から外に出た。
「「「キャーーーー!!!」」」
「「「カッコいいー!!」」」
「「「えろーい!!」」」
「「「イケメーン!!」」」
「「「可愛いー!!」」」
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