第79話 電話ラッシュ

今日は放課後に部活も何もなかったので花と御珠の3人でパフェを食べて帰ってきた。

いや、厳密にはパフェを食べたのは俺と御珠の2人だ。花にはお店の紹介をしてもらっただけで、本人は俺たちが苺パフェを食べるのを涎を垂らして眺めているだけだった。

どうやら本気でダイエットをしようと決意したらしい。文化祭もあるし可愛くなりたいのだとか。今のままでも十分だと思うけどな。


そんな風にダイエットを決めて甘い物を我慢していた花であるが、俺たちは構わずパフェを食べ続けた。ニコニコしながらもぐもぐし続けた。羨望の眼差しをおかずにスプーンを進めた。

え?性格が悪いって?

ノンノンノン。仲がいいからこそだと言って欲しいね。


「ただいまー」

「おかえりー。お風呂沸かすー?」

「うん。ありがと」

「はーい」


帰宅し、お母さんに挨拶してから自分の部屋に向かう。

俺が帰宅したらすぐに風呂に入りたいタイプなのを理解しているお母さんに感謝しながら、自室に入ってベッドにダイブだ。


「ん〜〜、やっぱ自分の部屋こそ至高だぁ!!」


ふかふかのベッド。いい匂いのする自分の部屋。プライベートの確保された場所というのはやはり心の底から落ち着ける。

最近鍵を設置したのでいきなり涼太が入ってくる心配もない。


「ふんふふ〜ん」


風呂が沸くまでの間、ベッドの上でリラックスしながら俺はスマホゲームで遊ぶ。

最近のマイブームは麻雀だ。役満を達成した時の気持ちよさは尋常じゃない。大好きなのは大三元だ。


「ん?」


そんなお気に入りの麻雀ゲームをやっていると、画面の上部からLIMEの通知がピロンと表示された。クラスグループだ。

なんだろうと思いながらトーク画面を開く。


「ああ、ついに完成したのか!」


その内容は文化祭実行委員の柳下さんからの文化祭の役割振り分けだった。

流石に当日のシフトまでは決まっていないようだが、誰がどの仕事をするのか、そして準備の時は何をすべきなのかが表にまとまっている。正に一目瞭然。とても分かりやすい。


「優秀すぎるぜ〜」


仕事のできる女、柳下。

姉貴!一生ついて行きます!


「なになに〜? 俺はボーイで、うんうん、特に変更はない……ん、ポム?何でポムが?」


俺はボーイ役の欄にあったポムの名前に目を止める。以前決まった計4人に加え、幻の5人目が存在していたのだ。

ま、きっと何かしらの事情があって1人増えたんだろう。

よし、確認を進めるか。


「アリスはメイド、花とミカは外で料理か。

まこともボーイだし〜、ほう、京香ちゃんは中で接客か」


こりゃあ荒れるぞ、男性客が。

あんな巨乳学生を見かけたら世の男性は暴走しかねない。その気持ちはよーく分かるが、一般客が来る時は注意しないといけなそうだ。


「…あ、御珠1人か。大丈夫かな」


俺の一声でメイド役をやることになった御珠だが、後からやっぱり恥ずかしくなっちゃったみたいで仕事変更を柳下さんに頼んでいた。その結果、御珠は教室で裏方の仕事だ。それほど大変な仕事ではないだろうが、問題なのはメンバーに普段御珠と話す人が1人もいないということだ。果たして1人で上手くやっていけるだろうか?


そう不安に思っていた時だった。


プルルルといきなりスマホに電話がかかってきた。

体をビクッとさせながら通話ボタンを押した俺。そのままスマホを耳元に当てると、飛んできたのは鼓膜を破らん勢いの爆音だった。


「藤宮ぁぁぁ〜〜!!!!!!」

「んっ!? 何!? うるさいよ御珠っ!!」

「だってぇぇぇ〜〜!!!!」


泣いているのかいないのか判断しかねる微妙な声色の御珠。開幕早々鼓膜破壊を狙うのはやめてもらいたい。

俺は全速力で音量ボタンを下げた。


「どしたの?ちょうどクラスLIME見て不安に思ってたんだよ」

「その話だよぉぉぉぉ〜〜!! どうしたらいいかなぁ私ぃ〜!みんな普段話さない人たちなのにぃ〜!」


あ、これマジで泣いてますわ。鼻水を啜る音が聞こえますわ。


「やっぱ恥ずかしいんだ?」

「恥ずかしいというか気まずいんだよぉ〜!確かに普段はあんたたちがいるからのびのびしてるわよ?だけどこの人たち誰も話したことないし、普段私の奇行を遠くから見てるだけじゃん?絶対に気まずいよ〜私もこの人たちも〜!!」

