第86話 文化祭前日—上

ついにやってきた文化祭前日。昨日のうちに教室の改造は8割くらい終えたので、後は細かい仕上げや補強をして明日に備えるだけである。また外の屋台組もだいぶ良い感じらしく、今日は料理の練習さえすれば準備は終了とのことだ。

万事問題なく進んでいて素晴らしいぜ。


さて、そんな素晴らしい教室に朝イチで登校した俺は、進行度を確認するように教室をぐるりと見回した。


まず目に入るのは縦長の教室を区切るべく黒板と並行に設置された暗幕だ。

教室の扉は黒板側と対面の壁側に計2つあるが、丁度黒板側の扉を領域内に組み込むように天井から暗幕が垂らされている。

なぜ扉が暗幕の内側にあるかといえば、そこから簡単に暗幕内に出入りできるからである。つまり、カフェへの入り口は後ろの壁側の扉ということだ。


そんな風に教室の4分の1くらいの範囲を占める暗幕内は色々な役割を果たす。

例えば更衣室だ。人が着替えるには十分な広さがあるし、少し休憩する分にも困らないだろう。

また、裏方組が仕事をする場としても暗幕内は活躍する。例えばお金の管理とか、混雑時の調整とかそんなところだ。

更に提供する食べ物の準備もここで行い、注文が入った時は暗幕をくぐってカフェの方に食べ物を提供することになっている。

こんな風に色々と用途がある暗幕は御珠のおかげで簡単に設置することが出来た。みんな喜んでいたし、御珠の株も上がったことだろう。


そして暗幕の外側、俺が今立っているカフェ部分の出来上がりも結構良い感じだと思う。

4個の机を合体させて作ったテーブルには白いテーブルクロスが敷かれていて、それが計6個用意されている。

それだけでも何となく雰囲気が出ているが、それよりも凄いのが壁の改造だ。

なんと、白い空間を作るために木の板を繋げて人工壁を作り、それを大量のスプレーで白塗りして教室の壁に重ねて設置したのだ。おかげで色々引っかけるためのフックなど邪魔な物が隠れ、同時に壁の色を白色に統一することが出来た。さらに、本物の学校の壁ではないので思う存分釘を打ち込んだり風船やヒラヒラしてるのをペタペタ貼り付けたりすることができる。

しかし、1つだけ深刻な問題があった。

黒板側だけは暗幕のままになっていて、今この空間の壁はそこを除いた3面だけになってしまっているのだ。だから今日、もう1つカーテンレールを設置してカフェ側こちら側に透き通りにくい白カーテンを設置しようという話になっている。そうすれば、白い壁に囲まれていると思いきや実は1面だけ黒いという問題が少しは解決できるだろう。

え? なら最初から白いカーテンを上から垂らしておけば暗幕が要らなかったんじゃないかって?

…フフフ。俺たちは暗幕を設置し終えた後にその事実に気づいたのだ。だから、わざわざ外すのは勿体無いし、暗幕はカーテンよりも分厚いから着替えエリアがうっすら見えてしまうこともないと理由をつけて俺たちは暗幕&白カーテンの両立を実行することにした。

何か面倒なことが起きた時にそれを無理矢理正当化する。人生あるあるだろう?


まあ、こんな感じに内装の準備は進んでいる。みんなの力が合わさったおかげで良いものが出来上がりそうだ。

そんな風に期待を膨らませながら、俺は暗幕の中に入って椅子に座った。

そうしてみんなが来るのを待ちながら、生徒会の人たちが作った文化祭の注意事項について書かれた紙を眺める。

何か特筆すべき重大な事項はないが、それなりに重要そうなことはいくつか書いてある。

例えばお金関係のことなどがそうだ。


太っ腹なことに、ここの文化祭では学校から準備費用として7万円支給される。なんでキリよく5万じゃないのかは気になるところだが、多いに越したことはないから普通に嬉しい。

で、大事なのはここからなのだが、準備費用を貰える代わりに売り上げの8割を学校に渡さなければならないという決まりになっているのだ。そりゃあタダでお金をばら撒いてたら学校も大変なのは分かるが、自分らで稼いだお金が回収されると思うと少し悲しい。

だけど、逆に言えば売り上げの2割は俺たちの財布にぶち込んで良いということである。

そう思うとやっぱり嬉しいかも…?

そんな複雑な心境になるルールだ。


あとはそうだな、『過度な露出禁止』とかいうルールも気になるところだ。

やはり女子校ともなれば、一般客、特に中年おじさんズの獲物にされかねない。だからこそわざわざこんな風に書いてあるのだろう。

だけど、文化祭は校内の人間のみで行われる1日目と一般客も入れる2日目の二段構えだ。

だから先生を除けば生徒しかいない1日目なら過激な服装をしてもいいんじゃないか?と俺は思ってしまう。

勿論共学なら無理だろう。男子が色々と我慢できなくなっちゃうからな。だけどここは女子校だ。平気で「〇〇ちゃんえろーい」なんて声が聞こえてくるような環境だ。

なら良いじゃん!女子相手なら過激だって良いじゃん!男の先生には全力で耐えてもらえば良いじゃん!

