第62話 夏だ!海だ!—5
旅館に帰還した俺たちは、まずは露天風呂に入ることにした。
ゴツゴツした岩の床。
露天風呂と外とを隔てる竹で出来た壁。
そして背の高い森の木々。
夕方特有の静けさというか落ち着きというか、そんなものが感じられる薄オレンジ色の空に包まれながら入る露天風呂は最高だ。
更に、葉子さん曰く、今日の客は俺たちの他に男性グループ3組しかないらしい。
つまり、女湯の露天風呂は実質俺たちの貸切なのだ!
この最高の場所を俺たちだけで堪能できるときた。なんて素晴らしいのだろうか!
夜になったらまた来るとしよう。
「ふわぁ〜。さいこ〜」
「だねー」
肩までお湯に浸かりながら背伸びする花の横で、俺も一緒に背伸びした。
先に入っていた俺と花に続き、ポムたちも後から露天風呂に入ってくる。
「おー!壮観だねぇ」
「すごいです!綺麗です!」
あれ、思いの外アリスが興奮してる?
「アリス、雄大な自然とは昔から触れ合ってきたんじゃないの?」
「このような和風な自然とは違いますよー。
「なるほど。確かにここは和風そのものだね」
「はい!」
さて、ここの凄いところは構造にもある。
なんと、露天風呂とシャワースペースが同じ場所にあるのだ。
屋根のある広いシャワースペースと露天風呂が1つの空間にあるので、体を洗いに行くのと風呂に入るのとで、いちいち移動する必要がない。しかも、屋内にも2種類の温泉があり、そちらにもシャワースペースはあるので外で体を洗うのが嫌な人はそちらで洗えばいい。
行きの電車で花が「あそこのお風呂は結構凄いよ〜」って言ってた意味がよく分かった。
「ふぅー。久々に体動かしたから疲れたー」
「ミカもくたくた〜」
外のシャワーで体の汚れを洗い流したポムたちも、ようやく露天風呂に入浴した。
気持ちよさそうに「はぁ〜」と息を漏らしている。
俺としては、みんな裸でいてくれたら嬉しかったんだけどな。やっぱりタオル巻いて大事な所は隠しちゃうよね。
ま、俺も巻いてるんだけど。
「どしたのシュン、何か変なとこある?」
「ああいや、ただぼーっとしてただけだよ」
「そっかそっか」
おっと、うっかりポムっぱいを凝視してしまっていた。
いやいや、これは不可抗力だ。元男として見ずにはいられない。タオルでは抑えきれないほどの暴力がそこには詰まっているのだから…!
それにしても、改めて思うけどみんな綺麗だよなぁ。
お風呂ということで長髪組は髪をお団子にしている。
普段と髪型が違うってのもあるだろうけど、みんなが普段より美人に見えるな。
可愛くて美人な女子5人と露天風呂。前世では考えられないようなことを俺は成し遂げているのだ。
そんな感慨に浸っていると、花が自分の腕をマッサージしながら呟くように言った。
「それにしても、アリスは強かったね〜」
「ふふ、ありがとうございます。けど、強いと言えばシュンと御珠のコンビも強かったですよね」
「あ〜、うん…。あれは悪夢だったよ…。悲惨すぎて記憶から消してたほどだよ…」
ビーチボールは俺と御珠とミカ、花とアリスとポムのペアでバトルした。
俺たちは花たちをボッコボコにした。
「ワタクシも頑張ったつもりなんですねどねぇ…。ポムも花も、もう少しボールに反応できていたら…」
「無理だよあんな速度のボール!御珠ちゃんのボールとか、ビーチボールが出していい速度超えてたよ!?」
「そうだよ〜。あれに何度転ばされたことか…。シュンはめっちゃ鋭いサーブしてくるし、ダークネスちゃんは威力バケモノだし、ミカちゃんは防御力高いし最強すぎるよ〜。むしろアレと戦えるアリスがわたしは怖い」
「同じく。まったく、アリスは底が知れないね」
肩をすくめて話す2人を見て、アリスは黙ってニコリと微笑んだ。
怖いよ〜!!
この人ほんとに何考えてるのか分からないよ〜!
