第85話 も〜い〜くつね〜る〜と〜文化祭〜

<プチお知らせ>

遅くなりましたが、近況ノートに学校の敷地の概要をまとめたイラストを載せたので、見てくれると少しイメージしやすくなると思います!

絵が下手だって?

少しは多めにみてください♩

_________________________________________




いよいよ明後日は文化祭。そのため今日明日とこの2日間は授業がなく、朝から夜まで丸々使って文化祭の準備ができる。一応3時には放課ということになっているが、どのクラスも限界まで残って準備するのだ。

そして今は昼休憩。俺はアリスとポムと一緒に教室の隅で昼ご飯を食べていた。


「あー、疲れたー」

「ポムよりワタクシのが疲れましたよ」

「いんや、絶対アタシのが疲れてる」

「いやいや私たちそこまで大したことしてないからね?服の確認してみんなでキャッキャしてただけだからね?」

「それでも疲れたの!」

「ワタクシも疲れたんです!」

「じゃあ私も疲れとくわ」


ぶーぶー言いながらおにぎりを食べるポムを見ながら、俺とアリスは茶色たっぷりの肉肉しいお弁当を味わう。

ポムは全力ダイエット中らしいが、その食事量の少なさは流石に心配になってくるな。


「てかさ、そろそろキツくないそれ?本当にそんなので1日やってけるの?」

「案外やってけるよ。夜は結構食べてるし」

「キャベツをでしょ?」

「アタシはウサギか?ちゃんと肉も食べてるよ。それに、数日続けられれば『この後も頑張ろう』って思えるんだよ」

「なるほど。筋トレも最初の数日が肝心だと言いますし、それと同じ感じですね」

「そうそう!正しくそう!シュンだって運動好きなんだから分かるでしょ?」

「まあ分かるけど、運動と食事はまた違うような気がするなぁ」

「そこは気合いだよ気合い。頑張れば自分がさらに輝けるんだよ?頑張るしかないじゃん」

「素晴らしい考えですね。ワタクシも見習わないと」


そう言って笑うアリスだが、アリスのピチピチの肌だって日々のスキンケアからくるものだと俺は知っている。アリスの家に遊びに行った時に、部屋にめちゃくちゃ沢山のケア用品があったからだ。

そう思うと、ポムもアリスも自分磨きへの熱意が素晴らしいな。もちろん俺もそうだけど、特にポムのエロさへの執着は俺のそれよりも格段に強い。職業病なのかな。


「ところで花とかミカとか、外の人たちはいつ帰ってくるの?」

「分かんない。アタシ、さっき花と廊下ですれ違ったけど忙しそうに走ってたよ」

「料理組は時間かかりそうですからね。まだしばらく帰ってこないんじゃないですか?」

「確かにそっか。そうだ、ちょっと見てみようよ」


そう言い、俺は教室の窓から外で作業している花たちを探した。俺のクラスは4階にあるので外の様子はよく見える。

だけど…


「…分かんないね」

「分かんないわ」

「分からないですね」


外に並ぶ屋台だが、俺らの位置からだと天井しか見えなくてどこの店がどこのクラスの物なのか全然分からなかった。沢山人は動いているが、その1人1人の顔が鮮明に見えるはずもない。


