第2章 1年生2学期編
第69話 不思議な転校生
今日からいよいよ2学期が始まる。
友達に会えると思えば学校が始まるのは嬉しいけど、それよりも家で休んでいたいという思いの方が強いのが正直なところである。
「やっほ〜。ちょっと前ぶりだね」
「だね。おはよう」
少し早めに登校して教室でラノベを読んでいると、しばらくしてから花が登校してきた。右手に肉まんを携えて。
「それってツッコんだ方がいい感じ?肉まんって冬の風物詩じゃない?」
「わたしもそう思ってたんだけどさ〜、なんかコンビニに売ってたんだよ〜!見つけた瞬間手に取っちゃったよね。肉まん大好きだからさ〜」
「通りでぷよぷよした体になってきたわけだ」
「そうなんだよ〜。…え?」
ポカポカ背中を叩いてくる花は無視し、再びラノベを読み始める俺。
そのまま十数分読み続けていれば人も揃ってきて、やがて朝の
「はーい、座って座ってー」
担任の工藤先生が入ってくると、色んな所で会話に花を咲かせていたクラスメイトたちは自分の席にそそくさと戻っていく。
そうしてチャイムが鳴ると、先生は教壇に立ってHRを始めた。
「それじゃあHR始めまーす。まず、みなさん久しぶり。夏休みは楽しく過ごせましたかー?」
そんなセリフに顔を合わせてクスクス苦笑いするクラスメイトたち。
やはりみんな遊び足りなかったようだ。
「ふふ。まだ1年生だからね。先生的には沢山遊んでいい時期だと思うし、楽しい夏休みが過ごせてたらいいなと思いまーす。じゃ、今日の予定です。この後は体育館で始業式、そのあとに引き続きHRをして、午前で解散。詳しくはプリントを貼っておくから確認してくださいねー」
そう言いながら先生は黒板に1枚のプリントを貼り付ける。
そして再び俺たちの方に振り返り、みんなの顔を眺めてから手をパチンと叩いた。
「はい、じゃあここで重大なお話です。1学期の終わりに話したやつ、覚えてるかな?」
もちろんだ。
よし、ここは俺が声をあげるとしよう。
「転校生が来るんですよねー?」
「そうそう。さっそく廊下で待機してもらってるから、今のうちに紹介しておこうと思いまーす!」
「「「おおー!」」」
いきなりくるのか!
先生の話にクラスメイトたちが一斉にザワザワし始める。
俺の周りもそわそわし出した。
「どんな子かな〜?」
「話が合うヤツだといいな!」
「それはどうだか。黒魔術が使える人が来たらいいね」
「そりゃ最高だな!」
各々が期待を胸に教室の扉に視線を向ける。
その熱意を感じ取り、先生は扉の向こうの人物へ合図を出した。
「準備OKだよー!入っておいでー!」
ゴクリ。
扉の向こうに浮かぶ黒い影。
全員が息を呑んで見つめる中、扉はゆっくりと横にスライドしていき、右足、そして左足、とその人物が姿を現した。
「つっっっ!?!?」
そしてその姿を見た瞬間、俺の喉からは変な声が飛び出してしまった。
いや、俺だけじゃない。みんな声にならない声を漏らしているような気がする。
彼女の髪は茶色で、左右の大きなお団子からは余った髪が上腕の辺りまで伸びている。
身長は150後半くらいだろうか。
平均より少し高いかどうかと言った彼女は、どう考えても平均とはかけ離れているであろう爆弾を携えている。
日向先輩と同じくらいの巨乳だ。
一旦隣を見て落ち着こう。
「…ん、何だ藤宮?」
「なんでもない」
ふう。ぺったんこを見ると落ち着くぜ。
「じゃあ、ここに立って自己紹介してね」
「分かりました」
彼女は先生に促され、教壇の上に足を揃えてピシッと立った。
背筋をピンと伸ばし、胸を張り、顎を少し引いたすばらしい佇まいだ。
またその姿勢のおかげで、さっきからみんなの視線を釘付けにしている暴力的なまでのその胸が強調されている。
まだまだ暑い季節なため、服装はみんなと同じく半袖ワイシャツだ。それもまた彼女の巨乳を強調するのに一役買っていた。
そんな彼女はキリッとした目で俺たちを一瞥すると、クルッと回転して黒板に名前を書き始めた。
そしてそのまま書き終えると再び俺たちの方に振り返り、凛とした声で話し出す。
「
ただそれだけ言い終えると、彼女は指の先までピンと伸ばしてピシッとお辞儀し、少し離れた所に立つ先生の方を向いて次の指示を待った。
あまりに淡白な自己紹介だったせいか、先生も若干困惑している。
「え、えっと、もう少しないかな?趣味とか、好きなものとかさ?」
「好きなものは……猫です」
「……他には?」
「梨も好きです」
「………。そ、そっか!以上、桃山さんでした〜!」
先生は何とか笑顔を繕って拍手する。
俺たちも「お、おう…」といった表情になりつつも拍手して桃山さんを迎えた。
それを受け、彼女は再びお辞儀する。
「じゃあ桃山さん、あそこに席を用意したから座ってくれる?」
「はい、分かりました」
桃山さんは言われた通りに窓際1番後ろの席、いわゆる主人公席に移動して座った。
先生はそれを確認してから教壇に戻る。
「…それじゃあ大事な話も終わったことだし、放送が流れるまで教室で待機していてくださいね。放送の後は体育館に向かってください」
「「「はーい」」」
こうして、俺たちの2学期は何とも言えない空気感に包まれながら始まったのだった。
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