第55話 みんなで映画を観よう—1

今日は水泳部の友達、長瀬さん、果崎さんと遊ぶ日だ。

オーバーサイズのTシャツとゆるゆるのズボン、黒いチョーカーにキャップを被ったダンサー系の服装で臨む。

これはこの前1人で服を買いに行った時にどうすればいいか困ったので、ビデオ通話をポムと繋いで選んでもらった組み合わせだ。ポムはファッションセンスがいいから頼り甲斐がある。お礼として試着室では俺の生着替えをお見せしてあげた。

何かの作業をしてるみたいだったからあんまり見ていなかったかもだけど。


「もうちょっとかな〜」


集合場所の、映画館のあるショッピングセンター最寄りの駅に早めに着いた俺は2人が改札から出てくるのを待つ。

LIMEによれば2人はもうすぐ着くとのことなので、あと数分待っていれば合流できるだろう。


「にしても、増えてきたなあ」


俺は手持ち無沙汰を紛らわすためにLIMEのフレンド一覧をスクロールして眺めてみる。


いつもの4人は個人もグループもあるし、水泳部のグループにもちょっと前に入れてもらった。女皇様とも繋がってるし、何気にまことのLIMEも持っている。

家族や今日遊ぶ2人のLIMEも加えれば、俺のフレンドはそれなりに増えてきた。

せっかくだし今度部長にも交換を提案してみようかな。最近はちょくちょく部活中にも話すし、案外快諾してくれるような気がする。


そんなことを想像していると、改札の方から俺を呼ぶ声が飛んできた。


「やっほー藤宮さん!待たせちゃった?」

「いや、10分くらしか待ってないよ」

「うわー、微妙な長さだね。ごめんごめん」

「全然大丈夫」


笑いながら謝る長瀬さん。その横には果崎さんが立っている。


「てか、2人とも一緒だったんだ?」

「たまたま途中で会ったんだよ」

「へぇ〜」


長瀬さんはロリっ気のある白いワンピースを着て来たようだ。

いや、外見がロリっぽいからそういうワンピースに見えるだけか?

卵が先か鶏が先か的なやつなのか、これは…?

まあいいや。可愛ければ全て良しだ。


そんな長瀬さんに対して果崎さんは大人っぽい色気のある服装だ。

ロングスカートに脇出しの薄手のシャツ。

暑いからだろうが、上半身の露出度が高めでえっちだ。胸は俺と同じくらいか、もしかしたらもうちょっとあるかも…? 普段は大人しい性格をしているが、その胸は全然大人しくない。片方に流した艶のある長い黒髪と眠たそうなジト目も相まって、どこか妖艶な雰囲気を感じるミステリアスな少女である。


それと比べると、やっぱり長瀬さんは何というか……安心するな。


「ん、また何か変なことを考えてたね!?」

「いや、果崎さんは大人っぽいのに長瀬さんは子供だなぁなんて思ってないよ?」

「思ってるじゃん!怜華レイカも何か言ってやってよ!」

「確かに、ルカちゃんは子供っぽい」

「ちょっと!?」

「ははは、そうだよね〜?」

「うん」

「ちょっとちょっと!?!?」


そんな平和な会話をしながら俺たちは映画館が入っているショッピングモールに向かって歩く。

そしてショッピングモールに入り、プリプリしながら短い茶髪を揺らして歩く長瀬さんの背中を見て俺と果崎さんはクスッと笑った。


「もう怒らないでよ〜。ちょっとからかっただけじゃーん」

「じゃあ藤宮さんが私たちのことをさん付けで呼ぶのやめてくれたら許してあげる。私らもそれに合わせてさん付けしてるけど、それだと距離感感じるでしょ?」

「分かった。じゃあルカでいい?果崎さんもレイカで?」

「いいよいいよ。そしたら私もシュンって呼ぶね」

「私も、それでいい」

「じゃあこれからはそうするね」


言われてみれば、俺は2人をさん付けで呼んでいた。前世では女子を下の名前で呼ぶことなんてなく、さん付けがデフォルトだったせいで無意識にさん付けしてしまうのだ。


これはモテるための邪魔になる深刻な悪癖だな。もっと軽い感じで自然に下の名前を呼べるようになった方がいいに決まっている。

いつメンとは最初の時点で呼び方を決めていたから簡単にそれが出来ていたけど、そういうことを経ずに自然とできた友達はさん付けしてしまう傾向にある。


ありがとうルカ。俺はまた1つ成長できた!!


「えっと、高校生3人で…席はここでいい?」

「いいよ」

「うん」

「じゃあ決定〜」


映画館のチケット売り場でルカが販売機を操作してくれている間に、俺とレイカは食べ物を買うべく列に並んだ。

せっかくだし聞いてみようかな。ちっちゃい声で。


「…あのさ、レイカの胸って何カップ?」

「Eだよ」

「なっ…!!」


まじかよ!

ギリギリ俺と同じDくらいかと思ってたのに裏切られた!さてはだいぶ着痩せしてるな?

これは今後の部活で水着に着替える時に注目しないとだな。


「シュンちゃんも、そういう話、するんだ」

「そりゃするよ。大きい胸は揉みたくなるのと同じように、サイズだって知りたくなるものなの。これはこの世の摂理だよ」

「そう、なんだ。じゃあシュンちゃんはいくつ、なの?」

「………Dです。負けました」

「なら、牛乳いっぱい飲むといい。きっと、もっと大きくなる」

「おかしいなぁ〜、毎朝飲んでるはずなんだけどなぁ〜」

「毎秒飲まないと、ダメ」

「それは無理かなぁ〜。無理だなぁ〜」


レイカはやっぱり独特の個性をしている。

やたら句読点の多いゆったりとした喋り方、時々ぶち込まれるマジなのかボケなのか微妙に判断しにくい話。

俺はそんな所が結構好きなのだが、人によっては苦手な人もいるだろうな。


むむ、俺らの番だ。


「らっしゃっせ〜」


慣れた口調で挨拶してくる若い兄ちゃんに、俺はあらかじめみんなで決めておいたものを注文する。


「キャラメルポップコーンのLサイズ1つと、オレンジジュース2つ、コーラ1つ、全部Mで」

「うぃーっす。1320円でーす」

PayPayPayペイペイペイで」

「うぃーっす」


ピピっとキャッシュレス決済を済ませ、俺はポップコーンとコーラ、レイカはオレンジジュース2個を受け取った。


「そっちも無事に買えたみたいだね。はい、チケット…って、2人とも持てないか」

「そうだね、両手埋まってるからね。3人分まとめて渡しても大丈夫でしょ」

「確かに」


準備が完了した俺たち3人は、雑談しながら映画館の受付に向かった。



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