「食べ終わったら探検しに行こうか」

「いいね。ま、アタシはもう食べ終わってるんですけど」

「だからって早食いはしませんよー?もぐもぐしないと健康に悪いんですから」

「分かってますよー。アタシは2人の美味しそうなお弁当をゆっくり眺めてますよー」

「やっぱこーゆーの食べたい欲求はあるんだ」

「そりゃあね」


体育座りして壁に寄り掛かるポム。俺らは体操服で作業しているためパンツが見えちゃう心配はない。  


そして、程なくして俺たちはお弁当を食べ終え、絶賛内装準備中の教室を抜けて外に向かった。


* * * *


さて、眩しい日光を腕で遮りながら外にやってきた俺たち。早速目に入るその光景に、3人揃って目をキラキラ輝かせた。


「ひぇー!すげー!」

「んね!実はアタシここの文化祭来たことなかったからさ、こんないい感じだとは思ってなかったよ!」

「確かにワクワクしますね、これは!」


正門から校庭まで続く道を挟むように並べられた屋台の数々。まるでお祭りの場にいるかのような、そんな光景が広がっていた。

屋台1つ1つのベースは全く同じ物だが、デコレーションしたり看板を取り付けたりしてクラスごとの個性がハッキリ現れている。

チョコバナナ、じゃがバター、りんご飴。定番のものを売る屋台が沢山ある。


前世じゃ、俺が高校生だった時は新種のウイルスが世界的に何年も流行してたせいで文化祭で食べ物を売ることができなかった。だから尚更この光景が輝いて見える。

綺麗に並んだ屋台たち。それの周りでワイワイ作業する生徒たち。全てが新鮮で、楽しそうで、俺の心を震わせてくる。


「…楽しみだなぁ」


気づけば、呆然と立ち尽くしたまま俺はそんな言葉を溢していた。

ちょっと不自然だったのか、それを見て2人がクスッと笑う。


「シュンのそんな顔初めて見たかも」

「ふふ、ワタクシもです」

「え、どんな顔してた?」

「何かね、トロんとした顔って言うのかな?そんな感じだったよ」

「あはは、何だそりゃ。けど、心を奪われてたのは確かだね。…っと、探検するんだった。行こう行こう」

「お、なんだ?照れたのかー?」

「そんなんじゃないよ!早く色々見たいだけだから!」


と言いつつ実際少し恥ずかしかったので、それを隠すように俺は先頭に立って屋台ストリートを進んでいく。作業している人たちで大変混雑しているが、隙間を縫うように進めば進めないことはない。この混み具合といい喧騒といい、本当に祭りに来たのかと勘違いできそうだ。


そんな道を進みながら、アリスは俺と同じように目をキラキラさせて呟いた。


「結構クラスによって毛色が違うんですね」


それにポムが答える。


「だね。けど、やっぱ3年生は一歩進んでるね。洗練されてるわ」

「確かに。1年生のは頑張って作ってる感あるけど3年生のはベテランの風格あるかも。やっぱり経験って大事だね」

「そんな頑張ってる1年生があそこに沢山いますよ」


アリスが指差した先を見てみれば、我らが花率いる屋台組を発見した。

屋台は1クラス3つまでという制限のもと、俺らはパンケーキとオムライス、ミニパフェの3つを販売することにしていた。外で売る物と中に持って行く物とで容器も分け、しっかり内外対応ができるようになっている。

そんな屋台組では、家庭科部ということで花が重宝されているという話だったが、確かに遠目に見てもせこせこ働いているのが分かった。


俺らは人混みを進んでそこまで辿り着き、タイミングを見計らって声をかける。


「やっほー花。お疲れ様。どんな感じ?」

「ん?ああ、シュンたちか。お疲れ〜。こっちは見ての通り料理の練習中だよぉ〜」


そう言ってヨロヨロしながら屋台から出てくる花。


「みんな作業続けてて〜。ちょっと休憩してくるから〜」

「「はーい」」


ミカを含めた仲間たちにそう告げ、花は体育館側に生えている木々の影に移動した。俺らもそれに着いて行く。


「んぁぁぁ〜、疲れたぁぁ〜〜」


そして少し斜めになっている芝生に座り込む花。俺たちも花の隣に腰掛けた。


「ほら2人とも。疲れたってのはこーゆー状態のことを言うんだよ」

「えー?聞こえないなー?」

「ワタクシは今ミュートしてるので何を言っても無駄ですよ」

「最強か?」

「何言ってんのみんな〜。てか、そんなことよりわたしの愚痴を聞いてよ〜」


お、いいねいいね。女子が言う〝愚痴〟ってのは大抵の場合他人の悪口だ。

普段温厚な花から一体どんな罵詈雑言が飛び出してくるのか見ものである。


「なになに?確かに大変そうだったけども」


花の横顔を覗きながらそう尋ねるポムの方を向き、花は握り拳を作って力強く言った。


「…多すぎるの。多すぎるの作業量が!!!!

