第76話 文化祭会議
5時間目。お昼ご飯を食べ、眠くなってしまいがちな悪魔的な時間。
だが、今日の5時間目はいつもと違って盛り上がっていた。
そう。文化祭の企画について話し合っているのだ。もうすぐ文化祭ということで、5限のHRの時間をフルに使っての話し合いである。
「じゃあ5分くらいあげるから、近くの人たちと話し合ってくださーい」
黒板の前に立って場を仕切ってくれているのは文化祭実行委員の
普段は柳下さんとほとんど話さないけど、責任感が強くていつも何かと取り仕切ってくれるので、一方的に俺は彼女のことを慕っている。
そんな柳下さんの指示に従い、クラスメイトは近くの3、4人でグループを作って相談し始める。俺も花と御珠の方を向いて話し始めた。
今の議題は『メイドカフェで提供する物』についてだ。
「2人はどうするのがいいと思う〜?」
「やっぱジュースは必須でしょ。勿論それだけじゃ圧倒的に足りないし、やっぱお菓子とかも欲しいよね」
「確かに〜」
「家庭科部と協力してスイーツを出すのはどうだ?」
「あ〜、それはナイスアイデアだけどちょっと厳しいかも…。わたしらも部活として出し物あるんだよね」
「むぅ、そうなのか…」
ダークネスセット完全装備の女皇様は下を向いて小さく唸る。
俺も確かに良い案だと思ったんだけどな。
「家庭科部、なんかやるの?」
「うん。ホールケーキいっぱい作って販売するんだ〜。最近も部活中にケーキ作ってみんなで研究してるんだよ」
「おお!じゃあ期待大だね。絶対買いに行くよ。ちなみに値段は?」
「8分の1カットで350円の予定!」
「え、めっちゃお得じゃん!」
「営利目的じゃなくてみんなに喜んでもらいたいだけだからね〜。そんな高い物使ってるわけでもないし、ギリギリ採算がとれる値段設定なの!」
「いいねいいね。女皇様も一緒に買いに行こうね」
「おう!食い尽くしてやるぞ」
「じゃあいっぱい作らないとだ〜」
あははは、と顔を合わせて笑う俺たち。
しかし、同時に俺はある気配に気づいて振り返った。
「楽しそうだねー。何か良い案は出た?」
振り返ると、俺のすぐ後ろにニッコニコの柳下さんが首を傾げて立っていた。
ごめんなさい!
つい本題から逸れてました!
「も、勿論…!色々出たよ?」
「じゃあどんな案が出たか教えてよー」
花と御珠の2人は俺を裏切って真面目にコソコソ文化祭のことを議論し始めたので、俺が代表して柳下さんに答える。
「飲み物だけだと物足りないからお菓子とか甘いものも欲しいよねーって」
「うんうん。確かにその通りだね。ジュースだけじゃ味気ないもんね」
腕を組んで鷹揚に頷く柳下さん。別に怒ってるって感じでもなさそうだ。
普通のトーンで柳下さんは続ける。
「でもせっかくメイドカフェを銘打ってる訳だし、ケチャップで絵なんか描くオムライスとかやってみたくない?」
「確かに。だけどその場で作るってなるとそこら辺も準備大変そうだよね」
「そこなんだよね〜!いやぁ、夢は広がれど現実は厳しいね」
「ほんと、実行委員には頭が上がらないよ」
「あはは、ありがと。けど好きでやってることだから大丈夫だよー」
文化祭の規模感で出来ることにまとめないといけないからなぁ。
