第65話 お泊まり会!—上
夏休みも残すところ後3日。世間の学生が終わらない宿題に追われている中、既に宿題を終わらせておいた俺は最後まで夏休みを満喫できる。
そう、今日はまこととお泊まり会をする日なのだ!
「どうだった、あそこのラーメン?」
「普段ラーメン食べないから他の店との違いとかは分からなかったけど、すごくおいしかった!」
「そりゃ良かった。流石は私のお気に入り。万人受けする美味しさみたいだね」
「うん、食べやすかったよ。また今度学校の帰りに行かない?」
「いいね。行こう行こう」
昼に集合した俺らは駅前でラーメンを食べ、今はそこから俺の家に向かう道中だ。
前世の俺なら、女子高校生というキラキラした存在がラーメンを食べる光景など想像できなかっただろう。ラーメンといえば男!というイメージがあったからだ。
だけど、今は分かる。
女子だってラーメンは食べるし、焼肉に行けばいっぱい食べるし、ステーキだってムシャムシャ食べる。
いつメンと過ごしているうちにすぐ分かったことだが、彼女たちの食べるものは前世で俺が仲良くしていた数少ない男友達のそれと大して変わらない。つまるところ、俺は女子というものを美化しすぎていたというわけだ。
古い考えは刷新しなければ。
どんどんアップデートして、最強の俺を目指そう。
「シュンちゃん、どうしたの?」
そんなことを考えながら歩いていると、横を歩くまことが不思議がって尋ねてきた。
俺は腕を組み、青い空を斜めに見上げながら答えた。
「いやぁ、女子も男子も好きな食べ物ってほとんど同じだよなー、って思ってね」
「あはは、そうかもね。美味しい食べ物は男女問わず好きになっちゃうよ」
「だね。ちなみにまことは何が1番好き?」
「うーん、バームクーヘンかな」
「おお!なんかいいね!可愛い!」
「そ、そうかな…?」
いつだったかポムに好きな食べ物を聞いた時は「スルメ」とか返ってきたからな…。
可愛さと清楚さを兼ね備えたまことによく似合う食べ物で安心したぜ。
「ちなみにシュンちゃんは何が好きなの?」
「私はからあげとか、羊羹とかかな。和菓子好きなんだよねー」
「じゃあ私とは真逆だ。私は洋菓子のが好きなの」
「まあ、確かに洋菓子も美味しいと思いますけどね?けど、和菓子のほんのりとした甘味がたまらないんですよ。まことさんには分からないですかねぇ」
「もちろん分かりますとも。ですが、砂糖がたっぷりついたバームクーヘン、あれは本当に美味しいんですよ?」
「あれですか。確かにあれは美味しいですよね。…ふむ、どうやら分が悪いようだ。今回は引き分けということにしておいてあげましょう」
「そうですか」
そんな雑な会話を繰り広げてはクスクス笑い合う。
そうしているうちに、気づけば俺の家に到着した。
俺が自宅を紹介すると、まことは「おー」と呟きながら家の全容を眺めた。
「大きいねシュンちゃん
「私ん家でそんなこと言ってたら、アリスの家とか見たら倒れちゃうよ」
「九条さんのお家も凄いの?」
「うん。ほら、この前遊びに行った時に撮ったやつ」
俺はスマホをまことに渡して写真を見せた。
「えっ!?!? これ全部九条さん家の敷地なの!?」
「そうだよ。私もビックリしたよ」
「…お嬢様な感じはしてたけど、やっぱ本当にお嬢様なんだね」
「ね。こんな家住んでみたいよね」
「うんうん、憧れちゃうよ。凄いなぁ〜」
「ありがとう」とまことからスマホを返された俺は家の鍵を開け、まことを招き入れる。
「おじゃましまーす」
まことは礼儀正しく挨拶しながら玄関に入った。
そしてすぐに違和感を感じたらしい。
「…何か静かじゃない?」
「ふふ、そうだよ。実はね、私の家族は今日明日と出かけているんだよ」
「えっ、そうなの!?」
「うん。私がお泊まり会したいって提案したら、『じゃあ俺たちがいたら邪魔になっちゃうかもな』ってお父さんが言い出してね。そのまま家族を連れてプチ旅行に行っちゃったの」
「そ、そうだったんだ。全然いてくれて構わなかったのに。迷惑かけちゃったかな…?」
「いやいや、そんなことないよ。弟も遠くにあるデカい水族館に行きたがってたし、ある意味いいタイミングだったのかも。全然気にしなくていいと思うよ」
