閑話 父と息子の夏休み
小学2年生にとっての夏休みというのは遊ぶ時間に溢れたかけがえのないものだ。
公園で友達と遊んだり、家でゲームをしたり、ちょびっとは勉強したり。家族と旅行に行ったりするのも良いだろう。
そんな楽しい夏休みも中盤に差し掛かる今日の日を、涼太は楽しみにしていた。
父親が帰ってきた数日後、父親は涼太に「水族館に連れていってやろう」という約束をしていたのだ。
父親と息子、男2人で電車に揺られながら東京にある某水族館に向かう。
椅子に座りながらサメの形をしたバッグを眺める涼太は、少し寂しそうな口調で言った。
「お姉ちゃん来れなかったね」
「部活だし仕方ないさ。あいつも行きたがってたけど、俺が行けるのは今日しかないからなぁ」
「明日からお仕事だっけ?」
「そうだぞ。けど安心しろ。こっちでの仕事だから毎日帰ってこれるぞ」
「ほんと!? やった〜!」
父親に頭を撫でられ、涼太は少し照れながら笑う。その傍ら、父親は涼太の髪の長さに改めて驚いた。
耳の少し下で1つに結ばれた髪は肩甲骨辺りまで伸びている。美形の顔と相まって、父親は娘の言っていた言葉の意味を改めて理解した。
(男の娘ねぇ。確かにアリかもしれないな。〝娘〟要素抜きにしても、長い髪は結構涼太に似合ってるしな)
自分の息子の新たな可能性を見出した父親は、ちょうど目的の駅に着いたので涼太の手を引っ張って電車を降りた。
「到着〜!」
「ここからちょっと歩けば水族館だぞ」
「じゃあ早く行こーよ!」
「ははっ、そうだな」
2人は仲良く手を繋いで水族館へと向かった。
* * *
「おお〜!」
「いっぱいいるなぁ」
水族館に入るなり目をキラキラ輝かせて館内を見回す涼太。
クラゲエリアを通り抜けた辺りで父親が涼太に声をかける。
「涼太、こっちにチンアナゴがいるぞ!めっちゃウニョウニョしてる!」
「パパ、それはニシキアナゴだよ。チンアナゴはあっちの白黒のやつ」
「え、そうなのか?……ん、ほんとだ、ニシキアナゴって書いてある。涼太は物知りで凄いな」
「へへ〜」
褒められて自慢気に笑う涼太の頭を父親はワシャワシャ撫でる。
照れながら、涼太は父の手を引っ張って別の所に移動した。
「あ!シロワニだ!」
「ワニ?どう見てもサメだろ」
「昔はサメのことをワニって言ったんだよ。それに、シロワニは大人しいサメなんだよ」
「そうなのか。本当に物知りだな。まだあの図鑑読んでるのか?」
「うん!」
「そうかそうか」
父親は昔涼太の誕生日にプレゼントした魚図鑑のことを思い出す。
「相変わらず海の生物が好きなんだな」
「うん、大好き」
涼太は父の呟きに元気よく答えた。
2人はその後も仲良く水族館を見て回った。
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