上手くやりくりしないといけない文化祭実行委員の労力は計り知れない。
「ん、そろそろかな」
腕時計で時間を確認した柳下さんは再び黒板の方に戻り、「はーい!」と可愛い声でみんなの注目を集めた。
「そろそろ5分経ったので意見を聞いていきたいと思いまーす。何かある人ー」
「はーい」
「ん、どうぞ!」
手を挙げたクラスメイトに話すよう促す柳下さん。相手の子は座ったままその場で話し出した。
「うちらはジュースとかクッキーとかを基本にして、あとはパンケーキとかオムライスみたいな定番メニューを用意したらいいんじゃないかなって意見になりましたー」
その子が話し出すと、他の人も口々に意見を言い出す。
「あたしのところでもそんな感じだったよ。やっぱオムライスは欠かせないでしょ」
「それな〜。こっちはパフェとかも出たよ」
「スムージーとかもいいんじゃなーい?」
そんな意見を皮切りに、大勢が再びザワザワし始める。それを柳下さんは「はーい」の一言で鎮静化し、再び仕切り始める。
「いろいろありがとー。やっぱり品数は多くしたいよね。私も同意見だしみんなもそうだよね?けど、問題はどうやって用意するかだよねぇ」
「お菓子はいっぱい用意できるんじゃない?」
「うん、そこは問題ないと思うよ。けどオムライスみたいな料理しないと用意できない物をどうするかがネックなんだよー」
柳下さんの言葉にクラス中が「うーん」と悩む。そんな中、ポムが1つの案を出した。
「そうだ!外で屋台出してさ、そこでオムライスやら何やらを売るのはどう?確か校内で火器を扱うのはダメだったと思うけど、外でなら問題ないし、他のクラスでも外で屋台出すってところは多いみたいだし!」
「おお、ナイスアイデア!外で売りつつ、中で注文が入ったら作ったのを持っていけばいいから出来立てを提供できるしね!」
「そうそう!」
「「おおー!!」」
ポムの一案でクラス中が盛り上がる。
え、それ大変そうじゃない?人数割かないといけないし。とか思った俺はまだまだ未熟なようだ。
みんなやる気に満ち溢れている。
とはいえ、やはりルールという名の縛りは簡単には抜けられない。
教室に座っていた担任が一言言った。
「残念ながら、1クラスにつき出し物は1つまでですよ。メイドカフェをやるなら、外で食べ物を売るのは諦めないと」
「「ええ〜〜」」
その一声に落胆する俺たち。
しかし、柳下さんだけは「ふっふっふ」と笑っていた。
「しかし先生!確かにそうかもしれませんが、これは運営上仕方のないことなんです。室内のメイドカフェ、そして外での屋台。これら2つで1つのモノを成しているわけですから、これは大きな塊1つとして判断できるのでは?」
「「おおーー!!」」
そして再び沸き立つ俺たち。ちょっと強引な気もするけど理解できる理論だ。
流石だぜ柳下の姉貴!
「確かにそれならいけるよ!」
「そうそう。屋台もカフェ運営の一端だし!」
「いけるいける!」
俺たちは口々に柳下さんの意見を後押しする。
その様子を見て、先生は苦笑しながら言った。
「じゃあ計画書はちゃんと書いてくださいね?生徒会に通してもらえるように」
「はい!!」
「「やったー!!!」」
やったぜ!これが通れば本格的なメイドカフェが運営できそうだ。
オラわくわくすっぞ!