「確かに御珠ちゃんって運動神経めっちゃいいよね。体育祭の時も凄かったし。部活は入ってないみたいだけど、外部でスポーツやってるの?」
俺がアリスの笑顔に怯える中、ミカが御珠に尋ねた。
御珠は腕を組み、ドヤ顔で答える。
「私は昔から習い事をたくさんやらされていてね。もちろん、スポーツもいくつか。運動は嫌いじゃないし、出来る方だし、私の運動神経が良いのは必然ってものさ!」
「そうだったんだ。凄いね御珠ちゃん」
「そうだろそうだろ! はっはっは!!」
ミカに褒められて大層満足していらっしゃる御珠閣下は、ゆっくりと立ち上がった。
「さて、私は熱いの苦手だからそろそろ出ようかな。体洗ってくるねー」
「わたしもちょっとしたら行こうかな〜」
「おう! 待ってるぞー」
そうして御珠は外のシャワースペースの方に向かって歩いて行った。
…よし、今だな。
俺は御珠が十分離れたことを確認し、残った4人に質問することにした。
少し聞きにくい質問だ。だけど、気になる。
俺はみんなに向き合い、ちっちゃい声で質問した。
「…あのさ、ちょっと気になることがあるんだけどいい?」
「どうしたんですか?」
「……正直に、御珠のことどう思ってる?」
御珠はもともと俺としか接点がなかった。
そこに花が加わり、いつメン5人のうち2人が御珠と関わるようになったことで残る3人も御珠と話すようになった。
御珠との関係の深さで言えば、みんなのそれは俺のそれに比べて浅い。
だから、つい思ってしまうんだ。もしかしたら、みんなは何となく御珠がこのグループにいるのを善しとしているだけで、実はそれほど快く思ってないんじゃないか、と。
特にポム、ミカ、アリスの3人は、「シュンと花が仲良くしてるから私たちも仲良くしとくか〜」みたいな感じで、渋々御珠と一緒に過ごしてくれているだけなんじゃないか、と。
今まで見てきた感じ、そのような思惑が感じられるような言動は彼女たちにはなかった。
だけど、女子は心境を隠すのが上手い。
だから、もしかしたら…と思ってしまうんだ。
自分で質問しておきながら、返答を聞くのが怖い。だけど、俺は知りたかった。安心したかった。
だから覚悟をもってみんなの返事を待つ。
「…いきなり変な質問だねぇ」
ポムが少し考えるような表情で呟いた。
そして直後、小さく笑って答えた。
「どう思うも何も、アタシは御珠ちゃんのこと好きだよ?面白いじゃんあの子」
ポムの言葉に続き、他の面々も答えていく。
「ワタクシも御珠のことは気に入ってますよ。素直で可愛くて、とってもいい子だと思います」
「ミカもアリスと同意見。なんか妹気質というか、色々と分かりやすくて可愛いよね」
「わたしもみんなと同じで勿論好きだよ〜」
「そっか…」
穏やかな表情でそう話すみんなの姿を見て、俺はほっと安心した。きっとこの顔は嘘をついている顔ではない。
みんな本心を語ってくれたんだろう。
そう推測していると、花がクスクス笑った。
「シュン、案外敏感なんだ〜?」
「え?」
「実は気にしてたんだね? ダークネスちゃんのことをわたしたちが快く思ってないんじゃないかって。わたしたちのグループにあの子が入ってきたの最近だから」
「え、うん…。よく分かったね」
「そりゃあいきなり変な質問されたし分かるよ〜。でも心外だなぁ〜。まさかわたしたちが疑われてたとはね」
「それは…ごめん…」
俺は少し俯き、水面に映る自分の顔を見つめる。
すると、ポムが隣に来て軽く笑いながら肩を組んできた。
「別に花は怒ってるわけじゃないよ。もちろん、シュンを責めてるわけでもね。ちょっと
「まさかそんなことを気にしていたとは思いませんでしたよ」
「ほんとほんと。シュンはもう少し現実のことを疑わずにそのまま受け止めることを覚えた方がよさそうだね」
「ミカちゃんの言う通りだよ〜。シュン、わたしたちがそんな怖い人間に見える?実は普段一緒に過ごしてる人のことを、裏では悪く言ってたりするような人間に見える?」
「…見えないかな」
「でしょ〜。確かにわたしたちは中学の時からずっと同じグループだったけど、そこに新しくメンバーが増えたって気にしないし、むしろ大歓迎だよ〜。友達は多い方が楽しいじゃん!みんなそう思ってるよ」
花がめずらしく真剣な顔で俺に語りかける。
ポムたちも花の言葉にウンウンと頷いた。
「みんな…」
……俺は馬鹿だった。
こんなに優しい人たちを疑ってしまった。
考えてみれば、俺だって1学期が始まってからずっとみんなと仲良くやってきていたじゃないか。みんな優しかったじゃないか。
思わず、言葉が漏れる。
「…良かった。……本当に良かった。…そうだよね、みんな優しかったよね」
「え、シュン!? なんで泣いてるの!?」
「ほんとじゃん! 泣くほどのこと〜!?」
「…え? …本当だ、私泣いてる…?」
「気づいてなかったの!?」
…目頭がジンワリ熱くなったと思ったけど、俺は泣いていたのか。そうか、頬を伝わる熱は涙だったのか。
……たぶん、無意識のうちに昔のことを思い出していたんだな。
でも、これは悲しい涙じゃない。嬉しい涙だ。
俺は腕で涙を拭って、静かに笑った。
「…はは、私って案外繊細なのかもね」
「ほんとだよ〜。びっくりした〜」
「意外な一面だねぇ」
「ふふ。優しいんですね、シュンは」
「ミカの幼馴染にも見習ってもらいたいものだよ」
「え、アタシ!?」
少し小言を言い合えばすぐに空気はいつもの調子に戻る。俺のせいでしみじみとした雰囲気になってたけど、みんな切り替えが早くて助かる。
よし、安心したことだし、俺も切り替えていこう!