「そっか。それならいいんだけど…」
「大丈夫大丈夫。だからほら、上がりなよ」
俺が家に上がってそう言うと、まことも「うん」と頷きながら靴を脱いだ。
そしてそのまま俺は2階の自室に向かう。
まことは家の中をキョロキョロしながら俺の背中についてきた。
「何か気になる物あった?」
「ううん、全然。ただ、綺麗なお家だなーって思ったんだ」
「なるほどね。お母さんが綺麗好きだから確かに綺麗な方かも。ん、そこが私の部屋ね」
2階に上がり、廊下の端の扉を俺は指差した。
そこを目指してそのまま進み、俺は扉を開けてまことを歓迎した。
「じゃじゃーん! ここが私の部屋です!」
「おー!女の子の部屋って感じだ!」
まことは「おじゃましまーす」と俺の部屋に入ると、興奮気味に部屋を見物し始めた。
「ぬいぐるみいっぱいあるけど、好きなの?」
「それは弟がクレーンゲームで定期的に取ってくるんだよ。取ってくるたびに余ったやつを私にくれるの。くれると言うか、押し付けてくると言うか…?」
「あはは、可愛い弟君だね」
まことは勉強机の上に置いてあった小さなペンギンのぬいぐるみを手のひらに乗せ、楽しそうにその姿を眺める。
「へえ〜、可愛い〜」
よくあるぬいぐるみのどこが面白いのかはよく分からないけど、何にせよ楽しそうにしているのだから水は差すまい。
それに、可愛い少女の笑顔ほど素晴らしいものはないからな。
そうして見守ること数秒後。
満足したらしいまことはペンギンを机に戻すと隣の本棚の前に移動した。
「いっぱいあるね!」
「私、何気に読書好きなんだよ。ま、小説よりもラノベの方が多いけど」
「それでも凄いよ!」
本棚から適当な本を抜き取っては戻す、を繰り返すまことのことを俺はベッドに腰掛けながらのんびり眺める。
それにしても、俺の部屋にここまで興味を持ってもらえるとは思ってもみなかった。
前々から思っていたけど、何というか、まことは純粋な人間なんだろうな。普段から素直な性格をしているし、いろんなことに興味を抱ける純粋な子であるに違いない。
そんな清純さの塊たるまことのことだ。きっとあんなことやこんなことの知識なんて無いんだろうな。
まことがそーゆーことしてるイメージ、あんまり沸かないし。
…いや、もし真逆だとしたら?
めちゃくちゃあっちの知識を持ってるとしたら?
よし。気になるからあとでそこら辺も探ってみよう。
「あ、西野圭吾だ!私もこの人の小説いくつか持ってるよ!」
「おお!面白いよねこの人の本。『容疑者Yの献身』が好きかな、私は」
「いいよねあれ!だけど私は『ナミヤ百貨店の奇蹟』も好きだな」
「それもいい話だよね〜。何回か読み返した気がするな、それ。そこにあるでしょ?」
「うんうん」
あの人の書くミステリーは全部面白いからな。いつだったかネットで大量に買ったんだ。
…ん?待てよ?
西野圭吾は前世の時代に活躍していた人だぞ。
「てかまこと、昔の本なのによく知ってるね」
「この前学校の図書館でたまたま見つけたんだよ。そーゆー話なら、シュンちゃんこそよく知ってるね?」
「色々あって私もその人のことは昔から知っててね。にしても、まことも西野さんファンだったとはびっくりだよ」
「ファンと言えるほど読み漁れてはいないと思うけど、うん、結構好きだよ!」
「じゃあそこにある本で読んでないのあったら持って帰っていいよ」
「ほんと!? じゃあお言葉に甘えて何冊か借りていこうかな。また今度学校で返せばいい?」
「うん。別に急ぐこともないし、ゆっくり読んでくれていいからね」
「ありがとう!」
まことは笑顔でそう答えながら何冊か本を選ぶと、自分のリュックにそれらを入れた。
「荷物そこら辺に置いちゃっていいよ。早くおしゃべりしよーよ」
「じゃあここに置かせてもらおうかな」
そう言い、まことは俺の勉強机の横にリュックを立てかけた。
そして床に置かれた丸テーブルの所にちょこんと座る。
俺もベッドから降りてまことの正面に座った。
「さて。じゃあ早速2人だけの女子会を始めるとしようか」
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