第58話 夏だ!海だ!—1

「シュンちゃ〜ん、もうすぐでしょ〜?」

「そうだよー!あとちょっとで出るー!」


今日は待ちに待った海遊びの日。

1階からお母さんが確認とばかりに大声を飛ばしてきたので俺も大声で返す。

今は7時50分。8時には家を出る予定だ。


「あとは何がいるかな」


ベッドの上に白いキャリーケースを開き、必要な荷物をぶちこんでいく。

歯ブラシや下着、水着や明日の服など色々ぶちこむ。

うん、大体こんなところだろう。


「…おっと、忘れてた」


いけないいけない、女子にとって大切な生理用品を忘れるところだった。周期的には来週のはずだけど、念のためナプキンを何枚か持って行こう。

初潮は中1だったか。最初はめちゃくちゃビビったけど、今となっては慣れたものだ。まあ、あのズーンとくる腹の痛みには決して慣れないけれど。


「よし、今度こそ完璧だな」


最終チェックを終え、俺はキャリーケースを閉じて鍵をする。そしてクリーム色のポーチを肩から掛けて麦わら帽子を被れば準備完了だ。


俺はキャリーケースを抱えながらフル装備で階段を降りていき、玄関で俺を待っていてくれたらしいお母さんと遭遇する。


「あら〜、可愛い〜!」

「へへ、そうでしょ。涼太とお父さんにも見せたかったな」

「お父さんは仕事だし、涼太は朝から公園に行っちゃったからね。そうだ、写真を送ってあげるのはどう?」

「確かに、その手があったか」


俺は荷物を置いてお母さんのスマホに向かってダブルピースする。

丈の長い白ワンピースに麦わら帽子。これはみんなでお揃いにすることにした服装だが、我ながらめちゃくちゃ似合っていると思う。

カッコいい系高身長女子が着る可愛いワンピースだからこそのギャップ萌えだ。

お父さんがこの場にいたら、きっとありとあらゆる言葉を使って俺のことを褒めてくれるに違いない。いなくてちょっと残念だ。


「はい、撮れたわ」

「おー。いい感じだね。じゃあ後で2人に見せてあげて。じゃ、行ってくる!」

「はーい。楽しんでくるのよー」


俺は荷物をまとめてから白いサンダルを履き、お母さんに手を振りながら家を後にした。 


* * * * * *


「花〜!」

「あ!久しぶり〜!!」


俺は集合場所である俺の最寄りの駅前のロータリーで1人佇む花を見つけた。

何かと俺の最寄りの駅は集合場所になりがちだ。


「シュン良いね〜。全身真っ白だね〜」

「そっちだって同じようなもんでしょ。にしても、やっぱり桃髪と白ワンピース、めっちゃ似合うね」

「ありがとう〜。シュンも似合ってるよ〜。

……あれ、ちょっと髪切った?」

「お、よく気づいたね。5センチくらい短くしたんだ。ボーイッシュを目指そうと思って」

「もともと結構ボーイッシュだと思うけど、更に良くなった気がするよ」

「ほんと?ありがとう」

「うんうん」


俺たちが女子あるあるのお互いに褒め続けるアレを実演しているうちに、続いて女皇様がやってきた。いや、神崎モードだな。


「おはよー」

「おはよう〜」

「お、おはよう…」


御珠は恥ずかしそうに麦わら帽子を深く被りながら俺たちの方に向かって歩いてくる。相変わらず、麦わら帽子の上にはサングラスが乗っかっている。サングラスは欠かせないんだな。


「久しぶり。御珠も似合ってるね。めっちゃ可愛いよ」

「うんうん!すごく綺麗〜!」

「ほ、ほんとか? 良かった…」


もじもじ恥ずかしがりながらも、帽子の下では小さく微笑む御珠。


そこに、ポムを筆頭にアリス、ミカの3人もやってくる。


「やっほー!待たせちゃったー?」

「全然。私らもさっき集まったところ」

「そっかそっか。それにしても、みんな可愛いねぇ!!」


ポムは出会い頭に笑いながらそう言ってきた。まったくもって同感だ。


「それなー。もちろんポムだって可愛いよ」

「ふふ、そんなの当たり前じゃないか〜」

「シュン、こいつを調子に乗らせちゃダメ」

「えー、事実なんだし良いじゃん。ミカだってザ清楚って感じで可愛いよ」

「…ありがとう」


真正面から褒めたらミカも照れてしまった。

どうやらこの場には2人ほど照れ屋がいるようだな。

 

そんなことを考えていると、ちょうど花がパチンと両手を叩く。


「まあまあ、お互い褒めたくなる気持ちは分かるけど、みんな揃ったしそろそろ行こうよ〜」


俺たちはみんなで頷いて駅に向かった。




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