「じゃあ、私は中の温泉にも入ってくるね」
「あ、アタシも行こうかな」
俺が立ち上がって移動しようとすると、ポムもそれに続いた。
花たちはまだ露天風呂の方に残るようだ。
「じゃ、また後で」
「ばいばーい」
俺とポムは露天風呂組に手を振りながら屋内温泉へと移動した。
* *
「中も悪くないよね」
「というより、むしろ良いよね」
中には2種類の温泉がある。
湯口からチョロチョロお湯が流れてくるよくあるやつと、ブクブク泡を噴き出しているジャグジーなやつだ。
もちろん、少年心を忘れない俺はブクブクを選ぶ。
「こっち入ろうよ」
「気が合うね〜。アタシもこっちが良かったんだよ」
俺たちは丸い浴槽に並んで入った。
椅子部分に座れば胸のあたりまで。
床部分に座れば肩のあたりまで浸かれる構造になっている。
俺たちは椅子部分に座った。
「おおー!!」
「足の裏がくすぐったいー!」
真下から、そして真横から。
いろんな方向から噴き出してくる泡がくすぐったい、面白い感覚だ。
手のひらで泡の柱を遮ってみると、噴き出す泡の威力を直に感じられる。結構強く噴き出てるんだな。
「ちょっと慣れてくると結構気持ちいいね、これ」
「わっかるー。……けど、これは邪魔だね」
ポムはそう言いながら体に巻いていた白いタオルを脱ぎ、浴槽の縁にポイッと引っ掛けた。
「シュンは取らないの?邪魔じゃない?」
「確かにそうかも」
言われてみれば、タオルが泡のせいで暴れてしまうから結構邪魔だ。
俺もポムと同じように装備を外した。
2人して正真正銘の裸だ。
さっきよりも泡が直に感じられてこそばゆい。
だけど、そんなことを忘れさせてくれるくらいのものがそこにはある。
「……ポムさん、単刀直入に言います。触ってもいいですか?」
「あはは! 視線感じてたけどやっぱりソレね。勿論だとも。存分に触りたまえ」
「おお…!! ありがたやありがたや」
露わになったポムっぱい。
初めて見たぞ、お湯に浮かぶ胸…。
しかもそれは泡が当たってプルプル揺れている。
俺は絶大なる感謝の気持ちを心に抱き、ポムの右に座りながら片手には収まりきらないような右乳を持ち上げてみる。
「…重っ!?」
「へへー、そうでしょ。大変なんだからね」
よく「巨乳の人は小さなメロンを胸につけているようなものなんです」とか言うけど、まさにそんな感じだ。見た感じはモッチモチで柔らかそうなのに、いざ触ってみるとハリがあって圧倒的な質量を感じる。
「これを毎日つけて生活してるのか…。確かに大変そうだね」
「そんなに揉みしだきながら言われても、本当に心配されてるとは思えないんですけど」
「あはは、つい手が勝手に。弾力と柔らかさが両立されてて最高です」
「はは、真面目に解説されると恥ずかしいからやめてよー。まあ、喜んでいいのかは分からないけど、ありがと。…だけどね、ちょっと悩みもあるんだよ」
「ほう?」
「正面来てみなよ」
「分かった」
俺は言われた通りにポムの正面に移動した。
すると、先ほどは位置的に、そして泡が邪魔で気づけなかったものに気づくことが出来た。
「もしかして、ここ?」
俺は自分の胸の乳輪を人差し指でなぞった。
「そうそう。アタシのさ、デカくない…?
