第68話 お泊まり会!—終

「ぬあ〜〜疲れたぁ〜」


風呂も上がり、夕飯も食べ、歯磨き終えて、およそ寝る前にやるべきことは全て終わらせた俺たち。


クーラーの効いた涼しい部屋の中、俺はベッドにうつ伏せに倒れ込み、まことは俺の隣に座った。


「充実してたもんね。料理楽しかったなぁ」

「ねー。誰かと料理するのとか家庭科以来だったけど、授業でやるのより断然楽しかった」


そう答えながら俺は体を起こし、足をぶらぶらさせてベッドに腰掛けるまことの方を向いた。


「ところで、それサイズ大丈夫?」

「うん。全然問題ないよ。丁度いいくらい」

「ならよかった」


そうは言うものの若干ズボンが長そうなソレは、俺が普段着ているクマパジャマだ。冬用のもこもこクマパジャマの夏バージョンである。

長袖長ズボンだが、生地は薄地でサラサラ、通気性抜群なため夏でも問題なく着ることが出来る優秀なやつだ。可愛さと利便性が兼ね備えられた俺のお気に入りである。


まことも自分のパジャマは持ってきたらしいけど、せっかくなら俺のウサギパジャマとお揃いのシリーズを着てもらった方が雰囲気が出て楽しいからな。

そんな訳でまことにはこれを着てもらった。


「フードも被りなよ。ほら」


俺はまことにクマフードを被せる。


「あらかわいい」


なんということでしょう!

まことから小さな2つの耳が生えてきたではありませんか!


「ほんと〜?」

「ほんとほんと〜。そもそも、まことはいつだって可愛いよ」

「そう〜?えへへ、ありがとう」


上目遣いで自分のクマ耳を撫でながらはにかむまこと。

少し恥ずかしそうに俺の顔から視線を逸らすその素振りが可愛らしい。


それはそうと、夜だからだろうか? 

若干まことの雰囲気が昼間とは違う気がする。何というか、表情がトロンとしているのだ。

笑顔も柔らかいし、風呂上がりのいい匂いもするし、女子という生物の可愛さを凝縮したような様子でいらっしゃる。

俺が男のままだったら、とても平常心を保っていられなさそうだ。特に息子が「解放してくれ!!」と苦しそうに叫んでいたに違いない。

この部屋の甘すぎる空気はチェリーな俺にはちと刺激的すぎるぜ。

ま、堪能しない手はないんだけどな。


俺は女の子座りに姿勢を変え、自分の太ももをポンポン叩く。


「ささ、こちらへ」

「おやおや。じゃあ失礼しますね」


俺の意図をしっかり捉えたまことは、体を倒し、俺の太ももに頭を乗せた。

膝枕。いつかやってみたいと思ってたんだ。


「へへ、少し恥ずかしいかも」

「一緒にお風呂入るのは大丈夫なのに?」

「うん。なんというか…、ちっちゃい子みたいでさ」

「いいじゃんちっちゃい子になっちゃえば。思う存分甘えてくれたまえ」

「え〜、じゃあそうしちゃおっかな〜」


そう言いながらまことはニコ〜っと微笑む。

そして両腕を俺の腰に回してきた。


え、何? 何この可愛い生物!?

夜だとこんな風になるの!?

もうずっと夜でいいよ!


