閑話 涼太の日記 その2

藤宮涼太の担任は、昼休みに職員室で子供達の日記に返事を書いていた。

その隣に座る別のクラスの担任が彼に話しかける。


「鈴木先生、最近のみんなの状況はどんな感じなの?」

「中々面白いことになってますよ」

「へえ、気になる気になる」


涼太の担任、鈴木先生は同じ学年の教員仲間に日記の内容を定期的に話していた。特に人気なのが藤宮涼太関連の話である。言葉数が少ない静かな子供のようで、実は結構友達がいる藤宮涼太。そんな彼に対して恋心を抱く女子児童は少なくないらしい。

大人たちからしても、小さな子供の恋バナというのは中々興味がそそられる話題なのだ。


「何人か涼太にアタックしてるみたいですけど、全然響いてないみたいです。アイツ、色恋沙汰とか興味なさそうですからね。それに、そもそも2年生で〝付き合う〟ってことをちゃんと理解してる子自体少ないだろうに…」

「分かってないなー先生。最近の子供はませてるの。いろんな媒体でそーゆーことが調べられるんだから」

「そーゆーもんなんですかね」

「そゆーもんなの」


チッチッチと人差し指を揺らしながらそう話す鈴木先生の先輩である女教師は、鈴木先生が机に開いていたノートに顔を近づけた。


「ん、噂をすれば涼太君のじゃん」

「そうっすね。一緒に読みますか」


そうして2人は涼太の日記を読み始める。


『9月16日木曜日。

昨日は公園で友だちとサッカーをしてあそびました。1回ゴールできたのでうれしかったです。通りかかったしば犬もかわいかったです。

あと、さいきんこわいことがあります。

夜にねてると、たまにへんな声が聞こえてきて目がさめたりします。ネコのなき声みたいな、うなり声みたいな、へんな声が聞こえてきてこわいです。お姉ちゃんのところに行くと気にしないでって言われます。だけどこわいものはこわいです。早く聞こえなくなるといいです』


「……」

「……」


涼太の日記を読み終えた2人はノートをパタンと閉じた。


「夜に猫の鳴き声みたいな声ねぇ…」

「……先輩だったら、この歳の子供に『どうやったら赤ちゃんが出来るの?』って聞かれたら何て答えます?」

「もちろんコウノトリ理論だよ」

「ですよね〜。…お姉ちゃんには説明?言い訳?頑張ってもらわないとだ」

「だね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る