なんで3つも料理やることにしちゃったのみんな!!こっちの身が持たないよ!!」


あぁ…、そういう話だったか。


俺たちが苦笑しつつ見つめる中で、花はバタンと芝生に倒れ込んで天に叫んだ。


「いいよ!確かにわたしは天才的に料理が上手だから3種類を覚えるのくらいなんてことないよ!だけどね、単純に3つも屋台用意するの大変だし、みんなのこと育てないといけないし、わたしの負担ヤバいよ〜!!」

「それは…うん、ほんとお疲れ」

「ほら、花が頑張ってくれてるおかげでアタシらも助かってるんだし、感謝してるよ!!」

「頑張ってる花、偉いです!」

「うわ〜〜ん、そう言ってくれると少しは助かるよぉ〜〜」


両手両足をバタバタさせながら唸り声を上げる花。やがてそれらはパタンと地面に着き、花は大の字になって動かなくなってしまった。


「あ、死んじゃった」

「死んじゃいましたね」

「よし、帰るかー」

「帰ろうとすんなやポムぅ〜!」

「あ、生きてた」

「生きてましたね」

「よし、じゃあ帰るかー」

「なんで!?」

「いやぁ、生存確認できたから…」

「それわたしがどっちに転んでもダメなやつじゃん」

「はは、バレた? だってここ暑いんだもん」

「そんな環境で頑張ってるわたしら偉くない?そう思うわない?ね?ね??」

「あー!思うよ!思うから!!だから腕にくっつかないで!」

「やだね〜。こっから帰らせないから〜!」


立ち上がった俺たち。そしてポムの左腕にしがみつく花。半袖なのでポムは生腕が出ているが、それが花の汗で濡れた体操着と密着するのが不快らしい。

そんなポムは花を振り解こうとポ木の周りをグルグル走るが、花はセミの如き密着力でポムの腕から離れることはなかった。


それを見て俺は思う。いいな、と。

そして同時に俺はこうも思った。アリスならこれを理解してくれるのでは?と。

だから小さな声で聞いてみる。


「ねえアリス、ちょっと下ネタ的なこと言っていい?」

「いいですよ?」

「…あのさ、汗ばんだ女子ってよくない?」


アリスの顔色を伺いながらそう尋ねてみると、アリスは素敵な笑顔を浮かべた。


「分かります分かります!特に今の花とか汗で前髪がペタってなってて、ほっぺもテカテカしてて、凄く魅惑的ですよね!」

「それな〜!いやぁ、アリスなら分かってくれると思ってたよ」

「シュンこそ中々心得てるじゃないですか」

「ふっふっふ。まあね」


まさかここまで理解が深いとは思わなかったが、九条アリス、こいつはやっぱり話の分かる野郎だったぜ。アリスが考えてることはいつも全然読めないけど、案外頭の中はピンクなことでいっぱいだったりするのかもしれない。


だとしたら結構いいな。お嬢様といえば質素が定番だが、だからこそえっちな側面があるとそれが際立つ。アリスは普段から素振りも口調も丁寧だし、そんな人間がエロいことしか考えてないとしたら激アツだ。

ま、アリスの場合はそんなことはないだろう。前から結構色んな方面に理解がある気配を放ってたし、今回もたまたま話が合っただけだろう。


「あ、帰ってきましたよ」

「ホントだ」


結局花を取り外せなかったポムは、ダラんとうなだれながら帰ってきた。


「2人とも先に帰ってて…。しばらく手伝わされることになりました…」

「あ、そうなんだ。やったね花、仲間ゲットだね」

「シュンたちも仲間にしたって良いんだからね〜?」

「よしアリス、さっさと帰ろう」

「そうしましょうそうしましょう」


そうして俺たちは逃げるようにその場を去った。

さらばポム!また会う日まで…!

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