「ぷにぷにだ〜」

「えへへ〜」


俺は分かりやすく甘えてくるまことのほっぺたをツンツンしながらその顔を眺める。

ずっとニコニコしていて、時々クリッとしたその瞳をこちらに向けてくるのだ。


「ほんと可愛いね」

「そんなことないよ〜」


無限に見ていられそうな可愛いお顔を見つめていると、俺はふと気づいた。


「そうだ、写真撮ろうよ。まだ撮ってなかったよね?」

「確かにそうだね!撮って撮って!」

「うっす」


俺はベッドに投げ捨ててあったスマホを拾い、高く掲げ持って内カメラを向ける。


「はい、チーズ」


まことは寝転がったまま顔の横でピースし、俺も同じくピースする。


パシャ。


「お、いいね。やっぱりパジャマを揃えたのは正解だったな。どう?」

「おー!いいねいいね!私にも送っといて」

「もちろん」


忘れないうちにLIMEに送っておこう。


「送ったよ」

「ありがと!」


嬉しそうに笑うまことに、俺も微笑みながらその目を見つめて返した。


そしてそのまま再びほっぺたをツンツンしていると……


「…ん?」


なんか、反応が薄くなってきたな。


そう思い、ツンツンする手を止めてまことのことをじっと見つめる。

すると、小さく寝息を立てているのが分かった。


「あれ、寝ちゃったの?」

「……」


やはり返事はない。すーすー寝息を立てているだけだ。

まだ10時ちょっとだけど眠くなっちゃったのだろうか。


「いや、無理もないか。バイトで忙しかったらしいもんな」


俺は呟きながらまことの頭を撫でる。


そういえば、まこと本人が「睡眠時間が最近は少なかった」とか言っていた。

そう考えると、さっきからフワフワしたテンションだったのは眠かったせいなのかもな。

珍しいものを見れて良かったぜ。


とは言え、寝るならちゃんと寝てもらわないと困る。


俺はまことの頬をムギュっとして無理矢理起こした。


「…あれ、私寝ちゃってた?」

「うん。流れるように寝落ちしてたよ。私も眠くなってきたし、もう寝ちゃおっか」

「そうだね」


半開きの目で心底眠そうに答えるまこと。

そんなまことの頭をゆっくり太ももからずらし、俺は立ち上がって部屋の電気を暗くしに扉の方へ向かう。


俺の部屋の電気はダイヤルで明るさを調整できる便利なやつだ。ま、この時代の家の電気はほとんどがこのタイプだけどな。前世みたいな、オンかオフかの2択しかない電気は少なくなってきている。


そんな電気を限界まで暗くし、ほんの少しだけ明かりが灯った状態にする。

真っ暗にしたらせっかくのまことの寝顔が見れないからな。


「ちょっとそっち行ってくれる?」

「うん〜」


薄いオレンジ色の光に照らされながら、まことは壁側にノソノソとずれた。

その横に俺も並んで寝転がる。


普段から「寝返りを打っても常に枕があるように」と枕を2個並べて置いていたのがここに来ていかされたな。


「……ふぅー。ふぅー。ふぅ——」

「あれ、もう寝ちゃったの?…まあいっか」


せっかくだし、ベッドでゴロゴロしながらお喋りしたかったけど仕方ない。

俺も眠くないわけではないし、一緒に寝てしまうとしよう。


「おやすみ、まこと」


俺は大きめのタオルケットをかけ、まことの方に体を向けながら目を閉じた。


…それにしても、まことは随分と俺のことを好いてくれているみたいだな。勿論友達として、だろうけど。

あんまり一緒に遊んだりすることはなかったから、最初は「いきなりお泊まり?」って疑問に思ったけど、全然本人は緊張していないようだからよかった。

俺としては、まことが俺のことをどう思っているのか掴み兼ねていた部分があったし、こうして向こうから誘ってくれたのは嬉しかったな。


また学校でも一緒に図書館行ったりしたいな…。

ああ、もうすぐ学校、か……。

ずっと夏休みなら、いい、の、に…………。


「…………すぅー。すぅー。すぅ———」

「ふぅー。………。…………シュンちゃん?」

「すぅー。すぅ——」

「……」


* * * * *


——翌朝。


「——ん、んん〜」


窓から差し込む太陽の光に起こされるとは、中々素晴らしい目覚めじゃないか。


俺は背伸びしながら体を起こした。


「あれ、まこと?」


そしてキョロキョロ部屋を見回す。しかし、どこにもまことの姿はなかった。


「あれー?」


はだけたパジャマを着直しながら俺は自分の部屋の外に出る。

すると、下の方から何やら物音がしてきた。


不思議に思いながら1階に下りて行き、リビングに入る。

するとすると!

なんと食卓には目玉焼きとソーセージ、そして白米と味噌汁が並んでいるではありませんか!


「おはよー。まさか作ってくれたの?」

「あ、シュンちゃんおはよう!そう、早く目が覚めちゃったから朝ご飯作ってたの!丁度できたところでね、今から起こしに行こうと思ってたの」

「そうだったんだ、びっくりしたよ。凄いね。ありがとう」

「いえいえー。こっちこそ勝手にキッチン使っちゃってごめんね。昨日一緒に料理した時に大体の道具の場所は覚えててさ」

「なるほどね。全然キッチンは使ってくれて構わないんだけど、なんか悪いね」

「気にしないでよ。私がやりたくてやったことだからさ。ほら、温かいうちに食べて食べて」

「うん。そうだね」


俺は洗面所で顔を洗い、うがいをしてきてからテーブルのもとに着席した。

まことも俺の正面に座る。


「いただきまーす」

「いただきまーす」


俺は早速目玉焼きを食べようと、テーブルの上に置いてあるソースに手を伸ばす。

すると、まことが俺のことを見つめてきた。

醤油片手に。


「シュンちゃん、ソース派なんだ?」

「あ…。もしかして戦争起きそうな感じ?」

「うん」

「そっかぁ…」


なるほど。まことは醤油派らしい。


「ちなみにまこと、キノコ?タケノコ?」

「タケノコ」

「おっけー。今から砲撃の準備するね」


こうして俺たちの朝は戦争と共に開始した。







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