第81話 準備準備〜♩

文化祭まであと1週間と2日。放課後もみんなで盛り上がりながら準備を進めている。

どうやって運営するのか、値段設定はどうするのかなどは話し終え、今は具体的に必要なものを考えたり、作れるものは作ったりしている。

そして俺らボーイ組はたった今必要なものの注文を終えた。


「これでオッケー。明後日届くって」

「なら安心だね。楽しみ楽しみ」


俺らの服装は半袖白ワイシャツに黒ズボン、黒ネクタイをつけ、更にサスペンダーを掛けるという形にまとまった。中々カッコよくなりそうだ。

だが、制服チックな黒ズボンとサスペンダーを持っている人が少なかったので俺がネットで注文したのだ。


「後はアタシらは注文を待つだけ?」

「うん。特に覚えないといけないセリフとかもないし、後は他の班の手伝いに入って大丈夫だと思う」

「オッケー。けど、アタシ部活も忙しいから今日はこの後部活行っちゃうわ。みんなバイバーイ」

「「バイバーイ」」


手早に準備を終えて教室から出ていったポムに手を振り、俺たちはどうしようかと顔を合わせる。

そして俺はみんなに尋ねた。


「みんなまだ残る?」

「私はもう少ししたらバイト行かないとだから帰るよ」

「ウチは残れる!」

「私も残ろっかなー」

「なるほどね。じゃあ私も少し時間あるし残ってこうかな」


俺はこの後美容室に行く予定があるが、それにはまだ時間がある。多少手伝ってから帰っても間に合うだろう。


そうして俺たちボーイ組はポムに続いて帰宅していったまことを見送り、各々仲のいい人が作業している所に入っていった。

俺はどこの手伝いに加わろうかと考え、グルリと教室を見回してみる。


メイド組は接客の練習中。

内装組は黒板に絵を描きながらどんな風にしようか話し合っている。

料理組はレシピを暗記しようとみんなで問題を出し合っていて、立て看板の人たちは絵の具で可愛いイラストを描いている。


うーん、どこに行こうか。

そう思いながら教室を見回す俺の視線は御珠のところで止まった。

当日裏方で色々やることになっている御珠は内装組と一緒に話し合っているようだが、なんか1人だけポツンと輪の中から外れている。別に仲間外れにされているわけでもないだろうが、御珠の人見知りが大いに発動されているのだろう。最初よりは多少マシになってるっぽいが、やはり本質的にはすぐに変われないようだ。


密集してワイワイ話し合っている傍で、チラチラその人たちの方を見たりしながら基本的には下を向いているダークネス御珠。

あーあ。せっかく俺がメイドに推薦したんだし、あのまま辞めてなければアリスとかもいたのになぁ。

「勢いに任せてオッケーしちゃったけど、やっぱり無理かも!!」ってなって仕事を変えてもらった御珠。だが、流石柳下さんと言うべきか、ちゃんと〝予備メイド〟の枠には御珠の名前が残ったままだ。忙しくてメイドが足りなくなった時には予備たる御珠が繰り出される。御珠もそれは渋々飲み込んだらしい。だけど忙しい忙しくないの感覚は曖昧なわけで、何かと理由をつければ御珠にメイド服を来てもらうことは出来るだろう。

メイド御珠、ぜひ拝ませてもらいたい。


よし、じゃあ御珠の方に行くか。


そう決めた俺は黒板の方に向かい、その集団に話しかける。


「やっほー。そっちはどんな感じ?何か手伝えることある?」


俺が気軽な感じで話しかけると、装飾組の子たちは快く答えてくれる。


「おつかれシュンちゃん。今ね、どうやって天井から暗幕を垂らすか考えてるの」

「天井に直接留め具を打ち込んだり出来ないからさ、どんな風にしたら頑丈に出来るかが悩みものなんだよー」

「なるほど、確かにむずそうだね。暗幕って重いし」

「そうなのそうなの」


暗幕を垂らすのは、メイドやボーイの着替えスペースを確保するために、そして裏方の人がそこで作業するために教室を区切る必要があるからだ。

だが、学校の天井は傷つけられないので天井から暗幕を垂らすやり方は制限されてしまう。そこが論題のようだ。


そこで俺は御珠に話を振ってみることにした。そもそも俺がここに来たのは御珠の手助けをするためだし、御珠なら何かしらの案があるんじゃないかと思ったからだ。


「御珠は何か良い意見ある?」

「え、ああ。そうだな…」


俯いていた御珠はいきなり俺に声をかけられて驚いた声を上げる。そしてみんなの視線が御珠に向けられ、いきなり注目を浴び始めた御珠は、数秒考え込んだ後に一案を出した。


「…カーテンレールを通すのはどうだ?教室の上の方は換気用の窓があるだろ?そこに物干し竿みたいな感じでカーテンレールを通すんだ」


その意見に、内装組は「おー」と唸る。

だが、数人は疑念の表情を浮かべた。


「確かに良い案だと思うけど、そんなに長いカーテンレールあるかな?教室の横幅って結構長いよね」

「確かに。短いのを途中で繋げても、その部分が弱くなっちゃって壊れちゃうかもだし」

「そうそう。長いのが確保できれば良いと思うけど…」


その言葉に、再び「うーん」と頭を悩ませ始める内装組のメンバーたち。しかし、御珠は俺がいることで安心したのか、ここぞとばかりに「ふふふ」と笑って語り出した。


「実はその問題、解決できるぞ。ウチは建設業を営んでいてな、親に頼めば長いカーテンレールなんて簡単に用意できる」

「え、ホントに!?」

「じゃあ解決じゃん!もっと早く言ってよ神咲さーん!」

「すごいすごーい!」


そんな御珠の一言でみんなが沸き立った。

そしてリーダーが御珠の背中を引き寄せて輪の中に取り込み、「他にも何かスゴイの隠してるんじゃないのー?」と話し始める。他の人も「そーだそーだ」と乗っかった。御珠は「えー」と困ったような声を上げるが、その声色はどこか嬉しそうだ。


御珠が何かの案を出して、それをきっかけに輪に加われれば良いな思っていたが、まさか問題を解決してしまうほどのモノを出してくるとは…。

やはり御珠の力は底知れない。いや、御珠本人よりも神咲家の力と考えるべきか? 

ま、それ含めて御珠の力か。そーゆーことにしよう。


「じゃあ暗幕問題が片付いたから次の話に移るけど———」


せっかく加わったんだし、もう少し話し合いに付き合ってから帰るとしよう。



……そうして数十分後。

以外にも白熱した装飾議論のせいで帰らないといけない時間ギリギリになってしまい、俺は大急ぎで校門を走り抜けて行った。








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