「あーあー、弱虫になっちゃったか」


こりゃ重症だな。最近調子の良かった御珠が素丸出しで弱音を吐いている。

返事が難しいし、とりあえず慰めておくか。


「みんな悪い人じゃないと思うし大丈夫だよ。あ、ほら、田中さんとか体育祭の時に私一緒にリレーやったけど、良い人だったよ。他の子もいつも穏やかな感じじゃん」

「だけどぉぉ〜〜〜」

「準備とか一緒にやってたらきっと仲良くなれるよ。頑張って!!」

「うん〜〜。頑張るぅ〜〜〜」


ううぅ、と唸りながらスマホの向こうで鼻水を啜る御珠。

ちょっと静かにしていたら、ブチっといきなり通話は切れた。愚痴りたかっただけなんだろう。

彼女には頑張って欲しいですな。


さて、そろそろ風呂も沸くだろうし下に行くとしよう。


そう思ってスマホをベッドの上に置いたまま立ち上がった時だった…。


「タイミング神ってんだろ…」


今度はポムから電話がかかってきた。

俺は再びベッドに腰掛けながらスマホを取る。


「もしもしー。どしたのー?ちょうど5秒前まで御珠と話してたところなんだけど」

「あ、そうだったんだ!? じゃあナイスタイミングで電話かけたじゃんアタシ」

「いや、お風呂に行こうと思ってたところだから最悪かも」

「あはは、そりゃ悪かったね。そんな長くなならないよ。もうクラスLIME見た?」

「見た見た。御珠といいポムといい、さっきからみんな私の心読んでるの?『なんでポムの役割これになってるんだろ』って思ってたところ」

「そうそうその話!あの子もそーゆー話してたんだ!…コホン、まあそれは置いといてだね、とりあえずアタシが何でボーイになったかということについて話しておこうじゃないか」

「聞かせてもらおうじゃないか」

「あいさ!実は、最初はアタシも外で焼きそば作ってるはずだったんだよ。なんだけど、つい最近『今度の撮影でコスプレしてみるのはどうか』って話になって、実験的に学校でコスプレしたいなーって思ったんだよ」

「ああ、グラビアの仕事でコスプレするからってこと?」

「そうそう。事務所の人も文化祭に誘ったし、そこでアタシの男装見てもらって新たな路線を開拓してもらおうかなと」

「なるほどね。それであらかじめ変更してくれって柳下さんに頼んだんだ?」

「そーゆーこと。どう、シュンも気にならない?私の男装」

「ちょっと待ってね。今想像してみる」

「あはは、エロおじかー?」

「あながち間違ってはないかな」

「はは、何じゃそりゃ」


さて、男装ポムか。ふむふむ…。

ポムのムチムチおっぱいを強調するならラフな服装よりもワイシャツなんかでピシッとキメた方が似合うだろう。白ワイシャツに黒ズボン、ネクタイなんかどうだ?

胸のせいで真っ直ぐ垂れずに曲がってしまうネクタイ。いいじゃんいいじゃん。それにワイシャツとズボンならポムのメリハリのあるボディラインが分かりやすい。えっちだ!


「…うん。めっちゃ見たいわ男装ポム。えっち過ぎる」

「でしょー!最高の褒め言葉をありがとう。アタシは世の男性を興奮させてなんぼだからね」

「素晴らし過ぎる心構えじゃん」

「そりゃあ、これでも前線で戦ってたんで。ちなみに、もう少しおっぱい大きかったらシュンも写真出せるよ?」

「ン?」

「あー、でも顔もスタイルも抜群に良いし、今のままでも売れるかな?どう、興味ない?」

「ないでーす」

「そっかー、残念」


自分の体に自信はあるが、なにも見ず知らずの男に体目当てで好かれたい趣味はないからな。なんか怖いし。

そう思うとポムは凄いな。自分の体を武器にして仕事してるんだもんな。俺なんかよりずっと精神的に大人に違いない。


「んじゃ、説明も終えたんでアタシは失礼するよ。お風呂の邪魔してゴメンね」

「いえいえー。私も気になってたから解消されてよかったよ。じゃ、バイバーイ」


そう言って俺は通話を切る。今度こそこれで終わりだろう。


俺はスマホをベッドに残し、自分の部屋を出ようとドアノブに手を掛ける。


そして………。


「プルルルルルルル——」

「もうっ!!何が起きてるの今っ!?」


誰か俺の部屋に監視カメラつけてるだろ!

何で電話が終わった瞬間に次の電話がかかってくるんだ!?


「はい!!もしもし!?」

「…や、やあ、シュン。どうしたんだいそんなに怒って?」

「怒ってないよ!!」

「そうかい…。じゃあ早速だけど、今から僕とゲームをやらな—」

「バイバイ!!!」

「え、ちょ———」


俺はスマホをポイっと投げ捨て、とうとう自分の部屋を出た。

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