ほら、シュンのは丁度いいと言うか、綺麗な形じゃん?」
「うーん、言われてみればそんな気もするけど、そもそも胸がデカいから相応なんじゃない?」
「そうなのかなー。中学の時は修学旅行とかで色んな人に笑われたんだよねー。若干コンプレックスなの」
「許せないね!! どんな大きさの胸にも魅力があるのと同じで、乳輪のサイズにだって人それぞれの良さがあるってのに!」
「そんなに熱く語ることなのそれ?まあ、シュンは変だとは思わないんだ?」
「うん、全く。私はおっぱい全肯定ガールだからね!」
「あはは。じゃあアタシのおっぱいも全肯定してくれるんだ」
「そうだよそうだよ」
「そうかー。じゃあお礼におっぱいを大きくするマッサージをしてあげよう」
「ほんと!?」
「ほんとほんと。ほら、座りなよ」
「分かった」
ポムは膝を開いて浴槽の座る部分を手で叩く。
俺はポムの膝の間に挟まれるようにして座り、背中をポムの体に預けた。
背中の広範囲に感じるポムっぱいの感触。
2つの小さな突起物も含め、全てが最高だ。
そしてポムは俺の脇の下を通して両腕を体の前に回し、俺の両胸をモニュっと捉えた。
「へえ、シュンも結構あるじゃん」
「ポムに比べたら全然だよ」
「アタシに勝てる人なんていな…1人いたな」
「ああ、例の人ね」
「そうそう。奴だけは許さない」
ポムはある人物への文句をぶつぶつ口ずさみながら俺の胸をモミモミ揉む。
ここまでしっかり他人に胸を揉まれる初めてだが、中々にこれは不思議な感覚だ。今までは自分の意思で胸を触っていたから変な感じはしなかったけど、自分の意思に関係なく一方的に触られるというのは結構違和感がある。もっとも、嫌ではないが。
…てか、ポムめ、これ狙ってるな?
「……あの、ポムさん?触り方変じゃありませんか?」
「ええ?何のことでしょう?これは育乳のためのマッサージなんですけど」
「絶対違いますよね?さっきからずっと乳首のあたりスリスリしてますよね?」
「…チッ、バレたか」
「バレるわ!気づかないわけないでしょ!」
「ぐぬぬ、もう少し弄りたかったのに」
俺はぐるっと体を捻ってポムの支配から脱出し、ポムから距離を取った。
何でこいつはこんなに悔しそうな顔をしているんだ。
そう疑問に思っていると、ポムは俺の方に近寄ってきた。
ただ近づいてくるだけではない。正面から体を寄せ、お互いの胸がくっつき合う程に体を密着させてくる。
そして、壁のせいでこれ以上後退することのできない俺に豊満な体を密着させてきたポムは、細めた目で俺のことを見つめてくる。
一瞬にして妖艶な雰囲気を纏ったポムは、鼻と鼻が合わさるような顔の近さで呟いた。
「…アタシはシュンとならそーゆーことも出来るよ?」
……!!!!
そうきたか、ポム…。
だけど、勘違いしないでもらいたいな。
「ポム、違うよ」
「…え?」
俺はポムの両手首をしっかり掴み、そのままポムの体を後ろへ押し込む。
そのまま反対の壁にぶつかって浴槽の床に座り込んだポムに、今度は俺の方から近寄る形で体を密着させた。
そしてポムを押さえ込んだまま顔を近づけ、少し語気を強めて語りかける。
「私が弱気だったからって勘違いしちゃったの? 」
「し、シュン…?」
ポムは数秒前とは様子の違う俺を見て動揺したのか、視線をキョロキョロと小刻みに動かし出した。
「主導権は私にある。それは絶対に譲らないよ」
「あ、えっと、うん…」
想定していなかったであろう反撃にあったポムは、何と答えればいいのか分からないといった風だ。
俺はそんなポムの茶色のボブヘアーを掬い上げて耳の後ろに引っ掛け、顎をクイっとして
その目を見つめる。
その時だった。
「やっほ〜来たよ〜。お!ブクブクあるの!?」
「藤宮たち何してるんだー?私も混ぜろー!」
ちょうど花たちが中に入ってた。
幸い、遠くにいるおかげで俺たちの細かい状態までは見られていないようだ。
俺はポムの耳元で蠱惑的に囁く。
「良かったね。花たちがあと少し遅れてたら大変だったよ?」
「……」
そしてポムから離れ、俺はみんなを呼ぶように手を大きく振った。
「こっちこっちー!ジャグジーあるからみんなでブクブクしよー!」
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