そう思う今日この頃である。


「初日だけメイドカフェじゃなくて黒タイツバニーガールカフェにならないかなぁ〜」


紙を読みながらそんなことを思っていると暗幕側の扉が開き、ポムがスゲェ顔で俺の方に歩いてきた。


「あ、ポムじゃんおはよー」

「おはよう」

「…何かあったの?」


俺の質問に無言で頷いたポムは、眉間に皺を寄せながら俺の横に座った。


「…さっき電車に乗ってた時さ、結構混んでたの。だから周りの人と体が密着するレベルでぎゅうぎゅうだったんだけどさ、アタシの前に立ってた人が汗だくのデブおやじだったの」

「あっ…」

「で、勿論アタシのぺぇはデカいから前の人に押し付ける形になっちゃうんだけどさ、案の定目の前のデブおやじの背中が汗で湿ってて本当に不快だったの」

「そりゃ最悪だね。そーゆーの服越しでも分かるもんね」

「そうだよ。生暖かいし、汗臭かったし、思い出しただけでも寒気がするわまったく」

「災難だったね」


俺が来る時間帯の電車は空いてることが多いからポムみたいな事態になったことはない。

けど、話を聞いただけなのに俺も嫌な気分になったし、決してそうなりたくはないな。  

 

「今日蒸し暑いから余計にアイツの汗が不快だったわ…。シュン、クーラーつけてくれない?」

「オッケー。私はそんな暑い気はしてなかったけど、やっぱポムみたいな巨乳だと普通の人より暑く感じたりするのかな」

「お、確認してみるかー?」

「是非是非!」


俺が扉の方にあるクーラーの操作パネルをポチって戻ると、ポムがわざわざワイシャツを脱いで上半身だけ下着姿になってくれた。


「そこまで脱がなくたっていいのに」

「丁度全身の汗を拭きたいと思ってからついでだよ。ほら、ほらほら〜」


そう言いながら紫のドエロいブラジャーをつけたその胸を俺に突き出してくるポム。

俺はめちゃくちゃ感謝しながら胸の谷間に指を差し込んだ。



「おおっ…!!」

「ふふ、結構熱あるでしょ?」

「うん。確かに熱もあるし、汗でペタペタしてるし、何と言うか…凄く生々しい肉の質量を感じる」


ヤベェ。

汗でヌルッとしてる巨乳の谷間ってヤベェ。俺も男だったらこんなところに息子を挟んでみたいものだ。


「あはは、なんか恥ずかしいからそこまで言語化しないでよ」

「はは、すんませんすんません。つい語りたくなってしまって」

「そりゃどうも。てかさ、アタシの体見て思うことない?」

「ん?えっとー」


ポムっぱいからニュポッと指を引き抜き、俺は一歩離れてポムの上半身を改めて眺めてみた。


「…!ああ、痩せたわ!確かに少し痩せてるかも!」

「でしょ!?実際体重も落ちてるし、アタシも家で自分のお腹見ながらそう思ってたんだよー。良かった良かった、他人から見ても少し痩せてたか」

「うん。だけど痩せすぎも良くないんじゃない?」

「ああ、シュンはムチムチ好きだったね。だけど後でアレを見ればそうも言ってられないと思うよ」

「と言うと?」

「それは内緒。後でみんなで衣装着るでしょ?その時のお楽しみだよ」

「ほほーう。なら楽しみに待っていようじゃないか」

「そうしてくれたまえ」


ポムはフフフと笑いながら汗拭きシートで体を拭いていく。


この前みんなで届いた衣装の確認はしたが、まだ着てはいなかった。それを今日着ることになっているのだが、今からそれが楽しみになってきた。一体何を見れるのだろうか。


俺がそんな風に心を踊らせていた時、3人目の生徒が扉を開けてやってきた。


「お、2人とも早いねー。おはよー」

「「おはよー」」


それは柳下さんだった。俺はポムの横に座りながら軽く手を振り、ポムは体を拭きながら声だけかける。

そんなポムの姿を見て、少し口角を上げた柳下さんはトコトコ俺たちの方に近づいてきた。

その目はトゥルンと輝いている。


「ポムちゃん、やっぱりおっぱい大きいんだねー!」


いきなりそう言われたポムは一瞬驚いた顔をしつつ、すぐにいつもの調子に戻って胸を張った。


「でしょでしょ〜。揉む?」

「揉む揉むー!…おお、凄い」

「この存在感は同じ女子でも惹かれちゃうよね。私もさっき触らせてもらったよ」

「だね。自分にもこんくらい大っきいおっぱいがあったらなーって思っちゃうね」

「あはは、大きいのは大きいので少し苦労するんだから」

「むしろその苦労をしてみたいよ」


柳下さんはため息混じりでそう言いながらポムの両胸を揉み続ける。

確かに柳下さんの胸は大きいとは言えない。だけど確かな膨らみは感じられる大きさで、俺的には結構エロいと思える。貧乳の中ではある方の貧乳だ。言い方は悪いかもだが、下の上と言ったところか。俺は中の上くらいだろう。ポムは勿論上の上だ。


「っと、そろそろやめるね」

「もっと揉んでても良いんだよ?」

「いやー、なぜかダメージを喰らっちゃって。私もおっきくなりたいなぁ…」


柳下さんはポムの胸から手を離し、続けて自分の胸を押し上げるように触った。

そして「はぁ〜」とため息をつく。

申し訳ないが、胸が小さい人がそれを悲しんでいる姿は結構好きだ。可愛いから。


「ま、きっとこれから成長するかな!うん!そうに決まってる!よーし、今日も準備頑張るぞー!」


やがて自分の胸を揉むのをやめた柳下さんを見ながら、俺とポムは目配せして微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る