柳下さんは大いに盛り上がる俺たちを宥めてから話題を次に進める。
「じゃあ食べ物の話は何とかなりそうってことで、次の話に行きまーす。さて、きっと一番大事なのはこの部分だよ。ずばり、誰をメイドにするか!これを決めないとね」
お、これは俺の出番か。
俺は手を挙げて柳下さんの指名を待つ。
「ん、どしたの?何か意見ある?」
「うん。私も少し家で考えてきたんだ」
「おお!聞かせて聞かせて」
「もちろん」
みんなが俺の方に顔を向けてくる。
そんな彼女らを見返しながら、みんなに聞かせるように俺は話し出した。
「確かにメイドも大事だと思んだけど、キャッチのボーイも欲しくない?男装して校内歩いてさ、いろんな人に声かけるの」
「ああ、確かにそうだね!その方がポイかも!じゃあそれも含めて決めよう!」
周りのみんなも「確かにー」って感じの空気を出してくれている。良かった良かった。
「…うーん、けどどうやって決めようか。やりたい人は手挙げて…って言っても挙げにくいよね。…よし、じゃあ推薦もアリにして、あの人がいい!ってのがある人はどんどん言ってってー」
クラスメイトはまたまたザワザワし始める。「やりなよー」とか「やる?やる?」とか近くの人と言い合っている。
俺もチラッと御珠の方を見てみたが、それに気づくと御珠はプイッとそっぽを向いてしまった。
…よし。これはやってもらうしかない。
「はい!神咲さんが良いと思います!」
「なっ!? ちょ、藤宮っ!?!?」
「いいねいいね。神咲さん可愛いもんね」
「ほら、柳下さんもそう言ってるし、私も御珠のメイド服姿見たいなぁー」
「わたしもダークネスちゃんのメイド服見たい〜!」
周りの人も「確かに気になる」「見たいかも」みたいな反応を見せている。
そんな空気感に包まれた御珠はプルプル体を震わせながら唸り声を上げた。
「ぐぬぬぬぬ………くっ。分かったわ。やればいいんでしょやれば!はい!!やりますよ!!」
あ、限界突破して完全に素になっちゃった。
ぷんぷんしながら、それでいて恥ずかしそうに早口で声を上げる御珠とは対照的に、柳下さんは悠長に反応する。
「ありがとー。じゃあ早速1人決まりだね。はい、どんどん募集するよー。次の人ー」
と、そこにポムが答える。
「アリスとか似合うんじゃない?」
「確かに!どう?やってくれる?」
クラス中の「確かにー」の視線を全身に浴びるアリスは、堂々とした態度で微笑みながら答えた。
「いいですよ」
「やったー!2人目も決まったー!よし、あと4人くらいは決めたいな。はーい、どんどん言ってー」
流石に2人も決まると他の人たちも意見を出しやすくなる。残る4人は案外すんなりと推薦された。
その人たちは俺が普段話さなない人だったけど、みんな違った可愛さを持っているし、納得の人選だ。
「よし、決まり!じゃあ藤宮さんの意見通りボーイも決めたいけど…1人はもう決まってるよね?」
クラスメイトに柳下さんが尋ねると、みんな「うんうん」と頷く。
これは嬉しい反応だ。
「藤宮さん、やってくれるでしょ?」
「勿論勿論。最初からやらせてもらうつもりだったしね。全力で男装してきますよ」
「だってよみんな!藤宮さんの全力男装見れるって!」
「「おおー!!」」
え、そんな感じなの?そんな盛り上がる感じなの?
やっぱビジュいいしクラスでも一目置かれてる感じありましたけど、そんなに盛り上がってもらえるんですか!
いやぁ参っちゃうなぁー。照れちゃうなー。なんてね。
ま、何にせよ受け入れてもらえてよかった。あとは仲間決めだ。
「じゃあ1人決まりで、こっちはあと3人くらいかな。どう?やりたい人いる?推薦も募集中だよー」
「私やりたい!」
「お、六坂さん立候補。いいよいいよー、どんどん来てねー」
「じゃあウチも!」
「私もやる!」
「おお、結構すぐ埋まったね。みんなこのメンバーでいい?」
「「はーい」」
「じゃあ決まりだね」
こうしてボーイの方はすぐに決まった。
まことが手を挙げたのが意外だった。
他2人はあんまり話さない人だけど、これを機に仲良くなれたらいいな。
「よし、じゃあとりあえずこんなところかな」
色々と紙に書きまとめ終えた柳下さんは「ふぅ」と一息つく。
「一先ずはこのくらいでいいでしょう。人数の割り振りは後で私が適当に考えてグループLIMEに送るから、都合が悪かったら個別で教えてね。メイドとかの人数も足りなかったりするかもだから、その時はまたみんなで話そう!」
「「はーい」」
流石のリーダーシップだ。柳下さんに任せておけば何とかなるような安心感がある。
こうして、5時間目の会議は順調に終わりを迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます